《5》
「はーい」
「夜分に失礼。ここにアーシェ・イリナがいると聞いて来たのだが…」
目の前にいたのは、まさかのキリア王子!?
しかも付き人なしの1人!?
なぜここがわかった?
ってかなにしにきた!?
やっぱり指輪売ったのまずかった!?
「突然すみません。少し話をしたいのですが、アーシェ?」
「あ、はい。お濡れになったでしょう?今タオルを持ってきますね」
「あぁ、すみません。」
ど、どーしよ。とりあえず中に入れちゃったけど…。王子をぬれまま放置なんてしたら次こそは国外追放までされそうだし。
「はい、タオルです。2階かリビングになりますので2階へ来てください」
とりあえず暖かいお茶でも入れて、話を聞くしかないか。こんなイベント想像したなかった…。ってか今頃あの令嬢と結婚してるんじゃないの!?
「タオルありがとうございました。ここに座っても?」
「どうぞ。安物のお茶ですが暖まると思いますのでよければ」
「少し冷えたので助かります。アーシェもどうぞ座って下さい」
なんか、さっきからすごく違和感。なんだろ?キリア王子ってこんな感じだったかしら……
「話というのは、謝罪をしたかったからです。何も考えずミリハ・シュイーナ令嬢の言葉を鵜呑みし、城から追い出してしまったことを謝罪しにきました。今考えればあなたがハメられていたのだろうとすぐ気づけるはずなのに僕は何も考えなしに、本当に申し訳ない」
んんんん?
なぜ今更謝罪に??
あれから2ヶ月も経つのにどうした?
それにこの方は本当にキリア王子なのか??
あの俺様王子がこんな話し方なんて違和感しかありません!!
「頭を上げください。きっと私にも何か落ち度があったのです。今の生活楽しくて気に入ってますの。気になさらないで下さい」
「本当に申し訳ない。君の人生を壊してしまって。ここで子どもを預かる仕事をしていると聞きました。何か困り事はありませんか?」
やっぱり何か変!!
あの俺様単純バカ王子が敬語で相手を心配し、考えるなんて!ハッピーエンド後もとにかく俺についてこいって感じでこんな優しさはなかった気がする…。
2ヶ月でこんな大人になるのかしら…??
「ありがとうございます。キリア王子、今のところ特に困り事はありませんわ。キリア王子は何だか少し変わられましたね。ご結婚されたからですか?」
「結婚?とんでもない!あんな事をする令嬢と結婚なんてする訳ないですよ。結局あの令嬢は王子の妃としての立場や権力が魅力だったようなので…」
落ち込んでる。あの俺様単純バカ王子が。
なんだかゲームで見る事のなかったキリア王子なので可愛いく感じてしまうわ…
「キリア王子でも落ち込む事があるのですね
いつも自信家のお方だったので意外ですわ」
「僕にだって…。まぁ以前の僕はそうでしたね。今は人並みに落ち込みますよ。本当にあの頃の僕はただのバカ王子です」
人が変わったみたい。頭でも打ったか?それとも令嬢からの気持ちがそれほどショックだったのかしら…
「アーシェ。何か困り事があったらいつでも言って欲しい。君の力になりたい。ここは暖かく、なんだか懐かしさもあってとても居心地が良い。保育園みたいだね」
「そう言っていただけると嬉しいですわ。保育園とまではいきませんが、暖かい託児所にしたいと思っていますの」
私がそう言うとキリア王子は嬉しそうに笑った。何がそんなに嬉しいのかしら。
「アーシェは保育園を知っているんだね?」
何も考えずに返事をしてしまった。
この世界に保育園なんて単語はある訳がない。ならなぜキリア王子がその単語を知っていたのか?嫌な予感しかしない。
「アーシェ。もし違っていたならすまない。君も前世の記憶というものがあるんじゃないかな?」
はい。嫌な予感的中です。
キリア王子も転生というやつです。
「とりあえず僕の憶測で話をするよ?君が追放イベントを反論せず受け入れたのは既に記憶があったから。だから出ていく為の準備も事前にできたんだよね?いつから記憶があるかまでは知らないけれど、ここの託児所を見てると保育園と同じようなつくりだ。君は前世では保育士かな?実は僕もなんだ。だから余計にここを懐かしく感じたよ」
急に嬉しそうに話だす王子。
今までバカ王子と思っていましたが、結構頭がまわるタイプに変わったような…
「そこまで言われると誤魔化すのは難しそうですわね。私は数年前に記憶をもどしてます。仕事の事などは覚えていますが、どうやって死んだか、あと名前などは思い出せてませんの。お城生活より町娘生活の方が自分に合ってるので追放イベントを受け入れたのです」
「そうだったんですね、僕は1ヶ月前に記憶が戻りました。あの令嬢をお披露目するパーティの前日です。おかげでパーティする前に婚約破棄ができたのですが、あなたに謝罪がしたくて探しまわっていました。前世は保育士をしていて、名前は奏斗だった気がします。このゲームは彼女がハマっていましてそれで僕も覚えていました。そのおかげでいろいろな事に気づけたんです」
「そんな記憶まで残ってるんですね!私は彼氏がいたかも知りません」
「なんとなくで覚えてはいるのですが、顔や名前は思いだせず…。まぁ思い出さない方が悲しむ事がないのかもしれませんね」
「確かにそうかもしれませんわ。思い出してあいたくなったら切ないですもの」
「アーシェ、これからもお忍びで来てもいいかな?前世の記憶がある仲間としてこれからは友達でいたい。本当は城へ戻ってきてほしいけど、町娘生活をしたいというアーシェの気持ちを優先したいからせめてお忍びでこさせてほしいんだ」
「えぇ。以前のキリア王子は実は苦手でしたの。でも今のえっと奏斗さん?でしら友達になりたいわ。保育士ならきっと子どもも好きでしょう?お忍びで癒されに来てください」
「あぁ!ぜひそうするよ!何かあったらいつでも頼ってほしい。友達としてできることするからさ!長居して申し訳ない。明日も仕事だろうに。また来るよ」
「そうですね、さすがに王子となる方を泊めるのは少し周りの目もあるので怖いですわ。せめて新しいタオルだけでもお持ち下さい」
「アーシェは本当に優しいですね。ありがとう」
そう言ってキリア王子は家を出ていった。
まさかキリア王子も前世の記憶持ちになるとは驚きだ。保育園というひっかけにまんまとひっかかってしまったが、良い結果だったのでよしとしよう!
キリア王子が最初からあのような性格でしたらお城生活もきっと過ごしやすかったでしょうね。まぁ今となってはこっちの生活が楽しいのでいいですけど!
さて、明日の3兄弟の受け入れ準備をして寝ますかね。