7.Sサイズの注文と魔法的な育成
各イベントを別管理にすると凄く纏めにくかったので、二つのイベントを一つにしてみました。
【迷いの森】の開けた場所で、魔女と客人二人が座っている。
客人というのは、イスカ領主のロークス、冒険者のフラックだ。
まずはお互いの情報を整理しようという事になったのだ。
「まずは木の魔物の特徴ですが、全体的に赤黒く、鉤爪とも翼ともとれる見た目の枝が付いていたようです」
「大岩を降り注がせる、魔法のようなものを使った攻撃を行うという報告でした」
魔女が、遠い目をしている。
「その問題はすぐに解決できるわ、ちょっと待ってね」
「ベチュラちゃーん!Sサイズ持ってきて!」
魔女が何かを呼ぶと、すぐそばの土がボコボコと盛り上がり…黒い円柱状の何かが生えてくる。
三十センチ程まで伸びた時、円柱状の物体の表面が剥がれ、中に居た植物の枝が一気に広がる。
黒い蒸気のようなものを噴き出し、赤黒い表皮を見せる。
『何用だ、小娘よ』
ベチュラが現れる…が、とても小さい。
「こ、こいつはやべぇ!」
そう言って身構えたのは、冒険者のフラックだ。
高額な鑑定アイテムを迷いもなく使用しているあたり、生き残り方を知っている。
彼が知ったのはこの情報だ。
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種族:デス・ヘリックス(トーカー) Lv165
状態:即再生
能力:通話 毒物吸収
技能:
<Sサイズ> この個体のステータスは【デス・ヘリックス】のステータスの十分の一となる
<ポイズン・リバース> 毒ダメージでダメージ分回復する
<ヒール・リバース> 自身への回復効果を無効にし、同量のダメージを受ける
<岩の雨> 土属性全体魔法 Lv45 【防御無視】【ダメージ二倍】
<毒濃霧> 全体補助魔法 Lv110 【毒】付与 【味方巻き込み化】
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「フラック、気持ちは分かるが落ち着いてくれ」
「敵対するつもりなら、既に我々は生きてはいない」
ロークスはフラックを押さえつけ説得する。
「ベチュラちゃん、この間暴れた時のあれ、謝る時が来たよ」
『む…あの者達の責任者か。分かっている』
ベチュラは、枝先にコブのような物を2つ作り、風船のように膨らませていく。
膨らんだ部分の外皮が剥がれると、緑色をしたこぶし大程の果実が顔を見せる。
『お前達には迷惑をかけた。これはその謝罪を示すものだ。受け取れ』
枝先を二人の方へ伸ばし、実を揺らす。
相変わらず、とても伝わりにくい行為だ。
この場は魔女がフォローすることで取り持った。
『この件は一つ貸しにしておく。我が力が必要になった時は呼ぶが良い』
小さなベチュラがポキッと折れ、横たわる。
会話を打ち切ったサインのようだ。
「何と言いますか…特徴のある方でしたな」
「ベチュラちゃんは感謝や謝罪を表現する方法が不器用で…」
魔女とロークスは苦笑いだ。
フラックは何故か空を仰いでいる。
「俺はこの大陸の殆どの事象を見てきたつもりだったが…思い上がりだったらしい」
フラックが何かを思い直している。
魔女が、「ふーん」と言いニヤリと笑う。
「アナタ面白そうだから、特別授業を受けさせてあげる」
「ちょっと見学者を増やすから待ってね」
そう言うと、目の前で魔女の体が半分になる。
ロークスが、「これは!」と言うが相手にされない。
フラックは警戒するのを止め、何が起きているのか必死で予想している。
次の瞬間、魔女の姿が元に戻り、何もない所から人らしきものが出てくる。
「左から、クエラセル、リコラディア、グリンよ」
お互いに挨拶を交わし、フラックと魔女だけ少し離れた位置に移動する。
パペット三人組は何が起きているのかよく分かっていない。
クエラセルは、男性の動きをよく見る事…
リコラディアは魔女の魔法をよく見る事…
グリンはマナの流れをよく見る事…
それぞれ違う指示だけ与えられていた。
「それでは、これから模擬戦を始めます」
「フラックさん、本気でやらないと死んじゃうからよろしくね」
そういうと、魔女は殺気を放つ。
フラックは怯まずに構え、不測の事態にも対応できるように取り出せるアイテムの位置を調整する。
「まずはフラックさんが攻撃して。たまに反撃するから避けてね」
「ああ、本気で行くぞ」
フラックが仕掛ける。
「まずは麻痺ナイフを食らえ!」
「クレイ・スパイク」
フラックが距離を詰めながらナイフを投擲する…が、巨大な土の棘が噴出し、ナイフを突き上げる。
あえて棘に受けさせるのではなく、小さな目標を打ち上げる事で余裕を見せる。
「お次はこれだ、ファイア・アロー!」
「ファイア・アロー」
火の魔石を小弓のような装置で打ち出し、疑似的に魔法を使う。
だが同じ威力の魔法で相殺され消滅する。
「ここまで来れば…踏み込み斬り!」
「アイテム・リビルド」
凄まじい勢いで魔女に斬りかかるが、空振った感覚で終わり、ダメージはない。
よく見ると剣の刃が無くなっていて、魔女の手に金属塊がある。
フラックはすぐに距離を取る。
「ミスリル・バレット」
金属塊がフラック目掛けて飛んでいくが回避する。
「良いわね。最後に…ちょっと派手なのを見せてあげるわ」
「当たると死ぬかもしれないから、頑張って避けてね」
フラックが気を引き締め、どの方向から来ても良いように動きやすい姿勢をとる。
「サンダー・ケージ」
フラックの周辺に落雷がいくつも降り注ぎ、まともに身動きできない。
しかし動かなければそのうち当たってしまうため、本命の落雷を見極め回避していく。
実は落ちる位置に法則性があるのだが、それを短時間で見極めたのだ。
勿論分かったと言っても回避は容易ではない。
見学者達は言葉を無くしている。
落雷によって視界は真っ白…煙とめくれ上がる地面で更に視認性を悪化させる。
轟音のせいで、耳は遠い。
その後しばらくして雷が止む。
フラックは完全に息を切らして倒れこむが、耐えきったと言わんばかりに、最後の力で親指を立てる。
魔女が拍手しながら近寄り、回復してやる。
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暫くして…
「面白かった?」
「終わってからなら良い経験と言えるが、最後のやつは十回以上も死を覚悟したぞ」
フラックは良い経験が出来たようだ。
見学者は…
ロークスは次元の違う戦いに困惑している。
クエラセルは得るものがあったようで、踏み込みの練習をしている。
リコラディアは魔導回路とにらめっこしている。
グリンはびっしりとメモを書いている。
何かしら影響は出ているようだ。
ゲームでは、フラックの訓練がイベントで起きて、何度かクリアすると素材集めを手伝ってくれるようになります。
クリア後は低レベルの敵素材集めがだるいので、なんだかんだでお世話になる奴です。
あとロークス、実はそこそこ魔法が使えるので、逆に困惑しているという。