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第35話: フレイアの加護

 

 谷間のローザンヌは、雨の季節を抜けると一気に新緑の気配が強まる。二度目の夏が近づいている。


 孤児院では秋にリズベット達が進学して、ジェシカが引き継いでいたが、大人しい性格で小さい男の子が言うことを聞かない。マシューも穏やかなので、組み合わせが災いした。でも、マーレさんが急にいなくなると変わった。ビシビシ行くようになり、マシューはこの年で尻に敷かれている。


 そしてジェシカは、ボクにも遠慮がなくなった。


「ショーはやればできるんだから、当然でしょ。」 との事です。


 とうとう、幼年組に退避しているボクを、マシューが呼びに来るようになった。でも、一線は守る。ボクの居場所は幼年組。最初から年長組には行かない。例え直ぐ連れ出されても。


 *********


 シルキーが会社を立ち上げた。


 ボクとシルキーは共同経営者だけど、こんな幼児が普通に経営者になんてなれるはずがない。マーレさんが代表保証人で許可を取った。事業主は幼児でも構わないそうだ。親が小さい子供に財産としてお店を与えたり、死亡して相続する事はあるらしい。


 手続きできるのが今はボクだけなので、ボクがバコを窓口にしてニューヨーク国に申請した。マーレさんとバゴが中身を用意してくれたので、申請は直ぐ通った。


 でも、新規に商売を始めるには、許可だけでなく、どこかの商工会に所属して、保証金を預けないといけないそうだ。孤児院の幼児には、そこそこの金額になる。


 マーレさんが出してくれるけど、シルキーとボクの会社だ。自分で払いたい。


 立て替えてもらうにしても、何かボクにできる事で、早く返したい。酒場で何か商売でも始めようか。悩んでいると、デネブが遠慮がちに提案してきた。


「ルド様の事業という事でしたら、公爵家にルド様の個人財産がございます。公爵家は帝国に抑えられてございますが、ルド様個人の財産は、クラウド口座にございますので、問題なく使えます。」


 生まれた時や誕生日のお祝いで一定額積み立てられているそうだ。公爵家の資産の一部が権利として充てられているらしい。


 デネブがためらっているので、帝国の追跡を警戒してると思ったら、クラウド銀行は相手が帝国でも顧客に不利になる事はしないと言う。


 やんわり問い詰めて、口座を確認すると、小さな町の財政が賄えるような金額が並んでいる。デネブは、なるべく早くボクと2人で屋敷を持って、どこかの街で生活を始めたいと考えていたらしい。その資金に今まで黙っていたようだ。


 エストハウスの天井を仰いで嘆息する幼児。


 デネブ妖精の翅をそっと捕まえて、ベッドの上でベラさん達が来るまで、話し合った。ボクはできるだけエストハウスにいる。ひとりの孤児として、人生を始める。周囲に許される限りではあるが…。


 そうは言っても、お金は必要だ。シルキーの会社はボクの事業なのだから、ローザンヌ商工会の保証金はボクが払った。


 初めてボクがシルキーの役に立った。…考えてたのと違う役に立ち方だけど、生まれ持ったボクの能力には違いない。


 *********


 坊っちゃまは、本当にお坊っちゃまだった。まともな社会人が一人いるのは助かるので、今後も助けてもらうかもしれない。


 下ではもう、初夏の気配だと言うのに、公園の桜が花を咲かせる様子がない。温度とか日照のリズムとかが問題なのだと思うが、今はそこまで手が回らない。弱ってる感じはないけど、花を我慢するのって桜の健康的にどうなんだろう。


 私のライブラリーについて、一応のスジは通しておこう。図書館のアレクサンドリア館長に桜の「謎ライブラリ」を報告した。


 館長からはすぐに返事が来て「図書館の茶会」で会う事になった。今度はマーレさん抜きだ。


 館長さんは、初めっからお仕事モードで、赤い目を光らせている。


 茶会はリンク上の仮想空間なので、実際のラーメンどんぶりが持ち込める訳じゃないが、コンビニ用のホロ画像もストレージの様式も提供できる。


 謎ライブラリをコピーする事は、できなかった。桜リンクの問題みたいだ。でも、私のライブラリからはコピーできる。再変換したストレージ様式がやたら軽い事も説明して貰った。


「様式の純化です。今の錬成技術では情報次元と物理を相変換する時、どうしても失われれる性質があります。ある種の情報劣化なのよね。」


 茶会のテーブルに出したコンビニのミネラルウォーターを、館長は取り上げた。


「例えばこの水。容器が…ポリプロピレン成分主体。でも、水にも容器にも相当量の別の成分が含まれています。特に「水」…「海倉の天然水 ピュア千秋」ラベルが遺失語のフルセットだわね。商品としてのこの水を魔素で錬成再生します。この時点では、相変換の様式はオリジナルのすべての性質を再現しています。ただし、デルタ次元の情報連結は、かなり失われています。この水から「海倉」なる場所に情報連結する事は、難しいでしょう。」


 参考に用意した、再登録した同じペットボトルと見比べてみるが、見た目に全く変化はない。


「この『海倉の天然水』と書かれた商品は再錬成される事で、『海倉の天然水』以外の情報性質を失って、より純粋な様式構成のみで情報連結されていると言う事。数回再錬成をすれば、「水」という性質しか残らなくなるわね。それで不都合はあまり無いけど。」


 なるほど、水成分がミネラルウォーターの成分表記通りだとしても、存在が薄っぺらくなると言うことかしら…。


 館長が薄い冊子…レポートを空中から取り出した。


「これは、評価の高いブランデーをライブラリーで増殖した再評価レポートです。初回以外は、散々な結果になっています。成分の他に分子状態のクラスタ変化などが評価に影響しているようです。三回目で合成酒に劣るとの判定になりました。」


 アレクサンドリア館長は、他にも結構な量のレポートを机に積んだ。


「このテーマは一度は誰もが試すものです。色々、試されてますよ。これは変換技術と言うよりも、物理宇宙の持つ大量の混在性が情報宇宙の関係性に完全に置き換わらないためです。物理宇宙は無駄が多いのですね。その無意味な情報が、因果や時間線の揺らぎを作っていると考えられています。」


 館長は暫く、謎ライブラリとミミックショップの概略や様式魔法陣を見比べていた。眼鏡を押さえて、長いため息をついた。…いやな予感がする。


「ああ、別に良いのよ、図書館のフリー様式を売ったりしなければね。でも、これは…、すべて石油由来の高分子化合物でラッピングされてます。石油由来成分は、地球に独特な物でトーラスで今のところ発見されていません。これらの樹脂素材には、化学合成できなかった希少成分が必ずいくらか含まれているでしょう。移民航海中から問題になっていました。しかも…。」


 ペットボトルの細かい文字をこちらに向けて…


「遺失語です、精霊以外読めません。…そして航海中の時間遅延を考慮しても、三世紀近く前に消費期限が切れています。表記上は…ですが。」


 *********


 アレクサンドリア館長には、全面的なお助け協力を確約いただいて、コピーできる様式は全て図書館にも預けた。「伝説の星杯(春秋軒のドンブリ)」だけでなく、これらの全部が地球の遺失物だから、図書館の研究者には朗報だ。


 なんで星杯ドンブリが、そんなに強く地球と情報連結しているのか尋ねた。釉薬の特別な紅色がトーラスで再現できていない事と関係ありそうだが、解ってないそうだ。やっぱり、どんぶりを返してないのが情報次元的にタタっているんじゃなかろうか。


 因みに、コレクターがいて値がつくらしい。…暴落させてもイイですか。


 *********


 アレクサンドリア館長との有意義なひと時を過ごして、ほぼ時間経過なく監督との打ち合わせに入った。「茶会」は便利だね、ブラック企業に最適。シルキーマーレ・ホームカンパニーは違うよ、そもそも私の福利目的で作ったんだから。


 その前に、図書館の茶会でヒト揉めした。帰ろうとしたら、スカートのポケットから見覚えのないカードがモゾモゾ出て来た。


 ビックリして思わず床に叩きつけたら、ピンクパンダだった。


 ファン0000001番の会員証の厚さのない側面から、どんな理屈なのか這い出てこようと、もがいていた。二次元を超えて来たんかい。


 しかも、アンフォラは仕事中で、コイツは分体だという。


「いつでも逢えるアイドルを目指して、カードに貼付しておきました。」


 しなくてイイし、いつ会員証なんか貰ったんだよ。アレクサンドリア館長に引きずって行かれながら、消滅する前に叫んでる。


「ユニット名決めるから考えといてね、トリオで良いからねー。」 ブチ/…


 トリオって、久しぶりに聞いたコトバだけど、何だっけ…。


 ・・・・・


 で、監督との商品配送のアイデアを詰めた。これには、図書館も含める。


 錬成前の潜像の段階で、別に用意したパッケージだけすり替える工程を自動で入れる。この操作は、私にはまだ解っていない技術がある。パッケージ印刷の翻訳+添削も自動で、トーラスで通用するデザインのテンプレートを図書館が提供してくれる。しかも、潜像の転移魔法陣付きだ。


 日本製のパッケージは、図書館の関連施設に保管場所が設けられる。数が貯まればバカにならない資源だからね。図書館は、商品に希少物質の含有を調べて、可能ならば、専用リサイクル設備を用意して効率的な取り出しを進めるそうだ。


 もしかしたら、中身のオニギリよりラップの方が貴重だったりするかもしれない。そこまでじゃないとは思うけど、石油素材の価値が、素人には分からない。


 SM・H co.は、監督と相談して発電機を使った錬成配送システムを作る。


 錬成には魔力、つまり擬似分子を生成するためのホール粒子濃度が必要だけど、これは空間場なので転送できるものではない。しかし、電力は連結魔法陣を通じて簡単にやり取りできる。埴輪ロイドや相似連結したナノボット達もやっている。


 だから必要なのは、電力を魔力に変える電魔変換魔法陣で、これは図書館に既にある。発電魔法陣のそのまんま逆転変換、だから、魔力モーターと呼ばれている。ただ、ここで必要なのは、擬似分子生成の瞬間超高圧電流に対応している事。宇宙船の重粒子ブースター用魔法機関が最適。


 コンビニと言うにはハイスペックすぎる魔力モーターだけど、電子レンジみたいな物と考えると、別にあっておかしい物ではないと思えてくる。


 つまり、グングニルの魔水晶がある私本部でライブラリから潜像まで作り、錬成に必要な電力ごと圧縮パッケージしてミミックショップの錬成鍋に転送する。ショップが注文を受付けると、自動的にこのシーケンスが発動し、お店では必要な分子オルガンのパートが起動して錬成するだけ。レジを通すだけで、完全自動で瞬時に商品がカウンターに置かれる。


 このショップの錬成鍋は、監督が作れるように力場機関を発生する業務用レンジの外観に設計された。…ラーメンもパンツもペットボトル飲料やアイスクリームも、全部レンジから出てくるけど、気にすまい…。


 ただ、これは今のところ、本部私が発電機を運転している事が条件だ。


 グングニルの魔水晶でなくては分子オルガンに魔力が足りない。電力から同等の魔力濃度を発生させるには縮退発電機でなくては力不足。どっちも私発になる。


 縮退発電機の良いところは、入れた魔力より大きな電力を取り出せる事。ニュートンさんとかアインシュタインさんが怒鳴り込んできそうだけど、魔法の発電機だしね。確か、次元間の真空相位の高低差とか仕様書にあったけど、今は読み飛ばしている。


 私のためのコンビニ屋台程度なら、何台増えようがこれで大丈夫。


 もし全国展開しようと言うなら、魔水晶と同レベルの魔力ダイナモか発電機を備えた配送センターを作れば良い事になる。一般家庭では厳しいけど、宇宙船なら皆んなやってるレベルの発電だから、企業に無理じゃないと思う。



 ********


(補足)

 記念碑建造物:神槍(グングニル)に附帯の公園コーン


 マーレ

「シルキー、その首の魔水晶に生えてる金色は、なんだい。」


 シルキー

「???」


 工事機械監督:マリオネット

「縮退発電機を、デルタ次元のストレージ空間で稼働させて以来見えてますが、パワーインジケーターと思っておりました。 外しましょうか。」


 シルキー

 何コレ。ホッチキスの針が金色に光ってる。正確に60度オジキした。魔力は反応なし。電力は…! 増えた。関数集合的な規則性で、小さなバナナの葉みたいな形。


 マーレ

「発電しないと散って一本に戻るみたいだね。極小の次元断層かエネルギー生物のようでもある。マーカーは次元ゲートだそうだし、デルタ次元からの転移かね。」


 シルキー

 電気を与えなければ何の変化も無さそうだけど、次回、図書館で聴いてみよう。



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