第27話 2月26日(土)⑭
瀬川くんについての相談。僕が話せることなんてあるだろうか。
昔の小さいころのことを考えると、確かに朝井さんよりも僕の方が仲は良かったかもしれない。だけど今となっては、朝井さんは中学三年から三年近く付き合っているわけだし、僕よりも、瀬川くんのことを知っているはずだ。おととい、瀬川くんと二人で話をしたのは、本当に久しぶりのことだった。
億劫になる。こんな改まった人の相談になんて乗ったことがない。ちゃんとしたことを言えるだろうか。相談するなら、瀬川くんの友達で他にも朝井さんと仲いい人は――。いや相談はしているだろう。その上でのことだと思う。
何か糸口を見つけようとしていて、少なからず頼ろうとしてくれている。それを感謝こそすれ、煩わしく思ってはいけない。市川さんが言っていたこともある。朝井さんが気にしていたと。少しでも力になれれば、その方が良い。
そうして時間は過ぎていく。夕飯は買い置きのカップラーメンで済まし、全く頭に入ってこないテレビを見て過ごし、九時に風呂に入る。
まだ寝るには早いかなという時間に、再び携帯が震えた。突然のことだったさっきの着信とは違い、これは、毎月の決まりごとだ。叔母さんからの電話。
叔母さんは、母の妹に当たり、毎月月末の土曜日、十時前後に決まって電話をくれていた。電話の内容は、『元気でやってる?』とか、『ご飯食べてる?』とか、体調を気にかけるものがほとんどだった。それから、僕からするといとこにあたる小学生の長男と保育園の長女、二人の子供について話すこともよくあった。
『もしもし、泰樹くん? 元気にしてる?』
「はい」
『もう卒業式ね。早いわね』
「そうですね」
「春休みはあるの? それともすぐ仕事が始まるのかしら?』
「一か月くらいは休みです」
『そっか、じゃあ少し息抜きはできるのね。もしかしたら、こっちに顔出すことはできない? しばらく泰樹くんの顔見てない気がしてね。でも帰ってきたら休めないかな。私がそっちに行こうか? 掃除でもしてあげるわよ』
「いえ……」
『まぁそれはやりすぎかな。でも……卒業式は、本当に行かなくていいの?』
少し遠慮がちに、聞かれる。
先月も同じことを聞かれて、断っていた。叔母さんが住んでいるのは二つも離れた県だし、仕事もしている。子供のこともある。平日に何時間もかけてわざわざ来てもらうのは申し訳ない。中学の卒業式の時は、何を聞いてくることもなく当たり前のように出席してくれた。母が亡くなったすぐ後だったというのもあるだろうけど。
だけど今回は、僕の断りの言葉を聞くと
『もう十八だもんね。子供扱いしたら悪いわよね』
と。恐縮するばかりの言葉だけど、それに甘える。だから、
「はい、大丈夫です」
今日もそう答えた。
それから、
『あとね、しつこいって言われるかもしれないけど、大学、行きたかったらいつでも言ってね。お金は大丈夫なのよ。お姉さんの残したお金は、泰樹くんのためのものだから』
「はい」
母の貯金とか、保険金とか。今のアルバイトは、食費など必要最低限のものに充てているだけで、アパートの家賃をはじめとした大きなお金は、全て叔母さんが管理してくれている。
『あ、別に働くのがダメって言ってるわけじゃないわよ。ただ、先のことを考えると大学は出てもいいんじゃないかと思うのよ。私の偏見かもしれないけど、でもね、行って損することはないと思うから。一年働いて、そのあとに大学でも全然大丈夫よ』
「はい……」
『一方的にしゃべっちゃってごめんね。気が向いたらいつでも言って。じゃあ、まだ寒い日が続くけど、体調に気を付けてね』
「ありがとうございます。叔母さんも気を付けて」
『ありがとう。しっかりしてるわね。じゃあ、なにかあったら電話ちょうだいね』
「はい。おやすみなさい」
『おやすみ』
――。
考えなきゃいけないことはたくさんある。僕のことを考えてくれる人がたくさんいる。
ありがたい。申し訳ない。どうやったら答えられるのだろう。




