第32話: それぞれの明日_その3
日々コレよきかな。エストハウスのあるローザンヌの町にも春が来た。
シルキーが良い感じに持ち直した。絶好調といって良い。安心した。
モンタは、ランニングマシンと化している。健康的な食事と運動。何かのワクチンを接種した様だ。思考力が停止中なので、特に言うことはない。遠くだし。
ベラさんは遠慮がちにエストハウスの運営に入ったが、直ぐに皆んなの信頼を得た。月の狩人は全員子供たちに人気だ。冒険者っぽいしね。ダンジョンのあい間に孤児院に顔を出すくらいの距離感がちょうど良いようだ。
ベラさんから、地政学的な授業を個人的に受けている。特にロキが戻らないので、ベラさんチームのダンジョンや惑星の博物的な植生物の話が多くなった。はっきり言って、楽しみにしている。
ベラさんは、流石に教えるのが上手で飽きさせない。ダンジョンや他の惑星の生き物についてワクワクするお話を交えて、詳細なリンクデータ入りでインストールできる。
このトーラス星団には前文明と呼ばれる異星人の痕跡が各地で見られるそうだ。特に宇宙気流の中では、徹底的に破壊されたカケラとして、氷や岩塊の間から沢山の痕跡が見つかっており、それだけで学問の一分野を作っている。
これまでに年代と特徴で8つの文明圏が存在したことが確認されており、そこから今のコロニー人類の時代を第九文明圏と呼ぶことがあるそうだ。これには異論もあり、物質痕跡を残さない、例えばザイオンのデルタ渦流生命など情報エネルギー存在を考慮すべきとの考えもあるそうだ。
そしてベラさんが、興味深い事を教えてくれた。
アース太陽系以外の星系に入れないのは、時間停滞による情報連結の断層、因果の間隙のためで、他の前文明はそこに今も存在していると推測されている。しかも、宇宙気流の枝辺流などに、地球由来でない生物がまだ生存しているそうだ。
トーラス気流帯では、定期的に何らかの大規模災害が発生している可能性が高いが、物理的な破壊をともなう事以外、その正体は判明していない。
そして、それすらも乗り越えて、少数の異種族がアース太陽系にも生存していると言う。取り残され部族などと表現されている、本物の異星人だ。
いわば入植人類に対する先住民なわけで最初から慎重に接触がなされた。どの種族も環境不適合から大きな社会集団になりきれず、本人たちの考えは別として、状況は困窮していた。
この百年で、問題なく人類圏に吸収されたと言って良いそうだ。
ザイオンの万華渦流も先住民といえるが、こちらはジャングルを手懐ける様なもので、異星人と考えられてはいない。
ベラさんの知り合いもいるそうで、1人はノルンのセレベンティス族、ヴェーダではケットシー族と海洋種のクリノイド族が主な先住民族とされてるそうだ。
ヴェーダの2種族は社会的な組織を持ち、互いに共存していたので、そこに人類が加わる事は容易だった。だが、ノルンは違っていた。
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セレベンティスは、生まれ育ちの環境で個体差が大きくて、同じ種族とは思えないくらいに違う姿に成長する。しかも、単独生活して互いを狩り合うので、知的な文明種族と人類が気づくのに時間がかかった。
原住生物は開拓ガイドラインでは、十分慎重に保護しなくてはならない。
だが、惑星に降りて開拓初期、ノルンのこの「幽霊雪豹」は人を襲い、時に無視したり助けたりするので、よくわからない魔獣と考えられていた。しかもノルンに生物は、少数の幽霊雪豹が確認できただけで微生物すらいなかった。この惑星発祥とも思えず、何を食べているのかも謎だった。
ノルンに海と言えるほどの水の領域はなかった。ただし、南北半球の多くは雪に覆われた氷の大陸で、そこから豊かな水が温暖な気候の赤道帯に流れ込んでいた。
恵まれた環境の赤道帯で、土壌の造成や開拓は順調だった。ザイオンの様なテラフォーミングのトラブルもなく、幽霊雪豹は、平坦な土地に興味を示さず接近が困難な氷の山岳部を好んだので、人と生存域が重なることが無かった。
人を襲った個体はハンターや騎士の討伐対象となって組織的に追跡されたが、彼らはそれを楽しんでいた。時に殺されたが、多くは追跡者を殺し、捕獲される事はなかった。追跡した人間を食べる事はなく死体は放置された。体液を抜き取られている場合があり、この事から、彼らは吸血種ではないかとの推測もあった。
唯一の可能性は、同族を捕食する事だが、個体数が維持できるモデルを算出できず、その生態どころか、依然として、何を主食にしているのかも解らなかった。
彼らの高等知性がわかったのは、偶然だった。辺境の鉱山町で、たまたま拾われた幼体が人間の家族に懐いた。驚いた事に、それは仲の良い娘とよく似た姿に育つと、言葉を喋った。成長が早く、数年で娘を追い越して年頃の大人の姿になった。
寂しい鉱山に住み着いたこの一家も変わっていて、この人型雪豹を娘の少し奇妙な姉の様に扱った。単独で生活すると思われていた幽霊雪豹は、家族の集団に強い愛着を示した。エルザと名付けられたこの一体から、対話と観察を通じてセレベンティス族の生態が初めて明らかになっていった。
結論から言って、エルザは雪豹たちの穏健派より送られた大使だった。
鉱山は、人にも機械にも感知されずにセレベンティスの集団に囲まれていた。彼らは人間に期待する一派だったが、結果次第では、開拓地の殲滅も躊躇わない種族だった。無干渉を貫く主集団は、この接近を快く思ってはいなかった。しかし、積極的に宇宙船を奪って、また別の世界の渡ろうとする過激な一派も、この主集団により抑えられていた。
幸運なことに、この小さな関係は種族間の平和的な接触の道を開いた。
王国は時間をかけて辺境地帯での共存を模索し、これより、人の領域で生活を望むセレベンティスは人の姿をとるようになった。
人類からするとセレベンティスは、小説上の完全生物に近く、空気と水が得られれば体内環境のみで生存できる。真空中であっても活動を凍結すれば長期間でも死ぬことはない。
体内にあらゆる成分を生産できる高分子牧場をもった化学工場の様な生物で、陽光や輻射などの周囲の電磁波から活動力を得ていた。頑丈な大きなクルミの様な脳核は胸部にあり、人間状態の頭部には感覚器官と太い髪に見える触手が収納されて、専用の触手から液体を摂取する。
返り討ちにした追跡者の体液を取り込んだのは、捕食というより解析で、これにより細胞質から彼等は人間を理解していった。
セレベンティスの精神は一部のエイリアスと同じく相似接続しており、個は群れの一部。セレベンティス文明は、主に彼らの精神世界に築かれていた。
色々な質感を再現する体表は極微細な変色発光鱗に覆われており、光学的な迷彩を巧みにまとって周囲に溶け込む。人間状態でも指の間に鋭い爪を納めていて、猫の様に巧みに使う。しかも、近くに電磁力があれば周波変換して自在に使う。力も強く、ひと言でいって危険な猛獣だが、辺境ではうまく共存できた。
人に友好的なセレベンティスは、特に人類の文化に興味津々だった。人の生活圏に密かに入り込んだそれらの共存実験の試行個体は、人類に過激に接近するセレベンティスを牽制し、時には撃退した。
開拓地にとり、この助力は大きな恩恵だった。光学的に隠密で無数の毒や精神攻撃に優れる雷獣は、たとえ単体でも人類が対決するには危険すぎる相手だった。
お互いが密集して干渉しすぎない限りにおいて、ノルンの辺境では、人類とセレベンティスの良い関係が続いていた。
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「カラーがいない。」
ベラさんが難しい顔をして言った。ある夜の授業前のことだ。
「いつからなのか、時期によっては問題だと思う。デネブ、そちらはどうだい。」
ベッドに手のひらサイズのメイドさんが現れた。ロキが出かけた頃から口数が少なくなって、ちょっと変だが、朝夕、部屋の寝起きを手伝ってくれる。
「こちらには来てないわね。そろそろ誰か来ると思うけど、多分コッチにカラーは来ない。一番荒れそうなトコ、ノルンか…、ランプからの軌道は誰が見てるの?」
「リゲルを置いた。オリオン大隊の重力陥穽基地は、接触しない限り感知されないはずだが…、読まれたかも知れない。皇団長がハルモニアに入った以上、何も起きないはずがない。カラーが何をしているのか、とても興味が湧いて来た。」
バゴがそっと入ってきた。
「ハルモニアが内縁へ移動してる。お供の艦隊が広がりすぎてて、どこに行きたいのか読めないわ。」
「三連星を空に戻す。小目をとって哨戒させよう。リゲルは詰んだかも知れん。」
「ヴェーダの管制用語は、解りにくいわね。私はどうしようかしら。」
「ここを頼む。私は、カラーが来るのは、ここだと思ってる。」
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(補足)
公団艦:情報電子戦艦:メタトロン
メタトロン
「実際にアクセスして初めてわかる、確かにこれがコントロールでしょう。しかし、大雑把すぎてこれまで認識できなかった。」
越後屋
「そうでございましょうとも。ワタクシどもの手配の者が見つけました。nnn」
メタトロン
「以前から知られていたはずでは…、ああ、観光地でしたか。偶然、起動キーを見つけたのですね…、大きく描かれていたと。」
越後屋
「その通りでございます。見えていて誰も気づかない、これ逆転の発想。nnn」
メタトロン
「起動したら居留地は、ただではすみません。他の方々は、いいのですか…。」
越後屋
「勿論でございます。そろそろワタクシどもこの穴蔵から出たいと存じます。どうかその節は、この件と公団の上様へお口添えをお忘れなくお願い致します。nnn」
量子電脳:機関人格:メタトロン
「おぬしもワルヨノー、…あの…、これ最後までやらないといけないんですか。」
ハンドルネーム:越後屋
「はい、和国伝統の契約儀式で神祇認証に欠かせません。なに、バレませんて。」
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用語注釈
小目
管制用語ではありません。空間機動を指示するオリオン大隊長の趣味の方言です。




