マイワールド
「努力しても報われないって、どういうことなのかしら」
そう言いだしたのは、この間行われた中間テストの結果を見ながらぼやいた、部長だった。
部長というのは、演劇部の部長である。
「そんなに悪かったんですか?」
「べ、べつにっ、わ、悪くないわよ!」
必死の反論だった。
まあ、深く追求しないことにしよう。
現在、部室には俺と部長の釘宮あゆみの二人だけだった。
「そういう、神原くんこそどうなのよ」
神原健二、それが俺の名前だ。
テストネタは、まだ続いていた。
「まあ、学年順位の中間くらいですかね」
「ふ、ふーん。ようは普通ってことね」
「ええ、まあ。部長はどうですか?」
結果として、良くないのは分かっているが、あえて聞いてみる。
「ふ、普通よ。普通、問題ないわ」
ま、大方予想はついていたが。見栄を張る部長だった。
努力しても報われないって言った時点での俺なりの憶測だが。
「それはなにより、では最初の、『努力しても報われない』というのはどういう意味ですか?」
「それは……。テストに限らず、いろいろな面でのことでよ」
「努力はいつも報われるとは限らない、ってことですよね」
「それは、わかりきったことなんだけどね。何を今更的な話だけどさ」
「まあ、わからなくもないです。頑張ったのに成功しないって、納得できないですよね」
「そうよ、それが言いたいのよ」
実際に、受験などで、合格のために勉強したけど結果は不合格、というのは
ただ単に、実力が足りてなかっただけのこと。
それでも、一夜漬けの勉強で合格した人が身近にいれば、納得できないかもしれない。
そういや、いたな、知り合いに。
「日直で遅れましたー」
ちょうど入ってきたのは、今言った『一夜漬けの勉強で合格した男』の佐藤雄二。
元から学力があったのもだが、授業ろくに聞いてもいない上に、毎日のように遊んでいたことを考えると、必死の勉強で合格した俺からしてみれば、納得ができない。
「雄二は何かあるか? 納得のいかないこと」
荷物を置き、椅子に座る雄二に話しかける。
「納得のいかないこと? んー……強いて言えば、提出物やテストの点数が平均点以上なのに、好き嫌いで成績をつける先生、かな」
「……そういやいたな、そういう先生。中学のときに」
「健二は好かれてたから、それなりの成績だっただろ?」
「まあな、おかげで助かったけどね」
「ちょっとそこ、二人の世界に入らないの! 私も話に混ぜなさい」
いきなり、ついていけない話になったからか、部長が不機嫌気味に言う。
「すいません部長。部長が納得いかないのは、努力したのにテストの結果が良くなかった、って話ですよね」
「い、言うなぁああああぁあっ! というか、私の成績は普通だったと、先ほど言ったばかりでしょうが!」
「ああ、そうでしたね。というか今、自分から肯定したようなものですよね?」
段々と不機嫌になってくる部長。
よほど、悔しいのだろう。結果に。
「何が普通なの?」
そう言いながら、部室に入ってきたのは、部長と同じ三年生の坂上沙希だ。
「ぅぐ、なんだっていいでしょ。なんだって」
「そういえば、今回のテスト、せっかく教えたのに、ダメだったみたいね」
「い、今言わなくったっていいでしょっ! 後輩だっているんだし!」
それをわかってて、あえて言っているんだと思う。
こういう関係って、たまに小説やマンガとかに出てきそうな感じだよな……。
「赤点を免れただけ、マシだと思うけどね」
「沙希ってば、絶対意地悪で言ってるでしょ」
「ええ、それが私の生きがいだから」
「何その生きがい!? もっとマシな生き方を見つけてよ!」
「私からコレを取ったら、何も残らないのよ」
「どんだけ!? 私、あんたの中で、どんだけ大きな存在なのよ」
「アリと同じくらい」
言いながら、人差し指と親指で、このくらい、と見せる
「小っさ! 私の存在ってアリ並なの!」
「ごめん、ミジンコ以下だったわ」
「余計最悪なんですけど!」
部長は、不機嫌になったのか、そっぽを向いてしまった。
「私の一番の納得のいかないことは、なぜか皆が私を馬鹿にしてくることよ!」
「あらあら、かわいそうに」
坂上先輩は、部長の頭に手を置きながら言った。
「一番の原因がそれを言う!? 白々しいわね」
「どこにでも必ずと言っていいほど、『イジラレキャラ』というものはいるわ。本人の了承もなしに、でも、あゆみはそういうの、好きよね。だから私は、心を鬼にして、あなたを罵倒し続けるの」
「勝手な思い込みでしょ、それ! 全然好きじゃないわよ! 勘違いも甚だしいわっ!」
「そんな!? 私が今までやってきたことって、いったい……」
「何その驚き!? 当たり前でしょ、そんなの! いじられるのが好きなんて思ったこと、微塵もないわ」
「私たち親友じゃない! 馬鹿にしないから、本当のことを話してっ」
目に涙を浮かべながら、叫ぶ坂上先輩。
ある意味、感動のシーンのように感じられたのは、俺だけなのだろうか。
「その言葉が、すでに馬鹿にしてるのよ! イジラレキャラが、どんだけ傷ついてるのかがわからないの!?」
「ええ、わからないわ」
「即答!? そこは、『わかったわ、ごめんね、もうしないから』とか言って、仲直りするシーンじゃないの!」
「それじゃ、つまらないじゃない」
「面白い云々よりも、友情を大切にしようよ! このままだと、あなたと親友でいられる自信がないわ!」
「私にはあるわ」
「何を根拠に!? 私が自信をなくした時点で、仲は最悪の状態よ!」
「大丈夫、心配しないで、私があなたを目覚めさせてあげる」
「何をよ!? 目を覚ますのは、沙希の方よ!」
いつまで、続くんでしょう、この話。
「まあ、そんなことより、何の話をしてたの?」
坂上先輩が、いきなり振り返って、話しかけてきた。
「そんなこと!? 今の話を、そんなことで終わらせちゃうの!」
「ごめんなさいね。二人きりになったら、ゆっくりと、調教してあげるから」
「なにその危ない発言! 危険ワードよ、それ!」
そのあとの部長の文句を、普通にスルーする坂上先輩。
……この人は。
「えと、努力しても報われないのはどうしてだ、という部長の発言から始まりました」
「ふーん。努力しても、ねえ」
坂上先輩は、チラと部長を見る。
部長が「何よ」と言ったのに対し、「別に」と答える坂上先輩。
「先輩にも、思い当たる節はあるんですか?」
「ん? いっぱいあるわよ、人生生きていく中で、そういうのは特にね、まあ、いちいち気にしてはいないけどね」
まあ、そうかもしれない。
自分の思い通りにはならない、ってのもよくある。
だからどう、ってことはないのだけれど、先輩の言う通り、いちいち気にしても仕方のないことなのだろう。
「たとえば、こういうのってのは、なんですか?」
「たとえば、ねえ……。好きな人に告白するために、がんばって綺麗になったのに、見事にフラレたってことかしらね」
「先輩にも、そういうことって、あるんですね」
「見た目より、内面を見る人だったんじゃないかしら!」
ここぞとばかりに、部長が割って入ってくる。
「黙らっしゃい! どちらもアウトなあんたに言われたくないわ」
「ふ、ふん! こう見えても、私だって告白されたことはあるわよ」
「あれは変なおっさんに、でしょ! 変な勧誘の」
「な、ナンパだってあるわよ!」
「迷子に間違われただけでしょうが」
二人の言い争いが、再び始ってしまった。
「あ、あのぉ、何かあったの……?」
入口の所に、俺や雄二と同じく二年生の島田薫がいた。
「別に、気にすることじゃないよ。なんだかんだ言って、仲の良い人たちだから、すぐに収まるだろ」
しかし、こう見ると、姉妹に見えるかもしれない。
同い年だけど、部長が小さめの見た目小学生。坂上先輩は普通なのだけど、部長との身長差があるから、姉妹に見えてしまう。
わが、東乃学園演劇部は、全員合わせて9人。
秋の学園祭に向けて頑張っています。
しかし、結局練習を始めたのは、30分後に顧問の先生が来てからだった。
この小説を読んでいただき、ありがとうございました。
今回も短編として投稿しました。
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