第59話: 新しい朝が来た
…〜>@<〜…
あたらしい朝がきた…、希望の朝だ。
テントの隙間から・中庭と廊下を照らす朝日に向かって・胸を張って〜、…シルキー第1体操。イッチニ!〜イッチニ!
…なんかゴメンなさい、思いつくフレーズ…並べてるだけです…
ところで昨日、マウザーに自由意志はないと言った。…あれはウソだ。
昨夜、座敷迷路を抜けた先のコンビニワゴンで、マウザーグループ同士の掴み合いの乱闘があった。
両グループとも宴会に出ていたある調味料を求めていたが、ワゴン担当の見習いサーバが少しゆるふわ個性のせいで混乱を止められなかった。ミミックさんの前で廊下に正座して叱られてる。
自由意志がなければ乱闘なんて起きない。これにはケットシーの隊長も驚きで、滅多にない事らしい。
保護者の白猫隊長が、太守もいる朝食の席で報告してくれた。
結論から言うと両グループが探していたのは、サラダチキンに使われていた「柚子コショウ」。ポットさんと白猫隊長の分析では、魔薬でもなし、中毒依存性もない…ただマウザーの性癖にドンピシャとハマったらしい。マタタビ的なナニかですかね。
宴会場のサーバから、調味料として迷い家の店にあるはずだと聞き出して、座敷の突破を数グループが目指した。そこまではイイ。問題は、サーバ達…ミミックさんも含めて「柚子コショウ」の正体をよく理解してなかった事で、サラダチキンの調味料を完全には案内できなかった。
ユズと胡椒のフリカケ・レモン胡椒スパイス・マーマレードハーブ・柚子唐辛子・柚子ポン酢・ユズ味噌といった商品から選ぶことになった。ここで見習いサーバが気を利かせれば良かったのだが、ゆるふわしているうちに、マウザー同士で分担して試すことに決まってしまった。
マウザーも多少のお金を仲間で持っている。それを注ぎ込んでバラバラに商品を手にして一斉に試した。どれもアタリだったが、大当たりは「柚子唐辛子」。
私も初めて知ったよ。名前から胡椒風味と思ったら、柚子コショウってトウガラシだったのね。…動物に辛いのって良くないんじゃなかったっけ…
で、本命の確認のためにマウザー全員で回して味見したら、なくなった。…当然だよね。なけなしのお金でアタリを買った若いマウザーがキレて、年配マウザーが止めようとしたけどグループ同士の乱闘になった。いま全員、中庭のお白洲に並んでションボリ体育座りしてる。…これは、今晩のお夕食(食材)に決定かな…。
柚子唐辛子は、マウザーに酩酊や多幸感というより強い高揚感を与えるようで乱闘につながった。でも、しばらくして落ち着くと、とてもスッキリ、ストレス解消してたそうだ。白猫隊長は、そこに着目していた。
太守とメス猫隊長達が庭のマウザー達を横目に松の座敷で朝食中。いろいろなパンやベーコン、フライやオデンで柚子コショウを試してる。ミケ猫さんがチューブとフリカケを両手に、全員の食べてる分量を把握中。ポットさんもカウンターから興味津々だ。
結局、お白洲のマウザー達は、お叱りだけで放免になった。両グループの長には、太守から柚子コショウと頭数分のミカンゼリーが与えられて、問題を起こさないように楽しむことを許された。彼らが他のマウザーから、暫くでも羨ましがられたのは、言うまでもない。
白猫隊長が、太守と私たちに説明してくれた。
マウザーの死因はケットシーの捕食や事故よりも自殺が第1位で、特に成長中の若い生体は、ノイローゼで自暴自棄になり船縁から飛んだり、鬱々としていて大怪我をしたり危ないそうだ。これには隊長猫達も精神支配だけでは根本解決にならずに悩んでいる。
隊長達はストレス解消に柚子コショウを試す事にして、その場でお買い上げになった。使い所を工夫してみるそうで、上手くいけばめでたい事だ。
・・・
その後、ポットさんから昨夜のうちにラボで開発されたお酒と醤油のサンプルが投影で披露されて、私がグングニルの魔水晶で錬成した。
ワゴン商品と同じ形の4倍サイズボトル。何のことはない、潜像のパッケージを拡大投影して作ったシリカプラスチック製のボトルだ。ライブラリに再登録して、通常のすり替え工程で4パック分の中身をまとめる。潜像でまとめるのが今回の新機軸だ。
中身ごと拡大しては?…ラボで実験すると、存在感スカスカの醤油になった。酒もショボくなる。茶会ほどでなくて良いが、高密度の演算空間でなら錬成前の潜像を情報計算で品質を保ったまま大瓶に詰め替えできる。
つまり必要なのは、六次元の演算容量。
埴輪ロイドでは効率が悪いので、だいたい同じ機能を詰め込んだレンガブロックを開発した。
見た目はレンガだが接触・非接触での魔力変換と電力転送魔法陣、吸着・反発のシールド表面効果を持つ。埴輪ロイドと同じ内部のナノマシン回路で、演算力場空間を発生させて量子電脳の働きができる。一番の違いは、隣接するレンガ同士で周囲の素材分子を集めて同じレンガを作る増殖型ナノボットという点。
埴輪ロイドは、ガワを専用機械で人形焼して作ってる。レンガは、素材の土砂を端に積んでおけば力場で分解吸着して勝手に増殖する。監督は、設計データをレンガ集合電脳に渡し、延長予定地を整地するだけで済む。楽になるはずだ。
魔力は、ラボの隣にある特異点から汲み上げ放題なので、レンガナノボットの自己増殖する壁が日に日に伸びて行き特異点を囲った。ラボの動力源にするためだ。
さらにグングニルの廃墟を利用して建設中のブラウニーズ・ラボラトリー本体に母さんとアレキサンドリア館長、デネブさんの協力で水クラスタのコロイド回路に次元投影する六次元電脳:いわゆる「スライム電脳」を増殖中。こっちは瞬時に回路を最適化して半端なく強力な演算空間を展開できる。固定と可変…異なる方式で発生する力場電脳のベストバランスをラボで追求中。
酒と醤油は、これで必要に応じてパッケージと容量が変えられる。同じ方法で、コンビニの複数食材を盛り合わせた状態で錬成可能になった。
ちょっとした工夫だが、便利そうだ。昨夜は見習いサーバ達が手分けして錬成しながらラスターした大皿に盛り付けてたけど、ゴミも出るし時間も掛かる。まあ、それも最初は演出として盛り上がったけど、毎回では飽きられる。
魔力の泉が見つかった事で、大雑把ながらシルキーマーレ・ホームカンパニーの本部工場が姿を現しつつある。ワクワクするね。ショーも安心してバイオレットさんとブレイズさんにワゴンショップを提供できるようになるはずだ。
そうすると…レンジかレジのどちらかに、ミミックショップのメニューと同じレベルのナビゲーション機能が欲しくなる。本部からカバーするかレンジ毎に独立するか…次の課題になりそうだ。
そんな時、監督から緊急報告があった。
近くの岩山に大きな生物が飛来して停止していたが、朝日に向けて今また飛び立った。こちらに注意を向ける素振りがないので、警戒して観察を継続していた。飛来場所が個体名シルビアナの反応と重なるためだ。
今、シルビアナの個体反応が急速に飛行生物の方向に移動している。
…ロク鳥だね。…愚姉の奴、何考えてるかな!…絵本の2部扉にチョットイラストがのぞくだけだけど、注釈にちゃんとかいてあるでしょ、ロク鳥が砂漠の岩山で休む訳。…さあ、どうしよう。
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砂漠の夜は冷えます。それもここは遮るものの無い岩山の上。
シルビアナが、違和感に気づいて浅い眠りから覚めたその瞬間、真上からの風圧でテントがひしゃげた。
気づいた違和感は、周囲を囲む複数の獣…おそらくはお馴染みのデザートサラマンダー。昼間の炎熱を放出し尽くした岩場は急速に冷気をまとい、流石の狼トカゲも動きが鈍いようだ。それでも囲みを厚くして朝を待つつもりか…。
頭上から何か、大きな塊が落ちて来た。ひしゃげたテントを急いで収納して周囲全体を覆う奇妙な材質に注意を向けた。柔らかく弾力に富み…腕が軽く入っていく。デザートサラマンダーが地面との隙間伝いに近づいて来るのを感じて、そのまま「上」に潜り込んだ。岩場の溝では、狭くてブレードを振るうことも出来ない。
沢山の空気を含んでいるようで頑丈な「枝」を支えにどこまでも潜り込める。少し硫黄臭いが、気になる程の匂いはない…そして、奥の方はとても暖かいようだ。足場にした「枝」の周囲が瞬時に密になり踏み抜くこともない。サラマンダーの群れがかなり下の地面でかち合い、獲物に近づく入口を探しているようだ。まだ密になっていない隙間から入り込むつもりなのか、散っていく。
この綿毛の中でも、囲まれなければ大丈夫。1対1ならブレードを突くだけで終わらせられる。バイザーを閉じなくても平気なので、そのまま奥へ奥へと潜り込むが…なんとなくわかって来た。コレは生きている、多分…大きな鳥の羽毛の中だ。
・・・
暖かく実に心地よいので、しなやかな羽根がフカフカの綿毛に変わる辺りで休息する。生体反応が追い難いが、何頭かのデザートサラマンダーが入り込んでいるのは、確かだ。ただ、方向によって密になる羽根が遮るので互いに接近できないでいる感じがする。羽根は頑丈でサイボーグの手足でツッパてみても足元が抜ける様子もない。
これなら狼トカゲの牙でも破れないだろう。
さほど空腹ではないが、今のうちにレーションを補給して、脱出のタイミングを決めよう。鳥にはすまないが、ブレードで羽根を切らないと出られないかも知れない。
たぶん、夜明けの時間帯に軽い衝撃と浮上感があったが、しっかりホールドされて快適だ。バイザーの慣性コンパスは墜落地点にセットしてある。速度がわからないが、間違いなく海方向に飛行中だ。上手くいけば海岸迄の距離を短縮できる。
居心地が思ったより良いので眠気がぶり返しそうだ。目に止まった絵本をパラパラめくり、どこかで見かけたイラストの端に飛んでいる四つ羽の鳥を探した。ああ、砂漠章が終わって海章扉絵の端にいた。海の火山地帯にむかうズングリした鳥のイラスト、よく見ると六枚羽で首がかなり伸びるらしい。
章扉の裏ページに小さなイラスト、火山の中から首を伸ばす雛たちの上で、体を膨らませてブルブルする親鳥の絵がある。こぼれ落ちる獲物を飲み込もうとクチバシをイッパイに開いた雛たちのデフォルメされたイラストが可愛い…。…。
…一応、注釈文を読んでみるが、想像したマンマだった。
ロク鳥…と言うらしい…は、季節天候に合わせたルートで毎日飛翔し浅い海の獲物を狙う。地上の休息中に羽毛の間に逃げ込んできた動物を捕獲して巣に持ち帰り、ヒナに与える…なるほど。
ジュノー砂漠では深夜から明け方の時間帯で寒さを逃れようとしたデザートサラマンダーが、特にこの罠に引っかかる。地溝帯の火山噴気孔に巣を作るが、ロク鳥の羽根は特別でガスや高熱を通さず、噴火を避けるものの溶岩流程度で巣を移動しない、…なるほど、なるほど。
ブレードを試した。羽根の軸を切らないと穴はすぐ埋まる。…軸はなかなか切れない…ブレードのパワーは外に出るまで持ちそうもない。どうしよう。
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(補足)
謎の半空間:神槍サイドでの邂逅
皇宮艦基地母艦デネブ:下部船体ドックにて:デネブ
「じゃ、特異点がクライン構造で影の月の焦点に繋がってるの? 空の真上の。」
皇宮艦次元潜航艦プロキオン:エイリアス:プロキオン(ロキ)
「そう、だから出口は無い。でも…魔王城のデルタロードがクライン構造の外側に結合しているので、ココか天中央…いずれかでそのうち転移可能になる…はず」
デネブ
「ふーん。でも、アンタはどっから入ったのよ。最初からとか言わないでよ。」
ロキ
「高千穂サイドの上空に、開放可能な亜空間がある…トーラス宇宙側の〝へその緒〟はポーラが確保して次元船体にキープしてる、安定したらゲートに使える」
皇宮旗艦シリウス:エイリアス独立分体:アドリアーナ(マーレ)
「理屈がわかってるなら、ひと安心かね。球状閉鎖空間と思ったら、クライン球体とはね。エネルギー循環の空間構造だろうけど、魔力の泉は…副産物だろうね。」
高千穂天文台:陰陽寮:桐洞孤孤
「妙音様と九院さんが観察しているけど、亜空間は表層エッジ渦が馴染むまでの数年はかなり危ないようです。それに比べて、こちらの陥没は静かなものですね。」
マーレ
「数年か…、セレベンティスを早く外に出しときたいんだがね。…一応…毒でソフィアが勝利したといえ、現状、八つ裂きまでいかなくても実際バラバラで脳核も損傷してる。最悪の場合ノルンの族長たちに任せたい。ところで、そろそろ誰かこの半空間の名前を決めて欲しいんだがね。様式図書館とも連絡がついたのは朗報だが、アッチとコッチでは、管制に問題がある。」
桐洞孤孤
「高千穂のみょん様が浅間様たちの意見を伺いますが、高千穂は、こっちに任せると思いますよ。」
デネブ
「慣習ルール的にいくつか候補はあるけど、チョットここは特別じゃないかなー。候補は出すけど、マーレが決めるんじゃないの〜、アドミン的に。」
マーレ
「アタシのセンスは知ってるだろ。それにエイリアスは全体にこーゆうのが苦手だ。ずっと皇司令の分担だったからなー、タレント向きだ。」
デネブ
「あー、そうゆうコトなら、ちょうど頃合いのぼっちゃまがいますことよ。」
ロキ
「…高千穂とグングニルで候補を出して意見を聞こう…セレベンティスは?」
ソフィア
「パス!…カラダくっつけてる横で…もう少し配慮があっても…良くない?」




