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第66話: 漂流日記、伝説のタマ

 

 …_〆“^_……



「青い海、青い空…白い雲。噴煙をあげる島が多すぎて目印にもならない。漂流3日目…私は、依然正気を保っていると信じたい。」


 数日前に想像もしていなかった光景が、いま…見渡す限りに広がっている。私はシルビアナ。ボーダーかスワンか、もうわからない。唯のシルビアナ。


 環礁を出て再び海流に入る。多足型整備ドローンの奮闘虚しく、私たちがイカダにしている元《航空機》のブースターが停止した。


 宇宙ドライブ機関の開放型重粒子ブースターを海中で極低速運転していたのだ。長く持たないと承知だが、…もう1日保たせられたら随分楽になった。


 しょんぼりしているが、ドローン達の責任ではないと思う。十分頑張った。何度目かの不具合の後、派手なスパークと軽い水素爆発の効果付きで吹き飛んだ。


 幸い皆、無事だ。それに、この《航空機》には、立派な手足があるので泳げるかもしれない…。


 私の提案に、頭に赤い猫をのせたパイロットが挑戦してみた。


 …文字通りに()()()とするのは、大惨事だとすぐわかった。


 イカダのまま両腕をオールにして水を掻いた、…たいして進まない。バタ脚は悲惨なことになった。


 しばらく瞑想していた猫が、目を見開くと気合一閃。慎重に腕を魚のヒレのように動かし始めた。の8の字を描くような滑らかな動き…今までで一番進んでいる気がする。


 両腕の動きに合わせて、足をカエルのように縮め伸ばし方向を保つ。


 いい感じだ、…明らかに進んでいる。


 …まもなく、致命的な問題が露わになった。エンジン停止、…猫が飽きた。


 ・・・


 猫が腕のポールを立てるとクモ型ドローン達が、どこからか持ち出してきたシートとロープを加工して三角帆を張った。帆の制御など猫も私も知らないが、クモの指示に従って両腕の動きで張りを調整。


 意外とイケる…少しの風でも結構な速度が出るようだ。そのまま海流も利用して移動を続ける。夜は口の中のコクピットで眠る。狭いが2人分のスペースが最初から用意されていた。


 食事から身体のメンテまで、3体の蜘蛛ドローンには、世話になった。


 身振りでしか会話できないが、こちらの言っていることが判るらしい。複雑な会話は、猫が間に入って答えてくれた。…どうして解るのか…考える事を諦めた。


 昨夜は、いきなり突き上げられる衝撃で目覚めた。座礁かと思ったが、探るような衝撃が数回。何か大きな生き物に下から突かれているようだ。絵本の魚竜を思い出し、猫と蜘蛛と息を潜めて身を寄せ合う。


 いざとなったら鼻面にパンチとか猫が目で話しかけるが、私はじっとやり過ごすよう、口の前で指1本立てて息をこらす。


 やがて興味を失ったのか、大きな何かの気配が去っていった。


 ホッとしたが、目が冴えてしまった。猫がクモに言って暖かいミルクココアのコパック(コップパック)を2つ、どこからか持ってくる。奢りだから飲めという。


 なんでも猫は、正確にはパイロットじゃなくて臨時店長だそうだ。なんの店長なのか説明してもらってもよくわからないが、仲間になれば、私の食費ぐらい経費で出せるらしい。


 …この状況からすれば、私と猫と蜘蛛は、一時的にも仲間だ。店長が臨時なら、店員も臨時で良いじゃないか…と蜘蛛も言うので私は頷いた。


 〝一緒にこの店を守って生きて帰る。″


 …この店が何なのか相変わらずわからないが、クモ達と手を重ね円陣に誓う。そこに猫がそっと手を重ねた。


 ピシ!…心を縛る枯れたイバラが、ひび割れた気がした。


 一瞬でも感じた暖かさに、シルビアナの視界がぼやけた。


 ・・・


 3日目の正午、天候に急変の兆しがある。


 水平線から雲が押し寄せる。風の匂いを嗅ぐ猫が目を逸らさずに言った。


「にゃにゃになニャー。ナニにゃ、ナーゴニャにゃー!」


 私の身体にもクラウドリンクの機能はある。シルビアナは、もう一度試みて溜息をつく。


「やっぱり、使えない。帝国のポータルに繋がれば何とかなるのに、リンクの入口だらけで、まるで迷路。もう…ヴェーダ人は、どうやって生活してるのかしら。」


 天気情報すら探せないなんて、クラウドリンクの意味がわからない。


「ニャゴなーなぁー。にゃんニャー。」


「そうね。かなり近くまで来てるはずなのにね。船でも通らないかしら。」


「ウニャ。」


 そう、こんなイカダでも結構順調。途中いくつか火山島の側も通った。大抵の島には、ロク鳥の雛がいる。シーズンなのかも知れないが、ロク鳥はヒナの期間が長いような気がする。何しろあの大きさだ。


 猫が何かに呼ばれたように、サーバの頭上で耳を動かして周囲を見回す。


「ニャニャ!」


 ナニを見つけたのか、クモ達を呼んで帆の向きを変えた。海流を離れるつもりのようだ。伸び上がって海面を見るが何も見えない。


 クモ達と猫が身振りでコクピットに戻るように言うので、そろそろと移動すると、いきなりイカダが揺れた。必死にバランスを取って海に落ちないようにする。風にあおられながら、口のコクピットへ転がり込んだ。


 急な突風に波頭が吹き込む。クモ達が猫に掴まって戻ってきた。仲間の無事を喜び安心したが、帆が応急なので風の中で畳めそうもない。クモ達が残念そうだ。


「ニャ、ナニャニャ。」


 そう、仕方ない。ロープを切れやすく細工した。海に落としてシーアンカーにするつもりだが、上手くいくかわからないらしい。猫には、この先に何か目論みがあるようだ。モニターに集中してどこかにイカダを進めている。


 外部カメラの位置が海面に近すぎて、遠くが見渡せない。


 シルビアナは、猫と目で語ると慎重に外に頭を、そして上半身を出した。意識して体を固定し、風に殴られながら進行方向を見通す。幸い雨は、大したことない。


 波の間に何か見えた。…うん、盛り上がる波濤、その向こうに砂浜のような切れ切れの白い色。…波間にわずかに見える…砂州だ!


「右舷10…15度、砂浜が見えます。距離1000…mくらい。」


「ウニャ!」


 猫サーバは、慎重に腕を動かして帆の向きを微調整する。だいたい方向が合ったところでシルビアナは、引っ込んでコクピットを閉鎖した。海水が入り込みそうな勢いになってきた。


 ドローンがタオルを持ってきてくれた。雨というより波濤の海水で顔がベトベトする。猫が集中して風をやり過ごしている。帆が破られそうだ。


 波間の向こうに見え始めた白い砂浜。ヤシの木が見え始めた。初日に停泊した環礁にそっくりなヤシの林だ。軽い衝撃とともにイカダが乗り上げ、何度か衝撃を受けると軋みながら押し流される感覚。


 急に静かになった。モニターの海面もかなり穏やかだ。


 コクピットが回転し迫り上がる感じ。猫がイカダの彫像を起こして浅瀬を歩かせている。足元を確かめながら歩く彫像の視界が、林のそばで低くなった。


 像を座らせた猫は、大きく息を吐くと後ろを振り向いた。


「ニャ、ニャニャにナーゴニャ。」


「うん、ありがと。ご苦労様です、…。今のうちに、ご飯にしましょう。」


「ニャ。」


 コクピットのユニバーサルドラムが回転したけど、広さは変わらない。ご飯を食べるのは私だけ…だけど今日は、猫も何か食べるようだ。食事が必要というより多分嗜好だろうけど、文句はない。むしろ感謝し足りないくらいだ。


 それにしても、ヤシの林が初日とそっくりな環礁だ。この辺には、こんな浅瀬が多いのだろうか。



 ***



 斑尾キャラバンの主船グ*ス*タフでは、朝から荷下ろし作業が始まっていた。


 昨夜のうちに、倉庫街の入口にあるあるヘルン共同商会に隊長たちの一部が商品サンプルと共に説明に向かっている。ケットシーや人間の手配を済ませて、朝から配送体制を一部組み替えた海と陸の船が集まり出している。


 夜遅くにグ*ス*タフに戻った隊長猫、ウ*ージィさんは、この後も商会の地区マネージャーとの会議に出る。あらかじめ予定されていた会議だそうだが、ファクターB…つまりブラウニーズが加わったことによる流通計画変更でウ*ージィさんたち隊長猫は、昨夜からほぼ完徹。


 暗闇でも見えるケットシーだが、夜行性ではないらしい。


 タップリ眠った太守が隊長達に声かけてたけど、逆効果じゃないかね。あ、白猫さんに尻尾踏まれそうになってる。


「このソリで市内に運ぶニャ。取引先にも先触れを出してるから会議の後、直ぐ配送ニャ。」


 昨夜、太守と錬成基地のフィニッシュをした。ケットシーに使いやすく、ショーの関係者に相談して売り掛けの契約も幅を持たせた。


 シルキーがフランチャイズ錬成玉に両手で触れて認証すると、何度もテストで走らせた量子魔法陣が積層して記憶水晶に分子固定する。そのまま半球に挟み込まれて、水晶球のコアユニットに分子結合した。


「船倉の空いたスペースに設置します。ラピッドさん達の手を借りますね。初期ロットに続いて量産品の検品をお願いします。」


「僕の部屋より倉庫の方が当然効率イイし、自走機能付きニャ。祭りの後は、ここの商会の中で生産したいからね。」


「グ*ス*タフで巡回するより、次期出荷分から定期便に乗せる方がいいニャ。今回は速い船を用意するけど、当面の量が行き渡れば落ち着くニャ。この錬成ゲートが便利すぎて生産拠点の管理がキモになるニャ、商売は、いずれボチボチニャー。」


 太守の部屋から下の船倉に廊下いっぱいに岩のローラーが転がっていく。遺跡から切り出した石材のような見た目で重そうだが、実はさほどでもない。しかも、黒と黄のシマシマフィールドがローラーを覆って展開し、周囲との接触を緩和してるので静かだ。


 船内の狭い通路の曲がりカドも何のその。この岩のローラー、細かいパーツの集合体でフレキシブルに変形する。船倉に入ってまったりと球体になった。遺跡遺物風の謎球体だ。


「いい感じだニャー、伝説玉の感じがよくでてるにゃ。」


 斑尾太守が、ひとりご満悦。ケットシーの割とポピュラーな昔話をヒントにしたデザインらしい。


 謎球体のこちら面にすり鉢の様な同心円状の模様が揃い、真ん中に穴がひとつ開いている。


 太守は球の前に立つと、大きな一つ目でその穴を覗き込み眼力を込める。…メカニャンコっぽい音声が穴から響いた。


 《…「ゲ*ルググ*・バケ・ニ*ャンコ」を認証しました。開店オープン!…》


 球が眼を開く様にクチを開けて、デカイ赤い単眼になった。


 周囲を力場の防壁が囲み、レンガを吐き出し始める。


 レンガは、自分で滑るように周囲に積み上がると目玉を乗っけてピザ焼釜の台座になる。


 《…初期設定を終了しました。範囲を指定してください…》 


 目玉から声がした。床に赤いラインが光っている。


 白猫シ*グ*さんの指示で太守とシルキーが赤い発光ラインを摘んで引っ張り、船倉の一角に広げる。


「ここに出すニャ。」  太守が命じた。


 目玉が吐き出すレンガが即座に発光ラインの内側を埋めて、その上に錬成魔法陣を固定する。


 《…斑尾商店1号の設置を終了しました。いつでもメニューを呼び出せます…》 


 シルキーが再び目玉に触れると、太守を振り返った。


「愛称で管理コードをまとめられるけど、名前つけますか?」


「そうだにゃ、伝説通りエ*ル*メスがいい。お前は「エ*ル*メス」ニャ!」


 上機嫌の太守に向かい、巨大目玉が数回パチパチして青くなった。


 《…確認、斑尾1号店の管理を「エ*ル*メス」で承ります。これから、よろしくお願いします。…》


「投影画面から操作きます。メニューは、立体ですけど映像だけで触れません。本体から離れた位置にも大丈夫です。最初は作業台の横に出しておきますね。料金と累積記録もここに出ます。」


 シルキーがコアの設定を終える間、ミミックさんが太守と白猫さんに説明する。ミケさんや黒猫さんも集まってきた。太守は、説明を聞くまでもなくだいたい分かっている…一緒に開発したからね。


 試運転がてら、最初の量産ロッドが錬成された。目玉がカッと光って内部に分子オルガンを展開し、錬成陣にダンボールに6本入った酒と醤油が現れる。レンガの上でスライドして魔法陣の外に運ばれた。箱の上部は開いていて中身が見える。


 隊長達と集まってきたマウザーが囲んで検品しているが、問題なし。今後も確認のため、開いた箱入りで錬成する予定だ。レンガの上にスライドして溜まった商品を、マウザー達が台帳に書き込み、手型を組み合わせたようなマークで箱を封印していく。行き先シールを貼って倉庫の区画にソリで運んで積み上げる。


 太守とシルキーは、その作業を暫く見守ったが、問題無さそうだ。積み上げた箱の強度も計算済み。


「ありがとうにゃ。後はウチらの仕事ニャ。」


 太守を囲む隊長猫からミケさんが一歩進み出て、シルキーの頭を優しくなぜた。


 肉球は柔らかくチョットひんやりする。嬉しいけど…やっぱり頭から齧られそうな気がする。カプセルに戻ってひと休みしよう。




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