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76.経験の返還と経験値の謎


本日の舞台は、ギルド【黒爪】である。

フェイリアに呼ばれて、パペット三人組とフィーリが訪れている。

以前迷いの森に現れた邪神から、経験を引き出すのに成功したのだ。


ギルドマスター用の部屋で話をするようだ。


「どうぞ、掛けてください」


三人組は、思った以上に質素な部屋に驚いている。

来客用のテーブルと椅子以外は最低限の物しか無く、生活感があまりない。

広めの部屋ではあるが、実際よりかなり広く見える程だ。

内装の豪華さで言えば、三人組の個室の方が上である。


「相変わらずのシンプル空間ね」

「これでも少し派手にしてみたのですが」


フェイリアはペン立てを指差す。

木製の箱のようなものに、ギルドのシンボルマークと思われる絵柄が付いている。

派手にした部分は間違い探しレベルのようである。


「さて、それはそうと本題ですが。例の邪神から経験を取り返したので、渡します」


いつの間に取り出したのか、白色の丸い物体をテーブルに置く。

どうやら二つあるようだ。


「こちらは、クエラセルさんの分です。手に取ってみてください」

「これで良いのか…?」


落とさないよう、しっかり支えて持つと、白色の物体が一瞬淡く光る。

よく分からない内に経験が返却されていたようで、光は消えたままになる。


「大丈夫だとは思うけど、どんな感じ?」


フィーリは気になった事があるようで、具合を確認する。

パペットになった後から人の状態を復元しているので、影響を知りたいのだ。


「一言で言うなら、過去の自分を覗き見れる状態のような感じだ」

「完全に自分の物にはならなかった訳ね?」

「そうだが…現状に不満はないから、問題ない」


影響はあったようだが、本人が納得しているので話を進める。


「では次ですが、魔神【炎羅】の経験です。こちらはフィーリに預けます」

「確かに預かったわ」


受け渡しは終わったようだが、折角なので少し話をしていく。


「あの邪神からどうやって経験を取り出したんだ?」

「そう言えば気になる!絶対抵抗しそうな感じだし」

「逆に吸収してきたりも考えられますね…」


三人組が、フェイリアの返答を待つ間に考えていると、あっさり答えが出る。


「狂信者達に引き渡した所、半日で言う事を聞くようになりました」

「「「え…?」」」


能力を封じた上で、邪神を信仰している異常な団体に引き渡したのだ。

信者たちは本気で崇めているつもりなのだが…

フェイリアが様子を見に行った時、動物の骨の粉末を飲まされていた。

他にも多数の求めていないサービスを行われ、自然と拷問になっていた。

そこで力尽き、経験を全て返す代わりにギルドで保護してもらう約束をしている。


「今はトースの元で精神力を回復している所です」

「変な宗教に掴まると危険なのは、いつの時代も同じようね」


その後暫く雑談した後、一行はまた別行動に戻る。


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一方こちらは、勇者パーティである。

四天王を全て倒し、あとは魔王に挑む所だと思っていたが、足踏みしている。

今は定期連絡のため、クラーグ王城に居るようだ。

今回は王妃のみで話を聞いており、王や大臣は不在だ。


「ライザは、ブラッディ・イートンを倒すと次のレベルになるでしょう」


連絡が終わった後は、次の目標が具体的に指定される。

別に強制ではないが必ずレベルが上がる為、モチベーション維持に使っている。


特に異常事態は無かった為あっさりと報告を終え、自由時間にする。


「うーむ…」

「ライザ、行く店でも決めてるのか?」


悩んでいるライザに声を掛けるのは、ウォードだ。

報告を終えた後は、酒場で精神疲労を抜くのが通例になっている。


「いつも報告の最後、レベルアップの基準を聞かされるが、妙だと思ったんだ」

「と、言うと?」

「毎回絶対レベルアップする。なぜ分かるんだ?」


これもクラーグの名物ではあるが、もちろん仕込みがある。


「それを言ったら、レベル依存の技禁止って方が妙だぜ」

「使わないから深く考えなかったが…確かに妙だ」


勇者パーティには制約も存在し、その一つがレベル依存のスキル等禁止だ。

このパーティの場合は誰も使わなかったので実害はない。

しかし、謎が積み重なっていく。


「まあ、そういう話は明日にして、いつもの所で飲もうぜ!」

「そうだな、余裕のある内に羽を伸ばしておかないとな」


結局今回は、行きつけの店へ向かう事になった。





「あ、いらっしゃい!テーブル空いてるよ!」


二人は何年も通っている常連なので、店員の女性が友達のように話しかけてくる。

通い始めの頃は子供っぽさが残っていたが、今では大人の女性である。


「おー、二人とも来たか。今日は"しおふりにく"が美味いぞ?」

「いいねぇ、だったら二人分くれ。酒はいつもので」

「はいよ」


勝手に注文を始めるウォードだが、いつものパターンである。

このメニューは、良質な肉を焼き、塩をかけただけの物だ。

シンプルながら肉の旨味と食感が直に伝わるので、人気の一品だ。


なお、話しているのは酒場のマスターで、やはり長い付き合いだ。


「お酒お待ちー!」


先程の女性が二人分の酒を運んでくる。

沸騰しているように見える無色の物と、真っ黒な物だ。


「俺はやっぱりベラン・メエで開始だな」


ウォードが無色の方を取り、ぐいっと飲む。

この店オリジナルの酒で、"ベラン・メエ"という名前で売られている。

他にも"テヤン・デエ"等色々と種類があるが、どれも酒精がかなり強い。


「俺は、闇夜の貴公子だ」


黒い方を取るのは、ライザだ。

言い回しのせいで壊れたように思えるが、これも酒の名前だ。

色に反して甘めの味わいになっており、女性にも人気だ。


「私は、水…」


なんと、酒を運んできた女性も飲み始めた。

ちゃっかりライザの横の席を奪っているが、これもいつもの光景である。

業務時間内なので、酒は飲めない。


「早速くっついてるな、二人共。もう家庭持っちまえよ」

「残念!ライザは第一王女様が好きなんだもんねー?」

「ゲフッ!ゲフッ!」


唐突な情報漏洩に、ライザは喉を詰まらせる。

以前一人で飲んでいた時に酔い過ぎたようで、自白していたらしいのだ。


ちなみに、パペット三人組にボロ負けした後の話である。


「案外良い狙いかもな。魔王を倒したら英雄だろ?可能性あるぞ」

「ええ!?派手に失敗する前に、私で妥協しなさい!」

「何気に酷いこと言うぞコイツ」


大体いつもこんな感じで、オフのライザは振り回されっぱなしだ。


「肉が出来たぞー。お前もそろそろ休憩終わりな」

「も、もう終わっちゃったの…」


マスターがしおふりにくを運んで来たタイミングで、ライザは解放される。

まとめて注文が入ったようで、女性も一緒に引っ込んでいく。


「それにしても、まさか第一王女様とはな」

「この際道連れだ。ウォードは誰なんだ?」

「誰も何も、イーザと暮らしてるが。言ってなかったか?」


ライザは、せめて自爆仲間を増やしたかったが、無効化された。

シールという共通の話題を通じて仲良くなっていたのだ。

現段階では一緒に住んでいるだけだが、時間の問題である。


「い、いつの間に…大体俺と飲んでいたから、そういう話は無いと思っていた」

「今しかやれない事をやっておこうって決めてるんだ」


妙に現実的な話になり、本日はライザの酒が進んだ。

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