9章 焼相、そして来世
9章 焼相、そして来世
眩しい。
朝日を浴びて雪白は目が覚める。
布団だ。
連れ去られる前に自分が寝ていた布団だ。
隣で犬養が毛布もかけずに転がっている。
起こさないようにそっと毛布をかけたが、眉根を寄せながら起きてしまった。
「起きたんか」
「うん」
ペタペタと犬養が雪白に触れる。
異常が無い事を確認しているのだろう。
しばらくすると犬養の手が離れた。
ホッとした表情を浮かべる。
「その」
雪白は一瞬口籠る。
様々な感情が去来し、言うべきか言わざるべきか迷い、口を開いた。
「湯葉が食べたいねー」
「!」
犬養が抱き着いてきた。
雪白は何も言わずに頭を撫でる。
●
「雪白君はもう温泉に心残りは無いかな?」
「はい! 兄さんも入った?」
「入ったよ! もう心残り無いよ!」
「いや、いつでも来れるんやけどな」
旅館の玄関で行われる会話に蛇塚がツッコミを入れた。
考えてみれば同じ市内の施設であった事を思い出す。
組員達が忙しなく、荷物を車に運び込んでいる。
チェックアウトを済ませ、月影達は玄関ホールで作業が終わるのを待っている。
月影は見送りの従業員に声をかけた。
ペンだこが目立つ、不思議な雰囲気の従業員だ。
「お世話になりました」
「またのご来館をお待ちしております」
従業員が頭を下げる。
同時に、作業が終わったようだ。
車に向かって歩き出す。
「ありがとうございました」
挨拶だけではない、万感が込められた挨拶に思わず振り返ろうとする。
それを思い留まり、月影は車に乗り込んだ。