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邂逅 ~最果ての地で


 狙いは倉庫の屋根の上――。

 ディーユはライクルに目配せをする。

 怪しげな人影が、オークとゴブリンの襲撃を手引しているとは断定できない。しかし何らかの関係があるとディーユは睨んだ。

 少なくとも避難している人間ではない。戦況を見渡せる立ち位置、それに魔法使い(・・・・・)特有の魔力の気配は隠しきれない。


「ボクの残存魔力は5%ぐらいです、オーク一匹倒せませんよ?」

「それでいいんだ。あとは俺がなんとかする」

「……わかりました、上手くいきますかね」

「君は凄い魔法師だ、自信をもてよ」

「うぅ、がんばってみます」

 王宮魔法師として、BランクやCランクは常に現場に駆り出され戦闘経験も豊富な者が多い。しかしライクルは「魔法の使い勝手が悪い」という理由でCランクに甘んじ、ひどい扱いを受けてきたという。

 しかし雷撃による一撃必殺の破壊力はAランク魔法師たちに勝るとも劣らない。少なくともディーユは彼の実力を高く買っている。Dランクとされた自分から見れば、羨ましいまでのパワーなのだから。


 ライクルは雷撃の魔法を励起する。此方の行動は筒抜けでも、雷撃のターゲットが何かは直前まで分かるはずもない。


 今もアイナと兵士たちの戦いは続いている。

 襲撃してきたオークとゴブリンの第一波は撃破したが、既に増援とばかりに数匹のオークが向かってきている。

「くるぞ、陣形を崩すな!」

「はっ!」

 アイナも兵士も無事だが油断はできない。

 少しでも支援するために、射程圏内ギリギリに落ちている「こん棒」に目をつける。

「アイナ、敵の勢いを削ぐ!」

「任せたぞディーユ!」

 タイミングを見計らい『枯死回想(ウィード・リコレクション)』を励起する。突っ込んでくるオークの足元で、突如として木の枝が爆発的に増殖、足に絡み付いた。

『ブギッ!?』

『ブヒヒッ!?』

 足をすくわれ、体勢を崩す。よろめくオークに後続のオークたちがぶつかり、勢いが削がれた。

「今だ!」

 アイナは魔法の発動と同時に飛び出していた。

 両手持ちの大剣(バスタードソード)に代え、背中に装備していた星球武器(せいきゅうぶき)――モーニングスターを取り出して振り上げる。

「ぬんっ!」

 よろめいて前のめりになったオークの脳天に渾身の力で叩き込んだ。

『バヒイッ!』

 盛大に頭をかち割られ絶命するオーク。そのまま二発目をもう一匹の横っ面にぶつけると、続く兵士たちが斬りかかった。


「ライクル!」

「はいっ! て、低出力ですけど――轟雷撃滅(ズバドゥン)!」


 バチッ……! と空中で放電が起きた。

 およそ四十メルテ先の屋根の上、雷雲が渦を巻いたかと思うと、三秒後に倉庫の煙突に落雷。

 目の眩むような閃光と、破裂音がした。

『――ぎゃっ!?』

 煙突が砕け、隠れていた怪しげな人影が悲鳴を上げる。

 マントとフードを被った人物は、飛び散った破片でダメージを受けたらしい。ぐらりとよろめいて屋根を転がり落ちてくる。


「よし!」

 ディーユは倉庫めがけて全力で走り、駆け寄った。

 建物の壁からむき出しになっている柱に手を付けて、『枯死回想(ウィード・リコレクション)』を励起する。

 魔法を流し込むのは一本の柱のみ。屋根を支える柱の一本に魔力を注ぐ。

 柱から一気に枝葉が伸びた。ゴロゴロと転がり落ちてくる人物を木々の小枝のクッションがキャッチする。

「う、わぁああッ!?」

 木の枝が身体を搦め捕り、拘束に成功する。


 武器は所持していない。魔力の気配が濃い。ということは野良の魔法使いか?


「動くな。魔法を励起した瞬間、枝が尻から心臓を貫くぞ」

「くそ……ううっ」

 枝の締め付けを強くすると苦痛の声をあげた。

 身体は細く、若い手足が露になった。浅黒い肌はあまり見かけない人種に思えた。


「やりましたね、ディーユさん!」

 ライクルが追いかけてきて、はぁはぁと荒い息を吐きながら、現場に到達した。

「ライクルのおかげだよ」

「いえ、ボクなんて目の前のオークしか見えていなかったですから……」


「ディーユ、そいつは!?」

 アイナも駆け寄ってきた。オークとゴブリンの第二波を撃退し終えたようだ。

 灯台の周囲にはまだウロついているのが見えるが、距離が百メルテは離れている。


 それに、魔物の動きが鈍ったように思えた。

 二度に及ぶ落雷の音に驚き、警戒しているのかもしれないが、オークやゴブリンが動きを止め、きょろきょろと辺りを見回しはじめている。


「容疑者だよ。屋根の上から魔物の動向を観察していたからな。さて、顔を見せてもらうぞ」

 手を伸ばしフードを引き剥がす。


「あっ!?」

「なにっ?」

「えっ?」

 そこにいた皆が驚いて声をあげた。


 人間、ではなかった。

 とはいっても半獣人でもない。

 いわゆる亜人というやつだろうか。

 黒っぽく日焼けしたような浅黒い肌に、シルバーグレーの髪。そして特徴的なつん、と尖った耳。

 瞳は赤い月のような色合いで、山猫のような鋭さがあった。敵意と恐怖の入り混じった表情でディーユたちを見ている。


「こいつは、ダークエルフだ」


「えぇえ!? 嘘でしょ!? 伝承上の生き物ですよ! 大昔に魔導師たちが造ったっていう……。確か人間の上位互換っていう、その系統の」

「さすがライクル、詳しいな」

「子供の頃から、誰だっておとぎ話で知ってますよ」

 確かに、物語の悪役としても度々登場する。


 性別は……わからないが、魔物とも半獣人とも明らかに違う。


「この姿に人語も話すとなれば間違いない」


「ダークエルフって確か、魔物の統率者……でしたよね?」

「太古の伝承にそんな記述があった気もするが」

「そうですよ! 魔物の軍勢を操るって!」

 ライクルがビシリとダークエルフを指差す。


「お前が、魔物を率いて港町を襲撃していたのか?」

「だったら、どうだってんだ……」


「ほぅ? 威勢が良いな、頭をカチ割ってやろうか?」

 アイナが悪鬼のような顔つきで、血まみれのトゲ付き鉄器をジャラリと差し向ける。

「ヒッ、ちょっ……!?」

 ダークエルフは悲鳴をあげると、小さく震えだした。小心者なのだろうか。


「まぁまてよ、アイナ。あれを見ろ」

「……ん?」

 周囲に視線を向ける。

 するとオークやゴブリンの群れが、撤退し始めていた。

 混乱した様子で武器を投げ捨て、とぼとぼと歩きだすオーク。あるいは泣き叫びながら逃げ出すオーク。我先にと一斉に逃げ出すゴブリンたち。

 魔物の行動はバラバラで、すでに統率がとれていなかった。ただひとつ確かなことは、北西に広がる黒々とした森を目指して逃げ出しているということだ。


「敵が退いていくぞ!」

「勝った……!」

 兵士たちに安堵の色が浮かぶ。


「なるほどな。集中力が途切れると、魔物の意識を操れない……といったところか?」

「……! くそっ」

 図星か。

 魔法には影響範囲、つまり射程がある。

 魔物どもの意識を操って支配下に置いて統率していたとして、せいぜい半径三百メルテから五百メルテの範囲といったところか。

 

 その証拠に、港町の向こう側からも「勝どき」が聞こえてきた。

 ミーグ伯爵率いる討伐隊が、魔物を撃退したのだろう。

 あるいは、撤退してゆく魔物に安堵しているのか……。


「ダークエルフとやら、お前は捕虜だからな! 拷問を覚悟しとけよ」

「……いっ、ひぁ……?」

 アイナの脅しでガクリ、と気を失った。


「あれ? ボク以上に怖がり?」

「いや、魔力切れで気を失ったみたいだ」

 魔法の気配が消えていた。おそらく魔法力を使いきったのだろう。


 港を襲撃した目的はあとで訊き出すしかない。

 オークもゴブリンも危険な魔物だが、畜生に過ぎない。自分達で大同団結し「人間を襲おう!」と考えるなど、過去に例がないのだ。

 状況から考えると食糧や物資を奪おうとしていたのか。


「天変地異に驚き、ダークエルフが食糧確保のために港の襲撃を計画したって筋書き……でしょうか?」

「かもな」

 しかし、なぜ伝説の生き物、ダークエルフが今になって出現したのかは謎だ。今回の天変地異、壊滅的な状況と何か関係があるのだろうか。


「訊き出すしかない。何か知っているだろう」


 太古の魔導師たちが魔法で造り出した魔法生命体、エルフ。

 完成形として記録されているのは、ハイ・エルフ。わずか十数体のみが完成したという究極の魔法生命体だ。

 その呼び名は真の(ハイ)エルフという意味だが、それに至るまでの試作品、実験体として産み出されたのがダークエルフだという。

 ダークエルフは失敗作だが軍事用として価値があると、太古の魔導師の伝承にはあった。

 あらゆる高度な魔法を生まれながらに実装するハイ・エルフ。

 それに対し、魔物の心理に働きかけ、行動に干渉する魔力を持つのがダークエルフとされている。

 それは魔物の軍勢を組織するには役に立つ。いわば戦術級の集団操作魔法を標準装備しているようなものだからだ。


 と、その時。

 港の中央通路を通り、騎兵隊を先頭にした一団がやってきた。

 騎兵隊の後ろからは、様々な装備に身を固めた戦闘集団もいる。


「よぉ! 御一同、見事な手前だったぜ! 協力に感謝する!」


 先頭で馬の手綱を引き、大声を張り上げた男――。

 貴族が身に付ける立派な装備で固めているが、どこかラフな印象をうける。しかし一目で統率力のあるリーダータイプだとわかった。


「ミーグ伯爵とお見受けします! 私は、マリアシュタット姫の近衛騎士、アイナ」

 流石はアイナ。毅然として礼をもって対峙する。


「おぉ! マリアの連れだな? 埠頭の皆を守ってくれたこと、感謝する!」

 そこへ部下の一人が走り寄り、ミーグ伯爵に報告する。


「どうやら埠頭は、君たちのお陰で死人はでなかったようだ!」

 ミーグ伯爵は勝ちどきをあげる。

 どぉおおおお! と港全体が歓喜に揺れた。


「よかった」

「えぇ!」

 思わずライクルと顔を見合わせる。


「ミーグ領へようこそ! 大歓迎させてもらうぜ、マリア姫共々な!」

 胸のすくような笑みを浮かべると、伯爵は片目をつぶり親指を立ててみせた。


<つづく>

【作者より】

 というわけでここからはミーグ領編。

 復興しつつ日常を取り戻して行きます。


 そして、崩壊した世界の様子も徐々に明らかに。

 生存者は? 

 本当にみんな死んでしまったのか?

 ……


 次回、あの男がしぶとく再登場w

『Xランクの魔法師』


 おのたしみにっ!

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― 新着の感想 ―
[一言]  結局、今回の襲撃は自然発生的なものではなく、ダークエルフによる”侵攻”というわけですね。  指揮官であるダークエルフを押さえるだけでオーク達の進行が止まったのは、不幸中の幸いといったところ…
[良い点] 空前絶後の大災害に乗じて襲ってきたオークとゴブリンどもでしたが、ダークエルフが裏から操っていたとは。 因みにダークエルフという存在は、伝承上のものという認識ですから、今までは人目に付かない…
[一言] 最初は頼りない印象もあったライクルですが、キチンと活躍しており、これからの活躍が期待できる逸材と言っても過言ではないかもしれませんね! それにしても、ダークエルフは果たして、どちらの性別な…
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