87.いざ、魔王城
本日の舞台は【妖精の森】である。
元は小鬼族の拠点であった、"お城"の近くで人が集まっている。
「我々はここで待機します。ご武運を!」
「ああ、必ず魔王を倒してみせる!」
団体から離れ、城へと向かうのは、勇者パーティである。
ついに魔王城へ挑む時が来たのだ。
王城で提供された妙に正確な情報により、城はすぐに見つかるが…
周囲には、溶けかかった人のような魔物がうろついている。
様子を窺っていると、サポート役のはずのイーザが前に出てくる。
ちゃっかりウォードの横へ行き、気付いた事を報告する。
「あれは、恐らくアンデッドです。腐敗臭がします」
「書物にあった不死の魔物か。本物だとしたら厄介だぞ」
これはトースの作品で、手加減用のアンデッドだ。
材料は飲食スペースで出た食べ残しと、多量の泥である。
食材も元々は生きていた存在であり、アンデッドの材料に出来る。
ライザは未知の相手にどう仕掛けるか悩んだが、指示を出す。
「空を飛ばないアンデッドは足が遅いはずだ。一体ずつ速攻で倒す事を繰り返すぞ!」
「「「了解!」」」
幸いにもアンデッドは数が少ないため、各個撃破する作戦に出るようだ。
アンデッドはばらけて移動しており、早く倒せば準備万端で次の戦闘に入れる。
「まずは、鑑定結果です!」
########
種族:マッド・ゾンビ Lv70
技能:
<自然パンチ> 物理単体攻撃 Lv50 無機物を狙う
<自然発酵> 半日で死亡し、土に還る
<環境保全印> 泥以外の無機物を含みません
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勇者パーティは情報を記憶し、気付かれないよう一体の後ろから近付く。
察知能力は高くないようで、あっさり先制攻撃出来る距離まで行く。
「気付いてないのか…?なら、食らえ!」
ザシュッ!
不意の一撃は、まずウォードから仕掛ける決まりがある。
メンバー中では一撃のダメージが最も高く、そのまま壁となれるからだ。
「オォォ…」
マッド・ゾンビは攻撃を受けた事に気付くが、今の四人に先制されては手も足も出ない。
…
「「「「…」」」」
何と言う事は無く、同じ事を繰り返し、全てのマッド・ゾンビを倒した一行。
しかし、こんな簡単に終わるはずがないと警戒している。
書物には、復活したり死後に呪いを掛けるような個体が書かれていたのだ。
これはいわゆる"経験値"の個体であり、特殊能力は一切無いので安全だ。
「そろそろ十分経つな」
「城の方から魔力の気配が…?」
ライザが経過時間を告げた所で、城入り口から何かが現れる。
ネルは何かを察知したようで警戒している。
「ダーダー!アージー!ユーシャ!ノ ゲード!」
「「「ノ ゲード!」」」
現れたのは、小鬼族の小隊である。
派手な格好をしたリーダー的存在の者と、部下と思われる者が三名居る。
叫び終わると、リーダーと思われる者が先陣を切り、こちらへ突っ込んでくる。
「相手はゴブリンだが、一応注意だ!」
「「「了解!」」」
ライザとウォードが前で迎撃する、定番パターンで対応するようだが…
「ノ アママ!」
何故か、少し離れた所で派手な小鬼族が止まる。
「ゴブリンが突っ込んで来ないと言う事は、罠かもしれない。魔法で頼む」
「これで十分、アイシクル・ランス!」
グシャア!
氷がぶつかる音と共に、小鬼族は見えなくなる。
レベルの低い者が対策無しに受ければ、まず間違いなく即死級だ。
「アヒ、アヒ!テテ ノ エベ!」
「生意気なゴブリン…!」
魔法を受けた小鬼族はダメージを受けるどころかピンピンしている。
それだけでなく、自らを指差し不敵な笑みを浮かべている。
"俺の方が凄い"と言わんばかりの態度だ。
これは、ギギの戦略を配下に習得させた結果だ。
派手な装備は高級品で、防御力はそこそこだが属性耐性がとてつもなく高い。
【たましい屋さん】の特注品である。
「アッヒヒ!アッヒヒ!」
小鬼族は片足でジャンプを繰り返し、最中に両手を振って挑発している。
「久しぶりにイラッとしたわ。次で終わりだよ!」
魔法を使う者は、能力にある程度の自信を持っている場合が多い。
これを完全否定する事で、挑発の効果を最大限に高めている。
ネルは更に上の魔法を使おうとするが、相手もただ待っている訳ではない。
「ゲード!」
「「「マギノ・ファイア・レイン!」」」
なんと、後ろに潜んでいた三人の小鬼族が、魔法を発動した。
空中で火が集まり、一つとなったかと思うと、分裂して火の雨となる。
「何!?皆回避だ!」
「嘘だろ…ゴブリンのくせに…!」
この三名の小鬼族は、デスピオの開発したトスカ・ギアを装備している。
更にフィーリの新技術である魔技を習得し、連携している。
加えて妖精の森も実質マナ無限状態へ改造され、小鬼族でもある程度魔法を使えるのだ。
異常事態が続き、しかもピンチとなると、本来警戒すべき事が頭から抜ける。
「カーヤ ビナ!」
「え?ああっ!」
回復役である、イーザが落とし穴に落とされてしまった。
勿論穴は深く、簡単には抜け出せない。
「くそっ!こいつらを倒して、すぐに助けてやるからな!」
ウォードは男気を見せるが、更に一つ警戒しなければならない事を忘れていた。
「ダー!ノ ゲード!」
「「「ノ ゲード!」」」
城の入り口から、全く同じ構成の小鬼族小隊が現れる。
小鬼族が最初に放った雄叫びは、仲間の招集も含まれていたのだ。
「「「マギノ・サンダー・ケージ!」」」
…
その頃、城のバルコニーでは…
「ククッ、上手く行ったようだな」
「僕が言うのも何だけど、デスピオって結構えぐい事考えるよね」
「サブマスターの指示通り、"未知の世界"を経験できる場を用意しただけだ」
「いや、うん…君が魔王でも良かったんじゃないかな」