第23話: 未知への挑戦
エストハウスには、季節ごとの行事がある。準備から小さなお祭りのみたいで、みな楽しみにしている。短い夏が過ぎて、ザイオンでも冬は来るようだ。
ザイオンの空はいつも霞んでいる。夜は近隣の太陽からの光と宇宙気流の反射光が、薄っすら渦巻く金の偏光になって霞んだ夜空を彩っている。星団の星間物質のため、地球のような星空は見えない。でも、この季節だけ雲の間から、連星ノルンがよく見えて、なかなかの眺めになる。ノルンからは年の半分くらいザイオンが見えるそうだが、赤茶けた大地が多くてノルンほどキラキラして見えないらしい。
今、エストハウスはハロウィンの飾り付けで忙しい。しかも、この二週間マーレさんとブレイズさん達はダンジョンに入りっぱなしだ。
それだけで見当がつきそうだが、その通り。ジャックオーランタンでも十分に通用するカボチャの魔物がいて、こちらの旧ダンジョンの奥のエリアで獲れるそれは、西ダンジョンより品質が良い。特に乱獲を逃れて成長した数年物は80cmを超える物までいて傷の入った色艶風合いも良し、食べても美味しいらしい。
西ダンジョンがおもに鳥系魔物の収穫で忙しい事もあって、立派なお化けカボチャはマーレさん達の独壇場に近い。エストハウスの大切な収入源だ。
バゴによると、本物のカボチャもドームハウスで栽培されているそうだが、何しろ数が追いつかない。貴重品で遊ぶわけにはいかないらしい。
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この所、中の自分がオカシイ。これが初めてでもないし、大体いつもおかしいのだけど、それと違う感じでおかしい。
なにをいってるのだろうか…。記憶を共有していると言っても、ずっと考えが見えてる訳ではない。データリンクした別人格みたいな感じ? そう、どこかに確かに存在している一人の「人格」として彼女を認めている。
自分だけでない、彼女の置かれた状況が、どこかに実体としてあるならば、彼女にも彼女の必要がある。ボクが助けてもらってるように、彼女にもボクの助けが必要なはずだ。
だから、ロキやバゴのパンツの構造を至近距離で触感を含めて解析しろとか、子供用のチョットセクシーなドレスの型紙とか、髪や眼の色を変える方法とか、炭素繊維でニットの編み方とかの欲求が割り込む度、何とか上手に対処しようとした。
コッソリ、自分一人で解決しようとして即座に破綻したので、正直に相談した。
ロキもマーレさんも、理由は理解してくれたと思う、誤解はないはずだ。その結果、ボクのパンツも小さなリボンの付いた女の娘モノになってしまった。バゴは気を使ってか何も言わないが、パンツを履かせる時の眼つきがおかしい。そこまで集中する事だろうか?…。
頭の中の彼女は、ボクよりもずっと要領がいい。ボクには考えを読ませなくなり、欲求だけが上手にボクの中に割り込まれている。
それに、本当の不満は、そんな事じゃないことも気がついている。やっぱり不安なのだ。だから、今度のクリスマスにボクは、彼女に贈り物をする事にした。意識的に隠しておくのは難しいが、考えをこっそり持っているくらいはできる。
彼女に名前を贈ろう。
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公園の宇宙船化計画は、動力源を除いて順調だ。
プラットフォーム用のMMドライブユニット予備部品から推進機だけ内部隔壁の四隅に取り付けた。あのアダムスキー円盤の下についてる球体の事だ。とてもじゃないが、公園を飛行させるには推力不足だが、コントロール次第では姿勢制御ができる。
水と空気の循環システムは、ちょっと修理すれば使える物が本体にいくらでも残っていたので、丁度よい物を公園に組み込む。電源は、頃合いの電池を集めて外殻外側に取り付けた。コロニーの補助動力は、実は熱電池、それも主にプルトニウム電池だ。
コロニー船の主動力は核融合で、発電所は住居コーンの両端から飛び出した専用区画に設けられていた。これは三年前に真先に爆破されている。
補助動力の熱電池も同じように船外に少し離して置かれていて、こちらの保守は現場監督たちマシンドロイドの管轄。数もあるし扱い慣れているので問題無いが、コーンの回転に影響が出ないように注意して回収する。コロニー船は動力飛行をせずに、ただコーンの回転重力を維持するだけなら、さほどの電力は必要ないのだ。
でも、熱電池が原子力でも、やっぱり電池、船を動かすには不足だ。おまけにメンテしていると言っても、これだけ時間が経つと流石に出力は半減している。
それでも、ありったけ集めてMMドライブに繋ぐことも考えたが、監督とマスターキーの知識で考えてもうまく行きそうな気がしない。
MMドライブ自体の重量が大きく、機関的にも瞬時に起動する物ではない。動き続ける質量を周波数的にコントロールする原理だから常時電力が必要で、たくさんの電池は更に重量になる。しかも、放射線は探知されやすい。
それと、…洗濯の時が近づいている…[言語エラー]… 選択の時が〜…以下略。
このままカプセル幼児でDデーを迎えるか、保育器を出るか…。結構怖い。
いままでも決断をノビノビにしてきたが、締め切りは無情だ。大昔の漫画家とか余裕に見えたけど、どうしてたんだろう。
ジャンク保育器全体が、コロニー破砕の衝撃を無事乗り越える可能性は小さい。私のカラダは、小さいなりにも、まともな子供らしくなってきた。子供一人を守る緩衝コクピットを作る方がうんと確実だ。それにカモシカのような手足を成長させるのはナイスバディに絶対必要。…?、カモシカが解らなくて検索したが、何だコレ、ズンドウな獣が出てきた、こんなだったかな、まあ良いや。
ともかく、ナイスバディにスラリとした四肢は極めて重要だ。
出るべきだ。でも、怖い。
この点、私に甘々な監督たちは役に立たない。
私がしりごめば、即、戻してしまうだろう。本当の最後が来るまでは…。
だから、いままで遠回りにでも手順を整えた。
カプセルを出たなら、まず、何が必要か? …服だ。
私はモンタの様にはいかない。レディーは公園破滅の日など知らない。その時は、監督たちと一生連択…?…一蓮托生だ。だから、服が必要なのだが、ここに居るのは武骨な工事ドロイド共だ。外壁の工事用シートはいくらでも作れるが、そんなモノ着られるか? ダンボールの方がまだマシだ。コロニーで天然物のダンボールといえばソコソコ貴重なのだ。
マリオネットの着ていた衣装は古いが使える。
でも、埋葬されていた人形の服だよ…、嫌じゃない?
デネブの精霊石がこっちにあれば作れそうなのに、錬成魔法陣まではコピーできても、分子固定機関の錬成鍋は無理だった。精霊石を作るのは、マイクロボイドが手に入ったから不可能ではないはずだが、相当な高エネルギー環境での操作だろうと見当はつく。ノウハウもそうだけど、その高エネルギーがないっちゅうの!
結論、できることをする。
カプセルを出る…それには、やっぱり服がいる。服を作ろう。
再度、志願者を募った。監督とチームはマリオネットで円陣を組んで気合いの入った相談をすると、ウイスパーコームとかいう新人が名乗りを上げた。スパイダーかと思ったら、彼はカーボンワイヤーのプロであって糸は無理らしい。チョット落ち込んでいる、後で慰めておこう。
ウイスパーコームは、ナノマシンの極細針で色々な分子レベルの表面加工をする職人さんで、シートの表面を撥水したり吸水したり毛羽立たせたり、通気性を残して水を通さないなど色々できるらしい。櫛状の可変ローラーを広げると、その場でシリコーンゴムから器用に薄いフィルターを作って見せた。ゴムだから改良の余地はあるが、希望がもてる。彼を中心に特命チームを任命した。素材から織り方まで工事建機には未知の挑戦になるだろうが、頑張ってほしい。
一斉に敬礼するマリオネット達を観ながら誇らしい気持ちになる。彼?…彼女らなら、必ず幼女にもセクシーなドレスを完成させるに違いない。監督には、エロ本に混じって回収した編み物やコスプレ図鑑をデータ転送しておく。少し不安感が薄らいだ。
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(補足)
トーラス気流内縁、氷殻コクーンドック、皇宮艦・探査艦母艦デネブ、近傍
公団艦隊:接収先遣分隊での会話
「ただ本部からのキー到着を待つのは、分隊の士気にかかわる。調査しよう。」
「氷殻の大きさから第二船体が展開しているようだ。何にしても、下からしか入口は無い。ドック内部に何が繋留しているのか調べよう。もしもポーラスターだったら大金星だ。褒賞だけで一生楽に暮らせかも知れんぞ。」
・・・
「氷殻がおかしくないか…、こちらの繋留ロックに伸びてる気がするんだが。」
・・・
「皆、気密服の損傷が多いのだが、注意してくれ。補修も予備も残り少ない。」
「こちらの機体に氷が入り込んでるぞ。事故になるから、全部剥がしてくれ。」
・・・
「機体のコントロールを奪われた! ただの氷じゃないぞ。船体に侵食!ヤバイ」
「船内が迷路化している。気密服とキャスターがもう無い。居住区を守るぞ。」
「アラート出ない。…勝手に定時連絡が出ているみたいだ。どうなってるんだ」
「孤立するな。食料ルートだけは守り抜くぞ。雪人形に騙されるなぁ、注意!」
・・・
デネブ管制内郭:6次元量子電脳キグナスα:キャラクターコア
「勉強不足ですね。6次元の液体コンピュータには氷バージョンがあります。さあて、氷迷路に氷ワーム、催眠光線もありますよー。頑張ってクリアして下さいね。真の姿を見せて、三つのシモベを呼んじゃおかなー。」
(精霊石にて相似量子通信)
アンタレス、レグルス、アルデバラン
@:£:& … [[[ 誰が僕やねん! ]]]
デネブ
^_^ … 返事した、おまえらだ! アルビレオも居るし、も少し、頑張るよー。
フォーマルハウト
§……[ 誰がシモベやねん! ] …あれ?
軌道工作艦:アルビレオ:エイリアス:アルビレオ
「ハズレ感が凄いなー、コレが伝説の<オベロンの呪い>かー。実在したんだ…」
デネブ
「やめといてあげて。精密度は最高なのに…オリジンが大樹の私も、ツライ。」




