表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/102

95.試供の品と禁忌の品

本日の舞台は、ギルド【黒爪】である。

外には巨大な何かが徘徊しており、少し離れた所に人が集まっている。

その中には見た事のある者も混ざっているようだ。


「な、何だあれ!」

「運が良いわねー?珍しい所に遭遇したみたい」

「暢気にしてる場合じゃないぞ…まず鑑定!」


########

種族:ドラゴン・ゾンビ Lv280

状態:【黒爪】

技能:

 <カースブレス> 闇属性範囲魔法 Lv250 【呪印】の数分威力上昇

 <呪いの鉤爪> 闇属性範囲攻撃 Lv270 【呪印】付与

 <癒えぬ傷跡> 【呪印】状態の対象は光属性と回復を使用出来ない

 <朽ちぬ巨体> 弱点部位以外へのダメージを高速回復する

 <私が作りました> トース産は悪臭と汚染物質を放出しません

########


なんと、徘徊しているのは大型アンデッドで、一般的な建造物程は大きい。

こちらに気付いては居るようだが、襲ってくる気配はない。


「闇属性…?いや、それよりヤツの気が変わらない内に逃げるぞ」

「フラックは初見だから、知らないと思うけど…あれ、サブマスターのペット」

「…はあ?」

「ペットの背中に乗ってるのがそうよ」


今日はマーカ主導で"ホーム"見学ツアーである。

フラックは楽しみにしていたのだが、期待していた何かとは違っていたようだ。


マーカがアンデッドに向かって声を上げ、手を振ると、

思いもよらない速度でこちらに向かってくる。


ドッ ドッ ドッ ドッ…


グガアアァァァ!


「お、終わった…」


フラックの前方には、咆哮を上げ、鋭利な牙を見せるアンデッドの姿がある。

ペットと言われているが、どう見ても殺意の塊である。

いきなり死を覚悟する事になってしまった。





「怖がらせて悪かったね。僕はサブマスターのトース。よろしくね」

「あ、ああ…俺はギルド【ワークプレイス】のフラックだ」


アンデッドはフラックを襲う事無く、体を伏せた状態で待機している。


実は、このアンデッドはシルヴィアへの報酬である。

いわゆるプロトタイプの個体で、試運転を行っていたのだ。

このままではオーバースペックなので、弱体化を行い、戦いやすくする。


「今日はマスターを呼んできた方が良いかい?」

「いえ、今回は仕事ではないので」

「なるほどね。暫く見ない間に色々と変わってるから、ゆっくり見て行ってよ」


トースは言い終わると、またアンデッドに乗り、試運転を再開する。

それを見送った二人は建物へ入る。





「本当に色々と変わってるわね」

「凄まじい規模だな…少なくとも俺のギルドでは比較にならない」


フラックは色々な物を見て驚いたが、一番気になる所はその規模であった。

依頼カウンター等、そもそも無いとギルド認定されない物もあるが…

標準的な大手ギルドでは、それに食堂、簡易ショップ、仮眠所くらいの設備だ。

ストレス無く百人以上収容できる所は、かなり上位のギルドである。


なお、メイドが働いているギルドは他に存在しない。

通常は手の空いたメンバーが掃除するか、依頼で外部の者に頼む。

即日支払いなので、一般人がこの依頼を受けに来ることもある。


「このメシも美味かったしな」

「気に入って貰えて良かったわ。薄味だからちょっと心配だったのよ」


マーカは言い終わると、低めに手を上げる。

すると、何かを察知したかのように店員が現れる。

店員は紙のカードのような物を持っており、それには今回の料金が書かれている。


何気に魔法道具であり、任意の文字を浮かび上がらせる事が出来る。

長くは持たないが、暫くは文字を書き換えて遊べる品だ。


「支払いか?ここは任せ…三万アグラ!?」

「今日は私が払うから、身構えなくて良いのよ?」

「…頼んだ」


ここは、黒爪三階にある高級料理店である。

一階の飲食スペースとは違い、収入が多い者しか利用できない所だ。

逆に言えば、支払い能力さえあれば誰でも利用出来る。


マーカはギルドショップと黒爪の両方から報酬を得ているので、

今回の食事代金程度であれば余裕だ。


「次は今回の見所、ショップスペースね」

「普通のギルドだと、薬や乾燥食料くらいなものだが…」


二人はショップスペース入ってすぐの店へ行く。


「この間連絡したあれ、引き取りに来たわ」

「おお、マーカちゃん。新製品もよろしく!」


そう言って渡されたのは、新しい鑑定アイテムの試供品である。

この店はギルド公式のもので、基本的に最新のアイテムが揃っている。

ただし、消耗品だけの品揃えだ。


「この間話してた、新製品の鑑定アイテムよ」

「これがそうなのか。…幾らなんだ?」

「あのショップで出す時は、二万アグラ前後になると思うわ」

「うっ…」


覚悟はしていたが、やはり実際に値段を聞くと、怯んでしまう。

それを察したのか、ショップの店員が話しかけてくる。


「それは外向きの値段。ウチのメンバー同伴なら、何と五千アグラなんだ」

「はあ!?」

「更に言うなら、メンバーなら千アグラだ。遠回しな勧誘作戦だな」

「…とりあえず二つ買わせてくれ」

「あいよ!」


製造技術が漏れない限り、言い値で販売出来るケースがこれである。





「フレイム・シューターが今ならこの価格!今を逃すと次は無いぞ!」

「新製品、範囲回復アイテムだ!お試し価格がこれ!一人一個まで!」


個人商店が並ぶゾーンまで来た二人は、商品アピールの声を聴いている。


「こ、これは…どれも凄まじいが、絶望的に金が足りない」

「基本的にLv100以上の高収入メンバー向けの店だから…」

「毒消し専用薬ですら買えないぞ。その分効果は高いみたいだが」


パペット三人組も同じ目に遭ったが、最初は何も買えない。

この場においては金こそが正義であり、持たざる者は触れる事すら出来ない。


「ちなみに、何が一番気になった?」

「選ぶならフレイム・シューターだな。道具で高出力の魔法を使えるのが良い」

「ふーん、ちょっと待ってて。貰ってくるから」

「貰う…?どう言う事だ?」


マーカは、フレイム・シューターをアピールしていた店へ行き、何か話し始める。

暫くすると店員がフレイム・シューターを念入りに拭き、マーカへ渡したようだ。


「うおおお!やったぜ!ついに俺もデビューの時だ!」


店員は何故か興奮し、声を上げて喜びを表現する。

何が起きているのか分からないフラックだが、マーカが合流して真実を話す。


「はいこれ。後で使ってみて」

「良いのか?無料で貰ってるみたいだったが」

「私は好きな商品を取り寄せて、それをあのショップで販売出来る権限があって…」

「デビューと言うのは、取り寄せる対象に入る事か」

「そう。その時必ず試供品を渡すルールがあるから、それで無料になったの」

「成程な。と言う事は、俺はこれの使い心地を確かめれば良いんだな」


思わぬ収穫があったフラックだが、これだけでは終わらない。


「私のアイテムも取り寄せて貰いたいですわ」

「あんたは確か妖精狩りの…ジュディットだったか」

「ええ、本業はショップ経営ですのよ」


思わぬタイミングでジュディットが現れるが、これが本来の持ち場である。

他の者と違うのは、収入ではなく販売物の拡散を目的としている。


「ジュディットの販売物はエグ過ぎると言うか…そのままではちょっと」

「どんな品なんだ?」


気になったフラックがアイテムの詳細を尋ねる。

ジュディットはそれに喜び、話しながらアイテムを渡してくる。


「持続的にダメージと苦痛を与えつつ、対象を生かし続けるアイテムですわ」

「な、何て物を…」

「返品は受け付けませんわ。御贔屓に」


初めから計画していたかのような手際で商品を渡され、立ち尽くすフラック。

邪気を感じない笑顔にも、油断してはならないのだ。


「受け取った以上は、必ず試用するルールが…」

「まいったな」


性能は良いのだが、使った瞬間に何かを失いそうな品を手に入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ