第8話: ゴブリン・スタンビート
渋めの狩猟人、ブレイズさんは、話がのってくると止まらないタイプらしい。
話すなら「起から全部」と言う、時には面倒くさがられるオジサンの話し方だ。
まあ、ロキがこんなでは、逃げられない。…愛想笑いに尊敬の眼差しをセットしておく。聴き流している話によると、街の初期に起こったスタンビートには、どうやら深い秘密があったらしい。子供用の変な例えを連発するブレイズさんを中の自分が何とか補足する。なんか、これも自動翻訳の一種かも知れない。
要するに、宇宙は11の次元でできている。実際はもっと多いだろうが、11次元以外はこの宇宙に関係ないから、考えなくても良いらしい。…ゴブリンまでは遠そうだ。
ニュートン、アインシュタインまでの宇宙を4次元宇宙と言って古典宇宙とか物理宇宙という。でも、機械工学が電気工学に拡大したように量子空間場工学の時代に入ると、もう4つ、表裏合計8つの次元を使わないと宇宙の現象が成立しない事がわかってきた。
11次元だけど1つ観測に必要で、残りの2つは、必要だけど折りたたまれていて極端な状況でしか現れない。ブラックホールノヴァの時くらいしか数に入れなくて良い、そうだ。
物質の広がりに時間を加えた4次元を空間と捉える「物理宇宙」に、関係の連続と深度を加えた4次元の「情報宇宙」が潜在して連結している。
人に見えている物理的な宇宙をA変数(ABC+t)からA次元世界、潜在して人に見えてない関係性の相位がΔ変数(δεζ+$)からΔ(デルタ)次元世界で、イメージしやすいように、表の物理宇宙に対して裏の情報宇宙と仮に呼んでいる。
同じ時空間に存在するA世界とΔ世界の8次元で、この宇宙の全ての物は創られている。Δ世界が人間に見えていないのは、単に地球を含む大半の物理宇宙ではA世界が優勢に顕在していて、潜在する、言い換えれば裏のΔ世界を感知する器官が、人間を含む生物に生じなかっただけと言える。
物質が比較的自由な物理宇宙では、A世界が優勢に発現し時間が基準化する。ブラックホールやボイドの表面など物質が動く余地のない折りたたまれた空間では、Δ世界の量子特性が優勢になり深度が基準化する。
AΔ宇宙の総量が同じだとしても、Δ宇宙が優勢な高密度宇宙は物理宇宙で見ればブラックホールなどに集中し陥没した空間に折りたたまれていて、人が観測できる宇宙に占める空域は極端に小さい。
トーラス星団の中心にある、ブラックホールとも違う不思議な天体「ボイド」は、まさに天体規模のデルタ宇宙顕在域だった。
ブレイズさんの名誉のために改めてハッキリしておくと、ブレイズさんが空気を読まずに幼児にこう話したわけではない。とっかかりの話を、中の自分が注釈付きで詳しく解釈したら、大体こんな感じになった。
それでゴブリンの何が問題かと言うと、人間や家畜などの高等生物が情報宇宙にも『身体』を持っているという事だ。
分子的な生物は物理宇宙で一定の時間をかければ凡そ発生するが、人間を含む知的な動物が世代を重ねるには、情報宇宙の特性が欠かせない。
故に、人を含む複雑な生物は、知覚できないだけで、A世界とデルタ世界にまたがる6次元の身体組織と遺伝子を持っているはずだ。地球外生命のサンプルが少なすぎて仮説だったが、ゴブリンのスタンビートで間接的に証明されてしまった。
この辺からは、ブレイズさんと別れた後、エストハウスの幼年教室に居るティーチャーを解析して詳細を補完した。おもに、中の自分が頑張って。
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「福音都市」が開拓の権利を得た惑星「ザイオン」のテラフォーミングが軌道に乗り、多くの住民が惑星に降りて数周期後、原因不明の病気が開拓地を襲った。
家畜の衰弱から始まったそれは、病原の発見すら難航したが、人に感知できないため無防備なデルタ世界の形質が捕食されたため傷ついた肉体の衰弱だった。当時の開拓地では治療方法が分からず、家畜だけでなく、なすす術なく多くの市民を喪った。
続いて、テラフォーミング後の開拓農地の植物相に異変が広がり、生物災害の様相を見せた。
特に野菜類の変容が酷く、最終的にキノコ様の鉱物ジャングルに置き換わって、数十メートルもの岩石状の層を隆起させて安定した。その岩石状巨大樹の根圏に当たる地下空間より、モンスターが湧き出した。
牛や羊、ブタ、ニワトリなどを連想させるモンスターの群れ、更にはヒトの特徴を持つモンスターが集団で溢れ出た。特に小型のミドリと言うより黄色がかった人型モンスターは凶暴で、集団を作ると人間への攻撃性が一気に高まった。
開拓地では、このヒト型モンスターの小型のものをゴブリン、大型をオークと呼んで防衛したが、取り回しの良い武器が不足して、居留地に入り込まれると対応に苦しんだ。
惑星ザイオンの地表では、何故か一部の化学反応が地球と異なる定数や値域を示して、イオン化や燃焼反応が地球の常識とかけ離れた値をとる。生活に直結した問題で、元素に関わる根本的な謎現象として、災害が始まるまでは緊急の調査事項だった。
内燃機関と大気中の火が使えない。幸い、人や動物の代謝は問題ないと判明したが、基礎研究を待つか、惑星開拓を進めるか、議論は分かれた。
もともと空気が貴重な閉鎖コロニーでは、燃焼を使った機器は厳禁だった。地上に降りてからも住人の火に対する忌避感は強く、それに電気機械は簡単な調整で問題なく使えたので、開拓の主な動力は電気で進められた。
しかし、開拓地のすぐ横で敵性生物の集団が、大きく数を増やし続ける事態に対して、火薬・爆薬が使えないのは大きな不利だった。
急造の空気銃と小型レールガンで土塁を築いて防衛にあたった開拓地は、このスタンビートを乗り越えるのに、病死を含め住人の1割に迫る被害を出した。
トーラス宇宙気流に設けられた開拓支援本部の氷殻基地と他のコロニー船団からも援助が行われ、デルタ世界対策も大きく進歩した。しかし、スタンビートが一旦収束した六週間後に福音都市は開拓地の放棄を決め、なお地表に残る住人を、一応の気密が完了した新造コロニーへ退避させた。
ザイオン開拓地を有するコロニー「福音都市」は、この時、独自の判断で、最も懸念する災害「魂の危機」を宣言した。
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(補足)
宇宙気流ボイド境界域、氷殻コクーンドック、皇宮艦・探査艦母艦デネブ、近傍
公団艦隊:接収先遣分隊での会話
「こんだけデカイ船見つけるのに60年て、もう中は全部腐ってるんじゃないか。」
「基地母艦だから地球行きにも耐えるって話だぞ。まあ、航路があればだけど。」
「先日、捕獲したマスターキーが修理でき次第、再教育して送って来るそうだ。」
「それまで待機…。って、本部の連中、どんだけ待たされるか、解ってるのか!」
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(その頃)
デネブ管制内郭:6次元量子電脳キグナスα:キャラクターコア
船体間での情報連結(秘匿量子通信)
^_^…プロキオン…何やってる…早く船体で、私の身体をラスターし直してよ
〆…ルド様に同化した精霊コア、…諦めて欲しい。ルド様マジヘカトンケイル
(用語説明)
探査艦母艦デネブ
(探険船軌道基地、エイリアス:デネブ、オリジン:タイタニア、パーン)
切れ込みの入った扁平球体大小二重型(鏡餅・ヘソ饅頭)、探険船のドック展開中は扁平なダルマ型になる。さらに氷殻を形成して小規模な氷殻基地に拡大可能。いずれの状態でも扁平している。(つまりデブ)Σ(-᷅_-᷄๑)
長直径1200m(展開前)、軽い白装甲に空間場シールドと力場機関を常時展開。上部小船体の内郭は高密度装甲の多重船殻で六次元量子電脳キグナスαを含む解析基地になっている。大船体にも閉鎖区画があり、ポーラスター専用ドックが展開する。武装していないが、強力な力場機関を持ち空間フィールドを攻撃や防御に使用可能。特殊な三重ボイドをもつ。主機関:オーブボイド、サテライト二重ボイド、推進方式:重力推進、補助MMドライブ、テレポート光速移動




