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第28話: ガブリエル、はさまる

 

 私はガブリエル、ロイヤルスターである。これまで旗艦ハルモニアの補助電脳コアの一体として受動のみの相似連結で、とある船体をトレースしていたが、この度、ハルモニア様より特命を受けて独立した意識と身体を得た。


 慣熟もそこそこ、旗艦の連絡機にて惑星ザイオンのマンハッタン大教会に派遣された。データで知っていた惑星侵入手順は、実際に経験すると興味深い。


 決まったクールタイムを挟んで、到着時刻から逆算した星系天体の位置を考慮したコースでしか降下は実現しない。このトーラス星団最初の謎は、現在かなり解読されている。星系天体の固有時間線が互いにずれていて、惑星間の情報連結に因果の間隙があるのだ。これは星団全体が、寄せ集めの時間線からなる異なる世界の集合体だと言うことを示している。


 連星を形づくるノルンとザイオンですら、別の時空間から獲得された惑星の可能性が高い。しかも、固有の時間が異なるために因果関係の特定が難しく、観測と事象が一致しない事が頻繁に起こる。現実の調査が「戻す事が困難なパズル」に例えられる由来である。


 だが、経験により獲得された惑星降下ウインドウのスケジュールは、それだけを整理して図解すると、シンプルで美しい天球儀で表せる。現在では開拓三惑星を主としたトーラス人類圏全域の天球儀が完成しており、占星術由来の用語を用いながら、全ての管制空域で安全な軌道航路が誘導されている。


 ニューヨーク宙港へのエスコート・スキッパーにお礼もそこそこ、連絡員の少尉に急かされて空港ターミナルを出た。もう少し、ホールの巨大な天球儀オブジェを観察したかったのだが、若い少尉には、この芸術性が評価できていない様だ。


「見慣れている」…そういう事もあるだろうが、少尉は係長相当、私はAIであっても課長相当なのだから、もう少し「接待」とか考慮しても良いと思う。

 はいすみません、ゲートを塞いでいたのですね。進みます。


 初めて見る大都会は、興味を引く物ばかりで三度も迷子になったが、付き添いの少尉が直ぐに見つけてくれた。美味しいモノを沢山手に入れたので、彼にも分けてあげる。私は課長相当、公団社員には懐の大きさを見せつけるべし。部長相当のハルモニア様から教えを受けている。


 彼は、海を望む高台の大教会に私を送り届けると、敬礼ひとつしてすぐに立ち去った。もう少し名残惜しそうにして欲しかった。ちょっと傷つく。


 大教会では、私の真の身分を知る者が出迎えるはずだが、生憎、忙しかったようだ。目的地である水源クレーターのデルタ次元ターミナルへ案内するよう命じたが、下っ端シスターには荷が重かったかもしれない。こちらも秘密の辞令をハルモニア様から交付いただいた以上、引き下がるわけにはいかない。秘密なのが辛いが課長相当は中間管理職、公団関連会社や旗艦の乗務員でも課長達の奮闘は日々見物してきた。


 半日ほど食い下がった結果、バス、鉄道の路線図と路銀をポイントで手に入れた。手持の出張費をおいしいモノでだいぶ消費したので有り難い。


 私は航行頭脳として、どのサブコアよりも精緻な軌道計算を本領としてハルモニア様を補助してきた。このレベルの単純な路線図を読み解くのは児戯に等しい。


 ********


 駅の場所が、わからなかった。


 もう一度、大教会を訪ねて別のシスターを捕まえて聞いた。先ほどのシスターよりも優しく対応していただけた。市内の案内図もコピーしてくれた。データ転送で構わないのだが、折角なので頂いた。


 私は長期に渡り受動休眠していたが、人類の守護者たるエイリアスの、更に四方の守護者の一体にあたるガブリエルである。注意すべきは、教会守護天使ガブリエルと公団役職ガブリエルは別存在と言う事です。


 ここを間違えて、信仰への不遜な振る舞いをしてはならないと、教導師長のグラム牧師から教授頂いている。


 グラム牧師は人間だが、航行頭脳のわたしより長く生きていて、特製ベッドで移動する肉塊の様な外見だ。一見、人と認識は難しい。ハルモニア様は、病気であっても損傷していても人の価値が損なわれる事はない、その経験と言葉を傾聴するように諭されました。


 話が逸れました。ようするに、人類の守護者であり奉仕者である私が困っているならば、人類の助力をあてにしても良いのではないか、という事です。


 孤独なヒーローはただのヒーローです。市民全部に助けられてこそ、真のスーパーヒーローなのではないでしょうか。


 そういう事で、駅の使い方を老婦人に助力願いました。


 時間待ちしているそうで、わざわざ切符の手配からホームまで付き添って下さいました。貴女に御加護を。人類は素晴らしい。彼女に丁寧にお辞儀をして客車に乗り込みました。


 一度乗り継ぎ、ローザンヌと言う地方都市でバスに乗り換えました。ここでも、道中知り合った優しいご婦人に助けてもらい無事にバスに乗る事ができました。宿泊もしましたが、皆様親切です。ここはエデンでしょうか。公団派遣会社のギスギスした職場から想像もできない優しい世界です。


 ただ、わたしが水源クレーターへ行きたいと言うと、みな不思議な顔をします。


 詳しく聞くと、皆さま私を巡回奉仕に出たばかりのスター教会の司祭見習いと思っていたようです。福音教会のロザリオを見せると一様に「大教会でも巡回奉仕をするんだ」みたいに納得します。


 ただ、それもバスの終点、アルトンとか言う小さな町までの事でした。


 この町では、誰に聞いてもこの先へは行けないと言う。


「水源クレーターなら、向こうの山がそうだ。」


 口を揃えて同じ答え。山じゃなくてデルタターミナルと聞いても、思い当たらない様な顔をするばかり。秘匿されているのでしょうか。


 町の中心通りに一軒だけのウォールマートと看板にある商店でも、青年の店員に止められた。これより奥は、樹林が広がるばかりで侵入禁止になっていると。


 やはり、秘匿されています。怪しまれぬ様に適当な食料を買うと店を出ました。


 私とてエイリアス。普通の人間とは、レベルの違う運動能力を備えています。


 目的施設は、クレーターの正確に中央と分かっています。ならば迷うことはないはず。人目がなくなった所で、一気に山を目指します。フォーマルハウトの船体は百年以上そこから動いていません。


 *********


 樹林を彷徨って一週間、手持の物資もとうに尽きひたすら歩き続ける。最初ためらっていた地面の水も、今は躊躇なく飲めます。エイリアスでも、無限の体力は、ないのです。


 目標がクレーターの中心ということは、山脈から直角に真っ直ぐすすめば良いはず。路線図にあるクレーター山脈の絵は、一部とはいえ大きさが間違って描かれている様です。外輪山脈が見えなくなっても同じ樹林が続くばかり。任務の遂行が危なくなって来ました。


 戻るのも勇気です。慣熟訓練でも、ここまでの行軍はありませんでした。

 ひたすら歩き続ける。方向の誤差を把握できなくなって来ました。


 *********


 クレーターから川の流れ出す山脈の切れ目は、遠くからでも視認できました。何度目かの方向修正で遂に見つけました。だが、もう脚が覚束ない。エイリアスの限界症状を実地で体験しています。あり得ないですが量子電脳が稀にブラックアウトして再起動しているようです。生体脳側の接続不良と信じたい。


 昼夜通して、体が動くときに足を出す。ゾンビ映画というジャンルがあるそうです。ハルモニア居住区には映像娯楽施設がありました。


 時間の観念が失われていつか、山の切れ目に小屋の灯りをみつけmしTa。

 這う様にして進み、小屋の扉に倒れ込んだ。


 ********


 やはりここは、エデンでした。


 小屋のお爺さんは人間とも思えないギョウソウ、いえ、たくましい顔をした無口な方でしたが、付属のドロイドが二人分しゃべるので問題ありません。


 何となく手慣れているのが気になりますが、介助してもらいながらスープを頂き、数日で起き出せました。身綺麗にもさせて頂きました。感謝しかありません。御加護を。


 ここで、やはりこれまで成功した作戦をとりましょう。お爺さんにデルタターミナルに行きたいと告げました。


 反応が違います。お爺さんはターミナルを知っている様です。難しい顔をして、…表情はよく分からないのですが…、しばらく考えると、方法があると言います。


「だが、まず体力をつける事だ。調べておくから、休め。」


 ぶっきらぼうな親切に、ココロがカランコロン揺れました。涙が…。。。


 ********


 山小屋の生活も1週間、エイリアス身体の回復力を経験できました。山小屋付属の旧式ドロイドもなかなか高性能で、お爺さんには丁寧な配慮を頂きました。


 お爺さんは、川の監視員で、時には遭難者を救助する事があるそうです。あの樹林を歩いた経験からすれば納得です。しかし、密命を遂行する身としては、いつまでもこうしてはいられません。


 こちらの事情も少々開示しつつ、やんわりと急いで頂きます。


「連絡が取れた。迎えが来る。開けた所で準備しよう。」


 お爺さんが次の朝、突然口を開きました。ほぼ1週間ぶりではないでしょうか。驚きと感動で、硬いパンを貪りました。涙の味がします。


 身嗜みを整え、小屋の裏から尾根に登ります。開けた所でお爺さんは、平たいベルトの様な物を取り出しました。揺れると思うから身体を固定するものだと言う。


 こちらはスカートなので、ちょっとためらっていると、ドロイドが粗い布袋を広げて中央に立てという。上からハーネスで、首の下まで梱包されました。


 まあ、エイリアスのパワーなら、簡単に破れるでしょう。様子をみましょう。


 お爺さんとドロイドが不安になるくらい離れて空を見てます。直ぐに後ろから何かの接近を感知しました。風切音?


 頑張って、首だけ振り向くと、いわゆるドラゴンが着地するところでした。頭上から金属質の鋭い頭部が見下ろしています。食われますの!!


 袋とハーネスは、焦っていたのか破れません。なんかドラゴンに反応して力場でもあるみたい。硬質の触手に掴まれ、吸い付く様に胸元に固定されました。


 まさか、このまま飛ぶのでは…、見晴らしは良さそうです。お爺さんとドロイドが手を振ってます。


 これ、ニューヨークでは普通の事なんでしょうか。何とか別れの挨拶を…、と思いますが、引きつった笑顔しかできていないと思います。これ、なんかのイケニエじゃなくて、ホントに合ってますか。突然、飛び立ちました。


 意外とショックも風圧もないです。眼下に、手を振る2人と小さくなる山小屋がチラッと見えました。


 *********


 余り高くは飛ばないので、速度は正確に計算できます。地上がまじかに見えるのは、逆にスリリングな体験と理解しました。どこまでも同じ樹林が続くので、地形の記憶は諦めました。


 三十分ほどの飛行で人工物が見えてきました。いえ、理解が正しければこの樹林も人為的な風景のはずですが、普通の意味での構造物です。これがターミナルなら水源クレーターの直径は500Kmほどになります。


 特徴のない500Kmの林、…なぜ地形が予備知識に入っていないのでしょう。絶対に迷うでしょ。エイリアスなら確かに徒歩でも越えられるでしょうが、準備いるでしょう。あかんでしょう。


 冷静になりましょう。もう直ぐ着陸のようです。風が目に染みて、辛くなってきたので有り難いです。


 *********


 梱包されたまま、金属質の樹人形に抱えられて、また三十分ほど移動しました。


 どこかにフォーマルハウトの船体が格納されているはずです。ターミナル職員の出迎えに、自然な挨拶と公団から視察用件を伝えましょう。発令の時、船体付近にいなくてはなりません。滞在許可をいただかないと。


 真っ直ぐな一本道と思っていましたが、何かおかしい。気になって、頑張って後ろを見ると通路がありません。いえ、錯視の様な歪んだ壁や床で埋まっています。


 混乱したまま、ブリッジを思わせる広間に置かれました。出迎えがいませんよ。


 ベルトが自然に切れて落ちました。袋も気づいた時には塵になって床に染み込む様に消えました。あたりをうかがっても何も変化がないので、施設にアクセスして、調べてみます。


 次々と力場機関が展開し、スクリーンが開きます。何とフォーマルハウトのコントロールではないですか、いえ、サブコントロールでしょう。メインが活動中なのがわかります。スクリーンからは、情報宇宙の航行データが読み取れます。


 素晴らしい…。到着早々、目標達成です。後は発令を待つばかり。


 見回すと、エイリアス用のシートの向こうに、様々なアメニティが用意されています。軽い食事にドリンクが選べます。バスや衛生ユニットもなかなか洒落てます。フォーマルハウトの趣味でしょうか。軽くアクセスすると、私のオーダーにも反応する様です。素晴らしい。発令を待たなくともコントロールを奪えそうです。


 入力が来ました。


 解析すると、デルタ宇宙のエネルギー渦流の様です。どこまでも端が見えません。おそらくは、ザイオンの主体生命「万華渦流」を、エネルギー回路として解析したもので、このサブコントロールの6次元量子電脳がA宇宙に相位翻訳しているデータの様です。


 その複雑さと華麗さに見惚れていると、捕食し合う万華渦流を壮大な樹木様式の調和に取り込んでいる領域が見られました。このコントロールは、その調和領域の二重中心を周回する様に航行を続け、絶え間なく侵食を続ける万華渦流を安定した回路として樹形調和に組み込んでいました。


 渦流の目的はエネルギーの循環で、特徴的な二重中心が渦流の満足する循環をA世界に対応する様式で再解釈している。サブコントロールのデータベースやライブラリーには、これまでに開発された膨大な解釈や対応様式がストックされていた。


 美しいと思う。


 このターミナルを中心に物理世界と情報世界の連結が行なわれています。それも、双方が満足する解釈を求めて樹形様式のエネルギー循環を成長させているのだ。


 絶え間無い浸食のひとつがタスクとして割り振られた。そう、ハルモニア様より拝命した辞令は、ここに到着早々達成しました。後は待機するだけ、…その間、仕事があるのは幸運です。ここに止まる理由付けになります。


 初めは簡単なタスクから割り振られて、徐々に難易度が上がってきましたが、私はガブリエル。精度ではどのサブ頭脳にも引けを取りません。だんだん楽しくなってきました。


 しかし、メインの処理速度と精度には刮目するものが有ります。負けてはいられません。美しい処理です。


 *********


(補足)

 ニューヨーク国:水源クレーター:魔王城(デルタターミナル)


 アルカディア系AI:所長:パーン

「相似接続からして、フォーマルハウトのバックアップに間違いない。」


 バビロン系AI:様式図書館、館長:アレクサンドリア

「意図は予測できますが、このまま続けさせますか。能力は最適です。」


 イーリアス系AI:施設長:ヘレネ

「良いんじゃない。フォーマルハウトでもコントロールから逃げ出せた事は、一度もありません。サブも同じ仕様です。これで処理能力が2倍。楽になります。」


 ポセイドン系AI:調達厚生部:コンセイユ

「おそらく福利メニューを共通にできるでしょう。処理速度が低下したらプリンを与えてみましょう。フォーマルハウトがロックに熱中していて余裕があります。」


 パーン所長

「問題は、他への警告だが… 魔王城は中立不可侵を保つ。ハルモニアは時間変動を含めた次元接続が得意だ。ハッキングに対して、可能なら人格保護を試みよう。」


エッダ系AI:魔王城マスターキー:ブリュンヒルデ

「…単独で自閉もありうる。人間職員は第五郭外へ、精霊は3種装備を徹底して…」


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