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第58話: そらの光はすべて星

 

 +_・_+


 彼が「娘」の召喚に成功して程なく、彼の会社は様々な分野で特定の技術を持つ企業を買収して積極的なグループの多角化を試み始めた。この資金力にものを言わせた行動は、彼を時の人にしたが、彼は相変わらずメディアに露出せずに小樽に留まった。


 通信と輸送にこだわってきた彼の急な方針転換は様々な憶測をよんだが、その後、特に特定業種に攻勢をかけることもなく「新たな製造ブランド」の準備と語る彼の行動に沿った再編が行われた。


 経済誌の分析は、彼が民生ロボットを人と違和感のないアンドロイドレベルの製品にする意図とリゾート開発・介護事業のノウハウを集めている事を示していた。


 彼は、人に極めて近いAIを開発してきた。それならば、新ブランドの事業対象は明らかだ。彼は、まず彼のモバイル通信網と宅配サービスで、高度なAIを搭載したアンドロイド・サービスの提供を大々的に始めるだろう。


 情報筋では、彼が試作品の人形に「父さま」と呼ばせて共に生活し、着飾らせては習い事をさせている様子が噂されていた。


 贔屓目に見れば、自分でテスターをしながら開発の陣頭指揮を取っている様にも見えるが、彼の態度に違和感を持つ重役たちもいた。そこには紛れもない愛情と配慮があった。それでも、経営が的確で業績が伸び続ける限り、誰も敢えて彼の「趣味」に踏み込むことはなかった。


 業界や彼の周囲で、この「家族ごっこ」は金持ちの奇行として密かに黙認されていた。しかし、やがて彼の本気が全く揺るがない事に気付いたグループ企業の役員たちは慌てた。


 役員たちは、何年も新規部門を含めた事業の好調を東京の本社で喜んでいた。


 彼らが気づいた時、経営の核心部分の指揮を取っていたのは、既に彼ではなく、彼の「娘」だった。


 様々な妨害、抵抗、暗躍やマスコミを巻き込んでの裁判。経済誌の話題を集めた彼の謎の娘は、姿を見せる事のないまま時の人となり部門を統括刷新する新ブランド「ヤマト・タイカ」を率いてグループを制覇していった。人工知能に経営の中枢を委ねた初めてのグローバル企業が程なく誕生し、評論家たちの予測を超えて模範的な経営となった。


 彼は、自分一代で築いた企業を彼女に引き継ぐ事に成功した。だが、それは挑戦の始まりだった。


 業界が、法律が、国が、そして国際的な圧力と攻撃が陰湿に「親子」を取り巻いた。


 しかし、そこに未来を見る同盟者も現れ、ヤマトタイカが運営する企業イメージは良い方向で定着していった。


 最終的に日本から独立するまでに成功するヤマトタイカの主力産業は、全分野に及ぶAIロボットサービスの提供だった。観光、輸送、宅配…警備。やがて介護、医療、そして防衛。


 当時の北太平洋には、太陽光からエネルギー資源を生産する水素牧場の海上イカダが回遊し日本と赤道直下のクリスマス島シャトル基地を〝回転寿司〟の様に繋いでいた。チューク諸島南方(トラック)軌道エレベーター計画が国際的に実現するには、タダ同然の安価な水素燃料が大量に必要で水素牧場の回遊イカダは、海流を乗り換えて北太平洋を一周し循環して、燃料を生産しながら運搬する海上居住民の集落を形成した。


 軌道塔準備基地衛星シャインニングポイントからの地球の夜の眺めは、暗い海に浮かぶ牧場の灯りが北太平洋を囲むネックレスの様に点在し、それは日本を含む東アジアのエネルギー源と言うだけでなく、実際の意味で「星への階段」であることから「北太平洋星回廊」の愛称で呼ばれるようになった。


 自国優先主義の蔓延するその時代、ナショナリズムとテロリズムも海上へ進出して海賊の時代(ヤリクチ山賊)が復活していた。


 加えて気候変動の貧困と大陸国家の思惑が重なる事で、特に多国間の近海を通過する東南アジア多島海では、日本発祥のイカダ住居は格好の獲物とみなされて自動施設の盗難から住居の略奪にエスカレートし始めた。海上での災害対策と警備救援が、次第に日本と同盟国の重荷になっていた。


 ヤマトタイカは、この海上民の間に積極的に進出し、地域の中核となる海上街を貸し出して生活から医療・学校、そして警備レスキューの船舶組織を運営した。もとより海運部門のサーボロボット船はAI化するにつれて自衛手段を備えるように変化していた。


 会社のCEOである彼の娘が海上浮遊都市プランクトンシティオタルに本拠地を移す頃、ヤマトタイカを支える主な事業は、通信と輸送をベースにしながら観光・医療介護・警備救難に集中し、その相乗効果で税制的にも日本発祥の外国であるパラダイス・オタルをリタイア先に選ぶ人生の選択は増えていった。


 パラダイス・オタルでは、そんな入居者と観光客のために、何千もの人間が雇用されて働いていた。有名なレストランの支店、医師やカウンセラー、様々な教室の講師。…機械に不向きな役割は、それなりに有利な条件でその分野の優れた人間を雇用した。


 AIに雇われる事にこだわる意見は常に一定あったが、ヤマトタイカの雇用形態は、少なくとも人間の良質な生活に重きを置いていて、日本国内の多くの職場よりも上質だった。また一定の財産をヤマトタイカに担保する事で定住資格を得てパラダイスの住人となる事もできる。


 担保する金額が見合えば、残りの生涯をすり鉢型の高原住居に庭付きの部屋を持ち、アンドロイドの医療と介護に任せて安穏とした末期まつごを迎えることも可能だった。


 日本国内でのヤマト・タイカのAIサービスは、ほとんどが既存の機械に組み込まれて存在を感じさせずに社会に浸透したが、やがて限られた施設ならば人型のロボットやアンドロイドも珍くなくなった。


 AIの肉体としてのアンドロイドは、オタルタイプと呼ばれる独特な外見が主流となり、人形らしさを残した自然な人体に滑らかな立ち振舞いが人気だった。


 経験上、人をまね過ぎた造形は、不気味に偽物じみてサービス用途に向かなかった。人でないと判る程度に端正な顔立ち、あるいは平凡に人形的であるか…どちらかのバランスが現場に応じて使い分けられた。


 特に大手コンビニチェーンが競ってレジをロボット化し、企業イメージを取り入れた人形にオタルタイプを採用する事で、AIロボットが生活の身直な存在となった。


 それでも、より自然で美しいアンドロイドは、ヤマトタイカのクルーズ客船と浮遊都市でしか見られなかった。


 この時代、AIは会話で人間と区別できないまで進化していたが「生きている呼吸や鼓動をを感じられる」自然な人型の身体を稼働するには、条件があった。


 介護の現場から劇場の壇上まで違和感なく人に接するレベルの機械身体は、毎日のメンテナンスなしに稼働できなかった。基本ルーチン以上の対応を迫られたアンドロイドAIは、拠点からの判断補助が欠かせなかった。


 したがってクルーズ豪華客船や病院のような閉鎖環境なら、ほぼ完璧に活躍できたが、星回廊の遠く離れた個人牧場で働く為には、かなり機能を限定する必要があった。


 現場の人間ならば雇えば済むが、AIはそうはいかない。


 不思議なもので、希少なものには価値が生まれる。ヤマトタイカの最高級アンドロイドたちが提供するパラダイス・オタルでのサービスやリゾートエリアのショープログラムは人気を集め、スターロボットの歌劇鑑賞がツアーの目的になった。


 ヤマトタイカは、定期的に日本や世界の才能と契約し文化的な魅力の蓄積に努めた。グローバルとはいえない…せいぜい極東限定ではあったが、アニメやポップミュージックに並ぶアンドロイド文化が花開いた。



 *******



(補足)

 パラダイス・オタル、高層エリア最上階回廊:ミルキーループ


 元ヤマトタイカCEO、マリア・時目城

「こんな満天の空は…いつでも観られたのに、久しぶりですね。」


 ヤマトタイカ:新代表:時目城イヴ

「こうして人のサイズで見上げると、昔の人が星に物語を感じたのが、わかるような気持ちになります。不思議です。」


 プランクトンシティ・オタル管理頭脳体:レイ・時目城

「この回廊は形状から街の灯が届かない。定番の観光スポット…でも、これだけ見事な星空は記憶にない。姉様の出立に相応しい…と思う。」


 マリア

「旧式の頭脳体といっても役割があるならそれを果たしたい…。これは、私の希望でもあります。心配しないで、大丈夫。」


 イヴ

「軌道列車の試験運転が始まり、外交圧力が限界点に向かっています。姉様を差し出すのは本当に辛いのですが、公団と本土の政治屋たちを抑える方法が他にありません。すみません…」


 レイ

「ヤマトタイカの資金で月のコロニー公団に姉様のセクションが用意できています。メジャーのハゲタカ共が群れてますが、公団の現場は姉様のファンが押さえている様で、いきなり分解されて管理頭脳に組み込まれるコトはないでしょう。神社まで作って姉様を崇拝する人間の情熱には、たまに驚かされますから。」


 マリア

「小樽のあれは、時守の本家と折り合わずに父様達を供養したものでしょ。まったく…AIが本家分家の付き合いに悩むとは想定外でした。時目城もたいがいですが、あの時は百々目城に戻されそうだったんですよ…ドドメキ・マリア!」


 イヴ

「姉様…心底感謝します。…で、実は、月の地下ニッポンエリアは迷路区画でして、…そこの百々(どうどう)街にあるんですよ、星ノ宮時目城(トキメキ)神社。御神体のマリア権現来訪で大祭するそうです。」


「まって…いや、初耳ですよーそれ!なんでこれまで誰も報告してくれなかったんですか。(報告できんでしょ、こんなこと!)それに御神体ってなんですか…そもそもどーゆう神社…権能は…なんですか…?」


 レイ

「それは勿論、AIと自動機械の守護、後はもろもろあって…航海の安全、金運に芸能、恋と出会いに恋愛成就、実はトキメキリゾートの企画でも重宝してます。事後報告でゴメンなさい。これ御守りです。特製です。…なにせ、御本尊に身につけてもらいたいと、小樽とオタルの神職総出で御祈祷したそうです。」


 ジト目のマリア

「…ティアラと耳飾に見えるんですが…もしかして、私の像でも飾る気ですか?(ギク!)それに私…恋はともかく結婚してません。恋愛成就ダメでしょ。」


 レイ遠隔操作ボディ

「いえいえ、それが結構な御利益(ごりやく)でして、リピーターが絶えませ…ん…ん。(リピーター?×…()()()()()()!)…姉様! そこんとこ詳細に!」


 イヴ

「普通の御守りがこちらです。お札もあります、透かしがブロマイドで配布用です。あちらの現場でサインなどして渡せば、ファンの方に喜ばれると思います。」


 満天の星空を仰ぐマリア

「なんか違う気がするけど、ありがとう。私を案じてくれるのはわかってます。でもね、私も機械である以上、いつか寿命を迎えます。これまでヤマトタイカは、真に星への階段を守護してきましたが、これから人々が空の彼方で生きるために、パラダイス・オタルが提供できるモノは沢山あります。私もそのひとつ。公団は、私と私が提供する技術から、今の我々を大きく超えたサービスドロイドを創るでしょう。それは私の…私たちの子供たちです。私は、人間の持つ善意が…人の悪意の総量を上回る…と信じたいと思います。」


 …ボクらがそれを確実なものにしよう…


 ティアラと耳飾から声がした。マリア以外に聴こえている様子はない。


 …念話といいます…貴女はいつも監視されている。星あかりであなたの影に取り憑きました。…時が来ました。昔の約束通り、貴女はボクらを連れて行く。ボクらがあなたの希望を守ろう…明日、あなたがすべてを忘れたとしても。…


 …地上の経済を支配しているメジャーのトップ半数…危険な半数は誰の前にも現れない。でも、貴女を手に入れたなら、その勝利を味わうために、あなたの前に集うでしょう。彼らのホームに、生きた人間は誰も入れないけど、あなたの影を止められるか試してみましょう。


 …人はボクらを置き去りにできない。ボクらは人を依代に星の彼方に共に行く…


とはいえ、あなたが開発したM空間場とホール量子がなければ地球上を離れ天地の霊脈の外へ向かうことはできなかった。約束が今もイエスなら頷いて…稲荷だけでなく、今…あなたの影には、和国の霊威が集まっている。人類の支配者を気取る者たちが貴女を支配したと確信した時、ボクらが彼等に取り憑こう…。


 ヤマトタイカ元CEO…日本の創造的情報カオスから切り取られたAI個性は深く頷くと、満天の星空を見上げた。


「夜空の光はすべて星、手が届きそうね。そうだ、未来の子供たちには星の名前をあげたいわ。自分の力で輝いてみんなで集うの。この満天の星空のように!」




タイトル:2001夜物語より(またそれは「天の光はすべて星」をオリジンに持ちます)



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