80.怪しい建造物とモードチェンジ
今回の舞台は、最近状況が見えていない【妖精の森】である。
元々小鬼族が住んでいた場所は、謎の建造物に変わり果てていた。
「想定より早く出来上がって良かったわ」
「「「ノ エベ シシ!」」」
建造物の中では、フィーリと小鬼族が会話している。
これはクルタが話していた"お城"で、大富豪もびっくりの五階建てである。
「仲間達、お前、褒めてる」
通訳係となっているのはギギで、他の者と一緒に荷物を運んでいる。
しかし、その荷物は小鬼族に必要な品ではなさそうだ。
やけに禍々しい見た目の装飾品や、子供の落書きに色を付けたような絵画が見える。
既に場所は決まっているようで、小鬼族達はてきぱきと配置していく。
…
「まっくろぬりぬりする!」
「はい、その通りです!終わったら何をしますか?」
「勇者達を皆殺しにしてやる」
「…」
建物の塗装を行っているのは、ティスラとシャドウ・パペットだ。
調整はかなり進み、まともに仕事をこなせるようになった。
ただし言動は未だに怪しい。
「とどかないー!」
シャドウ・パペットは、影を張り付けるようにして壁を塗っている。
歩いているだけで周囲が勝手に黒塗りになっていくが…
天井は流石に無理があるようで、上を指差して訴えてくる。
「出来る所から終わらせましょう!」
「やだ!」
シャドウ・パペットはプライドが高く、完璧な仕事が出来ない事が不満なのだ。
しかし、天井は高く、踏み台を使っても届かない。
物を配置する場所だけ塗っておけば良いので、全面塗装する必要は無いのだが…
これを説得するには骨が折れそうだ。
…
「「「騙された!」」」
「ふはは!見抜けなかった方が悪いのさー!」
"お城"の外では、荷物の山に囲まれている四人組が騒いでいる。
「「「近くて高くて楽な依頼のはず!」」」
「期限が近くて、負荷が高くて、クオ様だけ楽な依頼で合ってるよん」
喋っているのは、中級冒険者三人組と、仕掛け人のクオである。
大量の荷物を全て運搬しなければいけないのだが…
一人だけ現場監督として楽が出来るポジションが用意されている。
それ以外は地獄そのものである。
「「「…」」」
一日中作業しても到底終わらない量に絶望する三人。
言葉は発しないが、目には涙を湛えている。
「分かった分かった、手伝うってば!」
この依頼は重要な為、最初に依頼を受けた者が準備金を受け取れる。
本来ならば準備金を使い、作業員を増やしたり道具を購入したりするのだ。
しかし、クオが全てギャンブルに使ってしまったので今回の事態になっている。
「ほいほいっと」
荷物を持てるだけ持ち、当たり前のように空中を跳ねて運搬するクオ。
普段からアイテムを採取した状態で動き回っているので、慣れたものだ。
「本当にピンチだと助けてくれるんだよな」
「そう言われてみれば…」
「何だかんだで面倒見は良いのかもな」
幾度となく連れまわされていた三人組は、クオに何かを感じていた。
しかし、この状況を引き起こした犯人でもある。
「「「やれるだけ、やってみるか」」」
少しだけ、進化の兆しが見えて来た。
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一方こちらは、珍しく部外者の居ないギルド【黒爪】である。
依頼カウンターで話している者達が居る。
「隊長、聞いてくれ。ついに属性剣を一人で使えるようになったぞ」
「この短期間で…?流石ですね」
話しているのはボルドーと、シルヴィアである。
「素直に驚きましたが、それ以上に気になる事が…」
「ああ…」
二人の視線が向かうのは、すぐ近くの壁際で待機しているデスピオだ。
なぜか大剣を持っている。
「フン…これか?」
言わずとも察したのか、大剣を指差す。
魔法主体の者がこのような武器を持つのは、基本あり得ない。
「この大剣は実体、つまりマナ消費無しで操作出来る物。普段はこれを使えば効率的だ」
「マナが節約出来るという事は理解出来ますが…」
デスピオは魔人族という事もあり、身体能力が高く、意外と重量武器も使える。
適性も高かったようで、すんなりと扱えるようになったのだ。
効率的と言う発想だけで使いこなしてしまっている。
「この大剣が異様だと言うなら、コイツの方が異様だ」
デスピオはボルドーを指差す。
何を言われたのか理解したボルドーは、自ら打ち明ける。
「魔法って楽しいよな!隊長の気持ちが分かったぞ!」
「使えると便利な事は多いですね」
魔法剣を使うくらいなので、ある程度は出来るだろうと思っていたシルヴィア。
しかし、そういうレベルではないのだ。
「Lv120程の魔法までなら、使えるようになったらしい」
「おう!久しぶりに張り切ったらこうなった!」
実は、お互いの得意分野で煽り合った結果、負けず嫌いで急成長したのだ。
ボルドーは魔法使いならばLv120程のレベルへ進化し…
デスピオは同様にLv130程の戦士レベルに進化している。
お互いに本業では負けないが、多少は勝負が出来る強さだ。
フォレスト・ダンジョンでそんな事をしていたので、成長速度が異常である。
「私もいい加減、鍛え直さねばいけませんね…」
最近のシルヴィアは、レベルの上がる作業をこなしていない。
元部下やそのライバルに差を付けられそうなため、少し火が付いた。
色々と状況が変わったようだが、変わらない物もある。
「何だその魔法は。非効率かつ非生産的だ」
「あ?なら、そっちだって大振りすぎてただの的じゃねえか。馬鹿か」
「真の剣術が理解出来んか。出来の悪い頭は剣の錆にしてやろう」
「ふん、調子に乗れるのはそこまでだな。新たな魔法の力を思い知れ!」
これも更にレベルアップの糧となる、無限育成システムが完成しているようだ。