83.魔男の魔道具開発
「いつものを全部」
「はーい!…全部!?」
今回の舞台は、トリナムにある【きらきら屋さん】である。
買い物客と、店長のピナが取引している。
大抵は驚かす側だが、今日は驚かされている。
「聞こえなかったのか?全部だ。勿論金はある」
「支払い能力は疑ってないけど…何に使うの?」
「これだ」
買い物客はブレスレットのような物を取り出して置く。
勝手に見て納得しろと言うスタンスだ。
「魔法道具、かな?」
「大体は合っている。魔法が使えない者でも魔法を扱えるようになる物だ」
「すごーい!さすがデスピオさんなの!」
「…フン」
買い物客の正体はデスピオで、トスカ・ギアの材料を買いに来たのだ。
本来はスキルなのだが、アイテム化に成功している。
これを装備すれば、どれだけ魔法の才能が無くとも使いこなせるようになるのだ。
なお、この材料はマニアック過ぎてろくに売れない。
見た目が綺麗と言うだけで店頭にある、展示品のような物だ。
現状はほぼデスピオ専用素材である。
「えっと、トスカリエント触媒全部で…六千万アグラでーす!」
「良いだろう」
買い物が済むと、デスピオはすぐに店を出る。
実はこのアイテムを量産する計画があるため、材料をまとめ買いしたのだ。
メイド教には入信していないので、貯金は多い。
…
デスピオが次に訪れたのは、【ズバシュー屋さん】だ。
トスカ・ギアのアイテム化を行う場合、身に着けるためのベース素材が必要だ。
ここでは金属加工も行っているので、まずブレスレットの素材を作ってもらう。
「エーリット鉱石を対打撃加工だ」
「対打撃加工?出来るが、変わった注文だな」
店長のタルナンドは、一般向けではない注文が気になっている。
エーリット鉱石は風の力を持ち、鉱石の中では軽いが打撃に弱い。
しかし、それを強引に加工すると風の力が消えるので、普通は他の鉱石を使う。
「リハビリには丁度良いな。おい、行けるか!」
『はいはい、今日は調子良い感じだよ』
「よし、今回は二百万アグラで引き受けよう」
以前、魔神【炎羅】の破片を取り込んで苦しんでいた生物が居る。
もう具合は良くなったようで、いつもの調子で鉱石を取り込んで溶かして行く。
「ただ、この量はちょいと時間が掛かる。適当に暇潰しでもして来てくれ」
「分かった。後で来る」
手早く用件を済まし、やはりすぐに店を出る。
…
そして次に訪れたのは、【たましい屋さん】である。
「おや?最近よく会うネェ」
「たまたまだ」
デスピオがトリナムで一番利用する施設は、たましい屋さんである。
防具や装飾品を揃える事によって、頻繁にスキルを入れ替えているのだ。
「それで、今回は何が欲しいんだい?それとも加工?」
「ボルストパーズの中心だけくり抜いて、この液体で満たしてくれ」
「なかなかムチャな事をおっしゃる」
これは、穴を開けて宝石の中心を削るという話ではない。
外側に全く傷を付けず、中心部を空洞にして液体で満たせと言うのだ。
「まあ、出来るんだけど!」
こういった非常識が通用するので、最近は入り浸っているのだ。
当然、費用はその分つり上がるが。
「とりあえずは四十個程を加工してくれ」
「チョット時間を貰うよ。料金は五百万アグラでどうだい?」
「良いだろう。後でまた来る」
この作業にも当然時間が掛かる為、やはり店を一旦出る。
…
「いらっしゃいませ」
「…一人だ」
「デスピオさんでしたか。端っこの席は空いていますよ、辿り着ければですが」
ここは【どろみず屋さん】である。
出迎えたのはドラハで、完全に接客に慣れてしまっている。
いつも時間を潰すのに使うのはここで、端っこの席を狙っている。
理想はそこで静かに過ごす事だが…そうはならない。
「あ、あいつは第一突破者の…!」
「よし、話を聞きに行くぞ!」
「待てよ、俺も!」
フォレスト・ダンジョンの初踏破を決めてしまった為に、超有名人なのだ。
基本的に入店間もなく人だかりが形成される。
今回はこれを利用し、喋って時間を潰すのだ。
「六階のでかい木に歯が立たない!どうすれば良いのかヒントをくれ!」
「でかいという事は、攻撃が当たりやすいと言う事だ」
「毒と麻痺対策したら不意打ちが防げない!どうするんだ!」
「逆に先手を取れば良いだけだ」
物凄く雑に返答しているように見えるが、実はそこそこ的確なアドバイスである。
それを生かせるかはパーティの能力と資産によるだろう。
「ねえ、この後、私達と遊びに行かない?」
「いや…その…」
「ダメ?」
「…」
「忙しいのかな?じゃあまた今度ねー」
黒爪に慣れすぎると、一般女性との接し方が分からなくなる。
とても勿体ないパターンだ。
剣や魔法をぶつけ合って女性と仲良くなれる場所は、黒爪だけである。
そうこうしている内に時間は経ち、頼んでおいたアイテムを引き取り、帰還する。
ここまでやって、ようやく下準備の完成である。
…
そして、ホームである黒爪へ帰還した。
「あ、デスピオさん!お帰りなさい!」
「ティスラか。少しはマシな腕になったか」
「よく聞いてくれました!風の槍で、横暴鉱を三体同時に狩れました!」
横暴鉱とは、メテオリット砂漠に生息する、Lv60の岩のような生物である。
依頼をこなす事で、無理せず成長を続けている。
ティスラはこれを自慢したかったようで、眩しい笑顔で報告する。
「そうか」
「はい!」
ここまではいつもの会話である。
デスピオは、何か考えた後、続けて質問する。
「朝は何を食べた?」
「え?野菜炒めとパンです!」
「そうか」
「はい!」
ティスラは質問の意図が分からず、とりあえず答えている。
デスピオはまた暫く考え事をした後、質問を続ける。
「最近流行っている娯楽は何だ?」
「ゴールドシュートです!」
「そうか」
「はい!」
謎の間を挟みつつ、特に意味の無さそうな質問を繰り返すのは違和感だらけである。
「…もう良いぞ」
「???」
ティスラはよく分からないまま解放され、謎だけが残った。