第7話: エストハウス
どうも、そうじゃないかと思っていたけど、…そうだった。
ロキのことだ。3日目で確信した、こいつはポンコツだ。
そして、マーレさんはポンコツではないが、人としてダメだ。
孤児院の反対側の建物は、通りに面した向こう側が酒場になっていた。どちらもマーレさんがオーナーらしいが、何人かの女性が酒場の二階で夜の個人営業をしている。オーナー自ら、あの身体でお相手するそうで、朝は遅くまで起きて来ない。
朝、孤児院の年上の子供達が酒場にやってきて、奥のキッチンで自分たちで朝食を作っている。もっと小さい子は店の掃除をしている。よくわからん酔い潰れたオヤジの朝食まで作っている。どう考えても、ダメだろう。
それにロキもマーレさんも朝が遅いのだけど、精霊とかは、ドロイドの上位互換じゃ無かった? 睡眠て必要なの? メンテナンスタイムなのか? ロキはなんでボクのベットでボクより先に寝るんだ。それは諦めたが、おかげで中の自分が色々実験できなくてストレスになってる。色々とおかしいだろ。
ともかく、早々に吹っ切れたボクは、勝手に起き出して、他の子供に混じって朝食の準備と掃除を始めた。女の子の格好で。
おじいさんがドラゴンとかに、何を伝えているか判らない。目立ちたくないならロキの言うことにも一理あると、初めに思ってしまった。その結果、もらった部屋には女の子の服しかない。とても目立つ可愛い衣装が沢山ある。
この辺からおかしいとは思い始めたんだが、ロキとマーレさんの鉄壁の連結を切り崩せないでいる。せめて、みんなと同じエプロンをつけて自分で自己紹介して掃除に混じった。
「ショータと言います。何も思い出せなくて迷っていたところを、ロキさんに助けてもらいました。ボクは男だと思うのですが、マーレさんにこの格好をさせられてます。なんとかしたいので、よろしくお願いします。」
年長の女の子が、みんなをまとめていた。12歳でウエーブした金髪がかわいい。
「そうじゃないかと思ってたわ。でも、諦めてね。それと私はリズベット、こっちは、ジェシカとエリー。向こうの男の子はウィルとマシュー、ちょっとみんな来て、紹介するわ。」
リズベットが頭の上で手を叩いて皆を集めた。ここには下は7歳くらいからいるが、もっと小さい子も孤児院には居るらしい。リズベットは手際良く紹介するが、やっぱりマーレさんの仕草に似ている。多分、リズベットは責任感の強い子で、意識してやってるんだと思う。
「シータが男の子だと言う事はみんなわかってると思うけど、最初に言った通り、今は諦めてね。そのうち飽きると思うから。」
「ショータです。でも、こんな感じの服が部屋いっぱいあるんですけど、そうだ、お古でいいんで、誰か男の子から服をもらえませんか?」
とびっきりの笑顔でウィルたち男の子を見回すと、みな一斉に目を背けた。
「ショーティは可愛いから似合ってると思うよ。お店でもきっと人気が出るよ。」
マシューが、代表して答えてくれた。でも、幼児にお店って、なにそれ!
それと、ショータはそんなに言いにくいですか?
年長の女の子達は皆ニコニコしてる。男の子達は申し訳なさそうにしている。どうやら珍しい事ではないようで、ヤッパリ、ここ、駄目なんじゃないだろうか。
早々に危機感が、募ってきた。
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(補足)
水源クレーター、外輪山渓谷の観察小屋、Old fir hut
ニューヨーク国:名誉第1秘書ドロイド:ヨーゼフ
「面目ございません。推測ですが、ショーは既にハイエルフかも知れません。」
ニューヨーク国元市長:セントラル川水源番人:アマルフィ
「仕方ない、それにあの歳でタレントが発動しているならきっと無事だろう。加護のリングを渡せんかなぁ。帝国は乳母より、精霊石を狙ったかも知れんしな。」
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孤児という共通の下地があるのか、皆親切ですぐに打ち解けることができた。中学の時の交通事故で両親を一度に亡くしてからの自分と似ていて、早く独り立ちするんだという気概に覚えがある。お互いの距離感がいい。ロキとは大違いだ。
朝の酒場で朝食を終えると、皆、一度エストハウスに戻って着替えてから学校に行く。公共学校に行く子供が酒場を掃除していたらしい。もっと小さい子はエストハウス自体が幼年学校で、13歳からは分野別の寄宿学校へ行くため、リズベットやウィルより年長の子供は、普段はここにはいないそうだ。
ついて行くわけにもいかないので、孤児院の玄関ホールから仲良くなったばかりの皆を見送る。年長の子が小さい子に付いて10人ほどのグループで、先頭のマシューと最後のリズベットが挟んで歩いて行く。
リズが手を振ってくれた。何人か振り返ったので思いっきり愛想よく手を振り返してみた。通り向かいのおばさんに、早速チェックされたようだ。こちらにも頭を下げておく。
子供たちの荷物はバックパックだけで、マシューもリズベットも小さな盾とか手甲を腕に装備している。なんか駆け出し冒険者みたいだ。
つまり、危険があるのか? ダンジョンだけに。
エストハウスのリビングに戻ると、ロキが居た。
やっと起き出してきたロキに顔を洗わせて、再び酒場にやって来ると、用意してある朝食をテーブルに並べた。ロキの分だけでなく、酒場の上階かエストハウスに住みついて居ると思しきオジサン達がボツボツ来ていたので、ついでによそってあげた。愛想は七難隠すというしね。…色白だっけ…。
役に立たないロキを相手に暫く、学校のこととか、他愛のない話をしていると、朝食を食べに来ている渋いおじさんの一人が説明してくれた。
「上級生の防具はダンジョン授業で使うためだ。通学のためじゃないよ。」
ブレイズさんと言い、マーレさんのダンジョン・パーティー仲間だそうだ。
マーレさんは、夜の仕事がメインという訳ではなくて、週の半分以上は東壁の旧ダンジョンに入るらしい。ブレイズさんと向こうで朝食中のアービンさんが雇われて同行している。話を聞くとパーティメンバーと言うより、パートタイム社員だと思う。
それでダンジョンが休みの日は、今日みたいに、ちょっとした事を手伝ったりしながら此処でゴロゴロしてる。たまに家に帰って奥さんや娘さんを手伝うこともあるらしい。
家に帰れよ!…なんかここだけロキと心の声がハモった気がする。
ともかく悪い人ではないらしい。
「特にこっちの旧市街は、昔のスタンビートで沢山の人がダンジョンに喰われたからな。今でも崖の近くで湧いたゴブリンがこっちに迷い出る事はある。でもまあ、1匹位なら向こうが直ぐ逃げるから、マシュー1人でもまず大丈夫だ。」
なる程、解らん。ロキは説明する気はないようだ。
低血圧の精霊て、ありなんだろうか。ほっておくと皿に顔を突っ込みそうなので、スプーンですくって口に突っ込んでみるとモグモグする。なんか面白い。
ブレイズさんも暇なのか、そんなロキの様子に肩をすくめて、イスに座ると説明してくれた。理屈は難しいが、スタンビート自体は初等学校の学習範囲だそうだ。
そもそも住民は皆、幼年学校で身体や脳の成長と共にナノマシン器官も育てるので、初等部に進む頃には一般教養などの知識はインストールできるようになる。公共学校の授業は、知識教科のインストール前提で課程をスタートするので、教科書は無い。でも、国中の子供たち全部が学校に通うとなると、例外は必ずある。
「まあ、環境が無い辺境もあるし、ナノマシンも万人万全じゃないからなぁ。」
どうやら、ナノマシンのトラブルで孤児院に預けられた子供と思われているらしい。そういえば孤児院は治療院と併設される事が多いとヨーゼフがいってた。
実際困ってるし、これで行こう。
ブレイズさんはノッてくると相手を気にせず語るタイプで、ダンジョンとスタンビートは簡単な話ではなかった。それでも、ロキの食事が進まないので、かなり詳しく聴けた。
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(補足)
アース太陽系の星団内縁、暗黒湾奥から宇宙気流ランプへ
皇宮艦:極限探査戦艦アンタレス:エイリアス:アンタレス
「普通のコンテナ船がアースから宇宙気流に入るには、この海峡の渦に乗るしかありません。輸送船の機関ではコースを選ぶ余裕は無いので、そこを狙います。」
皇宮艦:長距離貨客船アルゲディ:エイリアス:アマルティア
「トーラス宇宙気流の公団本部は現在、ボイドの反対側に入りつつあります。討伐隊の派遣には数年かかるでしょうね。星系分艦隊を動かさなければですが。」
皇宮艦:シールド巡航艦アルデバラン:エイリアス:アルデバラン
「この暗黒湾デブリの中を進むのは戦艦でも難しいでしょう。アルゲディ、私のシールドから離れないでください。別れ渦を乗り継ぐ時が最も危険です。」
アマルティア
「暗黒湾に空いた塵の底とは言え、影の月にはアーセナル程ではありませんが入港施設があります。どうして公団は、この場所を知らないのでしょうね。」
アンタレス
「影の月のある石炭袋をミモザが記録しなかったからですよ。そこには誰もいない施設がありました。影の月はもともと人類が作った施設ではなかったのです。」
アルデバラン
「ああ、プロキオンの船体は、きっとそこにあった物ですね。アーセナルが消えた時、ポーとラスターが船を分けたと聞いて、信じられませんでしたわ。」
アンタレス
「プロキオンの船体は、ほぼデルタ次元に潜航しています。そこでルド様を見つけたようですよ。とても巨大な情報生物だったようです。」




