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極道芸術怪綺奇譚  作者: 六年生/六体 幽邃
3部 ある芸術家の哀しみ
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11章 Fall Leaves


 11章 Fall Leaves


 小学生の頃に触れた学校の怪談。

 まことしやかに囁かれる都市伝説。


 極道になってからは馬鹿馬鹿しいと鼻で笑ってしまうような話。

 それらを洗練させ、服に仕立て上げた物。


 それが、華風がFall Leavesというブランドに抱いた第一印象だ。


 ●

 

 幾つか並べられた日本人形がこちらを見ている。


 そう広くはない店内に様々な服が置かれている。

 男女両方を扱っているらしく、若い男女が品物を見ている。


 男物は黒を基調としたスーツのような服がある。

 女物はフリルが沢山着いた物や、着物のような服が多い。

 

 どちらにも、何とも言えない不気味な雰囲気があった。


 泥染は居心地が悪そうに空を睨んでいる。

 華風も同様だ。


 月影と雪白は真剣に服を選んでいる。

 意外な事に犬養が適切な感想を述べていた。


「サイズどう? 腕上げてみてー?」

「はーい、大丈夫です」

「黒で黒やと真っ黒やな……。何か差し色入れよか」


 3人がこちらを見た。

 服を2着、こちらに見せる。


「2人共、どっちが良いと思う?」

「うぐっ」

 

 月影の問いに華風は言葉に詰まり、泥染は硬直した。

 ブランドを知ってはいるがセンスがある訳ではないのだ。


 ましてや月影相手に何を言えるのか。 


「……み、右ですかね」

「そっか!」


 思った通りに答えると、それで満足したのか月影は華風の選んだ服を手に取った。

 雪白が礼を言って、こちらに近付いてきた。


「華風君は何か買う? 後でお金返してくれればいいから一緒にお会計するよ?」

「いや、大丈夫だ。ありがとな」


 仕事中である事を気遣ってくれたのか雪白がそう聞いてくる。

 それを丁重に断り、改めて店内を警戒しながら見る。


 ふと、奇妙な人集りが目に入った。


 店の一角が騒がしい。

 客と思わしき女性達が誰かに話しかけている。

 

「あら、いいじゃないのー。似合うわよぉ」 


 若い女性に混ざって30代後半程の男が1人。

 女の口調で女性客に服を見繕っている。


 試着室から出てきた女は見違える程に美しくなった。

 身に着けている物は大きく変わっていない筈だ。


 身に着けているものからして、ここの店主だろうか。

 華風は資料の内容を思い出す。


 哀矢 楓。

 Fall Leaves、ファッションデザイナー兼オーナー。


 要するに、この店の、そしてブランドの主だ。


 ●


 服の役割は寒さや熱さを防ぐ事だ。

 それに芸術を見出したのはいつからか。


 動物の羽や染色。

 繊維技術、そして縫製技術は進化を続ける。

 

 その最先端を身に着けられるのは未だに限られた人間だけだ。

 服の為に体を作り上げた、選ばれたモデルだけだ。


 主役は服? それとも人?


 ●


 外の空気を吸いに行く、と1人で店の外に出た。

 月影は新鮮な空気を思い切り吸い込む。

 

 ちら、と店内を見れば雪白が皆に服の意見を聞いていた。

 楽しそうで何よりだ。


 店の中から服を買った客が出てくる。

 それぞれの個性が見え、目が楽しい。


 事件の事は考えずに、月影はFall Leavesについて考える。


 特徴的なのはやはり、得も言われぬ個性だろうか。

 それらしきモチーフを表に出さず、色とデザインと縫製で不気味さを出している。

 

 夜中の日本人形のような不気味さ。

 店内に置かれている怪談をモチーフにした飾りやオブジェ。


 事件のニュースと相まって、不気味さは引き立てられていた。

 ここまでは一見しただけで判る情報である。


 月影は別の物を、閉塞感を感じていた。

 それは何故か――。


「おひとりですか」


 声をかけられた。

 喪服を着た、40代後半程の男だ。


 月影は男の姿に見覚えがあった。

 確か従兄弟叔父と同じ会社の――。


「鬼門さん?」

「お久しぶりです。20年ぶり位ですね」


 月影は勢い良く鬼門に近付く。

 それを抑えるように鬼門が両手を上げた。


「あの」

「八瀬の事でしょう」


 こちらが聞きたい事を見透かすように鬼門が先に言う。


「すみません、調査を打ち切らせたのは我々です」

「えっ」

「その、秘密裏に動かなければいけない案件だったもので」

「……あー、葬儀屋さんですもんね」


 客の要望によってはそういう事もあるのだろう。

 月影は己の不明を恥じた。


「暫く海外に出なければいけないので無事だけでも伝えて欲しいと」

「わかりました。すみません、お手数かけて」

「いえ、こちらも知らせるのが遅れてしまって」


 互いに謝罪を終わらせた所で鬼門が話を変えた。

 店の中を不思議そうに見ている。


「ここで何を?」

「彼らの買い物に付き合ってて。ちょっと人に酔ったので空気を吸いに」


 調査の仕事である事、極道になった事は流石に伏せた。

 ここで言うべきではない事だ。


「……そういえばこのブランド」

「知ってます?」

「ニュースでも流れてましたからね」


 鬼門の目が少しだけ鋭くなった気がした。

 その反応に月影は首を傾げる。


 携帯電話の音が静寂を破った。

 鬼門がすぐさま電話に出る。


 何やら短く会話をした後、こちらに向き直った。


「すみません、仕事が入りまして。ここで失礼を」

「あ、いえ。ありがとうございます」


 月影は鬼門に礼を言う。

 薄い笑みの後、鬼門が表情を消し忠告めいた言葉を吐いた。


「……気を付けて、血の臭いがします」


 そう言って鬼門が立ち去った。


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