異世界転生にご執心!
また思いついたネタをテキトーに短編として書いてみました。
――ある日突然、ヲタク仲間の一人が行方不明となった。
神隠し……と言うのが一番近いだろう。それも当然だ、なんなって風呂の湯舟ごと姿を消したのだから。
これほど異常性は無い、警察なども必死に捜索したが見つからなかった。
それも当然だ、俺にはこの異常事態がはっきりと理解出来る……アイツは――
「くぅぅぅあの野郎やってくれたぜ! ヲタクの憧れ “異世界転移” しやがったなぁ⁉」
この日本に存在していないのだから、いくら探そうと見つかるわけはないんだ。
間違いなくアイツは異世界に転移したんだ、でなきゃこの異常事態が説明つかない。羨ましい限りだ、今頃アイツは可愛い女の子たちに囲まれてハーレム状態のはずだ。いいよなぁ~俺も可愛いウサ耳っ娘の獣人と仲良くなりたいもんだ。
しかし友人が忽然と姿を消したとしても、俺の日常は変わらない。今だって、普通に登校の最中だ。
教室に入り、いつものように自分の席へと座る……すると珍しく、クラスメイトが話しかけてきた。
「おはよ。倖月ってさ、確か佐藤と仲良かったよね? 彼の行き先に心当たりないの?」
「ん……俺にも虎太郎がどこに行ったのかは分らない」
「そうなんだ。見つかるといいな、じゃ」
クラスメイトの質問に生返事気味に返す。
クラスの皆と仲が悪いわけじゃない、けど仲が良いってわけでもない。友人ではないけど、見知った顔のクラスメイトでしかない。
クラスの中でも唯一、友人と呼べるのが異世界転移を果たしたであろう『佐藤 虎太郎』だけ。だから普段会話をすることのない俺に質問してきたのだろう。
しかしなぜか皆、曖昧な返答したせいか俺が落ち込んでいると勘違いしたようで、励ましの言葉をかけてくる。あげくには先生までもが『倖月、気を落とすなよ。佐藤はきっと見つかる』なんて朝のHRで言う始末。先生……心配しなくても、今頃アイツはハーレム状態でウハウハでーす。
――退屈な授業を終え、下校する。
アイツ……虎太郎の事を考えると憂鬱になってくる。なんで俺じゃないんだろうな、そんなことばかり考えながら歩いていた。
「はぁぁぁぁ……俺にも女神様の祝福が欲しいぜぇぇ……はぁ」
「ちょ、ちょっと君! 危ないよ!」
「 虎太郎って、何気に凄いからなぁ……そこが認められて転移したのかな~」
「君聞こえてないの⁉ そのままだと――ッ危ない!」
「へ?」
帰り道で交差点を歩いていると、突然誰かにタックルされる。
どうやら考え込み過ぎて前方不注意となっていたらしく、交通事故を起こしかけてたみたい。それを近くに居た人が身を挺して助けてくれた。その人と俺は縺れ合うようにして倒れ――
「何やってるのよ⁉ 車が来てたの見えなかったの? 危うく轢かれるとこだったのよ⁉」
「え? あぁ……そう」
「様子が変だけど、もしかして倒れた時にでも頭でも打ったの? 私のせい? ちょっと大丈夫なのよね?」
俺は倒れたまま呆けていた――いや、あることを思っていた。それは助けてくれた人物が放った『轢かれる』という言葉に心を奪われていたからだ。
友人である虎太郎は異世界へと “転移” した。ならば、ある可能性を俺は失念していた、それは『異世界転生』だ。異世界転移が可能ならば、きっと転生も可能なはず……そしてその方法で最も有名なのが、トラックとの衝突事故だ。
「ねぇってば! 私の声聞こえてないの?」
「……大丈夫だ、問題無い」
「本当に平気なの? さっきから様子が変よ? 念の為、病院に行く?」
「病院? そんなことよりも……俺には行くべき所がある! それじゃ!」
「へ? ちょっ――もうぉ、一体なんなのよー!」
俺は一大決心をした。助けてくれた人にお礼もそこそこに別れを告げ、この場を走り去る。
――翌日。俺は今日も変わらずに学校へと向かう。
異世界転生は未だ成していない……情けないことに、いざトラックに飛び込もうとすると、脚が震えそして死への恐怖で身体が動かなかった。異世界への憧れは依然抱いたままだけど、やっぱ死ぬのは怖い。
……となれば、別の方法を試みるのが良いだろう。そう思って、あの事故のあと家に帰りパソコンで調べてみた。俺もトラックとの交通事故で異世界転生するのがお決まりなのは知っていたが、他はあまり知らなかったからだ。
調べた結果、ライトノベルの主人公の死亡原因で一番多かったのは――『不明』。
待て待て待て。不明ってなんだ? 心筋梗塞による突然死でもないの? 一体どうやって死んだの? せめて突然死だろう。
二番目は予想通りに『交通事故』だ。けどこれは却下、だってすげぇ怖いんだもの。
三番目は予想外のものだった、その方法は『殺害』。つまり、誰かに殺されて転生する方法……はい! 却下! こんなん無理!
しかし改めて調べてみるとおかしなものまである。
『勇者』……ファンタジー世界の人の話かな? 勇者に倒された魔王が転生するって意味かな?
『寝ゲロ』……吐瀉物が喉に詰まって呼吸困難に陥り、窒息死ってやつだね。俺、未成年者だしなぁ。
『自殺者衝突』……う~ん、交通事故と同じく偶発的なもの。しかし、これは二人して転生するのかな?
『飴細工』……ごめん。全く理解出来ないし、想像も出来ない。一体どういった死に方なんだろう。
けど調べた中に興味深いものを見つけた。『自力転生』というものだ。
これならばと思い、どうやって自力で転生するのか更に調べてみた……が、俺には不可能だった。その理由は『魔法の力』『魔術儀式』によって転生する方法だったからだ。これには落ち込んだ。
ようやく良い転生方法を見つけたと思ったけど、ファンタジー世界の話だった。やっぱり特別な何かが無いと転移や転生なんてのは無理なのかな。
俺に出来ること……素人のカラオケ大会で優勝、異世界で何の役にも立たないだろう。簡単な手品が出来る……向こうは魔法が使える世界だ、無意味だ。何かしらの専門知識に詳しいわけでも、技術があるわけでもない。
そんな風に異世界に想いを馳せながら退屈な授業を過ごす。
下校しようと校門に向かうと、校門から何やら少し離れた場所に男子生徒の人だかりが見える。俺は気になり見知った顔を見つけて聞いてみることにした。
「帰らないで何やってんの? 芸能人でも来てるの?」
「倖月か。違げーよ、他校の女子が校門前で誰かと待ち合わせしてるみたいなんだ。それもめっちゃ可愛い娘なんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
「そうなんだって、相変わらず三次元の女の子には興味無いってか」
「別にそんなんじゃないよ。まぁいいや、俺は帰るよ」
俺とて健全な男子高校生、女の子に興味が無いわけじゃない。けれど、ヲタクな俺には三次元の女の子は縁遠い存在でしかなく。とても仲良くなれるとは到底思えないだけ……自分で言っていて悲しいな。
しかし俺には転生という崇高な使命があるのだ。関係の無い女の子にかまけている暇などない。気にせず俺は帰ろうと歩き出す。
それに向こうの世界で女の子たちと仲良くなればいいんだしな。
「倖月 律、くんだよね?」
「はぇ?」
――そう思って校門を通り過ぎようとした時、くだんの女の子から声を掛けられた。
しかも俺の名前を呼びながらだ。髪を右側に束ねた髪型……いわゆる片ポニってやつ。俺の高校とは違う見慣れない制服を着た女の子。改めてその女の子をまじまじと見てみたが、全く見覚えがない。しかし俺の名前を知っていると言うことはどこかしらで会ったことがあるんだろうか。
「そう、だけど……君は誰? なんで俺の名前知ってるの?」
「まさか覚えてないの? やっぱり頭を打ったんじゃないの? 大丈夫?」
「あ、頭――あっ、あぁ昨日の人か。あれ? でも俺、名前教えてないよね?」
「はい、これ」
そう言いながら女の子は生徒手帳を手渡してきた。昨日の事故の際に落としていたようだ。そしてこの女の子は、どうやら律儀に直接届けに来てくれたらしい。これはこれは――
「ご丁寧にどうも。それじゃ俺はこれで」
「え? そこで帰っちゃうの⁉ 普通はもっとあるでしょうに……」
「生徒手帳を届けに来たんでしょ? なら他に用はないでしょ?」
「あのねぇ……私は君の命の恩人なの。そっちに感謝を示すのが筋じゃない?」
「……昨日は危ないところを助けて頂き誠に感謝しております。この通り五体満足でいられるのも貴女さまのおかげでございます。本当にありがとうございました」
「いや、ちょっと……急にかしこまらないでよ。私のが困るじゃない」
……自分で感謝を示せ、と言うからこっちは深々と頭を下げ謝礼を述べたのに、困るとはどういう料簡だ。まぁなんにせよこれで互いに筋は通したんだ。俺はこれにて帰らせてもらおう。
俺はもう一度頭を下げ、無言のままその場から去ろうとするのだが――
「ねぇ、本当に頭打ってない? そんな態度取られると私不安なんだけど……」
なぜか女の子は俺に付いてくる……しかも失礼なことを言いながら、話しかけてくる始末。
はっきり言ってウザい。俺は異世界転生するのに忙しいのだ、この女の子に構っている暇はない。
「無視って、命の恩人に対してちょっと失礼なんじゃないの?」
「……さっきの謝礼じゃ足りない? お金でも渡せばいいの?」
「そうじゃない! そうじゃないけどぉ……もう少し態度良くしてもバチは当たらないと思うなって」
「なら、自己紹介くらいしたら? まず自分から名乗るのが “礼儀” ってもんじゃない?」
「あっごめんなさい。私は、四條 瑞姫。学校は吉柳学園で学年は君と同じ2年生。改めてよろしくね」
「ご丁寧な挨拶痛み入ります」
「ふふふ、なにその返し方、変なの……あはは」
何考えてんのかさっぱりだ、この女の――えっと、四條 さんだっけ。なんで付いてくるの? もう用は済んだよね? なんで一緒に歩かにゃならんのだ。
それにしても吉柳学園の生徒か、ここから離れた場所にある学校だ。どうりで見慣れない制服なわけだ。
それからしばらく二人で歩くことに……それにしても四條 さんは良く喋る。クラスの女子たちもそうだけど、ホントお喋りが好きだよね。
その話を聞く限り、どうやら四條 さんは昨日の俺の態度がおかしかった為、倒れた際に頭でも打ったのではないかと、心配して生徒手帳を届けるついでに確かめにやって来たとのことだ。
心配してくれるのはいいけどさ……俺はこれが通常なの。それを変と相手に直接言うのは、ちょいとばかし失礼やしないかい。
――そうこうしていると、例の交差点に差し掛かる。昨日のことを思い出し、改めてもう一度お礼を述べておくことにした。まぁ本音は別なんだけどね。
「えっと、四條 さん。昨日に引き続き色々とありがとう。でも話して分かると思うけど、俺はこの通り大丈夫だから、そんなに心配しなくても平気」
「ホントにぃ~? なんか怪しいんですけどぉ~?」
「いくらなんでも心配し過ぎだよ。態度がおかしいのは、女の子とまともに話すのが初めてで……ってことにしといてよ。それじゃ俺はこっちだから」
俺は逃げるようにしてその場から走り去った。照れくさいセリフを言ってしまったから――なんてことはない。俺は一刻も早く異世界転生せねばならないのだ。その為に色々と調べたいから、まさに逃げた。
――翌日。教室に入ると数人の男子が俺を問いだし始めた。まぁ昨日の人だかりを目にしていたから、予想通りではある。しかし激しく面倒くさい。
「倖月……昨日の女の子とはどういった関係で?」
「うんうん。オジさん達は非常に気になるなぁ~」
「若い男女が道を踏み外さないのか心配で心配で……」
「小芝居とかいらんから。別に、落とした俺の生徒手帳を届けに来てくれただけだよ」
「倖月、嘘はいかんぞぉ~」
「……ふぅ。あのな、あんまり言いたくないけど、虎太郎が行方不明なんだ。そんな時に浮ついてられないよ」
「あ、……そうだよな」
「俺達が悪かったよ、倖月」
「ふざけて悪い。でも少しでも元気になって欲しくてな」
「心配サンキュ、大丈夫だから気にすんな。でも今は一人にさせてくれ」
虎太郎をダシに使い面倒事を回避。悪く思うなよ、どうせお前は向こうで良い目に遭ってるだろ? 主に女の子とか女の子とか女の子とか……。
それにしても、一向に転生する手段が見つからない。昨日も家に帰ってから色々調べてみたけど、これといって新しい情報はなかった。やっぱり本の中だけの話なのかな……でも、そうすると虎太郎の消えた説明がつかない。そりゃ俺の勝手な憶測にすぎないけどさ。それ以外には考えられないし。
俺は落ち込み、授業中にも関わらずに大きなため息をしながら机に突っ伏した。そんなことをしてもんだから、先生が虎太郎のことで憂鬱になっていると勘違いしだした。そんなわけで、強制的に早退させられた。まぁ調べる時間が増えたと良いように考えておくか。
異世界転生……やっぱりするにはトラックなのかなぁ。アレ本当に怖いんだよ、よくライトノベルの主人公たちは、転生した先でその恐怖を克服できるもんだな。俺にはあの怖さを忘れられそうにない、死ぬのが怖くて戦う気になんてとてもなれない。いくらチート能力があっても死なないわけじゃないんだし。
考えれば考えるほどに憂鬱になってくる。そんな感じで考え事ばかりしていたら、いつの間には3人の不良に囲まれていた、や、やばい。
「よぉ。こんなところで何やってんだ?」
「もしかして、今暇だったりするのかな?」
「ん~? どうしたのかな~?」
「え? あ、いや……その……」
「おいおい、律、大丈夫か?」
「へ? なんだ、天姉ぇか。脅かさないでよ」
不良の一人から唐突に名前を呼ばれた。怖くて俯いていた顔を上げ、改めて不良の人達を見ると知り合いだった。
天姉ぇ――眞道 天音。学校は違うけど、学年は3年生。近所に住んでいて、昔からガキ大将……もとい、姉御的存在。俺は一人っ子なんで、姉として慕っていたのだが、中学生から接する機会は減ったけど、関係は昔と変わらない。まぁ最近知ったのだが、どうやら天姉ぇのお母さんも若い時は不良だったらしく、その影響か天姉ぇまで不良となってしまった。ちなみに残りの二人も顔見知り。
「なんだとはなんだ。それより律、お前学校はどうした? この時間じゃまだ授業中だろ?」
「うん、色々あってね。早退したんだよ」
「……そっか。虎太郎の奴、まだ見つかってねぇもんな」
「あ~だから律くん、落ち込んでたのね」
「律っちゃん、可哀想~」
「急に抱きつかないでくれませんか」
「よし! 律、これから一緒に遊ぼうぜ!」
「俺、帰るよ」
「ほぉ、この私の誘いを断る……と?」
目が怖い。さすがこの界隈で名の知れた不良の天姉ぇだ。なんで不良なんてやってんだろう? 本当は気立てが良く優しいのに。今だって、俺が落ち込んでるから励ます為に遊びに誘ったんだろうに。それに美人だから勿体無い。それにしても、今どきロンスカの不良スタイルはどうかと思う。まぁ天姉ぇがお母さんに憧れてるかららしいけど。やっぱりヨーヨーとか持ってるのかな、そんなわけないか。
そんなこんなで、その日は天姉ぇたちと遊び歩くことになった。久しぶりにこうやって一緒に遊ぶけど、楽しいよな。
――翌日。この日も退屈な授業を受ける。
相変わらず、先生の話そっちのけで考えるのは異世界のことばかり。転生する方法はまだ見つかっていない。しかし俺は重要なことを思い出した、それは……転生する身体のことだ。そう、このことを考え忘れていた。
運良く、転生に成功したとしよう。しかし転生したのがモンスターとかでは意味が無い、それでは女の子と仲良くなんてなるわけがない。う~ん、転生を司る女神様に頼み込めばなんとかなるのかな~、なんてことを考えていた。やっぱ人間がいいよなぁ、さすがに無機物はご遠慮願いたい。
さて、放課後となってので、今日も今日とて異世界転生の手段を探すとしよう。そう思いながら、校門を通ると――
「律」
「律くん」
「「ん?」」
「……はい?」
突然声を掛けられた。掛けてきたのは、天姉ぇと四條 さんだった。
天姉ぇは、まぁわからなくはないんだけど……四條 さんはなんでここに居るの? もう俺に用は無いはずなんだけどな。
「えっと、天姉ぇちょっと待ててね。四條 さんはなんでここに居るの?」
「私は……ほら、この間また様子が変だったから、大丈夫かな~って」
「あの時も言ったけど、俺はもう大丈夫だよ」
「なぁ、律。この女誰だ?」
「え? あぁ、こちらは四條 さん、と言ってこの間世話になんたんだよ」
「ふぅ~ん。まっそんなことよりも、遊びに行こうぜ律」
「そ、そんなことぉ⁉ 私も律くんに用事があるんです。それに貴女こそ誰なんですか?」
「私は、律のお姉ちゃんだ!」
「天姉ぇ……それだと誤解されるからね。四條 さん、この人は眞道 天音と言って、近所のお姉ちゃんってやつかな」
「さて、律……お前に聞きたいことがあるんだがな」
「私も律くんに聞きたいことあるの」
「なに? 二人して?」
「律――」
「律くん――」
「「どっちを選ぶの!!??」」
選ぶ……? なんで? 俺には大事な使命が待ってるのに、こんな面倒事は勘弁してもらいたい。
「そ――」
「「そ??」」
「そんなことよりも――異世界転生だ!」
その場から逃げ出した。
俺の異世界転生はまだまだ先のことになりそうだ。
『そんなことよりも異世界転生だ!』~完~
ここまでご愛読してくださり有難うございました。
実はこちらの作品は、少しばかり前作と関連しております。
前作は、冒頭にて行方不明となった『佐藤 虎太郎』が、異世界に迷い込んだ話となっております。
もし宜しければ、そちらも読んでみて下さい。
【邪拳無双でポン!】
こちらが前作となります。