70.中級冒険者への道
ギルド【黒爪】で掃除を手伝ったパペット三人組であったが、
休憩して体力が戻るまでに日付が変わってしまった。
今は、ロビーの隅の方で固まっている。
「気付いたら結構な時間だぞ…」
「本当だわ。そろそろ帰った方が良さそうね」
「こんな時間でも人は居るんですね」
一行は帰る準備をしようとするが、そこへ話しかけてくる者が居る。
「たまには、泊まって行きませんか?」
「「「えっ?」」」
宿泊を勧めているのは、シルヴィアである。
黒爪は宿泊用の施設や浴場等も完備しており、突然の宿泊も可能なのだ。
固定部屋に陣取り、半ば住人のようになっているメンバーも居る。
これらの施設は、特別な理由が無い限り、新人が使う事は出来ない。
中級冒険者以上になって初めて存在を知らされるのだ。
「どこに宿泊スペースがあるのかすら知らないんだが」
「という事は、まだ昇級していないのですね」
新人から中級冒険者になるには、Lv70以上になる必要がある。
もしくは、それ相応の実力を示せれば良い。
認められれば、晴れて施設を使う権利を得られる。
三人組は今時点でLv65なのでレベル不足だ。
それを話すと、シルヴィアは無茶な事を言い出す。
「訓練で私と戦い、勝てば実力の証明になります」
「「「勝てる気がしない」」」
「何度でも挑戦出来るので、負けても大丈夫ですよ」
そういう問題ではなかったが、経験しておくのもアリと考える。
…
「ここが入り口です」
指差された先には扉があり、開いてみると行き止まりの通路になっている。
「知らずに入ると、行き止まりに繋がりますが…手を繋いでください」
全員が手を繋ぎ、もう一度扉を開けると、開けた明るい空間になっている。
これはフェイリアの裏世界を応用したもので、どこを見ても地面しかない。
この空間は開いた瞬間に再構築が行われ、破壊して帰っても元に戻る。
存分に暴れられる便利空間なので、特訓や技の練習等に使われる。
シルヴィアは中に入ると鎧を脱ぎ、いつも持っている呪剣も置く。
「手加減しますが、本気を出さなければ死ぬと思ってくださいね」
そう言うと、シルヴィアの元に冷気が集い…
氷で出来た剣、盾、鎧のフルセットに包まれる。
「何だこれは、見た事が無い」
「妙な魔力を感じるわ…何かあるはずよ」
「慌てず鑑定!」
########
種族:人間 Lv120(80)
状態:氷騎士
技能:
<闇の眷属> 保存した影のスキルを使用出来る
<クラーグ魔導騎士> 攻撃属性と同じ属性の魔法を同時に使用できる
<キューレ・リヒター> 氷騎士となり【氷】、【氷属性無効】付与
<アイシクル・ランス> 氷属性単体魔法 Lv60
<アイス・ブロック> 氷属性単体魔法 Lv10
<騎士団戒律> 騎士はLv80を超える事が出来ない
########
「昔、騎士団の部隊長だった時のスキルです。いつでも良いですよ!」
三人組は、呪いではない未知のスキルとやり合う事になった。
まずはいつも通りの動きで戦ってみる。
「行くぞ!まずその氷を叩き割る!」
「氷騎士の防御を甘くみてもらっては困ります」
クエラセルは斬りかかるが、氷の盾で受け止められてしまう。
思いの外頑丈で、表面に傷が入っただけだ。
「何だ…?剣の勢いが殺される」
盾で防がれる時、妙な抵抗でダメージを減らされたようだ。
「任せて!ファイア・ボム!」
「合わせて魔法石!」
二人合わせて攻撃密度を上げ、避けられないようにしてみる。
「やりますね。盾を持って行かれました」
氷の盾は砕け、鎧も一部破損したようだ。
しかし、シルヴィアはまだまだ余裕そうである。
「次はこちらから行きます!」
「俺が受ける!サポート頼む!」
いつものように盾となるクエラセルだが…
氷の剣をあっさり受け止められた代わりに、後ろに氷の槍が飛んでいく。
「え、うそ!?フレイム・スロワー!」
リコラディアが狙われていたが、魔法で打ち消す。
ダメージは無いが、次の攻撃までの時間を与えてしまう事になる。
氷騎士の状態では、剣の攻撃と魔法の攻撃を同時に行える。
これで常に二人狙う事も出来るので、残り一人が隙を作らねばならない。
しかし待ってはくれない。
「次は、黒爪に来てからアレンジした組み合わせです!」
「…受けるしかない!」
やはりあっさりと氷の剣は止められる。
「デル・フ・イー・テト!」
「「「!?」」」
フェイリアに教わった短縮魔法の力で、一つのはずだった氷の塊が大量に降り注ぐ。
一発あたりは大した威力ではないが、数が多いので馬鹿にならない。
剣の攻撃と同時に発動した魔法に、この短縮魔法を合わせることも出来るのだ。
「俺は何とか張り付くから、二人は回避してくれ!」
「逃げてるけどこの数は…いたっ!」
「頭は気を付けてください!」
一行は回避メインで隙を窺う。
「ペースを上げます。着いて来てくださいね」
「何、攻撃が早い!」
攻撃を受けるたびに氷魔法が発動し、後ろの二人が狙われる。
かといって受けなければそのまま終わってしまう。
かなりジリ貧な状況だが、クエラセルは打開策を思い付く。
「リコラディア、練習したアレを頼む!」
「こ、こんな時に…」
「そうだ、ボクが前に立って氷に耐えます!その間に!」
グリンはリコラディアを庇うように立ち、氷の塊をその身で受け止める。
氷の槍は危険なので、魔法石で撃ち落とす。
「ファイア・シール!」
「良いタイミングだ!これで反撃!」
ドォン!
シルヴィアとクエラセルの剣がぶつかり合った瞬間、爆発が起こる。
至近距離なのでお互いにダメージを受けるが、目的は同士討ちではない。
「なるほど、そう来ましたか…」
氷の剣が熱と衝撃に耐えきれず、砕けた。
属性のついた武器が無ければスキルは無意味となり、氷魔法は発生しなくなる。
「これでは戦えません。合格とします!」
「「「や、やった…」」」
「ちなみに、氷装備はいくらでも作り直せます」
言葉を無くす三人組。
これでも弱かった時代の戦法であり、今は比べ物にならない。
彼女もレベル詐欺チームの一員であるのだ。
掃除の疲れもあり、三人組は施設を堪能する前にベッドで力尽きてしまう。