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第60話: 出前専用、エンジェル・キャット

 

 … ¥※¥ …


 監督の報告を、アトランティス産業大学から仕入れた地理情報に照らして、自分会議室で投影パネルにした。同じものを商談中の迷い家の松の間にも投影して、ミミックさんが「伸びる棒:トップにコウモリ付」で解説している。


「…という事で、このまま飛行を続けた場合、後…1時間少々でロク鳥は火山地帯に入ります。そこから巣までの距離は不明ですが、周回飛行に入れば着地地点はハッキリするでしょう。」


 しかし、どうしよう…。 というか、誰が行く。  いや、・・だれかいく?


 周囲を見回す。


 ミミックさんの、ミミックショップ3号なら可能性はある。


 でも、ミミックさんが抜けると、物理投影…つまりコフィン・カフェが全滅だ。それに、ミミックさんをひとり危険な任務に送り出すのは、…ワタシが嫌だ。そんなんなら、愚姉が何人食われても構いません!


 クウは、…「ボクは、シルキー救出担当。そっちは対価もらってないもの。」 …まあ、世話になってることは事実なので、何も言うまい。


 監督…間に合う手段がない。ポットさん…同じく。


 ケットシー達は、…隊長達が少し相談して、向き直った。


「その短時間で火山海峡まで行く方法がないニャ。クリノイド商人が、たまたま近くにいれば連絡つくかも知れないが、ロク鳥の巣となると…今からじゃ連絡ついても、無理ニャ。」 …でしょうね〜。


 愚姉には、ひとりで頑張ってもらおうか。意外と逃げ切るかもしれない。…でも、巣って…火山の噴気孔の傍だよね。愚姉、飛べないし…サイボーグって、茹で上がると赤くなったりするのかなぁ…。


 カウンターでポットさんと見つめ合ってたフーが進み出て、尻尾で言った…ような気がする、「任せろ」…。…フーは、赤いネコのことね。


 赤タマと名付けようとしたら、なんか察知されて…その様子から「フー」になった。フレイア様のフーということで…


 で、ネコが行くのかい? そうかい…。


 ポットさんとミミックさんが眼光通信を瞬時交差させて、私に視線を移す。まあ、私も直じゃないけど女神ロイドで光通信の中身は読んでるよ。


「ミミックショップ3号機MarkII((マークツー))を使います。」


 1号がバギーワゴン車だけど、いっつも荷台のお店部分だけ錬成してる。


 3号機は、私のカプセル脱出案用に試作された航宙ユニットで、グングニルの魔水晶を動力に再設計されている。MarkIIは、惑星降下以後の状況に対応するため大気中の機動に適化された機体だ。独立行動できるよう、動力源を転送錬成に切り替えている。


 ただ…監督と私に飛行のノウハウがなくって、設計ができても操縦に不安があり実用化していない。設計もかなり斬新だが、そこはグングニルを任されていた保守機械…飛ぶことは、間違いなく飛ぶ。


 乗り気でない私に、フーが再度シッポを振った…任せろ!


 オデコのルビーで機械語の技術データを発信するので解析して…決めた。イイでしょう…ただ、ミミックショップ3号を錬成するのは気が進まないんだよね。


 ・・・


 5分後、中庭に特大サイズの女神ロイドが無機質な白い翼を広げていた。


 ケットシー達の無言の視線が…イタイ。クウが口を抑えて肩を震わせている。


 監督が脱出用航宙ユニットの外殻をコロニーで探したが、サイズの合うものが見つからなかった。動力的に最小軽量の条件が動かないので、最も頑丈で状況対応が期待できる埴輪ロイドの外殻に目をつけた。


 …論理的に、確かに正しい。


 でも、この造形にこだわる必要は、ないんじゃないかなーー。


 私が入ってる女神ロイドは、実は3号機のポッドスーツ(宇宙作業服)版なんだよねー。


 私が物思いに沈む横で、ミミックさんと眷属がタラップを投影して口の中からパイロット・ミミックボディを引っ張り出している。4人がかりで緑の髪を太いおさげに編み込んでうなじにポケットを作ると、ポットさんの設計で私がラスターしたインターフェイス用ヘッドセットを被せてフーを乗せた…。


 まあ、似合うっちゃ似合うような気もする。…クウさんや、笑うなら我慢せずに笑いなさい。目が見開いて、変な顔だよ。


 パイロット・ミミックの目に生気が宿り、慎重に立ち上がると腕を回す。数秒後には、アクロバティックなジャンプ…何かの型のような立ち回りを、その場でしていた。


 その間にも、監督とココにいる何体かのドローンが腕に棒のようなものを取り付けたり、フライトチェックを素晴らしい連携でしている。そのまま数体をコクピットに潜り込ませたまま、監督がゴーサインを出した。テストフライトなしのぶっつけ本番だから、非常ピット要員を同行させたようだ。…出来ることは、やった。


 頭に赤いネコを乗せたミミック・フーが3号機のコクピットに収まるまでに15分。デカイ女神ロイドがクチを閉じると力場のザワザワ感が周囲を囲み、頭部周辺に陽炎のような光の屈折が固定する。


 ステイシスフィールドで周囲に大気のホーンを作っているけど、この停滞力場は割れやすい。透明な固定空間場を物理投影して被せている。ミミックさんのような汎用の物理投影コアと違い、単なるバリアシールドなので固定極が頭頂部に内蔵されているだけ、簡単だ。


 立つと軒先から頭が出るくらいの女神ロイド、ミミックショップ3号機MarkIIは、手足翼をグリグリ動かして、松の間の廊下に並ぶ私やミミックさんを覗き込んだ。丸太のような手でサムズアップすると向きを変え、発進姿勢をとる。


 両サイドの髪留めにデザインされたカメラや観測器が上方に回転し、短い可動翼が位置を揃えると、羽の根元でパイプか槍のような4本の電磁ブースターが唸りをあげ始めた。


 小さくとも重粒子ブースターだ。


 私の縮退発電機がブースターに重粒子を錬成で連続転送すると、開口部に独特の崩壊閃光が見え始める。フッと浮いた次の瞬間…監督が開いたテントの青空につむじ風を残して飛び立っていった。


 ミミックショップ3号MarkII…、祈るような気持ちで見送り、私は呟いた。


 お願い、だから…もし落っこちても、誰かの家に飛び込みませんように。

 頼むぞフー、…ネコだけど。 …by シルキー…




 *******



(補足)

 ローザンヌ:東壁旧市街:イーストウッド・サルーン


 ショー:ルド:エプロンドレスに慣れてしまったボッちゃま

「どうかなぁ、スミレ。今度の妖精ワゴン…飾りすぎじゃないかな。」


 スミレ・バーミリオン:お休みの日は、よく来ます

「ディッシュカバーが目を引くから、ウン、良いんじゃないかしら。」


 デネブ妖精

「結構大きな銀のドームですからね。こんな風にクルッと回って錬成します。ラスターしたラッピングを両側の妖精2人が固定して…いっちょ上がり。完成です。」


 スミレ

「とても良い感じだけど、いっちょ上がりって何語?…ショーの真似かしら。」


 ショー

「まあ…レンジから出すより自然かなと思って。それにメニューを触れる投影にするなら、投影した妖精さん達にレジをお願いすれば、商品説明が楽になると思ったんだ。問題は、妖精さんの制御コアだけど…」


 デネブ

「その点は、コンビニドロイドのベーシックユニットがあって、本部からいつでも更新できます。メニューと連動して物理投影するので、商品のラッピングからお渡しまで問題ありません。通貨を受け取ったり普段のおしゃべりもできますのよ。」


 スミレ

「ほとんど自動販売機ね。整備も補充も無くってお店に置いておくだけなら、明日にでもお母様に見せられると思うわ。」


 ショー

「お店での使い方やお客様への勧め方を、バイオレットさんに工夫してもらえると嬉しいな。店員さん妖精は3人まで投影できるけど、ここじゃ酒場のお姉さんがラッピングしないと元気の出ないお客さんが多くて、午前中のお弁当だけお姉さんたちがワゴン係をしてるんだ。」


 デネブ

「妖精のデザインを変えますかねぇ…、いえ、独り言です。それで本部のある空間を妖精界アキハバラと提案しましたけど、地名ですか?…エッダ船団に該当する言葉がありません。」


 ショー

「ボクとシルキーの始まりの地さ…。ゴメンね、ヴァルハラはカッコよくて素敵だけど、ボクは選びたくないんだ。」


 シルキー:ヴァルハラは最終戦争ラグナロクのための英雄保存施設。…私も妖精界を戦争の基地にしたくはない…賛成です


 スミレ

「ショーとデネブって、時々解らない言葉で話すわね。それ、精霊の言葉なの?」


 ショー

「違うよ。遺失語は、精霊も話せるけど妖精界の言葉なんだって。シルキーマーレ・ホームカンパニーの工場が妖精界にあって、ブラウニー達がこの商品を作って送ってくれるんだ。」


 スミレ

「ふーん、ショーが言うなら、私は信じてあげるけど、お母様はどうかしらね。」




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