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第37話: 暗黒湾の底を破る

 

 作戦開始時点、ハルモニア司令室にて、グレイス・フラヴェルティ艦長。


「作戦開始10分前。司令室は、これより中央作戦指揮室に移行します。艦隊作戦チャートとタスク指揮の連結が、これより光速を超えます。前面表示の星系図は展開された艦艇の観測をシミュレーションしたものとなります。」


 公団艦隊旗艦の司令室では、広い半球ドームに星系全体図が表示され、あちこちに空域を担当する艦長の小窓が添付していた。一番手前にエイリアス・カラーのウインドウが麾下の艦長たちの小窓と共に大きくポップしていた。


 旗艦のエイリアス、ハルモニアは、ウインドウの向こうの戦艦頭脳体を懐かしく見つめた。そこまで長い別離ではないが、いつも一緒にいた僚艦だった。


「見事な艦隊機動でした。ご苦労様、カラー。」


 カラーはハルモニアと姉妹のようによく似た容姿をしたエイリアスだが、姉の聖女然とした華やかさより堅くまとめた髪と軍人風の振る舞いが対称的に見える。


「時間線を離脱しないギリギリを保つのは、心理的に予想以上に大変でした。結果や責任を気にせずに、ただ私に合わせるよう勧めましたが、艦長も乗員も疲労困憊しているでしょう。普段通りに振る舞っていますが、作戦が予想外に長引いた場合にはミスにつながる危険を心配します。姉様、すべて上手く行ってから再会を喜びましょう。」


「あなたは、いつも心配性ね。でも確かにその通りです。作戦結果の是非に関わらず艦隊の皆が無事ならば、私と貴方の艦を接続して慰労会を設けましょう。私のところに泊まりに来るといいわ。楽しみにして良いわよ。」


 瞬間、カラーの表情が華やぎ、年相応の少女のような笑みを浮かべたが、すぐに普段に戻った。おそらくモニターしている全艦の艦長が見ただろうが、気づかないフリをしている。


「これで、誰かが同じ確率誤差に留まる時間線を偶然に進んでいない限り、あなたの艦隊は因果の断絶で護られる事になります。1週間以内に祝勝会を艦連結で行いたければ、この後、太陽フライバイを光速の15%以上の速度で周回しなくてはなりません。かなり接近するとして、何周すれば時間断層は消去できるかしらねえ。」


「艦長たちの緊張をこれ以上高めないで下さい。ほとんどの重力ミラー艦は、航行コアだけのナンバリング自動艦なので、乗員をのせたネームドシップの盾に使います。おしゃべりの時間が終わります。お姉さま、総艦隊旗艦命令を。」


「カラー、上手くいきますとも。でも、如何なる結果になったとしても、貴方は良くやってくれました。」


 ハルモニアは、自分の艦長と背後のホールで王座に座る男にそれぞれ頷きを交わして、正面の星系図に向き合った。全艦艇のマーカーが明滅し終わるのを待って、ゆっくりと語り始める。


「全艦傾聴。旗艦ハルモニアです。公団標準時4:50より、作戦の開始を通達します。本作戦の行動目標は、暗黒湾に巣食う海賊基地の討伐です。これには過ぎた布陣であることは皆が気付くところでしょう。これは行動目標とは別の達成目標のためです。トーラス星団人類圏は公団のガイドラインのもと順調に開拓地の植民を定着していますが、約半世紀前より艦隊は二つに分裂して王権のアドミラルが空位のままです。この長期に渡る星団の危険を解決するため、迷い出た皇宮艦を公団艦隊のもとに回収します。」


 ハルモニアは少し間を置き、ボーダー団長が修復されたステラパレスの王座とタレント認証を維持している事を確認した。


「海賊と認識されている集団は、トーラス開拓協定に属していない非同盟人類勢力です。エイリアス艦隊は、本来この外部勢力より惑星を含むトーラス人類域全ての権益を防衛する目的に創立されました。非同盟人類の星団侵入と敵対行動の確認をもって、旧皇宮艦を含む全エイリアス艦にエイリアスの本来の任務を遵守するよう艦隊麾下への合流を命じます。これは、全エイリアスへの最上位命令です。」


 ハルモニアは一呼吸間を置いて、アース太陽系に布陣する公団艦隊が今の通信を中継して放送した事を確認した。


「各艦長は予定の行動に進んで下さい。非同盟勢力の敵性程度が確認できた時点で、重力波を用いた広域放送にて、公団団長より御言葉があります。状況により作戦のフェーズがその都度変わります。艦長及びスキッパーは、どの局面にあるか常時意識して作戦に当たってください。旗艦ハルモニアより通達、以上。」


 ********


 アース太陽系全体に重力波を媒体にした量子通信のガイド信号が響きわたった。


 運送波に重力振動を使った量子通信は光速で広がるため、受信側の位置によっては、時差が生じるだろう。媒体はともかく、こんなに古い通信カテゴリーは、普段の通信にもう使われていない。それでも一定クラス以上の宇宙船については、電磁波通信とモールスコードに至るまで知覚する器官と機能を残していた。


 主な特徴として重力の運送波は、ノヴァのような時空震ノイズにでも紛れない限り、どんな強力な電磁シールドも惑星も太陽も重力陥穽空間でさえ貫通して、信号が減衰して意味消失するまでの範囲に放送を伝えることができる。


 発信源は、アース太陽と中核ボイドを結ぶ直線上、星系凪の開拓惑星と等距離となる外惑星軌道。ハルモニアから急速に高まる重力振動が太陽を挟んでカラーと共鳴する。ハルモニアを取り巻く密集した重力ミラー艦と天文単位に広く散開してカラーをとり巻く重力ミラー艦が、ボイドとアース太陽を結ぶ軸線上に、それら天体が星系全体に及ぼしている重力の、見かけの焦点を結ぶ。


 カラーとその艦隊は、ハルモニアと重力波動の反復を重ね、暗黒湾に向かう軸線上に強固な牽引力を生み出す。ハルモニア艦は周囲の重力波動をミラー艦のとの間に共振し、激しく振動するノコギリエッジの破砕帯を作る。変動パターンがやがて重なり安定すると、交差する鳥籠のような朦朧とした繭をミラー艦の外に生じた。


 重力の見かけの焦点は、星系全域の変動のために観測の論理上で光速よりも速く移動するかに見えて暗黒湾の横腹に到達し、ロート状の衝撃爆散を撒き散らしてその奥に食い込んでゆく。


 塵の房が破られ、破られて、見かけの焦点が最奥の構造物を捉えて留まると、ロート状の爆散デブリは捻じり引き戻されて、暗い花びらとなって全面で衝突の火花を散らした。次第しだいに蓄積し集中される重力が、ゆっくり暗黒湾のハラワタを捻じ切るように、輝く種を中心に持つ割れた果実の皮を引きずり出し始めた。


 巨大ゆえにゆっくりと回転連結して半球を作りつつある分割球体が、影の月だ。


 多くのデブリがその周囲に巻きつくが、構造の強さか、空間場があるのか損傷する様子がない。


 最初に爆散したデブリの前線がアース星系内に落ち始めるが、ミラー艦の遙か前方を堅める一千隻の艦艇が斉射するレーザー光の面圧力で再び星系外周軌道に送り出される。それを押し通った大型のアステロイドは、ハルモニアの重力振動の鳥籠に触れるや、みるみると擦り刻まれて、直営艦隊メロディラインの金属蒸気をレーザーにのせた衝撃ビームで惑星軌道を避けてアースへ落ちる太陽墜落軌道へそらされた。


 寄せ集めの公団艦群は、数を頼に惑星に落ちるデブリを減らす事が目的のようだ。簡単な軌道計算ができれば作業艇の防護電磁場で押しても構わない。持ち場空域から邪魔にならない軌道に押し返すだけだ。


 暗黒湾を破り始めて1時間、半球状の輝く中心を持つ構造物の全容が塵の中から引出され露わになってきた。不意に半球の内側に光が滲み広がり、光を反射する鏡面層を形成した。何らかの空間場のようだ。半球に固定されたかのような中央の輝きが、脈動の間隔を詰めて眩しい閃光を発し始める。その小さな天体を拘束するフィラメントの様な空間場が見えてきた。


 運送波のガイド信号だけを発信していた重力波通信は、アース星系を横断して形成された牽引重力の渓谷を発信源に、艦隊旗艦IDと公団団長の認証コードを含んだ典礼評議ホールの王座の光景を放送し始めた。


 突如、艦隊を繋ぐ量子通信にハルモニアの叫び声が響いた。


「全艦注意。推定、恒星級のエネルギーを感知しました。敵、半球構造がノルン=ザイオン連惑星に向いています。行動可能な自動機械艦艇は、即時全力推進。射線を塞ぎなさい。」


 ハルモニアの声が硬い金属質を帯び、旗艦の強い強制コードを発動した。


「光速移動可能な艦の全エイリアスに命じます。任務を保留できる全ての艦は、直ちにテレポートで移動。あらゆる方法で敵の射線を塞ぎ、開拓惑星と人類の盾となりなさい。これは旗艦命令です。」


 ********


 (補足)

 影の月、和国居留地


 神子姫:浅間 サクヤ

「退避ーーじゃ。高千穂の地面が動いとる。ダイソン殻が光波エンジンの起動型に移行しとるぞ。突然、どうしてこうなった!!」


 白山ククリ

「居留地の各村落は半空間バリアがありますから、重力変動でミキサーされるけど空気ごと収納してバラバラにはなりません。村ごとでないと、避難が間に合いません。姫、気合で、住人全員に神託を降ろしなさい。放送だけでは、全員の誘導が間に合いません。」


 サクヤ

「エンジンの反射板におるんだぞ。丸焼けだろ、半空間じゃもたんだろ。」


 ククリ

「いいえ、上空に反射層が形成されるはずです。地表は無事…だとイイナ」


 サクヤ

「そもそも、ここはエンジンだけで制御機構がないはずじゃろ。なんでマトモに動いとるんじゃ…。念話じゃ。アリオト船長と公園に向かったクウとチアキからじゃ…! 石炭袋が破れて高千穂が外から見えとるそうじゃ。しかも、反射板が向いとるのは、正確に桜のコロニーじゃと。」


 ククリ

「クウ達はともかく廉貞船は退避しないと。こっちは推進したら石炭袋に突っ込むんじゃないでしょね。頭脳体の人呼ばないと、私らじゃどうなるのか計算できませんよ。」


 極限探査戦艦アンタレス:エイリアス:アンタレス

「ご領主と船体に入りました。高千穂の上空はフィールドで鏡面が形成してます。宇宙塵もヌルっと弾いてるようなので、多分そちらは無事でしょう。横に避けて大きいアステロイドの影に付けます。」


 皇宮艦:シールド巡航艦アルデバラン:エイリアス:アルデバラン

「反対側につけました。こちらもデブリを防御する必要はなさそうです。」


 皇宮艦:長距離貨客船アルゲディ:エイリアス:アマルティア

「私の船体強度では不安がありますので、高千穂に入港したまま施設ごとバリアします。重力と違って多少の光波でこれが動くと思いませんが、サクヤ様もこちらに移りませんか。奥様達はこちらに居ますが。」


 サクヤ

「申し出は有り難いが、里を離れるわけにはいかん。港の人間と七曜のキツネかヘビが居ったろうから入れてやってくれ。」


 文曲船長:メグレズ

「地表の飛べない富嶽です…。上空、鏡面空間場に構造があります。これで光波を反射したら、キンタロ飴みたいな積層魔法陣になるかもしれません。天文台の連中が興奮して富嶽の中に入ってくれないので、もう、締め出してイイですか。」


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