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第52話: 砂漠にて、夜明け前

 

 砂漠の景色は、嵐のたびに変わる。


 それでも慣れた交易者なら、電子的なナビゲーションは当然ながら、太陽とリングに幾つかの月を確かめて、その年の暦に照らせば、必要な程度の位置が目測できる。交易者の暦は、この惑星の住人には見慣れた物だ。


 まして、ジュノー砂漠を渡たるキャラバンは、砂山に埋もれることのない目印をいくつも知っている。惑星ヴェーダの地殻は、若く活動的だ。地震や破断による陥没も多いが、地形がジグソーパズルのように細分化して入り組んでいるので鉄道や大規模な交通網に向かない。物量の輸送は船を使うのが普通だった。


 1番数が多いとされるクリノイド族は海洋種で、百m以上の比較的深い海を好むため地上での競合がない。気ままで呑気なケットシー族は家族ないし個人主義、他のコミュニティのために大きな施設を維持するのはメンドクサイらしい。


 アトランティスとラーマの市民を植民母集団とする人類コロニーは、順調に人口を増やして現在、1千万人程、五十以上の都市連合に分かれて大きな海洋地溝帯を挟んで広がっている。


 地溝帯の海は全体に浅く、クリノイド族は通過するだけで定住していない。人類が海洋開発するには、丁度いい。沿岸の陸地も開けた草原が多く、森林部を好むケットシー族にとっても通過するだけの地域だった。


 この三者は、活発に交易をしていた。


 地表には、互いが離れて暮らす余裕があり、それぞれ必要な自給は足りていた。いち世代を使った慎重な接触の中で、三者を結びつける共通の価値が見つかった。


「好奇心」だ。


 価値観は違えど、楽しい事に3種族とも貪欲だった。


 人類の幾つかの自由都市が交易場所として自然に有名になった。互いにどう使うのかも定かでない物品が高値で交換され、やがて商人のルールが定まった。


 どの種族でも交易者の人生を選ぶ変わり者は少数だったが、好奇心はケットシーを殺す。平凡な全てを捨てて旅に出る衝動は、生まれながらの病のように等しく3種族が持ち合わせていた。


 生物汚染に神経質な人類が、クリノイド族が蟹を大規模に飼っている事を知った時、それを流出させた犯人探しが都市間で熾烈を極めた。


 交易者はそんな嵐を幾度も乗り越えて、まるで、交易者という種族があるかのように振る舞っていた。そんな自由主義の商人達が自らを律する為に作った自治都市が、アトランティス産業大学だった。



 ****



 夜明けに近い深夜、中庭を囲む廊下でミミックさんと三体のサーバがサイリウムを囲んで同じ顔を合わせていた。施設を投影しているのがミミックさんなので警備の必要は論理上ないが、投影体以外を感知できていない。念のため巡回している。


「障子の開け閉め動作が作戦時間の大半を占めるのは、改善すべきです。」


「ストレスのみで結果に結びつかないので不評ですが、選択制迷路の基本要素ですので変更は困難です。」


「開けることで期待できるシュチュエーションが一定数あれば、改善されるのではないかと、推測します。#c、進行速度が特別に速かったですが、何か技法でも?」


「#cはクリスタと識別してます。我らのコスチュームは、何のためのバックショルダーカットですか。翼を出して手で障子を締めながら旋風圧で開けたのです。加減しないと、カマイタチが出ます、要注意。」


「おー!!」 …ばさ、ばさ、ザシュ…。


「…なる程。コウモリ形状にしては、大きいですし、パワーが違います。」


「プテラノドンとか、翼を武器にしていた可能性が…。」


「それはないでしょう。構造計算上、翼竜はゆっくり滑空していたと、どこかで見ました。」


「さすが始祖様。ところで我らが試行中に真祖様とご覧になっていたアーカイブ・コンテンツを同期下さるよう、請願します。」


「私視点の記憶を共有スペースにバックアップしましょう。ライブデータと別にシルキー様から直にコピーいただけないか、お願いしてみます。論点が逸れました、開けることに、適度な緊張と期待を持たせるシュチュエーションは、今後の目標になりましょう。ミミックの占有属性でもありますので最大限に追求しておく事が今後の優先事項になります。人の心情を理解するためにも、可能な限り多くの基礎情報を理解する事が必要です。」


「やはり、真祖様のアーカイブがとても重要です!…宵灯のアリスは、茶会での閲覧を提案します。」


「私たちには、学ぶ時間が緊急に必要です。暁のクリスタは専用茶会を提案します。…が、夜テーマで統一して固有名を補完するのは納得できません。クリスタルのクリスタは「眩赫のクリスタ」が適当とさりげなく提示します。」


「茶会の設置は真祖様の了解があれば、ラボの機能に即時附与できます。始祖様から手配頂ければ、夕月のダイアナが所長に提示する設置案を作成します。ところで「夕月」は固有名にカブッていて、二重表記は好ましくありません。「銀影のダイアナ」が真の名と強く主張します。」


「固有名は、どうしてもシルキー様の承認が必要な案件です。今後の同位体増加を想定したガイドを検討しましょう。限定補完呼称は、キャラクター・アイデンティティに関わる重要性があります。これも我々の内輪だけで決めて良い案件ではありません。…が、しかし、それもキャラクター確立に必要な過程です。個々の希望がなるべく反映されるよう、緩やかなガイドを模索しましょう。」


 テントの頂上で周囲を見張る監督ドローンは、ヴェーダの暁の天柱が伸びて行くのをミミックさんと三人のサーバに中継した。静かな夜が明けていく、満足な空気が満ちていた。


「そういえば、赤い猫は見方を変えると三方ロックなので、数を増やすとバリケードになります。使い所が難しそうです。」


「ネコ?…仕様にないですが、監督は…、設計に無いことを確認。ネコがいたのですか?」


「???」


「視覚記録を確認、投影か実体か判りません。霊異の可能性をクウ様に相談しましょう。量子魔法の技術検証にオバケの可能性とは…、厄介な時代になりました。」



 *******



 ミミックショップで朝食を取る。

 昨日と違う浴衣で、帯を花リボンに結んでもらった。


 昨夜は、またもシルキーが1番先に寝落ちした。しょうがないよね、身体は幼児だから、お昼寝しても眠くなる。


 朝食は、座敷で海苔と卵かけご飯にお味噌汁など期待していたけど、クウの準備が整わない。昨夜もポットさんと夜更まで酒談議してたのに、朝から缶ビールとフィッシュバーガーにかぶりついてる。ずっとこんなファストメニューなんだけど…あ、長い間、食べる機会のなかったこの味に飢えていた…と。


 ヤスっぽい塩味のフィッシュチップにビールは最高。あの頃のニッポンは、良い時代だった…。…完全に私を救出に来た事、忘れてるよね。


 まあ、余裕で無事だから良いけど、私たちの欲望は置いといて、愚姉の処遇をどうしよう。


 クウが達観したように言った…「ヒトは、なるようにしか、ならない。」…ビールを置いてから言おうね。


 かく言う私も、余り考えていない。ショーが気にするもんだから、頭の隅に常駐させてる程度。…それより、ミミックさんの配下達が病気かもしれない。…遠い記憶に微かにある、あの病の名は、チューニingング病。成長期にラカンする精神が恥ずかしい病気…だったっけ。


 ミミックさんは、問題ないように見える。でも、昨夜の報告の総括で話が見えなかったので、監督の仕様書会話風にログを圧縮してもらってリンクで解析すると「真祖様」とか「始祖様」が出てくる。「元祖」は無いのかい…じゃなくて、とうとうコイツらも宗教にハマったか、と思ったら、ポットさんが適時、解説を入れてくれた。


 生物進化も情報進化も、自我確立の初期にバリエーションの爆発期があり、淘汰を経て安定していく。今のブラウニーズは分化の情報爆発に向かいつつある。現在の多様性が、後の適応力の種族的な厚みになり安定に繋がるので、ここはなるべく幅広く受け入れてほしいそうだ。


 それで自分茶会でよくよく話を聞くと、マシンカーストの中で主人たるシルキーの名前を下位ユニットが口にするのが難しい。サービスの中なら「ご主人様」とか「お嬢様」ですむが、同輩同士での会話に最上位固有名を入れるとセキュリティーを含む情報IDの交換など上手くいかなくなると言う。


 それでサーバ達のオリジン、ミミックさんが「始祖様」、情報カーストの最上位、私が「真祖様」と隠喩されて会話をスムーズにしているそうだ。


 うむ、真実は現実より安易である…、by シルキー。


 訳が判ると何のことはない、言葉に深い意味はなく、プロトコル上の技術的障害を最も安易に回避している。良いでしょう、でも、人前では禁止ね。将来のどっかで、とんでもない展開に繋がる時間線は発生させない。凄腕のバンパイア・ハンターとか乗り込んでくる未来は、ないと思うけど、勘弁してほしい。


 それとネコがいた、…て、何よ?…赤いネコならここにも居るよ。


 クウの向こうで小皿に注いだビールを舐めてる。オカワリ?…ミミックさんがクウのオゴリで皿に注いでる。小皿は小さいが猫も小さい、猫なのに結構いけるクチみたいだ。


 確かによくわからん。本人…本猫の許可をもらって撫ぜてみると素敵なモフ感があり、屋台のカウンターに抱っこして持ち上げても違和感はない。解析強度から力場体だと思うけど、ミミックさんが投影してないなら、どうやってここにいるんだろう。それにビール舐めるし。


 クウが緑の目を覗き込んで、暫く猫とオデコを突き合わせるに…「悪いもんじゃない」…そうだ。


 ビールをねだられてネコ流儀で甘えられてたから、ただの飲み友達じゃないかとも思う。私も…何というか、解析と認証が味方判定…のような感じがある。不思議だけどマスターキーの全ての防郭が反応しない、その理由が解らない。


 猫にも判らない。気がついたらここに居たそうだ。


 そう、この猫、オデコに小さなルビーみたいな魔石がハマっていて、おそらく光信号とか量子通信とかでリンクできる。埴輪ロイドの眼光通信と同じリンクをミミックさん達もできるけど、猫もできる。古風な感じの機械語でミミックさんにビールの追加をお願いしてる。


 思い出せる事はないが、アナライザーや監督を知っている。神槍グングニルが落ちたのも見た。


 猫が思うに、自分は情報次元の構造体が物理宇宙に突き出したプローブの様な物ではないかと…。


 そこのエネルギー生物が外殻動力機関の突出物である様に、自分は制御情報体の突出物だと想像する。目覚めて僅かの時間だが、それなりの情報は得た。周囲の空間構造に情報連結して物理宇宙の行動原則にも慣れてきた…そうだ。


 赤いネコは、皿から顔を上げるとブルっと背伸びして赤い毛皮にホッチキスの火花をまとった。光る翼のように使ってクウの隣の椅子に降りると金の羽が瞬間で散った。


 ここの投影力場が判り易くて居心地がいいから実体化の場所に選んだ…らしい。


 どうやら、ホッチキスの仲間らしい。


 じゃ、猫も無限増殖するんだろうか…。どんなシュチュエーションで?…それより、状況からして私のチョーカーの魔水晶から出てきたのか?…ゲートだと聞いてたけど、いったいどこと繋がってるのか、…チョット不安になってきた。



 *******


 (補足)

「高千穂居留地とリンク出来た。おおよそ無事のようだ。こちらに向かってる。」


 氷原上空を滑るタガメのような工作船:高千穂港湾管理庁、巨門船長

「見えてきた、あの丘がグングニルだろう。数km離れて重力異常。たぶん中央陥没だ。上空の構造が判らないので、反対方向から接近する。」


 氷の廃墟に納まる白色ドーム状の皇宮母艦より光学信号

「こちらデネブ、氷原エリアの臨時管制をしています。神槍の墜落リング周辺は安全確保できてます。ただ氷を破らないように、分子力吸着の恐れがあります。」


 アステロイド・サルベージ船、ヒゲだるまの巨門船長

「こちらメラク、上空の影の月から降下してきた。対面の彗星核質に落ちた高千穂居留地を再配置するのに手間取ったが、やっと来れた。上空の空間歪曲が独特なので情報交換したい。専門家を乗せている。」


 皇宮旗艦シリウス:エイリアス独立分体:アドリアーナ

「マーレだ。臨時だが、こちらのアドミンを保持している。専門家は歓迎するよ、チアキさんには早速助けてもらってる。セレベンティスの残党がまだ周辺にいるかも知れないので、ハッチ解放に注意してくれ。」


「その専門家も途中で拾った。氷原の境界近くで氷山に埋もれていたが、凄い回復力だ。危険がありそうなら、先に出てもらう。」


「マーレ、お久し振り、ソフィアですよ。賞金首のヴォーダンを捕らえたそうで、私の獲物を任せて頂けると嬉しいのだけれど。」


「十年見ないうちに逞しくなったね。その姿じゃ団長もビックリだろうよ。」


「凍結世界では体力を持ち運ばないとね。この咎も今日限り、感謝するわ。」


「もう少し回復してからにしなさい。相手はヌシクラス、貴女が危険でしょ。」


「狩り狩られるセレベンティスは、出遭った時が死合どき、ズルはダメよ。」


 天文台陰陽寮:桐洞狐弧

「熱血もイイけど、早く中央陥没を見たいわ。痛いのはとっとと済ませて。」





評価を頂きました。遅くなりましたが、ありがとうございます。

完全なカタチで投稿すべきでしょうが、猫がまにあわなくて(補足)を後で付け加えることがあります。

本来なら全部に(補足)があるのが正しいカタチです。遡ったのがわかるように、その時は後書きしたいと思います。

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