75.壁の壊し方と名前を伏せる理由
執筆時間が全然取れない状態ですが、書かないと忘れるので、毎日ちまちまとやってます。
多分しばらくはこんな感じのペースになると思います。
「「「うーん…」」」
紙を片手に、沈んだ雰囲気の集団が居た。
食事を待っている間に会議を行っているようだ。
「まさか、最初の戦闘で全力撤退する事になるとは思いませんでしたね」
「見た限りでは一番弱い組み合わせだったけど…」
ここはトリナムの【えいみん屋さん】である。
貸し切りの如く、ギルド【ワークプレイス】の面々が集まっている。
連日のようにフォレスト・ダンジョンへ挑戦しているのだが…
ついに攻略に詰まってしまったようで、突破するための会議を行っている。
「最近はフラックに任せ過ぎているので、我々でも考えて、案を出しましょう」
張り切っているのは、マスターのジールメントだ。
殆どの事は安定した結果を出せる彼だが、フォレスト・ダンジョンは違った。
直感で行動しないと間に合わない世界に、適応しきれていないのだ。
「そういえばフラックはどこ行ったの?」
「突破方法を夜遅くまで考えていたので、休みを取らせました」
良いギルドでは、一人の負担が多過ぎる時、他の者がカバーする。
作業量の均等化と教育を同時に行っているのだ。
こうする事で暇を持て余すメンバーを作らず、休養日も捻出出来るようになる。
「ではまず、配った紙を見てください」
紙には、敵の鑑定結果が書いてあるようだ。
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種族:ウォール・ユグランス Lv100
技能:
<得がたい> 状態異常耐性が大幅上昇
<通しがたい> ダメージを三分の一にする
<義理がたい> 味方への攻撃を自身に誘導する
<良いがたい> 体力と防御力倍化
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種族:スラッシュ・エリオ Lv100
技能:
<高速連斬> 攻撃力を三分の一にしてランダムに五回攻撃
<無限連斬> 高速連斬を使用した場合、使用回数*2回の追加攻撃
<無双連斬> 高速連斬を使用した場合、一撃毎にダメージ上昇(累積)
<超短気> 自身か見方が攻撃を受けた場合、攻撃力増加
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種族:ヒール・サリックス Lv100
技能:
<回復> 単体補助魔法 Lv120 体力回復
<攻撃低下> 全体補助魔法 Lv80 【攻撃力低下】付与
<防御低下> 全体補助魔法 Lv80 【防御力低下】付与
<本性> 見方が全滅した場合、攻撃特化形態へ変化する
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「前回は、壁を突破出来ずに終わりましたね」
「何で攻撃してもあまり効いてなかったし…」
「攻撃力を下げられた上で回復もするしな…」
十一階の構成は、冒険者と似たようなバランスタイプだ。
ウォール・ユグランスが攻撃を集め、スラッシュ・エリオがダメージを稼ぐ。
それを支えるのが、補助役のヒール・サリックスである。
長期戦も見据えており、長引かせると押し切られてしまう。
「「「うーん…」」」
殆どの者の視線が、ウォール・ユグランスへ行く。
これを突破しない事には、他が倒せないのだ。
「何シケた面してるんだい!折角の食事が台無しだよ!」
いつの間にか料理が運ばれており、フロレスタが声を掛けてくる。
大皿から料理を取り分け、おばちゃんパワーで強引に食事を取らせる。
…
「フォレスト・ダンジョンで詰まったのかい?」
「ええ、十一階で足踏み中です」
フロレスタはダンジョンに興味があるようで、一行の横から話しかけてくる。
視線は鑑定結果の紙の方へ向いている。
殆どのメンバーは食べるのに必死なので、ジールメントが会話を引き受ける。
「この組み合わせを突破出来れば、また進めそうなんですが」
「なんだい、簡単じゃないか」
フロレスタも異常側の者なので、この程度のパズルは楽勝だ。
鑑定結果の紙を見て、ヒントを出す。
「敵の数が多い所を狙うんだね」
「「「えっ?」」」
「常連サービスはここまでだよ!」
ヒントを与えたフロレスタは、満足したのか姿を消す。
…
一行は貸し切った宿屋に移り、ロビーで話し合う。
ヒントが出たとはいえ、なかなか案が纏まらない。
「姉さんなら、本気出せば全体魔法で一撃だろ?」
「別荘買ってくれたら一撃になっちゃうわー」
何気ない会話だが、ジールメントは何かに気が付いたようだ。
「それです!それで行きましょう!」
「「え?別荘?」」
勿論別荘購入ではなく、全体魔法の方である。
ウォール・ユグランスの攻撃引き付け能力は凄まじいが、自動発動だ。
多数の敵に全体魔法を発動すると、それを全て引き受け、自滅する。
その後はヒール・サリックス、スラッシュ・エリオの順で倒せば終了だ。
他にも対策すべき敵が居るので、引き続き案を出していく。
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一方こちらは、農業見学を終えたパペット三人組である。
今日は小鬼族の拠点に来ている。
普段ならば何かしらの音や声が聞こえてくるはずだが、やけに静かだ。
事情をよく知らない三人組は、クルタに聞いてみる。
「皆なら、妖精の森でお城を作ってますよー」
「「「城…?」」」
ピンと来ない三人組のために、城のイメージ絵を描いてみせるクルタ。
それを見た所、小鬼族の拠点を強化した物とは違うらしい。
「これを造るには、相当な準備と時間が必要じゃないか?」
「強力な助っ人さんによると、一週間で大体は出来ると聞いてます!」
「とんでもないな…」
「あの魔女さんですよ?」
クルタはフィーリの名前を知らないのでこう呼んでいる。
「あ、そうでした!実は魔女さんの正体が分かったんです」
クルタは、鞄から謎の本を取り出す。
歴史書のようで、挿絵のようなものと解説が書かれている。
「この方です!天地無用のフィーリ」
「「「!?」」」
そこにあった姿は、紛れもなくフィーリ本人である。
街中らしき場所、それも大通りのど真ん中に居座っている。
木製の杯に座っており、邪魔で大型馬車が往生している絵のようだ。
挿絵は割と平和そうに見えるが…
解説の方はとてもショッキングな内容が続いている。
「これをひっくり返すと、全身から…」
「ストップ!そこはちょっと」
グリンは経験で危機を回避した。
読み上げるのを止めたクルタは、もう一つの本を取り出す。
「こちらでは黒翼魔女フィーリと呼ばれていて、凄い事になってますよー」
焼けて炭になった建物が多数存在し、その間を何者かが歩いている挿絵がある。
フィーリと思われる者は、全体的に赤黒っぽい服に変わっていた。
どういう訳か翼のようなものが付いていて、何となくベチュラと似ている。
「雰囲気が違うのは気になるな。解説は代わり映えしないが…」
「これ…うっ…」
「どうしました?」
リコラディアは、"汚染"された経験があるので、闇の力を感じ取った。
早い段階で浄化されたため影響は少ないが、汚染者を見ると死にたくなってしまう。
なお、有名な者は、黒歴史が歴史書に残り続けるのだ。
三人組は、ある意味とんでもない情報を手に入れた。