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94.謎の申請と元勇者パーティ

本日の舞台は、ギルド【黒爪】である。

いつものようにパペット三人組が訪れているのだが、遊んでいる訳ではない。

フィーリから頼まれた用件があるのだ。


「結局これは何だろうな」

「この申請用紙と一緒に提出、という事しか聞いてないわ」

「瓶の蓋に、"開けるな危険"と書いてありますが…」


三人組は、以前貰って来た申請用紙と謎の瓶を持たされている。

申請用紙にはフィーリの名前の他に、"魔法燃料"と書いてあるだけだ。


とりあえず入り口で提出先を探し、見渡すが、それらしき場所は見当たらない。

そうこうしていると、何者かが話しかけてくる。


「おや、君達は…以前はよくもやってくれましたね。お陰で酷い目に遭いました」

「「「あの時の邪神!」」」


遭遇したのは、以前敵対していた邪神【黒渦】、バスカである。


「おっと、今は敵ではありません。むしろ味方寄りなくらいですよ」

「どう言う事だ?」

「マスターと取引した結果、計画に協力する事になりました」

「「「!?」」」

「折角のオモチャが壊されては、面白く無いではないですか」


計画と言っているのは、邪神破壊の事である。

発想は邪悪そのもので、今でも世界を自分の遊び場としか見ていない。

ただし利害は一致しているので、協力関係だ。


話を聞くと、同族の事だからなのか、色々と情報を持っている。


「一つ良い事を教えてあげましょう。あの巨大な邪神には意思がありません」

「…つまり、正確には邪神ではない?」

「そうではなく、人で例えるならば、腕をちぎって捨てた物です」


三人組は、種族的な違いがあり過ぎてあまりピンと来ない。

それを察したのか、話を続ける。


「捨てた腕を放置すれば、当然腐敗しますよね?」

「そうだな」

「すると、そこから腐敗が広がり、虫も沸く。ここまで来ているのが今の状態です」

「その腐敗によって悪影響があるのはイメージ出来るが、虫と言うのは?」

「意志を持った新たな邪神。簡単に言えば私やマスターのような存在です」


話を聞いて行くと、邪神の"本体"のような存在が有るというのだ。

そこから分離したものが流れ着き、今回の悩みの種となっている。


「さて、今度はこちらが質問する番ですよ。その瓶は何です?」

「何かは分からない。この申請用紙と一緒に提出する事を頼まれている」

「ふむ…この新製品を試してみましょうか」


バスカは鑑定アイテムを取り出し、使ってみる。

これは生物鑑定とアイテム鑑定の効果が選択出来る最新式である。

今回はアイテム鑑定を選択する。


########

品名:木霊の溢泌液 Lv360

材料:マナ

用途:魔法石や回復薬など

産地:魔神【木霊】

########


「こ、これは!」

「「「え…?」」」


実は、渡された瓶の中身は魔神素材である。

三人組はフィーリの姿を見ているので、液体の素材に違和感を感じている。

光の玉から液体の素材が取れるイメージが湧かないのだ。


なお、木霊素材は魔神の中でも特に貴重品である。


「…何か起こる前に届けに行った方が良いでしょう。こちらへ」


炎羅素材同様、使い方を間違えるととんでもない事になる素材だ。

三人組は専用カウンターに案内してもらい、手続きを済ませる。


-------------------------------------------


一方こちらは、精神的に復帰した勇者パーティである。

クラーグ王城のすぐ近くにある、騎士団専用の訓練所に来ている。


「おう、ライザ。掃除は終わったか?」

「四人掛かりで何とか。それにしても、急に呼び捨てにされると慣れないな」

「ハッハッハ!そこは勇者なら誰しも通る道だな!」


勇者パーティは育成プロジェクトを完遂すると、騎士団に入る事が出来る。

クラーグでは相当な名誉であり、家の名を売り込む大チャンスが訪れるのだ。


しかし、完遂した本人は埃まみれになっている。

いわゆる"新人の仕事"をこなしているのだ。


「勇者の期間が特別だったと思えば、じきに慣れるさ。俺もそうだったしな」

「他にも勇者パーティが居たのか…」

「もし呼び捨てが嫌なら、騎士団長あたりになるんだな。期待してるぜ?」

「やれるだけやってみるさ」


割と気さくな青年は、掃除が終わっている事をチェックし、壁の紙に判を押す。


騎士団では、ローテーションで新人の仕事を確認する役が回ってくる。

指導役とは別で、チェックする側の視点を意識させようとしている。


「そうそう、ここは上下関係に厳しいぞ。最初は敬語使っとけよ?」


青年は言いながら、手を振り部屋を出て行く。





雑用を一通り終わらせ、食事を済ませた頃には、寝る時間だ。

丁度勇者パーティの四人が揃ったので会話していく。


「ひたすら掃除を続ける日だったな…」

「ライザはまだマシだぞ。俺なんて食事用の肉解体で臭いが取れないんだ」


ウォードは自身の指先の臭いを嗅ぎ、顔をしかめる。

しっかり洗ったのだが、まだ残っているようである。


「つ、疲れた…これ毎日…?」


早くも疲労が濃く出ているのは、ネルだった。

ライザと同じく、ほぼ一日掃除をさせられていたのだが、体力が無くなったようだ。


担当は女性部屋の掃除なのだが、異性の目が無い場所は混沌そのものである。


「殆ど菜園の手入れで終わりました。慣れてくると楽しいですよ」


イーザは幸運にも、アタリの部類である仕事を引いた。

時期にもよるが、今は水やりと雑草の処理くらいだ。


「何と言うか、生活に派手さが無くなったと言うか…」

「だな。目に見えた成果はあるが、地味すぎる」

「そもそも何で私が肉体労働を…」


先に輝いた人生を満喫してしまった副作用が出ていた。

これも数多の勇者パーティが経験する事柄の一つである。

勿論わざと地味な仕事を割り当てており、密かにリハビリを行っている。


「そう言えば、成績優秀な者は、戦闘訓練を受けられるらしいですよ」

「本当か!それなら自信がある。気晴らしにはなりそうだ」

「しかも、その訓練で能力を認められれば遠征に出れるみたいです」

「「「…!」」」


最近の騎士団の仕事は、領内警備が殆どを占めている。

高確率で安全だがつまらない仕事との事で、安定思考の者以外には不人気だ。

それとは対照的に、遠征が人気で枠の奪い合いである。

元勇者パーティや関係者が多いので、冒険心に溢れているのだ。


シルヴィアやボルドーがメインに活動していたのも、この遠征である。

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