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追放される魔法、『枯死再想』(ウィードリコレクション)

新連載です。どうぞよろしくおねがいします。

「Dランク魔法師ディーユ、おまえを追放するッ!」

 甲高い声が王宮の大広間に響いた。

 声の主はSランク王宮魔法師ラソーニ・スルジャン。流れる金髪に青い瞳、美しい彫刻のように整った目鼻立ちの青年魔法師は、女王陛下や官女たちの人気を独占、王宮魔法使いの頂点に君臨していた。


「追放……私がですか?」

 ディーユは来るべき時が来たと思った。

 とはいえ、追放は困る。飯が食えなくなるし、住む場所も失う。

 自分には大事な夢があるのに……。


 魔法に目覚め村を出て5年。

 弱った植物に活力をあたえ元気にする魔法、枯れた枝を蘇らえせ、花を咲かせる魔法。

 それを認められやっと手に入れた最低の「Dランク」の魔法師の称号により、なんとか楽園都市アーカリプス・エンクロード王宮の「庭師」として働き口を得た。

 しかしディーユの魔法は無価値だと、上位の宮廷魔法師たちに「大道芸」「まやかしの魔法モドキ」とバカにされ続けてきた。


「役立たずのディーユ、おまえの魔法には意味がない、価値が無いのだ!」


「私なりに全身全霊で働いてまいりました、王のお役に立とうと……」

「笑止、花を咲かせる魔法など下らぬ! 児戯(じぎ)にも等しい」

 Sランク王宮魔法師のラソーニ・スルジャンは、冷酷かつ執拗に、ディーユの魔法をバカにした。 

 ニヤニヤと見下した笑いをうかべ、大げさな身振りで。

 王宮の大広間には王族のみならず、大勢の魔法師、魔法使い、魔女たちが集まっていた。


「……そうですか」

 ディーユは屈辱を感じつつ、無力感に打ちひしがれた。

 うなだれるしかなかった。

 黒髪に鳶色の瞳、北東の貧しい村の出身のディーユ。

 魔法師ランクは最低のD。

 超エリートだらけの王宮では「Dランクのディー」とあだなされ揶揄(やゆ)されている。

 ここでは能力の低い人間は蔑みと嘲笑の対象だ。

 ひたすら魔法をバカにされ、存在さえも否定される。

 Sランクを頂点とする王宮魔術師カースト、絶対的なランキング。

 名家の出自で貴族お抱え、あるいは純粋に魔法の実力、優れたスキルを有する者には絶対に逆らえない。

 目下の者はカースト上位の存在に気に入られなければ終わりだ。

 ひたすら媚を売り、機嫌をとるしかない。


 ディーユは十二歳の時、魔法力を持つ魔法師候補生として、期待を背負い村を出た。

 密かな強い決意――幼なじみのアイナを苦しみから救いたい、という確固たる目標があった。


 希望を胸に王宮の魔法科学校へ入学。そこでまず田舎者とバカにされイジメをうけた。それでも3年間耐え、魔法師としてのスキルを開花させた。けれどその魔法スキルは不思議なものだった。


 『枯死再想』――ウィードリコレクション。


 千年近い王国の魔法史においても、わずかに記録にのこるだけの稀有な魔法。

 魔法講師でさえ首をひねる。

 極めて稀で、珍しいものだという。

 能力は「枯れた植物――つまり生命活動を終えた材木、草木、種子を元の姿を再生、活性化する」というもの。


 解りやすく言えば「枯れた木の枝に葉を茂らせ、花を咲かせる」ことができる。

 魔法力の注入と集中具合により、植物の成長速度をコントロールし、操ることも出来る。

 花の咲かせたあと実をつけることだってできる。

 だが、言い換えれば「それだけ」の魔法だった。

 見世物以外に使い道がない。

 そう告げられたのだ。


 炎や氷を操る、戦闘職になれる「Cランク」に分類されればまだいい。

 けれど使いみちのない魔法師は「Dランク」に分類される。

 上位の王宮魔法使いたちに馬鹿にされるのに時間はかからなかった。

 ディーユは嘲笑と蔑みの対象となった。


 なぜなら「Sランク」の高位魔法師たちともなれば究極の魔法「錬金術アルケミァ」が使えるのだ。

 無限の価値を生み出す真の魔法。

 鉄や鉛を「黄金」に変え、いくらでも富を生み出せる。

 だからラソーニ・スルジャンは絶大な力を得た。誰もが黄金を欲するからだ。

 王や王妃さえもその魅力には抗えない。

 今や神聖帝国アーカリプス・エンクロードは一人のSランク魔法師と彼の取り巻きの「Aランク」魔法師たちが支配し、富で成り立っているといっていい。歪んだシステムに国王も逆らえない。Sランクの魔法師こそが絶対なのだ。

 Aランクは「準錬金術イルアルケミァ」を行使できる。金属を別の金属に変える魔法。つまりオリハルコンなどの魔法金属を錬成できる。あるいは生命を自在に操作できる。あるは生者に確実な死を、死者に仮の生命を与えることもできる。


 Bランク、Cランクは事象や現象を操る者が多い。

 炎や氷、風に土、光や闇。誰もが戦闘に向く「魔法」を使える。


 だから使い道のないディーユの魔法は、王宮魔法師の中では最低のDランク。

 ディーユという名にかけて「Dランクのディー」とあだ名されるのも無理からぬことだった。


 ここは、千年帝国(サウザンペディア)を標榜する楽園都市アーカリプス・エンクロード。

 上位魔法師たちによって無限に生み出される富により発展した都だ。

 街中のいたるところが金と銀で装飾され、宝飾に満ち溢れている。

 王都の中心で暮らす「選ばれし民」衣食住、あらゆる娯楽、そのすべてが保障されている。

 まさに満ち足りた人類の理想郷。

 綺羅びやかな王都の中ひときわ輝く水晶宮クリスタリアこそが世界の中心なのだ。


「無価値な魔法師が、私達と同じ神聖な王宮の空気を吸っていることが許せないわ」

 Aランクの魔女、イヤミフラシアが侮蔑を込めた視線を向ける。


「ハハハ! まったくだなイヤミフラシア。まぁ、ディーユは田舎ものゆえ、魔法も貧しいのは仕方あるまいが、ガハハ」

 同じくAランクの魔法師、マウンティアスがチョビ髭を撫でながらあざわらう。


「キャハハ、それもそうね」


 ディーユはぐっと唇を噛んで、拳を握りしめた。

 動揺し、弱みをみせれば思う壺だ。コイツらは反応を楽しんでいるのだ。


「とにかく目障りだ。ほら、退職金はくれてやる。今すぐここを出ていくがいい」

 ラソーニ・スルジャンは手のひらに金貨を錬成、ディーユに投げつけた。

「くっ」

 顔や頭に金貨が命中、チャリン金属音が鳴り響く。

 周囲からどっと笑いがおこった。


 荘厳な王宮、華々しい装飾に彩られた大広間。

 そこにああるのは冷たい視線と、浴びせられる心無い笑い声だけ。

 大広間にいるのは、誰もかれも美しく着飾った魔法師ばかり。

 金や銀の宝飾をこれみよがしに身に付けている。

 富と名声を手にした貴族出身の王宮魔法師たち。


 こうして格下の魔法師を呼び出しては、公開リンチを行う。

 魔法の力を罵り、魔法師としての尊厳を踏みにじり、人格を否定。

 今やこれが上位魔法師たちの愉しみであり、娯楽なのだ。


 ――なんなのだ、ここは……。


 立場が下のものを見つけては、順にイジメ殺す。

 心を踏み潰し、反応を愉しむ。

 無限に生み出される黄金や宝石といった無限の富は、人の心を荒廃させる。

 金銀財宝を持つものが正しく、美しく、それ以外は何の価値も無いのだ。

 クズな行いを愉悦とする、最低最悪のゲスたち。


「私の魔法は……笑顔をつくれます」


 それが精一杯の言葉だった。


 公開処刑のきっかけは、おそらく、ささいなことだ。

 近衛騎士の一人、女騎士アイナが泣いていた。

 幼馴染のアイナ。

 同郷を共に旅だった仲。

 だが彼女の顔には、幼い頃に追った醜い傷があった。

 それを王宮の誰かにバカにされたのだろう。

 だから彼女が好きな故郷の花を咲かせ、そっと手渡した。

 それしかディーユにはできないから。

「泣くなよ」

「ディーユ……これは……」

 お守り代わりの枯れ枝に『枯死再想(ウィードリコレクション)』を注ぐ。

 緑の葉が生え、そこあkら可愛いちいさな青い花がぱっと咲いた。

 それは故郷の丘に咲くライラック。

「お守りだ」

「……お、おぅ」

 女騎士アイナは笑顔になった。

 いつの間にかディーユを追い越した背丈、がっしりとした騎士らしい体格に、幼かったころの少女の面影はない。


 そんな二人の様子を、王宮の誰か見ていたのだろう。

 (かん)(さわ)ったのか。


「黙れディーユ! 黄金こそが人を笑顔に幸せにする。それが真実だ」

 ラソーニ・スルジャンは両手から金の礫をキラキラと散らしてみせた。

 オォオオオオオオ!?

 大広間に拍手と歓声で満ちた。

 貴族も王族も女王陛下さえも、誰もがラソーニ・スルジャンを崇めている。媚を売り、金をねだる。

 確かに黄金の魅力は確かに誰でも「笑顔」にする。


 エリートのSランク魔法師。自在に黄金を生み出せる男。

 黄金でなく花で誰かを笑顔にすることが、許せなかったのか……。


 ディーユに投げつけられた金貨が床に転がっていた。

 ディーは無言で、床から金貨を一枚拾い上げると、深々と頭を垂れた。


「わかりました、失礼します」


 王宮を去る。

 上位魔法師たちの高笑いが背後から聞こえてきた。


 こんなばしょにいることが我慢ならなかった。

 夢のために頑張ってきたが、限界だった。


 ごめんよ、アイナ。

 先に退職する俺を許してくれ。


「……はぁ」

 だが、王宮を後にすると不思議と肩の荷が下りた気がした。


 経済は混乱し、物価は高騰。

 これからどうすべきか不安はあった。

 幼馴染みの騎士、アイナの顔の傷を治す夢も諦めてない。

 左のほほや額に残る醜い傷あとを綺麗にしてやりたい。

 魔法師になったのも治癒の魔法が使えるようになりたい一心だった。

 その夢は叶わなかったが……。

 でも、道はきっとある。


「くそ、金貨一枚か」

 ディーユはひとりごちた。

 退職金が金貨一枚。

 笑われようとも金貨をかき集めてくればよかっただろうか……。


<つづく>

【作者からのごあいさつ】

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昼の12には更新予定ですが、都合により投降日が変わることがございます。


では、また次回、おまちしております★

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[良い点] >イヤミフラシア >マウンティアス >ラソーニ・スルジャン ネーミングで吹きました。うまい!ww [一言] 新作upお疲れ様ですー! 後れ馳せながら拝見しました。続き楽しみにしています…
[良い点] そう言えば、新作の時季でしたね。既存の更新ばかり確認していて気づきませんでした。orz さて、タイトルですが今流行の長い奴ですか。書籍化作家様の活動報告を読むと、編集様もそのように変更する…
[気になる点] > 金髪に碧眼、美しい彫刻のように整った目鼻立ちの青年魔法師は、王宮での人気はナンバーワン。いまや女王”殿下”の一番のお気に入りだ。  ””内について、王女ならそれで正しいですが、も…
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