第46話: コフィン・カフェ、60時間
シルキーと仲間たちは、真っ暗な一畳程の空間にサイリュウム照明を数個置いてお茶を楽しんでいた。この程度の容積なら、カプセルの空調で十分新鮮な空気を供給できる。
もちろん実際にお茶を飲んでるのはシルキーだけだけど、皆んなで小さな黄色い照明を囲むのってなんか楽しい。状況が把握されたので、心の余裕を保つためにひと息ついている。カプセルの外で手足を伸ばしたかったからね。
厚手のピクニックシートの上に、ピンクな何かのキャラクタークッションをいくつも並べて、真ん中にお茶とお菓子、オニギリもあるけど、今はどうしよう。
ちなみに倉庫は上に広く、台形の底に居るので壁に持たれても楽チンだ。大人なら天井に頭がつかえるかもしれないけど、ここに居るメンバーなら、普通に余裕がある。
魔王城のオペレーターさんが魔水晶経由の量子通信で航路予測を教えてくれたので、行き先も大体の到着時刻もわかっている。太陽をかすめる近日点で強敵とぶつかるらしい。
という訳で、最低でも60時間の密室の旅を強制的に楽しむことになる。
途中、スリリングなアトラクション付き。追加料金払ってでも、やめていただきたいが…どっちもや(殺)る気満々らしい。もっとも旅行代まだ、払ってないし…高いモノにならなきゃいいけど。
そこで、元から倉庫を塞いでたレーションや水のパック、場所を取って邪魔なトランク、なんかの機械を一応解析しながらライブラリにぶち込んで場所を開けると、ミミックさんが壁面にピッタリ合う防護壁を空間投影して、その中にいる。
重力機関のすぐ側、高速飛行中の押入れでの物質変換は若干不安だったが、過疎空間場が歪む事もなかった。下着やらが入ってる軍用バッグだけは、武士の情けで、出入りハッチの踏み段に避けておいた。なかなか高級そうな大人のアメニティが入ってたしね。
こんな押入れだからお店は出さないけど、デカイおむすび型のテントをハッチ下に、踏み段を塞ぐ形で出してある。もっとも障壁を壁ピッタリに展開してるから、ハッチを開けるのは難しいと思うよ。力場展開はミミックさんだけど、パワーは、私のグングニルの魔水晶だからね。
オムスビテントは、簡易バストイレだ。シャワー水は錬成だけど、テント下部のタンク台座は、汚水でも何でも分子オルガンの逆工程でホール粒子に変換してしまう優れ物だ。ホール粒子なら、ペラペラの空間素子コンデンサに電池みたいに溜め込めるし、魔力変換、電気変換とか使い道に困らないので貯めておく。
そして、ひと休みしてる訳。
それに、魔王城オペレーターさんから、逐一状況を教えてもらえる。距離を置いてショーの関係者が追跡してるそうで、オペレーターさんの音声通話でも管制座標コードを読み上げて貰えば軌道図に投影ができる、でも投影すると狭くなる。
だから、自分会議室に連結してもらって、そこの星系図を天井に一応投影しておいた。ミミックさんが大活躍だ。できれば、専用魔水晶を見つけてあげたいところだね。
コン、コン…、
狭い倉庫に遠慮がちなノックが響く。ハッチと反対側…奥のような…。
…コンコン。コーン。
ノックと言うより鳴声?…。監督ドローンの背後の闇に、サイリウムの薄明かりで下から照らされた「狐の面」が浮かんでいた。
…ギ…
「?…ギ…」 狐の面
…ギィヤャャーー!!、… by シルキー!
「ギャー!、…!て、うるさいよ」 狐の面が喋った。
狐の面がクルリと横を向くと、お祭りみたいに面を頭の横につけた子供がいた。
第一印象は、目が細い…。日本人顔だよね。久しぶりに見ると、平べったいな。
「悪かったね、糸目でさ。目は良いんだよ。」 なんか、ガラの悪い喋り方だ。
子供がむくれた。私の心の声が、キッチリ届いてるっぽい。
「念話で叫ぶなっての、西洋オバケさん。とりあえず名乗るよ。ボクはクウ、一応、蓬萊仙て名乗ってるけど、ホントは仙じゃなくて童子だけどね。高千穂の使いでアンタを迎えに来て…、どぉなってるのよ。ビームの影から飛んだら、コレに連れ込まれるトコで。慌てて取り憑いたものの、落ち着くまでと思ってるうちに、出そびれてたのよ。」
念話…、なんてやってたっけ? それと、西洋オバケ…って、わたしたちのことかしらねぇ。
「公園のバンシー子供って、アンタだろ。こんな棺桶の中でクモとコウモリ相手にお茶してるって、どう見ても、墓場系の怪異でしょー。属性が幼女人形だし。」
ガーン!…狐のお化けにオバケって言われた。
***( 閑話休題 )***
クウは、なんとなく巫女服っぽいジンベエを着て、体相応の小さな一本歯の下駄を履いてる。チョット大きいと言っても女子で子供背丈なので、1人増えてもスペース的には全然大丈夫。
それより、ミミックさんの防護壁の中にどうやって入ってきたのよ。
「取り憑いたって、言ったろ。最初から居たよ。」
そう言うことらしい。監督がズレて、クウは、あぐらで輪に入る。おにぎりを取ると迷わずラップを外してかぶりついた。
海苔が二重のラップなんだけど、コンビニおにぎり、初めてじゃないよね。
「うん、懐かしいね。コロニーのライフショップじゃ、パッケージとバーがライスの仕様だったから、何百年ぶり。カラダは覚えてるもんだね。このペットボトルのお茶にも見覚えがあるよ。霊異船団を立ち上げた当時、地元で流行ってた感じだ。」
追い出すわけにもいかないので、追加のオヤツを出した。クウは、それも知っていた。
「そう言うわけで、依頼を受けた。報酬も貰ってるのでボクは、キミの安全な回収努力をしなくちゃいけない。この分じゃ、あんまり役に立てないかも知れないけど、旅は道連れとも言うしね。邪魔には、…なるべくならんよ。」
クウは、狭い周囲を見回して、天井の星系図を眺めながら言った。
うん、ショーのお願いが回り回って、キツネが来た。チョット嬉しい、ムゲにはすまい…スマイル、ゼロ円。
「西洋オバケの念話は、よく解らんけど、OK?…ダメでも影に隠れてるけど。」
どうせ、暇だからお互い眠くなるまで語り合った。結構、いいキツネだ。
共通の思い出会話ができるって、最強じゃない。パジャマパーティーみたいになってきた…実際には知らんけど。投影画面でAI翔太がため込んだ深夜配信アーカイブを見ながら寝落ちした。「この紋所がめにはいらぬかー!…スースー。」
********
寝ている間に危機は過ぎていた。
ミミックさんの防護場は、強力で重力衝撃にも、ビクともしていない。金の針が激しく自己主張している。ピクピク。
どうやら、危なかったらしい。太陽に落ちるところを増殖してバリアシールドを空間断層で強化したそうだ。
この金の針、元々、恒星表面など高エネルギー環境で増殖するエネルギー生物らしく、ビームやフレアは、こいつの餌。宇宙船に寄生して…ゴメン、共生してるのが正しい生態、だと主張している。
どうやら、ファミリーの一員だと主張しているらしい。仕方ない。金の針じゃ呼びにくい、何か名前を考えよう。…ピクピク…。同意しているらしい。
…グングニルなら、ラインの黄金…とかあるけど、コイツに合わないよね。とりあえず、ホッチキスと呼ぼう、最初にホッチキスの針みたいって思ったし、現在、このステープラー文具は、絶滅してるっぽい。…ピ…、…あ、動きが止まった。気のせいか、衝撃を受けてるみたい。でも、お前はホッチキス! 決定です。
ホッチキスがおとなしくなったところで、昨日の続きをクウと盛り上がる。
クウは、テントでシャワーを浴びて、どこに持っていたのかラフなTシャツになっている。おう、フンドシ仲間だった。私のは断じて、オムツではありません。
「実は、ボクも地元でコンビニやってたのよね。」
時間があるので、適当な食材並べて話を続けた。
クウは、なんと徳川家康さんと同期だそうだ。…何、それ。
つまり、この子は、戦国時代の生まれで、鉄砲がたくさん使われた戦場で通りかかった仙人に拾われた赤児だそうだ。武田は、村を構わず焼き討ちするので、たまに逃げ遅れる村人が出る。仙人には仙骨とか言って、大地の気脈を取り込む能力が備わっているのが必須だけど、たまたま、その才能が備わっていたらしい。
仙人には身の回りをお世話する童子がつきもので、当時、まだ人間ぽい庵を営んでた仙人が、山寺に赤児を預けて弟子兼童子にする予定だったらしい。
でも仙人は、良い親とは言えなかったようで、クウはグレた。
ちなみに、童子と言っても鬼じゃないと釘を刺された。
戦国時代の終わり頃、グレまくって仙人の爺さんに街の大きな寺に修行に出された。それがお稲荷さん。稲荷は稲荷でもウカ様じゃなくてダキニ様の所。ドクロ背負った元祖レディース総長(イメージ)の姉御で、当時は白拍子スタイルだったけど、ドクロ背負って霊狐で爆走してた。クウは、とっても馴染んだ。
この狐の面と宝珠は、そこで頑張って身につけた稲荷の加護だ。具体的には、一種の共用ライブラリーと錬成装置…ぽい何か。如意宝珠の原理なんてマスターキーのデータベースにあるわきゃない。…でもないかも…。
やがて太平の世が来ると、これを使って、仙人爺さんともお稲荷さんとも、何となく掛け持ちで便利茶屋と言うか、まいもん屋を山奥の街道で開いていたそうだ。
当時そこは、山中でも大きな街道の抜け道で、秋葉とか寺社めぐりの交通があって、稲荷はもともと地霊便利屋組織、物流もやってる。竜宮の龍脈に繋がる配送倉庫も近くて、江戸時代の半ばから、人妖怪異が時に応じてやって来るコンビニ状態だったそうだ。
こんな所で、リアル日本昔話を聞かされるとは思わなかった。
クウは、個人用宝珠とやらで、いくつかオヤツを錬成してくれた。大昔の甘味じゃなくて、フワフワ生地にクリームを包んだケーキ菓子。定番の人気商品らしい。
ただ、1番の定番商品は、酒らしい。興味ないので、そこはスルー。
それと、徳川家康さんと同期?…地元の東照宮から時々江戸や日光にお使いを頼まれて知り合い、だそうだ。でも天満宮もそうだが、霊威としては自然発生でなく人の関心に左右される。地脈龍脈の基盤が弱いので、今も霊異として意味消失していないかは、分からないそうだ。
ちなみに、構造線上の河川にある竜宮配送センターの倉庫番をしていた白龍がチアキといって、一緒に来ていたらしい。そちらは、公園にたどり着いているはず。でも、埴輪ロイド達は、見ていない。
公園は、今えらいことになってるらしい。
時間停止したり、ホッチキスが大増殖してコロニーを飲み込むほどの次元断層を発生したり、エイリアス母艦のドックに入ったは良いが、半空間と思しき特殊な空間の氷原に不時着したり…してる。
マーレさんが、監督達を率いて、エイリアス母艦にもビシビシ指示を出してるので大丈夫だろう。
あ、母艦のデネブさんが見つけた。流石六次元コンピュータ、氷原に墜落して月桂冠みたいな円形廃墟を作ってる旧神槍を解析して、張り付いてる白龍が見えている。公園の会議室経由でマーレさんに、仮シルキー達が説明してくれる。マーレ母さんは、日本昔話を知らないだろうから、飲み込むのにチョット苦労するかもね。
さて、拐われるのは、姫の証明みたいなモンだ。経歴ステイタスになるかも。
でも、拐ったのが元姫ってどうなのよ。おまけに、たぶん私のカラダが目当。
カラダもそのまんま、自分のお肉として奪おうという猟奇拗らせ女だ。こっちの方が、オバケよりなんぼか怖い。重力機関が分解しそうに振動してるようだし、真剣に対策を考えますかね。
ナントカナは、幾度か船倉を開けようとして、諦めた。ハッチの隙間から監督が覗き見るに、そのまま仮眠して、エンジンを宥めながら、戦艦が残した飛行隊をやり過ごしたようだ。60時間の作戦行動は、ワルキューレ戦士でも辛そうだ。
もしかして、私が1番楽してる?
…そんな事ないよ。これからベラトリックスの冒険(幼女版)を、実際に体験しなくちゃならないのだから。
幸い、信頼できる仲間が一緒だ。
角さん助さんにヤヒチまで合流した。ヴェーダ到着まで残りの時間を、英気を養って乗り切ろうじゃないか。あ、ホッチキスは、印籠役でOK?
……………
(補足)
迷い家茶屋:コフィンカフェ、店主二人の会話
蓬萊仙クウ
「お店を持ち運べると良いけど、ボクの宝珠じゃムリ、投影は正解だね。」
シルキー・ブラウニー
魔力なら貸そうか、クウのお店に興味がある…味噌とか醤油とか…欲しい
クウ
「それなら北斗や高千穂で普通に買えるよ。…その前に、料理できるの?」
シルキー
たぶん…ミミックさんができる、覚える…クウは、絶対できそだね。和食。
「そんなこったろと思ったよ。本当に調理場が出せるなら食べさせてあげるよ。それくらいの材料は、宝珠で持ってる。」
宝珠って魔力でないなら、どうやって錬成してるのさ。ルールがよく分からない
「量子魔法と違うのは情報次元の貸借さ。ボクに今風の説明は難しいな、いつか天文台にでも聞いてくれるかい。…如意宝珠がやってるのは、物でもカネでも今すぐに必要なものを近い将来から借りてきてるという事。昨夜食べたケーキは、1年以内の未来のどこかで食べるはずだったケーキの一部を先に食べたのさ。」
…おっと、私食べちゃったけど、…未来で食べ損なうということ?
「チョット違う。可能性としてボクが4つ買える時に2個しか残らない。その時に8個買えたなら誤差の範囲という事。宝珠は、将来の成功を今助けるための道具で、実は希望を叶えてるわけじゃない。誰でも現実で即救済が稲荷の如意宝珠の権能なんだけど、実は本人次第なんだよね。ダメな人はダメに見合った救済になっちゃう。結構シビアなんだよ。」
そんな宝珠でお店やって、大丈夫なの…、なんかクレジットみたいな感じだけど
「大丈夫、宝珠は本人に見合った奇跡しか起こせんから、頑張ってもできない事を実現したりしない。相手の「残高」が自然に分かるのさ…。で、実はアンタの「残高」が分からないんだけど…無制限って事はないだろけど、こんなの初めてだ。」
ほー、たぶんショー経済力とかもカウントされてそうね。なら、2人が自由にできるお店を時々実体化しても害はなさそう。…2人店長で宝珠も錬成もワリカン負担にしましょう。クウのいう棺桶カフェを空間投影できるよう設計してみるよ。
「棺桶カフェというより、迷い家かね。基本私たちが安全にダラダラできる場所だけど、お客様が来る事は想定しておこうよ。」
オーケー、コンビニ屋台ミミックショップと別に、お休み茶屋「迷い家」…もう、コフィン・カフェでいいか…、内装を決めるよー。…和室のデータもライブラリもないんだけど。
「稲荷のライブラリがリンクできると思うよ、下手に写すと、例の将来の前借りが負担になるけど、シルキーは影響なさそうだ。徐々に写してみようか。」
オーケー、OK…借金生活は私の福利に響くから、早めに止めてね。




