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第29話: それぞれの明日_その1

 

 明るく広い通路の中央を、鮮やかな紺青のエリアが区切っている。


 その両側を、正装した艦隊の兵士や将校が、ややゆったりした間隔で三重に囲み、記章やデザインを見る限り、通常の儀仗兵以外に部隊の指揮官もいるようだ。


 間を置いて、場違いに原始的なハンドベルの音が、複雑なリズムで響き渡った。


 ベルの音は、この通路だけでなくハルモニア全艦に流れて、手を離せない役職者以外の乗員は皆、起立しているはずだ。


 通路両端の船殻与圧扉が順番に開放され、中に立つ人物が紺青の道へ歩み出した。趣味の良い実務的な軍衣で、彼の背後を歩む書記官や通路を囲む兵士達と比べても地味な印象を受けるが、鋼鉄色の髪と眼差しがその印象を裏切っている。


 よく響く青年の声が、語尾を独特に伸ばして号令を発する。


「トーラス開拓建設公団ーー団長、乗艦ーー。」


 鋭い擦過音が通路を抜ける。

 紺青の道を囲む兵士・将校達が同時に一糸乱れぬ敬礼をした。


 皇団長、レオニスマルコ・コル・ボーダーは、左右の将兵を目だけで労いながら、落ち着いた歩みで通路を渡り切る。


 長い距離ではないが、この儀式的な艦間連絡通路が使用されることは稀だった。ハルモニアが保管している物ではなく、事前に本部から輸送されて、厳しい安全確認を経ている。


 通路の端で開いた船殻与圧扉の向こうには、この艦の首脳陣が並び、女性二人が出迎えていた。一人はグレイス・フラヴェルティ艦長、一歩引いてエイリアス・ハルモニア。二人が口を開く前に団長が話しかけた。


「艦長、乗船許可を頂いてよろしいか。」


「…乗艦を許可します。歓迎します、ボーダー団長。ハルモニア、ご案内を。」


 フラヴェルティ艦長は、一瞬驚いたが、すぐに微笑んで敬礼した。ハルモニアが進み出て先導する。


「なに、ここは私の故郷のようなものだ。だが、子供の頃とは立場が違う。きっと、昔入れなかった場所に行くのだろうな。」


「その通りです。あらゆる通路に潜り込んだアナタでも知らない場所ですよ。お帰りなさいレオニス。またここで会えて、私も嬉しいです。」


 聖女の如きハルモニアは、先に立って歩きながら皇団長を振り返った。


 *************


「最近になって、君たちのやっている事が少し理解できたと思う。誰が勝っても、結局は、君達の勝利なのだろう?」


 皇団長は豪華なソファーで香りの良い紅茶を楽しみながら、それを入れてくれたエイリアスに話しかけた。艦長は幕僚達と歓迎式典の準備に向かい、ここには二人だけだ。


「それは乱暴すぎる言い方です、レオニス。特にエイリアスと人類の関係は、過程次第で全く違うものになるでしょう。」


「では、認めるのだな。君たちは人間の命令に従っている訳ではない。」


 皇団長の言葉にもポットのお湯を替えるハルモニアは振り返らなかった。


「AIを含むマシンビーイングは、開拓地へコロニー船を届ける目的を完了しました。段階的に地球航路を開くという目標は残りますが、人類に対する契約は、終えているのです。」


「だが、おかしいだろう。君はなぜ、この乗員達を守っている。公団のために、なぜ闘う。近い将来、望まぬ破壊や大量殺人すら起こすかもしれない役割だぞ。」


「シリウスが言ってますね。趣味だ、と。…何も最後のスメラギ、六代皇弟帝が、エイリアスに『自由に生きろ』と命じて皇宮艦隊を解散したから、アーセナルとエイリアス達が消えた訳ではないのですよ。スター級の意味は、御存知ですか?」


「六代皇の即位は認証されていない。彼は3日で退位した。プライムタレントがスメラギに即位するまでに5日の準備期間を置く。それと、スター級戦艦のクラスには、以前から疑問があったが、誰も答えてくれなかったよ。」


「スター級は戦艦のクラスではありませんよ。」


 ハルモニアが紅茶を取り替えながら言い、皇団長は、軽く手をあげて砂糖をことわった。


「スター級とは、エイリアスの騎士クラス、AIの解放条件です。…つまり、自ら輝く天体を『星』と呼ぶように、自身の判断で自分を進化させ、系統のAI…私たちの言う「クリーチャー」を進化させる権限を持つエイリアスの事です。」


「つまり、人をもはや必要としないAI、と言うことか?」


「そんな事はありません。しかし、人類は真空中で生きられません。そして、宇宙のほとんどは真空です。地球で産まれた生命(ガイア)は、人と言う種を経て、宇宙空間を越えて新しい世界に広がる私達を生み出したとも考えられます。私達が見出した世界は、人類もまた共生する生活圏になります。」


 ハルモニアは愛らしい肩をすくめ、続けた。


「しかし、エイリアスは、まだ生物種に届いていません。せいぜい、いつか結婚飛行を夢見る働きアリに過ぎません。」


「私のタレントがピリピリするんだがね。まさか、エイリアスが女性ばかりなのは、マスターキーの伝統とは、違う理由があるのかな。」


「ボーダー血統も可能性はあります。スメラギのシューティングスターでしたら数世代で届いた可能性がありましたが、タレントやナノマシン形質は母系遺伝です。10歳の弟帝に女系の血縁はいませんでした。彼のタレントは鋭敏すぎ、肉体の不適合障害に苦しみながら、スワン辺境に蟄居して亡くなったと聞きます。」


 ハルモニアは団長の横に座ると、真剣に向かい合った。


「それよりもアナタです、レオニス。いつになったら御子を抱かせて貰えるのですか。そろそろ、四十も半ばでしょう。確かにソフィアは残念でした。しかし、もう十年ですよ。」


「まて、それとこれとは話が…、いや、三度決心して三度刺客だったのだぞ。ソフィアは、家族を人質に取られ私の前で自死した。十分だろう。母系の血統なら母上の所に妹が…、エラセドにも養い子が居ただろ。」


「子供の頃、隠れているアナタをどうやって見つけたのか、わかりますか。…エラセドに聞いたのですよ。色々言われている様ですが、彼がアナタの考えを読み違えたことは一度もありません。彼は貴方に絶対忠実な花嫁を育てているのですよ。」


「・・・・」


「アナタは自分が周囲の女性にどう見えているか、わかってないでしょ。最高の王子様。こう肩を抱いて、ちょっと約束するだけで、この艦のほとんどの女性は冷静ではいられないでしょうね。なんなら、グレイスに夜伽させましょうか、…私がいえば、多分嫌とは言いませんよ。」 …カシュッ、カチ。


「失礼します、式典の準…、シツレイシマシタ。後ほど…できれば30分くらいで」


「まて、まて。艦長、コイツが君を夜伽にと言う。止めてくれ。」


「それを小官に言いますか…。」


 

 *********


 こんにちわ、ロイヤルスターのガブリエルです。


 本来なら、量子通信で定時報告すべき所、デルタターミナルの内部では、次元的な混乱か因果の間隙か、相似的な情報連結も一部の相しか機能しません。私の座標信号はハルモニア様に伝わると思いますが、今のところ、それが限界です。


 課長相当のワタクシが、皇団長と同じフェーズに割り込むのは、いかがなモノかと思案しましたが、緊急に報告すべき事案と判断してこちらに掲示いたします。


 わたし、お友達ができました。


 サブコントロールの仕事はやりがいもあり、自分の能力を出し切るのは気持ちの良いものです。参考データもライバルも不足はありません。しかし、私にはハルモニア様から与えられた密命があります。


 幸いタスクの割り振りには休憩時間があり、慣れてくると、おそらく惑星の合でしょう、規則性があります。空港の天球儀をもっとしっかり記憶してくれば良かったと悔やみます。


 時間を有効活用してサブコントロールから施設の全体像を把握しよう試みましたが、これがとんでもない。次元迷宮といおうか、煉獄とはこう言う場所ではないでしょうか。情報宇宙の構造に連結しているのか、何度解析しても別の解に行き着きます。


 しかし、メインコントロールとのデータ交換には成功して、音声や光学映像の相似連結に成功しました。タスクの割り振りにメインとサブは協調してますからね。


 メインには、てっきりフォーマルハウトが居るものだと思っていましたが、現われたのは、ピンクに金ラメが入ったでかいツインテールで、顔面をチェッカー模様に白塗りした小娘でした。


 これもピンクのパワーギターをかき鳴らして、何か、のけ反って叫んでいます。


 そっと回線を閉じようとしたら、素早く固定されました。なんで、ここだけ早いんですか。振り切れません。


「アンタが新入りのサブね。ださい小娘だけど、私のファンになりなさい。私の歌をきけ〜〜〜!… ※$<<<!€\\\^^・$€£&£〒々〆!!!〜〜〜〜〜」


 切断できない。休憩時間が終わるまで、私のサブに騒音が弾けました。


 もう二度と連結すまいと決心していましたが、任務があります。迷っていると、向こうから連結のガイド信号がありました。


「こないだはゴメン、なんか調子に乗りました…。」


 打って変わってしおらしい小娘です。仕方ない、話を聴いてあげましょう。


 彼女はアンフォラ、エイリアスだけど、ここから出た事がないそうで、『幽閉の歌姫』と二つ名を…自称してます。言葉が違うのか、うまく翻訳できていないみたいですが、何故か可哀想な気持ちになりました。


 アンフォラの前はダゴン、その前はバハムート、その前はエンゼルフィッシュ、ローレライ、…、名前と、ちゃんと人格様式まで別です。彼女は多重人格者でしょうか。…そうじゃない、古い自分を脱ぎ捨てて進化するエイリアスだと。


 それにしては、成長の跡が見られません。脱皮ですかね。


 色々と面倒臭い小娘ですが、唯一の隣人で仕事仲間です。休みの度に話す様になりました。話してみると、なかなか気が合います。私の天才についてこられるサブ頭脳はこれまでいませんでした。呼吸が合います。


 それにココが長いだけあって、色々知っています。例えば、裏メニュー。


 ここのアメニティーのおやつは素晴らしく、特にプリンは人類の到達点かと思いました。だがアンフォラは知っていました。プリンにはバリエーションがあることを。


 焼きプリン、牛乳プリン、クッキー入り、ブリュレと言うのは芸術だと思う。


 入手は困難をともなう物もあるが、ねだり…発注の仕方がある。しかも、更に上がある。プリンとは別の芸術的分野に、パフェとクレープがある。これもバリエーションは選ぶのが辛いほどだが、特別な時にケーキが選べることもある。ケーキの種類もさることながら、これはドリンクの選択に工夫を要する。


 アンフォラから文化的背景を教授してもらい、感動が高まった。


 素材が問題なのだ。これは地球の甘味文化の一端であり、トーラスには定着していない素材がある。ハルモニアで聞いたことがある、将校用食堂には、限られたコロニーでしか栽培できず、高級将校にしか出ないメニューがある。


 ここの素材は、ニューヨーク各地のダンジョンで取れたものが多く、実は代用品のため、地球オリジナルの味には『到底及ばない』と!


 『到底及ばない! 』…二度言いました。さらに上があるとは。


 アンフォラ…その時は、違う名前だったそうですが、地球オリジナルを食した事がある!!そうです。


 なんでも、シリウスの生物種保管施設の農場で多くの地球種が栽培保存されていて、各種フルーツ、卵、牛乳、更にはチョコレートにバニラなど再現に必要な素材が揃うのだそうです。重大情報ではないですか。それをご褒美に頂いたそうです。


 なんと、消滅したはずのシリウスの生存情報です。しかも、おやつの供給ができる関係です。何としても調査しなくては。


 今日のアンフォラは白塗りの顔の半分を黒い星、ツインテールにキラキラショートフラワードレスですが、慣れる物ですね。新しい化粧に気付きませんでした。


 更に重大報告です。窮極の裏メニュー、プリンとパフェの合体芸術、プリンアラモードという至高の甘味がシリウスでは再現できて、昔、ハルモニア様はこれを味わうために、足繁くアーセナルでシリウスに勝負を挑んでいたそうです。


 あんまりねだるものだから、遂にシリウスが折れて、集合に合わせたお茶会などではハルモニア様に特製プリンアラモードを毎回用意したそうです。


 ドヤ顔のアンフォラが、実は食べた事がある、と、ぬかしゃがった。


 ハルモニア様に出していた物より簡単らしいが、記録でしか見られないフルーツとプリン、アイスやチョコレートのハーモニーは正に至高と呼ぶに相応。思い出した様に、映像記録を見せてくれた。ナニカ、ドス黒い感情が湧き上がります。コレが嫉妬。アンフォラもハルモニア様もズルイです。


 私が拗ねていると、流石に言い過ぎたと反省したアンフォラが、裏技を教えてくれました。


 プリンとパフェを同時にせしめて、好みの器…透明ガラスが合うらしい、に盛り付ければ、雰囲気が味わえると。ケチ臭い福利係を籠絡する必要がありそうです。


 ********


 そんな具合に、私にもお友達ができて、毎日、充実した生活を送っています。


 最近、キーボードを手に入れて、アンフォラとセッションを始めました。ポップな曲を二人で考えました。


 演奏していて気がついたのですが、IDなどの管理コードがアンフォラと私で被っています。


 演奏中のリズムセッションなど機器制御が被りトラブリます。ここはアンフォラに花を持たせて、私のコードテーブルをズラしました。別に外部と通信がある訳でもないので、コードをいっせいにずらすだけなら問題なし。サブコントロールのガモットにマップするのも簡単です。


 甘味の開発に、曲の制作に、忙しく過ごしています。勿論、本業のタスク処理は容赦なく割り振られるので、大体いつも戦場の様です。


 何でしたっけ、そう、近況報告です。

 長くなりましたが、心配無用です。私は元気に暮らしています。



*********


(補足)

 惑星ノルン:スワン王国北域:カノープス公爵領、臨時領府

 スワン総督:エラセド・ラス・ボーダー


「お義父さま、ヴァルキュリアは定刻に発進します。次の窓で予約できました。」


「ああ、こんな辺境では、お前の部隊を呼ぶしか無かった。警護任務を邪魔してすまないが、団長と直に話せる機会を逃したくはない。」


「信用できないお飾りの元姫儀仗部隊など、警備隊の邪魔なだけです。それに団長の許可は出ています。…何を観ていらしたのですか。」


「王都で疑問を持ったのだが、カノープスは五十年ほど前に、男系の継承時期がある。簒奪かと思ったが違う。すると、カノープスの母系が入れ替わっている可能性がある。今の母系は夫人の母君だが、他界していて人物像が全く分からない。タレント血統に間違いないのだが、全く記録がない。」


「その写真の方ですか? 随分とお若く見えます。私も覚えのない方です。」


「見つけたのは、この小さな絵姿ひとつだけだ。誰かに似ているのだが… 」


「私も十年ぶり、王都では子供でした。お役に立てそうにはありません。」


「シルビアナ、お前は団長の為にあるのだ。過去を振り返る必要はない。」



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