82.気になるあの場所と上層部会議
「「「これが、魔王城かもしれない建物?」」」
本日の舞台は、ギルド【黒爪】すぐ近くの平原だ。
魔王城を探している勇者パーティが話している。
「実は、ここに暗黒騎士が居たのよ…」
「「「!?」」」
話し難そうにしているのは、案内役のネルだ。
今まで秘密にしていた事を問われる可能性を考えている。
「よく生きて帰って来れたな?」
「それは…そう!あの師匠に助けて貰ったのよ」
「この間戦った、四天王・風か」
嘘は言っていないというレベルで誤魔化し、話を進める。
この情報で変な方向に情報が固まる。
「なあ、暗黒騎士と四天王・風が居たんだろ?魔王城確定じゃないか?」
思ったことを素直に述べていくのはウォードだ。
考え過ぎてしまうパーティには案外不足しがちな人材である。
「決め付けるのは早い。まずはこの建物の外周を周って情報を集めよう」
「分かった。魔王城でもないのに攻め入ったら極刑だもんな」
一行は、敵が大量に襲ってきても逃げられるよう、距離を取りつつ様子を見る。
イーザは必死に建物の構造を紙に書いていく。
階層のある場所では、最上階と部屋の位置が分かるだけでかなり楽になる為だ。
「今の所は、特に危険そうな場所は無いな」
先頭で警戒しているライザだったが、あまりに平和で拍子抜けしている。
建物を一周したが、特に何もない。
魔物の雄たけびでもするかと思っていたが、小鳥のさえずりが聞こえる場所である。
話していると大きな扉が開き、馬車がこちらに向かってくる。
情報を得るため、手を振って合図し、止まってもらう。
「何か?」
「あの建物の情報を聞きたいんだが」
「簡単に言えば冒険者ギルドですよ。ウチのお得意様でして」
続けて知っている限りの情報を聞き出す。
情報量として金貨を渡すと、商人らしき人物は上機嫌で馬に鞭を入れる。
「聞く限りは、大きな冒険者ギルドのようですね」
「そうだな。正面で少し様子を見て、大丈夫そうなら近付いてみるか」
正面に移動しても、危険な様子は無い。
入り口付近で様々な者が往来しているのが見えるだけだ。
一行は意を決し、入り口へ歩を進めてみる。
「お帰りなさいませー!」
元気の良い挨拶をしているのは、メイド服の門番である。
一行は構えそうになるが、敵意が無い事を確認して落ち着く。
ここはライザが代表で話してみる。
「当ギルドの利用は初めて?」
「ああ。他のギルドは経験があるから、そこは省いて説明してくれないか」
「大体は他と同じ要領で、登録にはマスターの許可が必要なくらいです!」
とんでもなく大雑把な説明だったが、この質問にあまり意味は無いため問題は無い。
話している間に周囲の雰囲気を見ているのだ。
「登録しなくても、見学と飲食スペースの使用は出来るからね」
「分かった。ありがとう」
門番は飲食スペースを指差し、場所を教える。
安全そうなので一行は飲食スペースも見てみる事にした。
…
「それでよ、あまりに腹が減ってパープル・フロッグを焼いて食ったんだ」
「あれを食うなんて余程酷い状態だったんだな」
「まあな。けど、他にない変わった味でな。最近定期的に食いに行ってる」
「逞しすぎるだろ」
飲食スペースでは、冒険話に花を咲かせているメンバーが居た。
肉とサラダが並んでいるので、食事中のようだ。
この光景を見た事で安全性は約束された。
ほっとした所で、勇者パーティに気付いたメンバーが話しかけてくる。
「見た事ないパーティだな。新入りか?」
「いや、今日は見学に来ているだけだ」
「って事は未来の新人だな!来いよ、飯代なら出してやるぞ!」
ライザとウォードはいつの間にか肩を組まれ、連行準備が整っている。
「あー、女はあっちが良いぞ。一応男女毎にグループがある」
「最初は知らない男共より、同性の方が話しやすいだろ?」
彼らは冒険者かつプロの客であり、人の捌き方を知っている。
混沌とする飲食スペースが維持出来るのは、彼らの協力あってこそだ。
ネルとイーザは勧められるまま、女性グループの所へ行く。
「今日はタルトを用意しました!店長が!」
「そこは手作りじゃないの!?」
テーブルを囲んで、女性達がタルトを眺めている。
二十人以上の集まりで、楽しそうに会話しているようだ。
「お姉様、新人ちゃんですよ。混ぜてあげませんか?」
「勿論歓迎するわぁ。店長、お酒サンセット!」
仕切っている女性が酒を追加すると、店長の男性は頭を抱える。
サンセットというのは、日没まで飲むという意味である。
今は昼過ぎなので、少なくとも数時間居座る事になる。
「新人ちゃんごあんなーい!」
凄まじい勢いでネルとイーザが連れて来られ、グループに吸収される。
ここでようやく、仕切っている女性が何者か分かる。
「「「あっ」」」
正体は、見た事のある顔、ローズである。
既に酔っているようだが、事のまずさは理解したようだ。
「その子達を離しちゃダメ!」
二人はがっちりと押さえられ、逃げ出せなくなった。
「「死んだはずじゃ…」」
「ま、まあ色々あるのよぉ」
ローズは、"敵になったふりをして鍛えた"という言い訳で逃げる。
実際その通りなのだが、事情を知らない二人からすると怪しい。
とりあえずは敵ではない事を伝えた上で、拘束を解く。
「再開と仲直りの印、乾杯!」
ローズは、酒の入ったグラスを掲げ、飲み干す。
ネルとイーザは、女性メンバーに酒を渡され、それに口を付けてみる。
「「美味しい…」」
「それはブラッディ・ナイト。最初の一杯目にオススメねぇ」
赤い酒に、半月状に切られた果物が入っている。
これは、酒にブラッディ・イートンの汁を混ぜて調整したものである。
甘くて飲みやすいため、つい飲みすぎるケースが多発している。
空気が落ち着いたのを察知したメンバーは、また盛り上げ始める。
「タルトもどうぞ!足りなくなったら作りますよ!店長が!」
「次のお酒はこれ。スターダストって言う、弾けるお酒よ」
「新人ちゃんの話も聞きたいなー」
今回の集いは、女性グループと言うよりローズのグループである。
彼女によって救われた者が自主的に集まっている。
よく見ると殆ど翼人族であり、羽が片方しか無い者も居る。
翼人族は希少かつ戦力としても使えるため、捕まえて売ろうとする者が多い。
大体はその手から救われた者達である。
「「これも美味しい…」」
「次のお酒は…」
男女グループのどちらも打ち解けるが、言うまでもなくダウンする事になる。
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一方こちらは、黒爪のギルドマスター部屋である。
フェイリアとトースが話している。
これは、定期的に行われるギルド上層部会議である。
基本的にはマスターとサブマスターで、場合によっては他の者が数人入る。
「あとは、森の三人組の扱いですか」
「僕はそろそろ消しても良いと思いますが」
何やら不穏な会話がなされている。
森の三人組とは誰なのか、言うまでもない。
「いずれはその予定です。急ぐ事は無いでしょう」
「これを見て貰えば、考えが変わると思います」
「ふむ…なるほど」
フェイリアは書類を読み、少し考えた後、結論を出す。
「確かに、今のタイミングで消しても問題は無さそうですね」
「併せてこの計画はどうでしょう」
「承認します。次に三人組が訪れた時、私の所へ案内するよう伝えてください」
そう言うと、フェイリアは名簿のような物から、三人分の名前を消す。