79.相談出来るお隣さんと訓練の成果
大体一日一話ペースには中々戻れそうにない状況ですが、完結までは行きたいので少しでも進めて行きます。
話に困ってる訳でもなく、単純に時間が無いだけなので、そこだけはご安心を。
本日の舞台は、色々と雰囲気が変わっているオトルスである。
トリナムを中継地点として、イスカ・オトルス間は格段にアクセスしやすくなった。
宿も多数あるので利用出来るので、交易ルートの通過点にする者も出始めている。
今回は、ロークスが領主の館に訪れている。
ここ最近の情勢や、お互いに協力出来そうな事を話し合っているのだ。
「成程、イスカでは農村の収入が領内トップなのだな」
「言うまでもなく、トリナムがほぼ全部を占めている状況ではあるが…」
「ゼクト領側のルートを整備してみてはどうだ?今は結構な遠回りと聞く」
両名はいつの間にか仲良くなっており、お互いに相談したりする仲まで発展している。
「オトルスは制度が大きく変わったのもあって、今期の収入が全く読めん」
「例年通りならば、中央都市が三割、他は大体一割程か」
「以前の制度だから成り立っていた所もあってな。例えば安くてきつい仕事だとか」
「それなら、領主発行の仕事にして補助金を出せばどうだろうか」
時折雑談も交えつつ、お互いに問題点を解消していく。
本来であればお互いに情報を出し過ぎなのだが…
今回はリスクを超えたリターンを見込めている。
話が落ち着いた所で、ロークスが妙な品物を取り出す。
白色の丸い物体と、それに封筒が張り付いている。
「さて、今日はこの話もしておきたい」
「それは何だ?宝石ではなさそうだが」
「忘れていた事を思い出せる物体だと聞いている。信頼出来る者からの品だ」
ロークスの指示により、ディバは謎の物体を受け取る。
すると、物体は一瞬淡く光り、気が付くと元に戻っていた。
「…お、思い出したぞ!こうしては居られない!」
「待て、落ち着け」
ディバは急に慌てだすが、ロークスが気を引いて鎮める。
「バスカだ!奴がワシを狂わせた黒幕だ!今頃他所で悪さをしているかもしれん」
「思い出した事に関しては、封筒に答えがあるそうだ」
ディバは少し落ち着き、封筒から手紙を取り出し読む。
読み進めるにつれて表情は緩くなる。
「そうか、奴は捕まったのか。安心した」
「詳しくは知らないが、魔女殿の関わった話ならば安心だ」
この手紙には、バスカと名乗っていた邪神【黒渦】の状況について書いてある。
フェイリアが用意したもので、ロークスはお届け人だ。
後日、この件のお礼と言う事で、ギルド【黒爪】宛の公式依頼が増える事になる。
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一方こちらは、【迷いの森】にある小鬼族の拠点である。
今まで殆どダンジョンに籠りっぱなしだった、ジェイドが休憩している。
そこへ留守番のクルタが合流する。
「あれ、今日は行かないんですかー?」
「ついに魔神化を制御出来るようになった。キリの良い所で休憩を入れている」
かなりの回数使い続ける事でコツを掴んだらしく、暴走する事はなくなったのだ。
「おおー、じゃあ成果を見せてください!氷のやつが良いです!」
「良いだろう」
そう言うと、ジェイドは構え、素早く魔神の力を取り入れる。
「魔神化・銀貨!」
今回選択したのは魔神【銀貨】の力で、氷を操るものだ。
これならば力を使い過ぎない限り、周辺が砂漠になる事は無い。
「何か、思ってたのと違うって言うか…」
クルタは、見た事が無い属性を選んだがガッカリしている。
見た目は空中に三つの銀貨が浮いているだけだ。
知らない者が見ても、誰かが魔法で遊んでいるだけに見えるだろう。
「…シルバー・ワールド」
ジェイドが謎のスキルを使うと、少し離れた位置が真っ白になる。
地面だけでなく草木も白くなっているが、これは微細な氷が張り付いているのだ。
「小さな草は完全に氷漬けですかー。本気だとどこまで出来るんです?」
「訓練スペース程度なら全域氷漬けだ」
「へ?」
クルタが規格外の力に言葉を無くす。
周囲に居るスライムは氷が面白いようで、取り込んだりして遊んでいる。
「ただ、未だに木霊だけは上手く使えない。休憩期間に考えてみるつもりだ」
「全く使えないんですかー」
「一応、使えた能力もある」
そう言うと、ジェイドは元の姿に戻り、そこから魔神化を再度使う。
今度は光の玉が浮いている。
「おーい!」
「!?」
何を思ったか、ジェイドは大声をあげる。
すると、放った声が時間差で返り、重なって聞こえてくる。
「グロウ・アップ」
今度は、足元の草が膝辺りまで伸びる。
全く何も出来なかった頃から比べると、かなりの進歩だ。
「今出来るのはこれだけだ」
「一体どうやって戦闘するんですか…」
「これらと魔法を組み合わせるタイプだと思われるが、全く分からん」
これでも相当に頑張った結果なのだが、未だに戦闘は無理そうである。
木霊本人が身近に居るのだが、まだ魔神と気付いていないのであった。
「ところで、暫く休憩するなら、留守を任せて良いですかー?」
「良いだろう。出る時は言え」
今までは大体クルタが留守番だったので、たまには交代する事になった。
特にルールは無いが、ギギかこの二人のうち一人残るのが通例だ。
意外にも、この拠点の留守番は地位が高くないと出来ない。
つまりこの二人は、ギギに信頼されているのだ。