97.同行者はオーバーブースト
PCトラブルが起きてたんですが復旧しました。
忙しい時期にトラブルが重なるのは何なんでしょうかね…
本日の舞台は、ギルド【黒爪】である。
パペット三人組が入り口の受付で手続きを済ませた所だ。
以前フェイリアが話していた、"同行者"の紹介と、説明を受ける日である。
しかし、三人組の後方には、もっと気になる光景があった。
「…大丈夫か?」
クエラセルが話しかけるのは、ボロボロになって倒れている三人だ。
それは受付すぐ近くにあるロビーに転がっており、動かないのだ。
話しかけられた事で、倒れていた三人がゆっくり起き上がり、話し始める。
「情けない所を見られてしまいましたね…」
「まだ動けねぇ…」
「…フン」
とても辛そうにしているのは、見覚えのある顔だ。
順番に、シルヴィア、ボルドー、デスピオである。
付近に荒れた跡は無い事から、喧嘩で発生した怪我ではないようだ。
「実は、この三人でサブマスターと戦闘訓練した結果、今の状態になっています」
「「「ええ…」」」
聞くまでも無く現状を話してくれるが、訓練どころではない怪我である。
装備もボロボロで、修繕を諦めるレベルだ。
デスピオを含め、回復を行えるメンバーは居るはずだが、そのままの状態だ。
「とりあえず回復…あれ?傷が塞がらない?」
グリンは得意分野である回復を行おうとするが、何故か上手く行かない。
「回復は無駄だ。これを見ろ」
デスピオが回復を中断させ、困り果てるグリンに情報を見せる。
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種族:ドラゴン・ゾンビ Lv200
状態:【黒爪】
技能:
<カースブレス> 闇属性範囲魔法 Lv150 【呪印】の数分威力上昇
<呪いの鉤爪> 闇属性範囲攻撃 Lv170 【呪印】付与
<腐敗する傷跡> 【呪印】状態の対象は回復を受けられない
<朽ちぬ巨体> 弱点部位以外へのダメージを高速回復する
<私が作りました> トース産は悪臭と汚染物質を放出しません
<訳あり製品> Lv200、攻撃範囲半減、行動速度半減
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「こ、こんなのと戦って生き延びたんですか…」
これは、以前トースが試運転していたドラゴン・ゾンビに手加減を施したものである。
全体的に弱体化しているが、元が強すぎるので、この状態でも強敵だ。
なお、回復に失敗するのは、腐敗する傷跡 スキルのせいである。
「結果的に負けはしましたが、あと一歩までは追い詰めました」
「「「!?」」」
「鉤爪を伸ばすだけでなく、飛ばして来るのは読めなかったぜ…けど次は勝てるぞ」
異常な敵を相手にするのは、やはり異常な者達である。
悔しがりながらも、次回に向けた戦略を見据えている。
そのまま暫く話していると、フェイリアと救急班が同時に現れる。
…
「お待たせしました。これで大丈夫でしょう」
フェイリアが解呪した事により、後は救急班によって回復するだけだ。
怪我人は救急班により運ばれて行き、治療される事になる。
「回復出来ない状態でも、解呪できるんですか?」
グリンはここで違和感に気が付いた。
回復を受けられないという事は、状態異常の回復も受けられないのである。
「良い所に気が付きましたね。回復系の魔法やアイテムでは無理でしょう」
「え?それならどうやって…」
「回復でなければ解除出来ます。良い機会なので宿題にしましょうか」
予想だにしないタイミングで、新たな課題が出来上がった。
一定水準を超えた勉強は、今回のように未知との戦いとなる。
新たな概念を覚える事で幅が広がり、不可能を可能にして行くのだ。
高レベル者の自室に物が多いのは、この勉強の為ではないかと言われる。
「さて、今日は同行者の紹介ですね。そろそろ合流する予定ですが」
そのまま暫く待つと、何者かがこちらに駆け寄ってくる。
「あ、あら…?私が一番最後ですか?」
現れたのは、謎の生物を抱えた女性である。
その後ろからも、やはり謎の生物が複数体走って着いて来る。
「まずは紹介しましょう。分かりやすく言えば調教師の、ディーテです」
フェイリアは初対面だと思い紹介するが、見た事のある顔である。
「誰かと思えば、あの時の新人さんですね?ほら、この子」
ディーテと呼ばれた女性は、抱えている生物をよく見せる。
モゾモゾ動いてはいるが、金色の毛の塊にしか見えない。
しかし、暫くすると毛の塊から顔が現れ、キョロキョロし始める。
「こいつは…ボルテック・フォクシーか?もっと大きかったような気がしたが」
「正解~!この子は戦闘状態になると毛を逆立てて、自分を大きく見せるのです」
お互い面識はあるので、あっという間に打ち解ける。
話が落ち着いた所で、今回の同行に関してのルール説明が始まる。
「まず一つ。ディーテの場合は少し特殊で、本人は戦闘に参加しません」
「「「えっ?」」」
「同行はしますが、実際の戦闘は…」
そこまで言い掛けた所で、ディーテが謎の生物を抱えて見せつける。
金属兜に手足が生えたような生物だ。
「この子が戦います。案外強いので、役に立てるはずですよ」
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種族:ホーリー・ナイト Lv30
技能:
<聖剣> 光属性化、攻撃対象が光属性以外の場合、ダメージ大幅上昇
<聖盾> 光属性以外の攻撃を軽減、反撃する
<聖騎士> 時間経過で見方全体を徐々に強化と自動回復
<アシスト・リンク> 自身に主人のスキルとステータスを一部加算
<パワー・リンク> 主人に自身のステータスを一部加算
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「見た所、前衛的な能力だな」
「この子の希望でもあるので、最前線で戦わせてあげてください」
「それなら、俺の横で一緒に立って、後ろを守って貰うか」
言葉が分かるのか、ホーリー・ナイトはクエラセルの横へ行き、構えを取る。
早くもやる気に溢れているようだ。
「ところで、このリンクスキルは、全員に付いてるんですか?」
グリンは単体の能力ではなく、リンクスキルの方に注目した。
これと同じ方法が使えれば、戦力の補強が出来ると考えたのだ。
自身の能力をクエラセルやリコラディアに渡せれば、火力貢献にもなる。
「はい。つまり、全員を強化しつつ、私も強化されてるんですよ」
「これを今のパーティで使えば、戦力が上がるかと思ったんですが」
「残念ながら、主従関係でないと、この組み合わせは出来ないんです…」
ここで、静観していたフェイリアが話し始める。
「パーティ方針は後で決めるとして、忘れない内にルールの二つ目を話します」
つい戦略を考えて熱くなっていた空気が一旦落ち着く。
「依頼中、このホーリー・ナイト以外は居ないものと考えてください」
「「「えっ?」」」
「と言うのも、ディーテ一行が強すぎるので、参考にしてはいけません」
「今までそんな事を言われた事は無かったが、そこまでなのか」
「ぱっと見は分からないかもしれませんが。ディーテ、見せてあげてください」
「はい。特別ですよ!」
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種族:魔人 Lv150
技能:
<攻撃力超上昇> 攻撃力が大幅に上昇する
<防御力超上昇> 防御力が大幅に上昇する
<回避率超上昇> 回避率が大幅に上昇する
<命中率超上昇> 命中率が大幅に上昇する
<テイマー> 心を通わせた生物を仲間に出来る
<固定化> 能力上昇分を自身のステータスとし、対応する低下無効
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「何だ…?驚くほどシンプルだな」
「ディーテは素のステータスが高い魔人族であり、これを強化し仲間へ渡しているのです」
「成程な、仲間だけが強い訳じゃないんだな」
「その通りです。このスキルの結果、実質Lv200程の軍勢が出来上がります」
「「「ええ…」」」
これが、調教師と紹介された理由である。
各地で仲間にした生物とリンクし、お互いに利用し合っているのだ。
パワー・リンクでステータスを貰い、各種能力上昇スキルで強化した後固定化する。
その後、アシスト・リンクでそのステータスと能力上昇スキルを渡す。
これにより、全員が大幅にパワーアップするのだ。
ただし、仲間がいなくては、ただ基本能力が高いだけの人物になってしまう。
「そこまでの戦力があるという事は、ギルドの上位陣なんだよな?」
「そうでもないんですよ。例えば、デスピオさんに勝てた事が無いし…」
「まさに魔境だな…」