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第4話: コロニー船団の航跡

 

 少し暖かい一日だったので、おじいさんとヨーゼフがテーブルを小屋の前に出してバーベキューをした。


 丸い平たい黒い石が暖炉と同じく熱くなり、小さな鉄板と網で、ソーセージみたいな何かの肉やお餅を焼く。少しのホウレン草はともかく、堅いパンにお餅を挟むのはどうなんだ。


 カラシ抜きをヨーゼフがうんと小さく切ってくれたので、食べることができた。バターとチーズっぽいペーストが絡めてある。炎や煙はどこにも無い。膨らむお餅を見ていると、


「ケーキは嫌いか。」


 おじいさんの視線から、お餅のことらしいと思い当たり、首を振った。


「パンより好き、ケーキでもご飯でも好き。」


 ヨーゼフが先に反応した。


「ケーキとライスが同じものと、良くわかりましたね。ホントは少し違うのですけど。ニューヨークコロニーでは、良く食べられたのですよ。」


 面積当たりの収量に優れ連作障害のない米は、居住区周辺の水性緑地でたくさん栽培して、工場でできる小麦よりも馴染み深いと言う。


 おじいさんはコロニー時代を知ってるそうで、思い出話が終わると、顔を覗き込んできた。近いよ、ナマハゲプレッシャーが。


「ワシはサムと呼ばれておる、サム・アマルフィ。少年は、名前が言えるか。」


 ヨーゼフのおかげで、椅子から転げ落ちずに済んだ。ビックリ顔で呟く言葉から、とりあえず名前は「ショー」になった。


 なんでもコロニー「ニューヨーク」は前期最強の移民船団で、だいたい長さ10キロ、直径3キロメートルの円筒が2本対になっている。このコーン同士を互いに電磁力で回転して重力と推進力を発生する閉鎖環境コロニー船だったそうだ。


 ******


 山小屋に、本は数冊しか無かった。


 壁の棚によじ登って取ろうとすると、やって来たヨーゼフにそっと止められた。


 自分が考える本と違うらしい。古びた硬そうなカバーで、おじいさんの大切な物なのか、勝手に見てはいけないらしい。(一つはBible、あと一つに自由の女神の意匠が見えた)


 そのかわりヨーゼフは、聞かれたことは何でも詳しく答えてくれた。

 ショーには難しいからと言いながらも、真剣に聞いて先を促せば、何でも話してくれた。


 ********


 旧世界の第一太陽系で、公団が建造して分譲したコロニータイプ調査移民船の推進機関は、全て、水質量を推力媒体に使うMMドライブ。


 円筒状の居住区大コーン。幾つかに分かれた区画の両端は緩やかなカーブを描いていて、その壁内を遠心重力で下流する数百万トンの水質量がコロニー全体を一次推進する。外郭を流れる間にM量子場で偏向しつつ、再び螺旋シャフトの回転力でコロニーを二次推進しながら、大コーン中心部の低重力エリアに還流する。


 大コーンの回転角運動から受け取った流水の運動質量を、タイミングをずらす事で、スピン軸に垂直な任意の方向の推進力に変換している。


 コロニー内を循環する水流の見た目から「水力宇宙船」「永久駆動機関」なんて言われた頃もあったらしいが、原理は量子空間工学初期の発明で、信頼性が高い。


 推進のための質量を使い捨てないので、MMドライブは、水と核融合電力がある限り電磁リニアモーターでコロニーのコーンを対回転して、宇宙空間を加速し続ける事ができる。


 しかし、たとえイオン電磁界と氷殻テーブルのシールドがあると言っても、コロニー船は、宇宙的には風船並みに脆い建造物なので、小隕石程度の浮遊物でさえ星間速度でぶつかれば大破しかねない。


 これで百年以上の航行とか、確率的にもかなりヤバイはずだが、巨大な質量の構造物を何十年も継続して推進できる駆動装置は、コロニーMMドライブ以外に、当時の旧世界には無かった。


 実際、ニューヨーク船団は「マンハッタン」「ミシガン」の2隻で太陽系外縁のオールト氷殻艤装基地を旅立ったが、トーラス星団に到着したのは「ニューヨーク」1隻だったそうだ。


 ******


 コロニー建設公団が策定した外宇宙調査開発計画における当初の目的星系、プロキシマ星域を、先行したユーラシア船団ABが実効支配した。


 調査船団レベルで、これほど大規模に星系支配を試みる事を想定していなかった第一次資本企業連合船団は、星系侵入と同時に全く唐突に占拠された。

 続く第二次企業船団は二次目標のα星域にコース変更したが果たさず、プロキシマ哨戒線でいずれかのユーラシア船団に鹵獲された。


 ABユーラシアは、互いに牽制し合いながら自律増殖機械の防衛線を展開して、資源領有を既定していると見られている。後続のコロニーを植民支配の資源と見て待ち構えている可能性が高い。


 公団は出資比率で建造船の指揮権を出資者に順次分配するが、コロニー船は、その規模から出資者は国家である事が多かった。

 ABグループは星系を実効支配するという出資国家の密命があったのか、太陽系外縁の最終艤装基地、いわゆる氷殻基地から、企業船団を置き去りにして強硬に出航した。そのため艤装期間が短かかった。


 設備は自律機械のマザーマシン積込みがほとんどで、人間乗員は、領有を宣言するのに必要な最小限しか乗船出来ていないと思われる。


 後続のコロニー船を鹵獲したのが自律機械である以上、生命に危険が及ぶプログラムは国際的にも許されていないので、資本企業の市民は植民地資源としての管理下で、当面は無事のはずだ。


 だが、潤沢な星系資源を使って自律的に強化されていく自動機械の哨戒線に、鈍重なコロニー船が接近するのは自殺行為でしかない。孤立無援の外宇宙で、既に鹵獲されたコロニーを救助できる可能性は、ほぼ無かった。


 企業船団のアラートが後続の移民船にリレーされたものの、目標星系へ航行する船団は悩んだ。消耗と困難を承知で太陽系に戻るには、減速を止めてスイングバイ軌道をとる必要がある。予測された軌道で星系に侵入すれば、待ち伏せは容易だ。


 前後して、唐突に事態が動いた。


 船団を繋ぐか細いリレー通信に、旅を続けていたある自律探査機が、圧倒的に有望なヘキサゴン星団と仮称された新天地を発見したとの報告が流れた。


 ある船団が、偶然に探査機のレポートを受信して、高速飛行する連絡ポッドの回収にも成功した。既に、無人探査機の電波シグナルは地球まで届かないため、そのエッダ船団と続くバビロン以外には、この不思議な天体の発見は、伝わっていなかった。


 ユーラシアグループも、シグナルを受信している可能性はあるが、エッダ船団がポッドを確保したので、探査機の本体からの微弱な信号以外は、得られていないはずだ。しかも、星団は濃密な星間物質を周囲に纏っており、距離に比して見かけの等級光度が極端に暗い。


 殆ど観測できない星団の発見は、信憑性すら疑われたが、エッダとバビロンの船団間の距離を使った詳細な重力波の調査で、確かな大質量の領域が確定し、同時に航路計算が可能となった。


 常識で自然に存在するとは考えにくい天体の姿に、エッダとバビロンでは、乗客AI共に大論争となった。


 バビロンでは、各船体コアのマスターキーと市民議会が協議して、資源・食糧の配分、冬眠者の割合など 全スケジュールを航行コア・デルフィに諮り、目標の変更と50年を越える航海の延長を決めた。


 航海中に、冬眠者を含む全ての乗客投票による意思決定が行われたのは、ブルーエスト船団をバビロンにテーマを変更した時と、この時の二回だけだった。


 この頃、量子通信が後続のコロニー船団で実用化されていたが、人間の少ない先行船団は、出港時の技術水準に止まらざるをえなかった。


 バビロン評議会の中枢、総長と6人の評議員からなる内輪は、目標変更を促すのに必要な最小の情報を、量子通信で後続のコロニー船団にリレーした。


 ********


 星系封鎖で太陽系に帰還の決断を迫られた「ニューヨーク」は、有望な新世界の情報を得ると短い議論の末に、ヘキサゴン星団へと進路を取った。


 しかし、それはコロニー建造時の想定である60年を遥かに越えて、180年の航海に耐える結果となった。


 ニューヨーク船団は、事故と資源不足から船体を食い潰し、外宇宙のただ中で、動力飛行のために、無事な構造物を継ぎ合わせる大改造に踏み切った。


 必要に迫られたニューヨークは、空間力場の工学技術を幅広く開発していた。


 ひと回り大きなミシガンのコーンの中にマンハッタンの無事なコーンを入れ込み、二重コーンの内郭と外殻を逆回転して重力と推力を得る単胴コロニー船「ニューヨーク」1隻を、孤立のなかで再建したのだ。


 二十万を超える住人と共に、新世界へ軌道合流のために。


 *********


 最初にヘキサゴン領域の重力圏に到達し調査・採掘に入ったエッダ船団2隻は、まず、探査機を回収してシグナルを停止した。


 星団中央の不可解な暗黒領域を共通の重力中心にして、等間隔で配置された6つの太陽と数十を数える惑星、その間を高速度で周回する濃密で広大なガスや氷のトーラス宇宙気流。エッダは、この星系群をトーラス星団と命名した。


 一年後、続いて合流したバビロンは、コロニー船としては圧倒的な工業力を持ち、短期間で太陽系航路の終点起点となる氷殻艤装基地を星団のカイパー外縁域に設けた。


 エッダ船団は、市民の多くを氷殻基地のバビロンに託して船団を解散した。


 神槍(グングニル)はトーラス宇宙気流と6星系の詳細なフライバイ探査に、大樹(ユグドラシル)は、濃密なカイパー帯で採掘した持てる限りの資源と共に航路を逆行し、核融合燃料水や氷殻を失い減速推力が足りない、または自力航行困難なコロニー船の補給に向かった。


 恒星間外宇宙とはいえ各船団の位置は計算で求められ、十分に実用的な量子通信ネットワークでの交流があったので、具体的な状況は共有されていた。


 相対速度が交差する進路での、速やかな連続補給はコロニー船には大変な難題だったが、大樹の操船技術は良くこれを乗り越えて「ニューヨーク」は最後に補給を受けた。大樹の船殻や機関の一部を借りながらも、自らのコロニーでトーラス星団の重力圏へ最後に合流した。


 トーラス新世界に到達を果した七船団の中の最後の船「ニューヨーク」は、最も長い航海に耐えた不屈のコロニーだった。


「ニューヨーク」はGLパニック前の建造で、食糧紛争後に再建された建設公団の移民船コロニーの設計よりずっと小さかったらしい。


 ******


(補足)

 新世界に到着おめでとう。:トーラス星団外縁、氷殻基地との入港通信


 ニューヨーク市長:アマルフィ

「全市民が無事に到着できました。大樹の奇跡の操船と支援に感謝を致します」


 大樹(ユグドラシル)AI:オベロン船長

「神槍と行動を共にした百年に比べたらまったくの平穏です。ご存知か、あの火事頭は星間速度のコロニーシップでアステロイド溜まりを抜けた事がある。」


 神槍(グングニル)AI:フレイア船長

「突然だったんだ!小さくて値域圏外から近接検知だよ。そのキザ男は、そん時、無警告の軌道変更を船間連絡ケーブルを切らずにトレースした変態野郎だよ!」


 マスターキー:ブリュンヒルデ

「…あの操船で…爆砕した氷殻テーブルの8.5%が回収不可能。それに、転んで骨折した市民が五人もでた……船長には、やはりお仕置きが必要………」


 マスターキー:タイタニア

「まあまあ、あの時、市民の皆様には私がキッチリと謝っておきましたし、皆さんよ〜く分かって下さいましたョ。」


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