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71.風の四天王

忙しい時期に入って来たので更新タイミングが変な感じになるかもしれません。

それもあって早く終わらせようとしたのですが、まあ予定通りにはいかないものです。

「本当にこんな所で合ってるのか?」

「地図を見る限りは、この先のはずだが」


地図を見ながら乾いた大地を進んでいくのは、勇者パーティである。


ここはクラーグ領北部にある、【ワームロード渓谷】と呼ばれる場所だ。

まるで芋虫が這いまわって掘ったように見える地形から名が付けられた。

谷は何層もの段状になっており、空を飛べない者は道の選択肢が無い。


水源が少なく、人が住むに向かない場所なので、主に爬虫類の天国である。

何が原因でこのようになったかは解明されていない。


「あれは何?」

「ネルさん、それ以上は危ないです!」


崖のような部分から突き出している木が存在し、果実を付けている。

これを手に取ろうとしたようだが止められる。

今回は転落を警戒しているのだ。


「あら、美味しいのに」


翼を持つ女性が空から現れ、先程の果実を手に取る。

皮は簡単に剥けるようで、特に道具も使わず食べられる状態にする。


本人に食べる気は無く、ネルの後ろに降り立ち、手を伸ばして実を見せてくる。

後ろから抱き着くような格好になっていて、逃げられない。


「お姉さんが、食べさせてあげるわぁ」

「ちょっと…恥ずかしい…」


現れたのは、自称お姉さんのローズだ。

場所などお構い無しに、過度な密着状態でサービスを提供する。

ローズは普通の事だと思っているのだが、特に男性陣には目の毒である。


何となく見てはいけない気がして、他三人は目を背ける。





「師匠…?この間ちらっと話してたやつか」


果実を食べ終わったタイミングで、ネルとローズの関係の話になる。

といっても知り合って長くは無いのですぐに終わる。

大体の人物像が見えてきた所で、魔王がらみの話へ移行した。


「勇者パーティは魔王と暗黒騎士を倒すのが目的だが、まずは四天王から崩す」

「今日は、四天王・風を追って来たんですが…」


そこまで聞くと、ローズは会話を遮る。


「そう…お別れの時ね。短い間だったけど、楽しかったわぁ」

「…?」


ローズは暫く黙ったと思うと、ネルから離れ翼を展開する。


「私は魔王軍幹部、四天王・風」

「そ、そんな…」

「育ちすぎると面倒だから、ここで全員消えてもらうわぁ」


言うまでもなく、デスペラード・クエストで四天王・風を演じている。

ザウドの代役としてローズが選ばれたのだ。

勇者パーティが構える前に上空へ飛び…

魔法ですら当てることが難しい高度へ行く。


「おいおい、これはどうする」

「まずは、魔法が当たりそうか確認だ。ここはネルに頼む!」


複雑な心境だったが、戦いへ意識を切り替える。


「アイシクル・ランス!」


魔法は問題なく発動するが、そもそも距離があるので、全く当たる気配が無い。

一行は攻撃を当てる手段を考えるが、良いアイデアが出て来ない。


「そうだ、鑑定結果は?」

「あの速度で不規則に動かれると、対象として認識出来ません…」


ウォードは出てくるはずの鑑定結果に期待するが、今回は無理だった。


生物鑑定は対象に特殊な魔力を流し、その後情報を保存した魔力を再度受け取っている。

この魔力が当たらなければ、そもそも鑑定出来ないのだ。

鑑定結果を操作出来る連中は、これを認識して操作した後、返却している。


「一体どうすれば?何か当てる手段…うわっ!」


ライザが必死に考えていると、突如強風が吹く。

暇を持て余したローズの風魔法で、ただの脅かしだ。

一方的にやられるが、現状では成す術がない。


「苦戦しているようだな。流石は四天王と言った所か」

「暗黒騎士!こんな時に…」


暗黒騎士、もとい演劇中のシルヴィアが現れる。

勇者パーティは死を覚悟するが、何やら状況が違うようだ。


「前々から、命令を無視する四天王・風が気に食わなかったのでな。処分する事にした」

「は…?」


シルヴィアが空に向かって剣を掲げると…

高速移動していた物体は失速し、コントロールを失って地面に叩きつけられる。

一行の近くに落下し、フラフラしながら立ち上がる。


「暗黒騎士…これは何のつもり!」

「命令無視の罰を与えただけだ」


ローズは地面と激突したダメージのせいか、翼を展開しなくなった。


この魔法のような物の仕掛けだが、簡単なトリックだ。

ローズの方で、いかにも攻撃を受けたかのように自滅しているだけなのだ。

空を飛べない状況を作っているだけで、実は翼を展開できる。


「生きていれば、また会おう」


シルヴィアはそのまま来た道を戻り、居なくなる。


「何だか分からんが、チャンスだ!」

「そ、そうだな。今のうちに仕掛けるぞ!」


固まっていた空気を破ったのは、勇者パーティだ。

おぼつかない足取りのローズに攻撃を加え、隙を作る。


「鑑定結果、出ました!」


########

種族:翼人 Lv110

技能:

 <闇の眷属> 保存した影のスキルを使用出来る

 <空中特化> 飛行状態の時、攻撃力・命中率・回避率が大幅上昇する

 <速度増加> 命中率・回避率が上昇する

 <トスカ・ギア> 魔法を三百種まで保存でき、直に使用できる

 <エイミング・ショット> 物理単体攻撃 Lv100 高命中

 <ペネトレイト・ショット> 物理単体攻撃 Lv100 防御無視

########


ローズは貴重な空中戦力の一人であり、スキル構成も特化型だ。

黒爪で開発中の新技術、トスカ・ギアも取り入れている。

このスキルは、魔法適性が無い者でも魔法を発動出来るようになるものだ。

なお、デスピオの作品である。


「これは…飛べないと思われる内に仕留めるぞ!」

「「「了解!」」」


スキルを見る限り、地上なら戦えると判断する勇者パーティだが…

実は、まともにやり合うと、この状態でも勝てない。

頑張れば勝てそうな状況をわざと与え、特訓させているのだ。


「ウインド・ブロー!」

「「「「!?」」」」


ローズは、トスカ・ギアに保存されている魔法を使う。

威力は低いが、相手を風で吹き飛ばす魔法で、距離を取る事が出来る。

遠距離武器の者には嬉しい魔法だ。


勇者パーティは、スキルの中にスキルが存在するものを知らない。

というのも、このタイプは自然発生するような物ではなく、非常識な代物だ。

見た事の無い技術の洗礼を受け、困惑している。


「ステイブル・ボウ!」


その隙を使い、ローズはトスカ・ギアに保存してある魔法で弓を作る。

本来は弓を装備した状態で、空から射撃するスタイルだ。

この魔法弓は幾つか種類が存在し、今回は取り回し重視だ。


「弓使いならば… ウインド・アーマー!」


ライザは、以前使っていた風の鎧を発生させる魔法を発動する。


「弓の攻撃は引き受ける!全員後ろから着いて来てくれ!」

「俺は近付いたらすぐ仕掛ける!」


今まであまり活躍しなかったウインド・アーマーだが、案外高性能だ。

特に弓矢に関しては大きく逸らす事ができ、ほぼ無効化出来る。

ただし、自身にしか付与出来ず、魔法は素通しの物が多いため使い所を選ぶ。


「お望み通り狙ってあげる。ペネトレイト・ショット!」


ライザに飛んで行った矢は逸れ、地面に突き刺さる。

効果抜群のようで一行は安堵し、防御姿勢を解いて前進する。

この状態を見ていながら、ローズは弓を手放さない。


「エイミング・ショット!」

「掠ったが…問題ない!」

「そろそろ、振出しに戻って貰おうかしら?」


大分距離を詰められているので、また風魔法で吹き飛ばそうとするローズだが…


「させない!ロック・ウォール!」


ネルの新魔法で岩の壁が張られ、風は防がれる。

その後、壁からウォードが飛び出し、勢い良く斬りつける。


「食らえ!」


ズバッ!


「そんな…!」


弓で防御したローズだったが、貫通して剣を受け、一気に重体だ。

よろよろと後ずさりするが、後ろは崖で、それ以上進めない。


崖ギリギリのところで倒れ込み、傷口を押さえながら喋り出す。


「私は、こんな、何もない所で死ぬのね…」


戦意喪失した事を確認した一行は、警戒しつつ様子を見る。


「せめて、最後は空に…」


重体のまま崖の方へ体を預け、転落する。

暫くして、何かが地面にぶつかる音がする事で、一行はその後を見ず帰還する。





「トスカ・ギアは使えたようだな」

「思ったより使いやすいのねぇ」


崖下の死角にある洞窟で話しているのは、ローズとデスピオである。

デスピオがトスカ・ギアを与え、実戦テストを依頼した。

攻撃魔法だけでなく衝撃軽減や回復の魔法等も入っている。

今回、地面に激突して大丈夫だったのは、これらの魔法のお陰である。


「一応注意だが、マナが無くなると魔法は発動しないからな」

「そ、そうなのねぇ…」


実は、ローズは魔法の適性があまり無い。

基本は弓か、他の遠距離攻撃メンバーを運んで戦闘する。

それだけでも戦力として成り立っていたのだが、戦術に幅を持たせたかったのだ。


これで、物理攻撃が効き難い相手も倒せるようになった。

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