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第30話: それぞれの明日_その2

 

 公園の改修作業はひと段落して、工事機械達に余裕ができてきた。


 明るい朝の木陰に大きな丸い鏡が置かれ、監督のマリオネットが、椅子に座ったシルキーの長い髪を編んでいる。


 町から剥がしてきたサイネージ用の大型画面が地下にゴロゴロしているのに、監督は、なぜか金属を磨き上げて樹花模様の縁取りをした立派な姿見を作り、イーゼルに立てている。作成は職人機械が志願したらしいが、デザインは監督だ。


 監督は、変な所でこだわったデザインをする。髪のセットも、昨日から一晩中、比較研究をしていたらしい。マーレさんが監修しているので、シルキーは、神妙な顔をして耐えている。


 ********


 監督が、マーレさんへの嫉妬を拗らせそうだったので、マーレさんの指導の元でマッサージの練習をしたが、コレが散々だった。秘孔を抉られ、死兆星が見えたかと思った。自分でツボ療法の書籍を読み込んで研究していたらしい。対抗心からだろうか。


 呆れたマーレさんは、繊細な作業に慣れさせる為、私の長い髪に目をつけて、ブラッシングやヘアセットをマリオネットに指導した。何せ生まれて一度もカットしてないからね。まずは、職人機械に道具を造らせて、マーレさんが整える程度にカットした。


 髪の毛といえ、私の一部が斬り落とされるのは、監督達にとりショックだった様子だ。爪は慣れてるのにね。マーレさんは、幾つかの代表的なまとめ方を私で実演すると、最後に大きな三つ編みで、ゆったり簡単に纏めて終わった。


 その後、集めたマリオネット達を叱咤激励しながら、交互にヘアセットさせる。


 マリオネットには、いろんなタイプがあるので、手早く基本的な技術を伝えるとバリエーションを加える。監督達は覚えるのも早いが、熱意が凄い。マーレさんが認めた優勝者が、明日、私の髪をセットする事になったからだ。


 出来レースだったかも知れないが、器用な職人達を気迫で押しのけた監督のグラマラスなマリオネットが、見事に権利を勝ち取った。


 実は、この後マリオネット達の間で、ヘアセットが流行した。機種によっては髪が伸びるタイプがあり、ちょっと、暗闇で会うとビビる状態になっていた。衣装も、埋葬状態によってはボロボロだったりするし。補修はしてたよ。


 マーレさんは、衣装チームと話したりデータ連結したりしながら指示を出し、マリオネットの衣装を修復し、作成もできるようになった。なぜか、工機達からの新規作成依頼は、メイド服の希望が多かった。


 お母さんは偉大だ。


 マーレさんが加わるだけで、公園は急速に文化的な光景に変化しつつある。冷静になって考えると、以前の公園は、魑魅魍魎とかに近かったかも知れない。監督のせいという事にしよう。


 マーレさんは、テントを持ち込んでいたが、今はプレハブを拡大して、簡単なベッドを私の横に置いている。でも、私のベッドが大き過ぎるので寂しそうにしていると、添い寝してくれた。また監督が嫉妬しそうだ。


 そんな中で、あまり改善が見られないのが、食事だ。


 マーレさんは、ダンジョンで馴染みの保存食を大量に持ち込んでいたが、バリエーションに限界がある。そこで、特別な方法を見せてくれた。


 運転用の祭壇で錬成魔法陣を展開すると、培養液と保存食から卵ペーストのサンドイッチを錬成して見せた。


 量子魔法の錬成鍋を使ってライブラリの登録様式を分子固定で錬成したのだが、結構な量の廃棄素材が解除した錬成鍋に残っていた。


 限られた食料を無駄にするので、頻繁にはできないが、サンドイッチは、美味しく食べることができた。生まれて初めてのマトモな料理だ。私の味覚が正常であることが確認できて、大いに感激した。


 *********


 錬成鍋の材料元素の管理には、本来、複雑な補給装置と分子素材の用意が必要で、中程度の宇宙船搭載規模になるそうだ。逆に言えば大型船の錬成鍋なら、ライブラリに登録された料理を効率的に再現できるという事だ。私が可能性にウルウルしていると、マーレさんはそうは上手くいかないと言う。


 レタスの葉やステーキ肉など生物組織を持った素材の再現は失敗するらしい。コレがハンバーグやクッキーだと、複雑な味であっても錬成できる。分子レベルの様式再現は情報宇宙の法則が現れてくるので、関係性の深度に左右されるそうだ。


 だから、ライブラリから分子固定で結晶ガラスの記憶チップを再現するのは、どんなに複雑な生物の分子ホロ画像が記録されていても、単なる記憶チップのガラスの錬成と同じ難易度でしかない。


 しかし、ライブラリへ登録はそうはいかない。チップの持つ情報が関係性の深度を深めて、デルタ次元の様式化を難しくする。


 量子魔法で、ライブラリに登録された様式を物理世界に相転移して再現する時、この辺りの法則がクリアできていないと、失敗するそうだ。


 では、生物はライブラリ登録できないのか、と言うと、今はできないそうだ。


 もともと錬成鍋の原理は、ダンジョンでポップする魔物の仕組みを真似ている。魔物は擬似生物だ。しかも、登録されたライブラリを再現しているわけではない。


 *********


 第一太陽系でも分子固定の技術は開発されていた。ただそれは、実用とは言い難い電子線3Dプリンタで、実用化の当初は巨大な設備だった。しかも性能は、ギリギリ鉄以下の軽い元素で構造材しか作れなかった。


 無重力の宇宙空間で、特定の部品を量産する自動機械ラインとして発展した。


 ナノマシン製造からコロニー構造材、カーボンケーブルの製造など、多くの素材が、この分子固定プリンターで製造されている。コロニー建設公団の核心技術で、監督の配下にもナノマシンと併用して小さな規模で持っているメンバーは多い。例えばスパイダー、シートメーカー、ビームカリバー等々。


 量子魔法の錬成は、全く違う技術で、機関が力場で空間魔法陣を使うと言うだけではない。デルタ次元のライブラリに登録された様式情報を物理世界に相変換して実体化するため、途中まで分子固定できたとか中途半端は無い。実体化が成功するか、失敗するかだ。


 様式情報には空間周波数がある。


 周波数の低い、つまり同じ様式情報が繰り返す均一で簡単な素材ならば、分子ピクセルの空間投影をラスタライズして実体化できるが、素材のレベルに留まる。


お皿はラスタライズできるが、ハンバーグをラスタライズする事は簡単でないということ。まして、培養すれば元のレタス全体を再生できるほど新鮮な生きたサラダの葉は、因果の法則が邪魔して錬成もできない。


 ********


 だがしかし、…量子魔法には、別のフェーズがある、らしい。


 生物はラスタライズできないといったが、超高密度の6次元量子電脳空間でなら、高等な有機生体構造、例えばエイリアス身体を分子固定で再生できるらしい。


 桁外れの演算空間が必要なので、それができる量子電脳はごく限られる。


 また、魔力はホール粒子濃度の事だ。ホール粒子は擬似分子に変換可能で、高濃度の魔力空間であれば、実質、無から物質を取り出すことができる。


 その物質が原子であるか擬似原子であるかは、錬成するまで区別できない。


 マクロ的には、イオン化や化合の振る舞いに差異が現れるが、概ね同じ元素として扱える。


 しかも、擬似原子からなる擬似分子、これを魔元素ないし魔素と呼ぶが、魔元素は錬成空間場において、ホール粒子と容易く相変換する。


 これは惑星ザイオンの特性と合致している。


 ホール粒子は、大雑把に言えば、真空に開いた素粒子と同じサイズの穴で次元的な様式化により各種の魔原子を作っている。だが、ホール粒子は空間場であって物質ではない。物質として振る舞っている様式条件を取り除けば、物質の性質を失い真空に戻る。


 もし、惑星ザイオンが魔元素を主成分に成立している天体だとしたら、ダンジョンポップなどの量子魔法的な元素操作が容易に実現する事の説明がつく。一方で、もし惑星規模の錬成空間場を形成できたなら、惑星をまさに魔法のように消滅できる事を示唆している。


 勿論、情報次元の様式ファクターが、言葉そのままに世界レベルに膨大で深いので、存在の慣性は並みの深度では揺るがないだろう。


 これは、情報宇宙の存在の在り方や惑星ザイオンの由来と共に、開拓の将来を計画する上で、未知の重大ファクターとして研究者の関心を集めている、…そうだ。


 *********


 マーレさんに、ブリッジで見つけた船長帽とバトンのマイクロボイドを見せた。


 その経緯を静かに最後まで聴いた彼女は、「残念だけど、使えない」と言った。


 マイクロボイドは、それ自身の電磁力で結晶回路の中に固定されている。そうでなければ、素粒子サイズのボイドを持つことなどできない。


 固有のスピン特性があり、その空間場に干渉して目的の特性を引き出している。


 利用価値で分けると一番人気が重力特性で、空間場に大きな揺れ幅を持つ見かけの大きなボイドを特にオーブボイドと呼び、宇宙船の重力推進のエンジンに使われる。つまり、コントロール可能な偏りを適当な特性で持つマイクロボイドが価値の高いオーブボイドになる。


 フレイア船長のマイクロボイドは安定しすぎていて、効果を引き出せる偏在が無い。実際の質量はともかく、見かけのサイズも極微になるので、今のトーラスの技術では、次元を横断するマーカーくらいしか使いどころが無いのが現状だ。


 装飾品だったのには、それなりの訳があったのだ。


 例外として、無属性の特徴を活かして量子通信の重力波放送にのせるID認証発信クオーツに使われる場合がある。だが、そんな星系全体を振動させるような莫大なエネルギーを消費する広域放送は、滅多に行われることは無い。


 マーレさんは、船長帽とタクトを手にして、暫く物思いに耽っていた。


「残存思念という情報様式がある。フレイア船長は百年以上ブリッジに留まった。それには、物理宇宙だけでは説明できない情報痕跡が残される事がある。」


 …特に、このトーラスでは…。 「これは失わない方が良いだろう。」


 なんか、マーレさんが怖い事を言いだした。


 マーレさんは、どこかと連絡を取りながら、数時間をかけて錬成魔法陣を組み上げた。これまでと明かに密度が違う重奏魔法陣が公園の中央にでき上がった。青白いプラズマ状の魔素が流れ始め、中央に見慣れない魔方陣が固定される。


 シルキーは、マリオネット達に囲まれてその様子を見つめていた。


 マーレさんとのリンクは続いていて、手順は理解できる。だが、どこかと連結しているマーレさんへのデータ流は追えないほどの速さになり、印象として巨大な何かを召喚しているような気持ちになる。


 それが起こったのは、瞬間だった。


 マーレさんは空間場を維持するだけで、何かをしているようには見えなかった。

 船長帽とバトンが、分厚い積層魔法陣を周回するように別々に吸い込まれ、中央の魔方陣で出会った途端、青白い魔素が爆縮してひと抱えほどの暗黒過疎空間だけが残った。


 監督や埴輪ロイド達の視覚にはそれだけしか映っていないが、私には、なぜかその暗黒球を縁取る眩い炎が見えた。


 炎の髪を纏った気高い女性を映した様な気がした。幻は暗黒空間ごと瞬時に消えて、僅かに起動している錬成場に浮かぶ小さな結晶だけが残った。


 さすがのマーレさんも疲れた様だ。祭壇を止めると、青い小さな水晶を見せてくれた。よく見ると中にモヤモヤした暗い芯がある。解析にかからないが、暗いモヤモヤは高速で周回するマイクロボイドだと判った。


「意図して操作できるものでもないが、デルタ領域へのゲートだよ。魔王城側でトレースできる次元マーカーになるから、身に付けておくと良いよ。」


 魔力を汲み上げる井戸になるそうだ。デルタ領域に消えたフレイア船長の加護が得られるかも知れないという。


 説明不足でしょ。リンクしてても話の流れが分かりません。


 マーレさんは私を抱き上げて言った。


「今の我々に、それ以上わからない。そういう事があると知っているだけさ。」


 水晶は監督に渡した。超特急でペンダントに仕立てて貰う。いつも身に付けられる様にお願いした。初めてのプレゼントだ、とても嬉しい。


 あ、ショーを忘れてないよ。でも、名前は当然の権利でしょ。



 *********



 (補足)

 惑星ノルン:スワン王国:王都、エリーザ宙港


 ヴァルキュリア小隊、副隊長:アビゲイル・ミストラル

「補給は定刻に完了致します。隊長…ブリッジにお越しになりませんか。」


 ヴァルキュリア小隊、隊長:シルビアナ・ボーダー

「いや、要らぬ憶測をよぶだけだ。父上の所まで部屋に居る。すまない。」


 アビゲイル

「私たちなど(ハラワタ)を帝国に奪われた残り滓に、王家が何を期待しますか。」


 シルビアナ

「アビー、物心ついた時から貴女とは一緒だったわね。ここまで付き合わせてしまって申し訳なく思っています。これを預かってください。」


 アビゲイル

「この短剣は…ヴァルキュリアの認証キー。引きこもった上、責務放棄ですか?」


 シルビアナ

「貴女はホントに遠慮無いわね。4年前に祖地で私のクローンを育成しました。まだ生存しているはずで、帝国は知りません。ヴェーダにモグリの医師がいます。」


 アビゲイル

「姫様、それは余りに危ない選択…、王国の騎士達の考えですか? あの男を甘く見過ぎです。せめてミザリーに何が起こったか突き止めてから…、」


 シルビアナ

「それはもう判っています。お義父は忠誠心などと計測できない事に期待する方ではありません。絶対の忠誠とは保証されたロジック…彼は愛を造るつもりです。」


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