第31話: 図書館のであい
監督にしては、おとなしいデザインのチョーカーを作ってくれた。
青水晶の〈魔石〉はイニシャルSモチーフの透明アルミ台座に組み込む。細くて軽いチョーカーは、取り外さない前提で、ナノマシンチェーンで常にフィットし、お肌に優しい表面構造を作っている。安全とひっかけ防止からペンダントよりもチョーカーを選択したそうだ。
監督のチームは、工事建機ばかりかと思っていたが、新人の中にこんな物が作れる才能がいたとは驚きだ。なんでも分子加工技術を持つ部品屋の合作らしい。集めた量子電脳パーツを整理し続けた結果、機能が充実してきたらしい。いつの間にか、設計か何かのマシン2台が繰り上がって現場助監督になっていた。
マシンドロイドって、こんなに自由度高かったっけ…。
比べる知識がないのでなんとも言えないが、ショーの知ってる真面目なドロイドは、こんなにポンポン自己改造していくイメージは無い。公団が神槍の管理権限を破壊したせいで、仮アドミンが監督に移り、監督がフリーズしたせいで、私を中心にマシンカーストを設定した。もしや私のせい…、まあ、結果オーライだし、当面気にしないでおこう。
********
ところで、マーレさんが錬成してくれたマイクロボイド結晶回路は、精霊石とは呼ばない。私のパーソナルな回路が組み込まれてはいないし、私は精霊ではない。
だから〈魔石〉いう大雑把な分類になるが、大雑把すぎて意味がない。魔水晶とでも言った方がまだイメージし易いので、とりあえずはそう呼ぶ事にする。小さくても大事なチョーカーのペンダントトップだものね。
由来からすると「グングニルの魔水晶」…。
イケそうじゃない?
そして、マーレさんは、お母さんからお師匠様に昇格しました。いや、お母さんは続投してほしいから、お師匠さま属性が追加されました。盛り沢山です。
「何をアホな事言ってないで、リンクするよ。」
口に出してないのに、マーレさんにはバレバレ。謎だ。
「私も全部把握して作ったわけじゃない、できないからね。元のマイクロボイドはブリュンヒルデの所有だと思う。で、魔王城にリンクしたら、魔法陣回路はあちらで組んでくれた。この魔水晶はブリュンヒルデの了解のもと、様式図書館が設計した物だ。名前も個性も入っていない。シルキー、そこは、お前が自由にして良いそうだ。」
マーレさんと量子クラウドのリンクを作り、様式図書館が添付した水晶回路の詳細を同期する。
教えてもらった通り、このマイクロボイドは次元マーカー程しか効果を持っていない。デルタ次元を監視するターミナルでもある魔王城が、このマーカーを管制してくれるそうだ。
どういうことかと言うと、
「必要なら、魔王城のオペレーターがお前の場所や状態を把握して、通信程度のサポートができる。シルキー。おまえの側からは、ターミナルの幾つかの階層へ連結できる筈だ。図書館から借りられるライブラリやデータベースは、助けになると思う。結晶回路から魔力供給ができるからね。」
つまり、あれですかね。〝カムヒア!〟とか叫ぶと、大魔王が召喚されるとか。
マーレさんに叩かれた。解せぬ…、口に出してないのに、なぜわかるのだろう。
********
それから暫くは、結晶回路の持つ錬成魔法陣を調べて使いこなす練習に集中した。ショーの精霊石とはまったく違って、錬成ツールに特化という感じ。
錬成魔法陣と相位機関がほぼ自動で立ち上がり、錬成鍋がいくつものバリエーションで構築できる。力場機関は保護や分解の構造を瞬時に展開するが、ただそれだけ。空間投影や力場体の操作は回路に無い。ボイドの特性なのか遠隔座標の設定がない。何かのホロ記録も持ってないしね。
でも、ライブラリの操作が格段に楽になった。ほとんど意識しなくてもたくさんのメニューを閲覧できる。様式図書館のサービスとは問合わせ先ぐらいかと思っていたら、コレがどうして、本当に図書館だった。
マーレさんから基本的なライブラリの扱いを教わったが、マーレさん自身、錬成鍋を多用する事がない。船体がないしね。図書館の使い方がわかってくると、一気に錬成できる物が増えた。
「グングニルの魔水晶」が持つ特徴がわかってきた。
まず、テレポートや重力障壁などに使える空間場ファクターは、ほぼ無い。マーカーにしかならないと言っても、瞬時に引き出せる魔力の量はとても大きく、連続総量もかなりの大きさだ。魔力ダイナモとしてとても優秀。錬成ツールは、そこに合わせている。
思いつく事があって、マーレさんの「祭壇」と比較してみた。錬成といっても、宇宙船用の電力錬成魔法陣ができそうな気がした。…実際できた。
発電魔法の方式は、いくつもある。
グングニルの魔水晶でできる最高出力の力場機関は、錬成した魔素の擬似質量を縮退するもので、これは祭壇の魔力ではイグニッションできない。瞬間魔力量の大きなグングニルの魔水晶ならではの方法で、連続錬成した擬似質量をスピン縮退して、元の魔力より大きな電磁力を引き出せる。縮退擬似質量は錬成場の相変換でコントロールできる。
できるハズだが、それに耐える力場機関の構築が難しい。引き出した電磁力をMMドライブなどの機関に変電するのが難しい。安全にまとめるのが難しい。コントロールが難しい。
マーレさんに聞いてみたら、結局、機関設計は図書館がやってくれて、力場機関の積層魔法陣セットにして返してくれた。こんな思いつきを製品にしてくれるなんて、なんて凄いサービス。…後で請求書なんて来ないよね…。
デルタ次元の潜像状態まで起動を試して、上手くいきそうだが、検討の結果、ココでやめた。
今回の脱出プランは、隠密を旨としてタイミングを図る。この発電機は重力振動するので、たぶん宇宙的に騒音いのだ。今は祭壇もやっている発電魔法陣に統一することにした。縮退発電魔法陣は非常用にしておく。電力や擬似質量の利用法にアイデアがあるので、周辺機関の開発はするけどね。
*********
この経験で、魔法機関の構築に自信がついてきた。イメージできそうな事が、ほかにもある。
魔力の擬似分子変換だ。これも「祭壇」では届かないパワー系の量子魔法になる。パワー系だけど、効果は発電機と違って地味な感じ。
図書館のサービスを利用して、擬似分子の生成魔法陣をフルセット揃えて力場機関を構築した。
展開した力場機関は、魔元素ごとの生成魔法陣が積層で連続してパイプオルガンの様な見た目だったので、分子オルガンと名付けた。特に通称がないので構わないそうだ。魔力のホール粒子から相変換でレシピに必要な魔物質を作る。物質生成魔法だよ。
後は、ライブラリの様式を錬成するだけ。卵サンドが、私にも作れました。魔元素製だけど、味はおんなじ。
でも、消化されてコレが私の体になるんだよね。と言う事は、錬成場でその分子成分が消せるって事。
知ってると落ち着かないね。まして、ニューヨークなんかダンジョン産のお肉が食の中心、パニックになるんじゃないかね。これは安心のためにも情報宇宙の様式とか勉強した方がいいと思う。
********
「あたしは古い個性なもんでね、魔法は機関の代用品なのさ。馴染んじゃいるけど理屈はからっきしだよ。」
なんとなく、そんな気はしてた。お母さんぽいと思う。
「だから紹介してあげたいが、そいつもあたしと、どっこいドッコイだ。けど、その先に何人か詳しいのがいるはずだ。」
マーレさんの古い知り合いは、図書館の館長さんだった。アレクサンドリアさんと言い、キリッとした赤メガネのお姉様で、エジプトだか地中海だか古代っぽいモチーフをさりげなく決めた精霊の学者さんらしい。
マーレさんがコッソリ教えてくれた。昔のバビロンコロニーで彼女のアレクサンドリア個性は謀略と暗殺のエキスパートだったと…。
自然な笑顔を作ろうとして、引きつった幼女になった。
「だから、その対策警護の専門だっちゅうの!」
どうして、言葉にしてないのに、みんなわかるのでしょうか。謎です。
********
エジプシャン風?なアレクサンドリア館長はリンク内に仮想の「図書館の茶会」を開いて、そこに招待してくれた。
なぜか、クラウドリンク上の共有連結スペースを、昔から「茶会」と言うのだそうだ。
明るい円型ホールに装飾的なソファーとテーブルが現れる。周囲の回廊になった壁は沢山の絵がびっしり埋めていた。中央に二重の螺旋階段があるが、仕切り装飾で実際の階段じゃないと思う。その真ん中に出現した。
マーレさんと館長はイメージ通りの姿だが、私は目玉のついた綿毛ボール。仮アバターだって。
公園でマーレさんが私を見ながら周りを一周すると、アバターがドレス幼女に変化した。この茶会は正会員二人の認証で正規アバターが登録できるそうだ。これで私も正会員。
…マーレ母さんのお陰だろうか、…図書館だか魔王城での私の待遇がやけにスムーズだと思う。保護者の威力か親の七光り…、どっちにしても有難い。
これまでの魔法機関の提供に丁寧にお礼をいって、初めてのお使い的なノリでカーテシーしてみた。監督が見たら鼻血ものだと思う。
…なんと言っても請求書が怖い、丁寧に行こう。
大人2人は、興味深げに見守って、ソファーに座らせてくれた。
「様式図書館は、有資格者全員にサービスを提供していて、それはあなたも同じ。クラスと対価はありますが、負担になるようなコトではありません。開発された魔法様式の図書館への提供とライブラリの登録です。図書館を使って作られた量子魔法やライブラリ登録なら自動的に記憶されるので簡単です。カテゴリーの管理だけは図書館で行います。」
つまり、「分子オルガン」は、登録されているって事?
「その通り、同様の量子魔法機関は以前からありましたが、グングニルの魔水晶用の生成魔法機関と同レベルの魔法陣セットを今後、分子オルガンと呼ぶことになります。」
そうですか、水晶の名前も登録されるんだ。少しやっちゃったかも…良いけど。
茶会という場所は、データ連結的にクロック加速されてるらしい。生体脳の私が普通に参加できるのが不思議だが、別に手加減とかしてないそうだ。そうですか。
館長は壁際の書棚からいくつか本のアイコンを取り出すと、私に持たせてくれた。これを使って、私の疑問に繋がる情報を、いつでもインストールできるそうだ。
時間を気にせず済むので、大人のお二人がデータ同期しながら旧交を温め、私の調べ物にも付き合ってくれた。
もっと現場の経験や専門の研究者を紹介できるが、今はまだ混乱するだろうから、座学を先ず修了した方が良いと言う。現場はクセの強い人ばかりで、子どもに優しいとは言い難いそうだ。
忠告には素直に従っておく。確かに私はずっと甘やかされてきた…自覚はある。気難しい研究者にお子様扱いされて邪険な態度を取られたら、泣くかも知れない。
*********
親切な館長さんに別れを告げて、早速、公園でインストールしようと思ったら、せっかくの茶会だから、お茶とケーキでもと誘われた。感想を聞きたい音楽があると言う。
こんな仮想空間でケーキが味わえるのか興味があった。それじゃ、ご厚意に甘えてソファーに座り直すとシンプルな丸テーブルがスッと前を塞いで、周囲が暗くなった。
急にザワメキが聞こえ、周囲の絵から薄ぼんやりした影が滲み出た。不安に襲われてマーレさんを探すと、笑みを浮かべた館長がマーレさんとの間に立っていた。
この時、アレキサンドリアさんのメガネの奥の瞳が紅い複眼だと気がついた。
警戒心が急に湧き上がり、周囲に意識を向けた。
眩いスポットライトが正面から漏れて、二人ユニットが螺旋階段に現れる。
「今日は、私たちのファースト・トライテスト・コンサートに集まってくれてありがと!〜ww。それでは聞いてください、一曲めはシャイニング・バズーカ〜〜。レディー!! <<<<<$$€€££&&$€£&※_※<<〜〜〜!!・!!・!!!〜〜〆。」
騒音のブロック塀が眩しい熱気の塊りになって突っ込んできた!
必死でマーレさんにはい寄ろうとするが、アレキサンドリア館長に戻された。
謀ったな…! そう言えば、マーレさんがバビロンの陰謀とか教えてくれてた。
衝撃波を伴う騒音を乗り切ると、今度はキーボードが冴えたPOPな曲に移った。その間に呼吸を整える。なんとか館長をのり越えてお母さんに手を届かそうとジタバタしていると、マーレさんが反対側に座ってくれた。ホッとした。
「今日は記念すべき最初のコンサート。ファン1号のあなたに特別サービスよ。」
ピンクのツインテールが目の前に立つと両手を取って舞台に引っ張り出された。
…テーブルどこ行った! 幼女のチカラでは振り解けない。
キラキラしたタンバリンを渡されて。ピンクギターの横に立たされた。キーボードのシスターと星パンダ模様のツインテールが目で合図して、ノリノリなダンシング騒音をかき鳴らし始めた。
コチラをジッと見ながらゆっくり確認するように始めるので、しょうがないタンバリンで合いの手をいれる。ニッコリして突っ走り出した。
3曲突き合いマシタ。…つきあいました。「みんな〜、アンコールいくよ〜〜。」とか言うので、隙をみて振り払うと、すかさずマーレさんの所に飛び戻った。
********
怖かった…ホントはそこ迄じゃないけど、お母さんの膝でウソ泣きしている。
誰も望んでないアンコールを終え、4人で好みのケーキとドリンクを囲んでいます。もちろん、ウソ泣きしながらでもケーキは選びました。仕方ない、味わうためにウソ泣きは中断です。
目の周りが星パンダのシャンパンピンクがフォーマルハウトで、その隣が謎のシスターさん。パンダが言うに、フォーマルハウトは死んだそうだ、今いるのはアンフォラ。でも、マーレさんには普通にフォーマルハウトで返事してる。
二人の前には、なぜか、アイスやプリンの乗った大きなクレープがお皿にのっている。ご褒美の類いとみた。私の前にはクリームをのっけたホットケーキ。
炭酸とオレンジジュース、どちらがクレープにあうのか論争している。
コチラに矛先が向きそうだったので、マーレさんのケーキを一口ねだった。
それって、ティラミスですか。ちょっと、交換して良・・・、
…失敗した。ティラミスに2人が食いついた。根掘り葉掘り聞かれた。アレキサンドリアさんも興味深そうだ。ひと口交換も革新的発想だったらしく「コレで2倍…」とか、感動してる。ついに、パンケーキをカジられた。
二人はパンケーキの地味な外観にチェック漏れしてたらしく、目を見開いてむさぼっている。即、取り返したよ。パンケーキ、定番の美味しさだものね。
必死に防衛する間に、どら焼きとは何かまでリンクして解説させられた。
散々なお茶会だと思うが、みんな何故だか満足している。ロキの言ってた「残念な娘」の意味が良くわかった。でも、なんか・残念・とは違う様な気がする。
話をコロコロ変えながら熱く語る大きな子ども?を観察しながらふと思った。
JK?・・・? 2人の目がガシッとコチラを捉える。「ナニ、それ」
また、根掘り葉掘り説明させられた。…女子高生だよ、大統領じゃないよ。
大阪のおばちゃんと並ぶ最強個性だよ。
「遂に私の個性が明らかになった!・・コレで私は完成する!」
…するわけないじゃん!。 私の心の声は届かなかった。
********
(補足)
水源クレーター:デルタターミナル:魔王城
様式図書館:館長:アレキサンドリア
「この設計には第6カテゴリーの力場機関が必要です。しかも3類の量子魔法陣で積層させるとなると、提供には特別な許可が必要ですね。」
魔王城マスターキー:ブリュンヒルデ
「…かまわない。シルキーは私とアドリアーナをオリジンに充てる。この子は紛れもなく神槍の系統。…私もコロニーの破壊には、思う所がある」
アレキサンドリア
「そうですね…。で、何でこの二人に会わせたいのですか。私も面白いと思うから、賛成ですけどね。」
ブリュンヒルデ
「足して割るとちょうどいい…。それとガブリエルの仕込みが反応しないか確認したい。多分、今の人格は使い棄て。できれば、生かしてあげたい」
********
様式図書館:共有接続空間:(仮想)図書館の茶会ホール
回廊の壁に小さなポートレイトが追加された。
おすましして木の椅子に座る白いドレス幼女の写真、ピースするツインテールと頭まで縛られたシスターの写真に挟まれている。




