77.盗賊団長シルフィード
盗まれた経験を受け取ったパペット三人組は、まだギルド【黒爪】に滞在していた。
最近依頼に出かけていないので、チェックして行こうという考えだ。
そこへ、久しぶりの人物が現れる。
「皆様、ご無沙汰しております」
現れたのはメイドの一人で、他のメイドにはリーダーと呼ばれていた人物だ。
お互いに挨拶した後、少し会話をして行く。
「掃除したあの部屋はどうなったんだ?」
「皆様の力もあり、今では立派な客室でございます」
メイド達だけでなく、フェイリアも協力して内装を整えている。
クオが"引っ越し"する前に事を終えなければならない、タイムアタックだ。
今回は作戦勝ちで、部屋を手に入れられた。
部屋数だけで言えば余っているのだが、入口に近い部屋が空くのは重要である。
もはや笑い話である掃除の件を話し終わると、メイドからのお知らせがあった。
あの独特の名前に関する話である。
「私の役割が変更されております。以降はスクエルと名乗らせていただきます」
「そう言えば役割で名前が付けられてるんだったか」
このメイドの場合は、忙しい所を救助して回っているので、そこから名前を付けられた。
困った時には連絡が来る事になっている。
話していると、早速メイドが救援を求めてくる。
「リーダー!厨房の魔導融合炉が故障しました!」
「ああっ…皆様、申し訳ございません…」
トラブルがあった時はリーダーに報告する事になっているのだ。
人が多いので、喧嘩が無くとも毎日のように何かが起こる。
その度に呼び出されるので休憩はあって無いようなものだ。
「毎日忙しそうだな…」
「五億アグラが安く見える働きぶりでしょ?」
「「「!?」」」
いつの間にか三人組の後ろに立っていたのは、クオだ。
これは契約金であり、仕事で使っているメイド服等は別予算である。
身の安全を保障するため、メイド服は熟練冒険者より良い装備となっている。
「三人は、これ知ってる?」
クオは、三人組が驚愕している間に本を取り出す。
「ああ、有名な盗賊団長、シルフィードの伝記だな。俺も持ってるぞ」
「この間見せて貰ったやつね?変なスキルが載ってたけど…」
「ボクも持ってます。面白おかしく全土の金品を奪って行く内容ですね」
実在の盗賊団について書かれた書物であり、団長の実績に密着している。
滅茶苦茶なやり取りが多く、真面目な書物のはずが、娯楽として読まれている。
「知ってるなら、ちょっと来て!」
「「「???」」」
…
連れて来られたのは、以前シルヴィアと戦っていた訓練スペースだ。
相変わらず地面しかない寂しい空間だ。
「三人には、新しい遊び相手になって欲しいのさー」
目的がよく分からない三人組。
しかし、クオが短剣を取り出した事で訓練だと察する。
「最後まで耐えたら、"イイコト"教えてあげるよん」
三人組は、クオの実力がよく分かっていない。
生命力が凄まじい事を知っているくらいだ。
しかし、元サブマスターという事から、実力は相当なはずだ。
「どうせやるなら、本気で行くぞ!」
「どこまで通じるか分からないけど…」
「やるだけやってみましょう!鑑定!」
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名前:クオ=シルフィード
種族:獣人 Lv280
技能:
<大盗賊> ブツを盗む
<盗賊の宝> 中身はヒエー
<三秒ルール> 三秒以内か、三秒後にウフフ
<正面突破> 正面をオリャー
<運命回避> 死亡する場合、イヤーン
<その場凌ぎ> 決まっていない事をその場で決める
########
「「「シルフィードって、あの本の…!」」」
「正解でーす!さあ、掛かってきなさい!」
どうやら、伝記の盗賊団長本人のようである。
しかし、伝記に書かれていたのは百年程は前の話だ。
訳ありが集う黒爪の元サブマスターだけあって、とんでもない人物のようだ。
まずはいつも通り、クエラセルが前に出て仕掛けつつ、壁となる。
「どうだ!」
ズバァ!
「ぎゃあ!」
「「「!?」」」
あっさりと剣に当たり、斬られながら弾き飛ばされるクオ。
仕掛けたクエラセルも当たるとは思っていなかったので、逆に驚く。
しかし、普通に立ち上がったクオを見ると、傷は全く無い。
「ふはは!この謎を解かない限り、クオ様には勝てないのだよ!」
ビシッと指を差し、余裕が有り余っている。
「魔法ならどう!ファイア・ボム!」
「ぐへぇ!」
またしてもあっさりと当たるが、今度は初めからノーダメージだ。
「…一応、風の魔法石です」
「おっとっと!けど、この通り!」
定番のダメージ源は、全てダメージとならないようだ。
「おかしい。斬った感覚と傷もあったはずなんだが」
「魔法は全く効いてない?」
「どうも、防御が高い訳ではなさそうですが…」
作戦タイムと行きたい所だが、今回は待ってもらえない。
「次はこっちの番!行くよー!」
「そんなもの、剣で防御…剣が無い!?くっ!」
「おお、やるじゃん?」
いきなり持っていた剣が消えたが、発想の切り替えで凌ぐ。
あえて当たりに行き、刃が逸れるように鎧で受けたのだ。
「そして、こうだ!」
「あちゃー」
一連の動きを利用し、クオを羽交い締めする事に成功する。
しかし、この状態でも気の抜けた台詞を発している。
「よし、中くらいの魔法を撃ってくれ!」
「だ、大丈夫よね…?フレイム・スロワー!」
この状態であれば、魔法を無効化されるならクエラセルも無事だ。
賭け状態だが、情報を集める為、思い付く限りを試してみる。
「ぎゃー!」
「くっ、あの魔法、ここまでの威力だったとは…」
魔法は無効化される事なく、二人共ダメージを受ける。
「隙あり!ほい!」
「な、何っ!?」
ガツッ!ドサァ!
ダメージで一瞬拘束が緩んでしまった隙を突かれた。
クオがクエラセルの足を蹴り、バランスを崩した所で突き飛ばしたのだ。
姿をよく見ると、いつの間にか傷が無くなっている。
「「「ここまでやってダメージ無し…」」」
三人組が自信を無くしていると、タイムアップが訪れる。
「クオ、ここに居ましたか。掃除を命じたはずですが?」
「ゲッ…」
現れたのはフェイリアだ。
今回は三人組にとっては運の良いタイミングで、ある意味勝利だ。
「掃除なんてやるもんか!バカマスター、覚悟!」
「そうですか。フリージング・プリズン」
フェイリアが魔法を使うと、クオは巨大な氷に閉じ込められる。
「イビル・ランス」
ドガァァァ…
巨大な黒い槍が氷塊を貫き、崩壊する。
暫く待つと、中心部にクオが倒れているのが分かる。
慣れているので一瞬で勝負がついてしまうようだ。
勿論加減しており、瀕死だが息はある。
「一体どうやってダメージを与えたんだ…?」
「これは特殊な事例ですが、私の闇魔法であれば普通にダメージが入ります」
クオはスキルによって不死身のようになっている。
実はそれらに穴が存在し、見破られると普通に突破出来るのだ。
高レベルの者はそういった弱点が存在する事も理解しており、
生物鑑定を対策するか、スキルを自分以外に理解不能な状態にするのだ。
一行は瀕死状態になっているクオの横へ行き、様子を見る。
「そういえば、この状態だと話を聞けそうにないな」
「何か約束でも?」
フェイリアに一部始終を話すと、思い当たる事があるようで、話を続ける。
「おそらく、ここが元は盗賊団のアジトだったという事でしょう」
「「「!?」」」
「一階部分は、当時のレイアウトのままですよ」
話を聞いて行くと、かなり前の年代に遡る。
当時クオがここで盗賊団を仕切っていた頃、"金策"中のフェイリアと遭遇した。
無謀にも戦闘を仕掛けた事で瀕死の重体になり、部下は全滅した。
本当はそのまま罪人として突き出されて終わりだったのだが…
フェイリアが能力に目を付け、仲間に引き入れたのだ。
「出会いから戦闘で始まってるんですね…」
「そうなります。当時の私は未熟で、苦戦しすぎて一日経っていました」
そこまで言うと、フェイリアはクオの額に手を乗せる。
「彼女が居なければ、今の私も居なかったでしょう。そこは感謝しています」
「そうなの…?」
「当時から邪神の対策を考えていましたが、その後は世界を滅ぼすつもりでした」
「「「!?」」」
三人組は衝撃の事実を聞いている。
巨大な邪神を破壊する事は変わらないが…
その後、あらゆる物を生贄にして力を回復する予定だったのだ。
「それだけでなく、彼女に惹かれて人が集まり、ギルドにまで発展したのです」
「何となく分かる気はするな。グイグイ引っ張っていく力がある」
「その通りです。能力もそうですが、仲間としても大事な存在です」
話が一区切りついた所で、結構な時間が経っていることに気付く。
「今日の話はここまでにしましょうか。クオ、掃除の時間ですよ」
「…うん」
復活していた事を完全に読まれており、クオは掃除に連れて行かれる。
今回は大人しく着いて行くようである。
…
「俺の剣はどこへ…?」
「「あっ」」