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第27話: お母さんは良いものです

 

 明るい公園の丘の上にイグルーのようなシリカプラスチック製ドームが置かれている。ちょうど子供が遊ぶ洞窟遊具の感じだ。周囲に張られたカーボンロープには、たくさんの白い布が万国旗のように対流風に揺れている。


 公園は、列を作って行進するゴーレムたちが華やいだ雰囲気を醸していた。


 一方で、少し離れて監督と現場に出ていない工事ドロイドたちが円陣を組んで集まっていた。延長ケーブルの有線で繋がるマリオネットたちが、硬い表情でイグルーを囲み、音を立てないように見守っている。


 中のベッドでシルキーが具合を悪くしていた。


大事なドレスは綺麗に洗浄され、ベッド脇のマネキンに着せてある。周囲の万国旗は、柔らかく加工したフンドシおむつで、お腹を下したシルキーの世話を監督たちが24時間態勢で遂行している。


 保育カプセルを出たシルキーは、物珍しさからハイになって日に何時間も周囲を歩き、公園の構造を実地に確認してまわった。数日して急に発熱嘔吐し、体調が悪化した。監督は保育カプセルにシルキーを戻そうとしたが、一度隔離の破られたカプセルは、正しい滅菌洗浄処理のセッティングを経ないとセットできなかった。


 監督とチームは入手可能な医療データを読み込んで、マスターキー保育器の管理コアにも接続したが、シルキーは生物的に亜種すぎて正確な診断が出来なかった。せめて脱水症状の対策に水分補給を徹底し、応急水枕を作って体温調整している。


 今のところ用意できる食料は培養液の加工品だけで、繊維成分多めに調整したゼリーが、この公園唯一の食料だ。シルキー自身は、これまで食料のバリエーションをあまり重視してこなかったが、そろそろ自力での飲食が難しくなってきている。呼吸器と胃腸の発育が未熟な事が原因ではないかと監督は疑っている。しかし、監督の工事機械チームでは、誰にも医術的な解決策を設計できなかった。


 焦りだけが、工事ドロイドたちに拡がっていた。


 ********


 突然、公園の中央に強烈な閃光が奔り、鈍い衝撃音と雷でも落ちたかのようなオゾン臭が吹き抜けた。


 空中から落ちて来たのは、膨らんだ気密服かバルーンのような物で、拡張ジャンク機材の支持架にめり込んで止まった。よく見ると、デフォルメされたタヌキの絵が大きく描いてある。ノルンにもザイオンにもいない動物だ。


「いたっー、たた。ホントに着いたよ。八割外壁で止まると計算してたけど、やってみるもんだね。」


 膨らんだ気密服のバイザーを開き、マーレさんが顔をだす。手足がめり込んだ丸い塊から苦労して這い出して、薄明かりの公園を見回した。丘の麓を囲む工事ドロイドに動きはない。雪だるまの集団だけが、変わらずそこら中を行進している。


 マーレさんは、気密服のバルーンから大きなトランクケースと背囊を引き出すと、背後から忍び寄るクローラードリルを軽く手を振って止め、ブリュンヒルデのコードでフリーズさせる。出発前にロキ経由で昔のIDテーブルを補完してきた。アドリアーナは神槍(グングニル)の浅い階層のコードを持っていたが、オリジンがブリュンヒルデのロキから貰ったコードテーブルは、ぜんぜん効きが違う。


 背囊だけを手に、ダンジョン装備で丘へ駆け上がる。100メートルなど、本当に一瞬だ。


「お前が「監督」かい。待った。何もしないよ。お前らにも子供にもね。」


 周囲のドロイド達が、行動に出るのを手を振って止めると、周りを圧迫する建機と無目的に移動する人形オブジェ達を見回した。


 困った、発声で会話できそうな相手がいない。

 少し離れた大きな木の傍らでイグルーを囲む人影から、ひとりが進み出た。


「マーレ様でしょうか。お嬢様から伺った特徴と一致いたします。」


 グラマラスなマリオネットは、良く見ると頑固なケーブルで重機に繋がっている。ケーブルの支持繊維だけで人くらい持ち上がりそうだ。


「その娘のために来た。入れておくれ、状態は?」


 表情のないマリオネット達が道を開け、監督のマリオネットが先導する。


 60時間ほど前から、時々しか意識が戻らないらしい。天蓋付きのベッドにひどく小さな子供がいた。かなり衰弱している。格好だけだろうが、看護師のカチューシャをつけたアイドル風マリオネットが付き添っていた。マーレは、すぐ接触しての解析を始めた。


 ********


 持ち込んだ装備では不十分だ。子供の状態は予想以上に複雑で、ショーから伝わるイメージよりもずっと儚く脆い小さな子供。ナノマシンが多過ぎ、クローン元からの生体組織と人工細胞の融合が強過ぎる。


「私は療法師ではない。」


 マーレは、過去にこうして触れた多くの子供達を思い出しながらそう呟いた。でも、この身体を得てからも、それ以前のずっと昔の人格でも、アドリアの市民達と多くの子供が成長するのを傍で見てきた。


 多くは人間、いくらかはマスターキーやエイリアス達。この子は、そのどれでもあり、どれとも違う。しかも臓器の成長が未熟で、特に胃は痕跡程度に未発達だ。


 せめて治療院の調整槽があれば…。テレポートで子供を持ち出すのも選択肢の一つだが、面倒な…。マーレは、ロキとショーから個別に条件をつけられている。


 ロキからは、公園の桜の木を保護する事、回収にあたる和国側の条件だ。ショーの希望は、ここの工作ドロイド達の無事だ。この娘にとり大切な事だという。


 どれも納得の理由だが、子供の単独脱出を不可能にしている。全く面倒な事だ。

 だが、マーレは不敵に笑う。面倒な事だ…それは、私の大好物だ。必ず助ける。


 *********


 シルキーが持ち直して数日、公園では活発な改築工事が行われていた。


 目覚めると、だいぶ楽になっていた。最悪を考えて意識を埴輪ロイド達にも分散しておいたので、状況は記憶されている。


 初めて会ったマーレさんは、ショーの記憶にあるよりも、いろんな意味で大人に見えた。自分が子供だと思い知らされた…の方が正確かも知れない。


 最悪とは、勿論アレだ、…私の姉妹と同じコースをたどる事。その場合、埴輪ロイドやショーの中に私の意識が残るのか、もしくは普通に死ぬのか、わからない。そんなコトを試さずに済んで、結果オーライ。


 マーレさんは、まだ安心するのは早いと言うが、何というか、心底安心した。思ったよりも怖くて必死だったと、今なら思える。


 埴輪ロイドの視覚は大した事ないが、それでもマーレさん登場の瞬間を数の力で捉えていた。言ったよね、テレポート。それは、ヒーローと海賊にお似合いの登場方法! ホント正しかった。


 ただ、ひとつ言いたいことがある。応急治療の方法。…アレはないと思う。

 いや、この記憶は封印するので、無いんですけど、一度だけ言わせて。


 意識のない私をお姫様のように抱き上げてキスをした。(美化)


 ホントは、マウスツーマウスで口を塞ぐと、マーレさんのお腹の内容物(ゲ○)を一気に私の中に流し込んだ。意識のないはずの私の体がビクビク痙攣して、マーレさんは、私の顎を持ち上げると嚥下させる。(ゴックン) …迷いのない動き。コレがお母さんの技!


 後で詰め寄ると教えてくれたよ。


 人もマスターキーもお腹に菌だかナノなんかを数億単位で飼っていて、その働きで、ご飯をウ○コにしている。(女の子が言っちゃいけません)


 私は無菌状態で保育されていて、そんな調整が出来てなかった。これでは外界で生きるのは無理。それで手っ取り早く、お母さんのお腹の環境を植えつけたと。


 そんな単純な事ではないが、基本その繰り返し。いろんな抗体やナニカの共生マシンみたいなものを体に入れて、最適化する事で病気にも怪我にも男にも耐性ができるらしい。


 ゆとりも環境もないので、とりあえずお母さん(マーレ)から全部分けてもらう。


 その間にマーレさんは、監督達に設計指示を伝えて保育器から調整槽の代用品を作った。身体に入れたアレコレは自然定着するが、上手くいかないこともある。ナノマシン器官を調整するにも調整槽はあった方がいい。


 また、MMドライブの設置をやり直して、持ち込んだトランクに接続する。マーレさんがコントロールするための魔法装置だ。


 トランクが裏返り、人が乗れる程の黒い祭壇になった。ステッキのような備え付けの棒を中央に差し込むと、オーブの埋め込まれた魔法回路が祭壇の中に浮び上がり、瞬時に幾つもの量子魔法陣が起動して周囲に力場機関を作った。


 力場機関だけで接続しても良いのだが、ここは安全第一にナノボットを配置して接続する。数百メートル程度の規模なので、外殻全体にも物理回路を張り巡らす。


 祭壇は、マーレさんを乗せたまま力場の脚をワシャワシャ動かして公園の中央寄りに移動すると、この施設のだいたいの重心辺りで回路に接続した。


「このまま光速移動できれば楽なんだが、流石にムリだね。オーブボイド無しの力場機関だけとなれば、MMdもありがたく使わせてもらうよ。力で勝負にはならないから隠密に賭ける事になるしね。」


 シルキー的に素敵な笑顔のマーレさんには、惚れても良いんじゃないかと思う。お母さんのおかげでゲキ的に成長中。1日の半分を調整槽で、あと半分は一緒に行動してリンクで勉強中。毎日身体の変化が分かる程だ。髪や瞳に色が戻ってきた。


 オリジナルのナントカナ王女はプラチナブロンドらしいが、どう見てもプラチナ止まりのようだ。別にショーとお揃いだから、この方が気分がイイ。モンタとお揃いになる気は無いし。


 ただ、毎日どっかが痛い。成長痛の類いらしい。これもナイスバディへの一歩と堪えるが、寝る前にマーレさんがマッサージしてくれる。何かとても幸せ。


 覚えました。お母さんは良い物です。


 …物陰からグラマラスな監督のマリオネットが嫉妬してる。後で、フォローしておこう。建機の諸君はマリオネットの頭脳コアを取り込んだせいか、変に人間臭い性格に変わってきてる。私を助けようと、まだ増設してるみたいだし。


 こんな、ひと時を噛み締めていても、メインコーンの崩壊は止まらない。


 考えたくはないが、期限つきの幸せなのだ。



 *********


(補足)

 アース太陽系辺縁、宇宙気流ランプ:公団コロニー行き輸送船

 積荷船倉での会話


 ウリエル

「今度こそ襲われると良いですね。もう、3周目ですから。予算が厳しいです。」


 ラファエル

「不謹慎ですが、同意します。次はコンテナは無理です。トランクケースです。」


 ウリエル

「トランク…衛生設備はどうなりますか…オシメとか…気密服を手に入れましょう。だいたい、中身のわからないトランクなんか奪いますかね。」


 ラファエル

「同意します。そもそも、内部協力者がいながら、なぜ現地まで自力移動なのですか。確かに船体はあちらにいますが、まだ予備人格ですのに。」


 ウリエル

「傾向として小麦タンクに隠れるとヒットし易いかもしれません。チクチクしそうですが、そこは気密服でも借りればイケるのではないでしょうか。」


 ラファエル

「小麦は輸送中に乾燥調整するから干上がりますよ。気密服で頑張っても、どうやってタンクから出るんです。まあ、あと2周したら考慮しましょう。」


 ウリエル

「ミカエル、ガブリエルに遅れを取ったら、訓告では済みませんよ。」


 ラファエル

「仕方ないでしょ、海賊どもの基地の入り方が判らないのだから。受動接続でモニターできても航行コアにアクセスできないし。軌道データが録れない以上、略奪品に混じるのが最短との分析に間違いはありません。」


 ウリエル

「海賊、意外と働きませんね。保険料がさほど上がらない訳です。」

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