68.あのボス
本気を出してはいけない者が、少し頑張れる回です。
本当はこの辺を掘り下げたかったんですが、長くなるのでカット。
今日の舞台は、【迷いの森】にある、フォレスト・ダンジョンだ。
とうとう十階を突破したパーティが出た事で、ニュースになっている。
通常のダンジョンであれば、その程度は笑われるレベルだが…
一階の時点で他の最深部並の難易度なので、凄まじい戦果だ。
今は入り口でそのパーティが紹介されている。
元奴隷のパペットが、横で進行を務めているようだ。
「お名前をどうぞ!」
「リーダーの、ボルドーだ」
「見ただけで強そうだと分かりますね!そちらの方もどうぞ!」
「リーダーの、デスピオだ」
「えと、どちらもリーダーですか…?」
「「それはない」」
なんと、ボルドーの魔法訓練でここを使っているのだ。
中々のペースで育っているようで、そのまま十階をクリアした。
進行のパペットは、適度に褒めつつ、話を進めて行く。
先立って無茶振り会話の訓練を受けているので、この程度では動じない。
「最先端のパーティに、何か質問したい方は居ませんかー!」
「二人だけで突破したのか!」
「ボスは何だったんだ!」
「レアアイテムは!」
様々な質問が飛び交い、一躍有名人になった二人。
しかし、ダンジョンは更に続いている。
…
少し離れた所で、その光景を眺める一行が居た。
「良い所まで行ったんだが、抜かれちまったか」
「十階までは到達したのですが…」
こちらは、ギルド【ワークプレイス】のパーティである。
かなり善戦しており、十階に辿り着いたのだが、まだボスに挑んでいない。
これを倒して、初めて踏破となるのだ。
「逆に言えば、突破出来る何かがあるって事だろ?」
「最近のフラックは怖い物無しですね。では、十階へ行きましょうか」
一足遅かったようだが、こちらもボス戦へ挑んでみるようだ。
質問攻めにされている二人の横を通り、ダンジョンへ入る。
…
『ほう、早くも二組目か』
十階は大きな広場になっており、どこからともなく声が聞こえてくる。
しばらく間を置き、空中に現れた黒い棺のような物がゆっくりと地上に降り立つ。
棺が少し開くと、隙間から黒い霧のようなものが吹き出し、部屋が闇に包まれ…
「後列、防御強化!手が空き次第攻撃!」
「俺はライト・ストーンで部屋を照らしながら、鑑定!」
ボスの登場シーンは妨害され、カットされた。
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種族:デス・ヘリックス(トーカー) Lv120
能力:通話
技能:
<狂い咲き毒花> 全生物に、自動で自身のLvと同じ【毒】を付与
<返り咲き落花> 全ての【毒】解除、一つ毎に体力とマナ10%回復
<忘れ咲き小花> Lv50のデス・ヘリックスを三体追加する
<乱れ咲き葬花> 火属性範囲魔法 Lv150 【木霊】時、三回発動
<遅れ咲き徒花> Lv120、麻痺・睡眠時スキル無効、木霊のスキル削除
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なんと、十階のボスはベチュラである。
ここではスキルを改造して良い許可が出たため、普段とは違う構成だ。
ただし、手加減を義務付けられている。
「あ、あいつは…動かすとまずい!一気に叩け!」
「「「了解!」」」
フラックは、相手がベチュラという事に気付き、速攻作戦を取る。
咄嗟の判断は特に信頼されており、全員従う。
「耐火は任せろ!…さて、毒は効かない。どう来るか」
フラックは念のため火の耐性を付け、攻撃に備える。
『眷属よ、集え』
地面が三か所盛り上がり、小さなベチュラが現れる。
これらは単体であれば難なく倒せる相手だが、勿論意味がある。
「総員、攻撃を続けろ!俺は一応鑑定だ!」
「「「了解!」」」
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種族:デス・ヘリックス(トーカー) Lv50
技能:
<毒花> 毒で自身が倒れた時、全生物に【毒】を付与
<落花> 毒で自身が倒れた時、全生物の【毒】耐性削除
<小花> ダメージを二回受けると戦闘不能になる
<葬花> 火属性範囲魔法 Lv40
<徒花> 一定時間後、戦闘不能になる
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「小さいのを急いで倒す必要があるようだ!指揮は任せる!」
「前列、魔法石!後列は本体へ集中!」
この小さなベチュラを残しておくと、勝手に倒れ…
毒耐性を削除したうえで毒にしてくる。
そうなってしまうと本体のコンボが成立するようになり、いずれ全滅だ。
これを防ぐために、すぐ倒さなくてはいけない。
その場をマスターのジールメントに任せ、フラックは道具を取り出していく。
魔法石を投げつけた後、金属塊を持つ。
「これならどうだ!パラライズ・バレット!」
これはマーカに作ってもらった、麻痺効果を含む金属塊である。
新たな装置で射出し、少しのダメージも与える。
『残念だが、毒のLvを上回る麻痺でなければ、効果は無い』
ベチュラは自身にLv120の毒を付与している。
この状態で他の状態異常を与えるには、Lv121以上必要である。
普通は用意出来ないため、実質的に状態異常無効である。
「よし、今だ!マスター、あの回復薬を敵に使え!」
『何?』
使ったのは、ベチュラの実から作られた回復薬である。
本来は全回復だが、ロークスが台無しにした実を使っており…
状態異常回復と、多少の体力回復のみだ。
「そして…もう一発、パラライズ・バレット!」
『馬鹿な!』
「総員、総攻撃!全力で叩き込め!」
「「「了解!」」」
毒が付与されるまでは、多少の時間が必要だ。
タイミングを合わせて麻痺にすれば、先に麻痺になる。
その状態ではスキルが発動しないため一方的に行動出来るのだ。
…
結構な時間、一方的に殴りつける事で、勝負がついた。
『我の敗北だ。まさか敵を回復するとはな』
「訓練の成果と言った所か。見直してくれても良いんだぞ?」
『ならば、次は本気状態で訓練か』
「勘弁してくれ、これで手加減だろ?一瞬で養分になっちまう」
全てのベチュラをへし折った後、新たに生えて来たベチュラと喋っている。
速攻作戦でなければ、味方と小さなベチュラにまで付与された毒で回復され…
一瞬で全回復されるところであった。
見事に全滅パターンを全て回避したのだ。
宝の代わりに、以前も見た緑の果実を差し出され、受け取る。
これで十階はクリアとなり、次は十一階だ。
思わぬ知り合いが居たダンジョンを後にすると、まだ人だかりが居た。
「おおっと!新たな踏破者です!お名前をどうぞ!」
一行は、ボルドーとデスピオに並んで、質問攻めにあう。
当分帰れない事が約束されてしまった。