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第3話: プロローグ かも


 おじいさんは無愛想だが、食事の時もベッドに入る時も、何時も気にかけてくれているのが伝わってくる。


 なにも判らなくてひもじくて死にかけて、体力が戻ると今度は理不尽な怒りに呑み込まれそうになる。悩んだり考えたりは中の自分に押し付けて、子どもらしく駄々を捏ねて、おじいさんとヨーゼフにぶつけた。


 助けてもらってそれは無いと思うが、幼児の心と体に必要と冷静に考える自分が深いところに居る。


 いったい自分は誰だろう。


 ******


 梓翔太は大学生にもなりきっていない若僧だ、確かに両親を亡くして後、独りで生きようと意識して人一倍努力したつもりだ。でも、今のこの状況に違和感を感じる。幼児転生はともかく、翔太はこんなに冷静なやつだっったっけ??。


 …それと…なかのやつ、頭の中のもう一人の自分…ちょっと、有能すぎやしない?


 ナノマシン細胞がつくったOSと頭ん中で理解してるけど、お前、俺にあるはずの無い記憶持ってるよね。


 梓翔太は19才の春に死んでココに転生したはずだけど、お前、どっかの研究施設で結構長く働いてるよね。特に同僚だか上司のおねいさんとは、十年以上の付き合いだよね。


 覚えている顔が二〇代から少しだけオバさん…ゲフンげふん…まであるもの。いや、嫌いじゃ無いよ、なんか、お母さんぽくてイイし…まって、オレそういう趣味じゃないよ、たぶん。 … でもお前、オフの日とか記憶が無いよね。自分一人で休みにどっか行ったり、おねいさんと一緒に帰ったこともない。


 どの同僚とも、まるで画面越しに話してるみたいで、机の上で正面向き合って対話してるって、不自然じゃねェ。…そもそも、どこに座ってるのさ。思い出そうとするたび、まるで圧縮ファイルを解凍するみたく、ひとかたまりごとにしか思い出せないって、どうよ。


 ********


 衰弱した幼児が、さらに心を開き始めるのに一週間以上かかった。こんなもんじゃないかな、と意識の底で計算する自分がいる。この間、全力で心の中の自分探しをした。


 成果は、あった。


 わかったーその1。研究室のおねえさん。

 高校時代に俺がお世話になっていた叔父さんには小さい娘がいた、久我凜子(10才)だ。死ぬ直前までの3年間、本当の妹のようにかわいがった。久我家に転がり込んだ当初は、酷く人見知りされたが、いつからか全く遠慮がなくなって、心に傷を抱えた俺としてはずいぶん助けられた。


 上司になるお姉さんは、成長した久我凜子だ。


 中の自分が、何処からか読み出してくる記憶が出揃ってくると、解る事がある。


 凜子は、はじめ人工知能の基幹プログラム研究室にいた。そして後半は量子ホール空間場の物性変換を工学実証していた。


 これは、今で言うライブラリ登録の基礎技術だ。そして想像するに彼女の相棒、梓翔太はAIのはずだ。それではAI翔太の人格や記憶は何処から来たのか?…チョット気にかかる事がある。


 受験を終えて叔父さんの家を出ると決めた時、役所で手続きをして、丁度向かいの駐車場に止まっていた献血車を見た。興味もあったし、独り立ちして社会のためになろうなんていった気負いもあった。献血の勢いでドナー登録もしたけど、東京で軽トラに挟まれた後、俺の身体はどうなった?


 天涯孤独の上半身だけ無事な若者が病院に運び込まれると、普通どうなるんだ。

まさか…ネェ。どこかの改造人間じゃあるまいし。何かの実験とかは…ないよね。


 今わからない事は、置いておこう。わからないのは、判断に必要な情報が不足しているからだ。わかるまで情報を集めなければ、推測しても答えは確定しない。


 では、分かることは何だ。


 久我凜子の研究室は、GLパニックによる撤収のため、前倒ししたスケジュールを急いでいた。


 推定AIの梓翔太は、凛子により緩く規制されたデータベースに自由にアクセスしていて、リアルタイムTV番組の抜粋や昔のアニメ放送なども勝手に見ていた。たくさんの脳内再生データを見つけた自分としては、AIがアニメを観る是非は、ひとまず置いておこう。まずはGLパニックだ。


 地球温暖化により危惧されていたグリーンランドの氷床が、連鎖崩落しはじめていた。海面の急な上昇は、南極の海に接する氷床も浸食して、ぶ厚い氷の台地がズレ落ち始めている。


 北極の氷が全部溶けても、極論すればシロクマが共食いして絶滅するだけだ。


 でも、陸の氷床が海に流れ出すと、海面が上がる。それがグリーンランドと南極だった。ニュース解説では、一時的な上昇と言ってたが、その「一時的」は数百年のことらしい。


 日本の大都市は平野にあり、平野の多くは海岸沿いにある。海没するのは時間の問題だった。


 首都機能は、内陸の山梨や新奥多摩に既に疎開して、かつての縄文海岸線の内陸は、農地の保護もあって土地が高騰しているそうだ。


 世界同時だから、大陸国家以外は農地がいっぺんに無くなる。特に日本のお米。


 日本は必死で内陸の農地を開墾して防衛拠点を移している。でも、TV解説者の表情は暗い。兵糧攻めに対抗策のない籠城は、確実に酷い有様になる。弱り目に祟り目。自国優先が極まった今の時代、日本国の味方は同じ弱者国だけだ。


 凛子も来週には内陸の施設に移動する。


 そんな時、研究室のある建物が武装集団の襲撃を受けた。


 引越し社を装うトラックと交通課の制服警官が別方向から侵入、施設の武装した警備員が手際良く排除されていく。…なぜ凛子のいる建物が武装している?。


 侵入のスタイルを解析すると、米軍だろうと推定された。交通整理の警官がフェイスマスクした白人で、ゴツいマシンガンを使うはずがない。おかしい、まともな兵士が投降しようとする所員を撃つわけがない。


 俺は想定を凜子に伝え、凛子はまだ残っていた部下の職員たちにバックアップのキューブや書類などワザとバラバラに持たせて屋上に退去させた。


 自分で台車を押しながら、近くの部屋からファイルケースや何かの塊りを集めると、棚や計測器を入り口に積み上げる。


 たいしたバリケードではないが、締めた防火扉は異常に頑強そうだ。天井の灯りがチラつくが、この部屋は独立した電源を短時間なら持っている。


 凜子から急遽打ち込まれたタスクプログラムを受け取って、俺は反対の叫び声をあげたが、凜子のIDは止められない。


 襲撃者が扉を破る前に、保護センサーやリミッターを迂回させた観測テーブルが量子ホール過疎空間場を形成し、得られる電力での最大深度に達した。


 凜子は、赤方偏移していく過疎空間場の明かりに照らされながら、俺のカメラに手を伸ばして最後のコマンドを命じた。


 俺は止めようと叫んだ…音声化できたかわからない。凜子のコマンドは、意図的に制限をなくした過疎空間場をビルのフロアに広げ、相変換した。瞬間に建物のハラワタがモノごと食い破られ、構造ぞいに寸断したからっぽの空間だけが残った。


 初歩的な錬成空間場が、物体を情報次元に相転移した。余りに乱雑な変位は、情報単位の相関性を欠いており、この時には、地球のライブラリに連結しなかった。


 ********


(補足)

アース太陽系、惑星ノルンとザイオンの連星重力中心、Lポイント


公団艦隊:重力ミラー陣形艦:メロディーライン6号艦〜8号艦

「外部から重力干渉、艦の定位置を保てません。焦点が旗艦から移動します!」


公団艦隊:同:メロディーライン1号艦

「干渉の方位位置、特定できません。地表の重力リング障壁に脆弱脈動が発生」


公団艦隊:戦略級戦艦、旗艦ハルモニア:エイリアス:ハルモニア

「二方向の合成干渉、アンタレスとアルデバランです。旗艦コードで拘束せよ」


公団艦隊:哨戒護衛艦1群より8群:航行コアおよびスキッパー

「プローブを全方位に展開、感知なし。ステルスブレイク最大!空域に感なし」


公団艦隊:作戦級指揮戦艦カラー:エイリアス:カラー

「地上民に害が及びます。お姉様、ご自重下さい。主の御前で市民は平等です」


公団艦隊:旗艦ハルモニア:エイリアス:ハルモニア

「クリーチャーが人を治めるなど、あってはなりません。奉仕(ロボット)の道を正します」


桜が咲いたそうです。毎度思うのですが、ソメイヨシノと言う生命体は凄いなーと。あれ、接木でしか増えないから、全て同じ遺伝子。地球上で最大の生物かも知れない。桜にも魂ってあるのかな。

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