61.新旧の融合
今日の舞台は、【迷いの森】にある小鬼族の拠点である。
以前使わせてもらった訓練スペースでは、新たな仲間達が特訓していた。
「「「ファイア!フリーズ!サンダー!」」」
実は、元奴隷のパペット達で、魔法の適性があった者だ。
潤沢なマナを使い、普通ではありえないペースで成長している。
「はい、そこまで。次は補助魔法セットを同じ回数」
特訓メニューを指示しているのは、フィーリである。
特化ではなく、色々な種類の魔法を満遍なく使えるように鍛えているようだ。
そこへ、パペット三人組が合流する。
拠点の進化ぶりを見に来たのだが、その前に通り掛かったのだ。
「これは何をやっているんだ?」
「魔技グループの育成よ。ほらみんな、先輩達に挨拶しなさい」
特訓を中止して集まってくる新入り達。
落ち着いた雰囲気の者から、どうして良いか困っている者まで様々だ。
ひとまずお互い挨拶を済ませて話を聞く。
「魔技って…?」
「その場で既存魔法を加工して、違う種類の魔法を作れるようなものね」
リコラディアは、謎の技術について気になっているようだ。
「良い機会だから、先輩達に披露してあげて」
「「「はい!」」」
新人達は集まり、一斉に魔法を発動する。
基礎中の基礎である、火魔法のファイアを使うようだ。
「「「マギノ・ファイア・レイン!」」」
各々が放ったファイアが空中で集まり、その後多数に分裂し、地面に落ちる。
威力は大した事無いが、ファイア・レインの劣化版に変化した。
これだけならフェイリアが使っていた術分解の逆バージョンだが、色々と応用が利く。
「なかなか面白そうでしょ?」
「へえ、これなら簡単な魔法だけでも色々出来そうですね」
グリンは自身がファイアを使えるようになった時の事を考え…
状況に応じてリコラディアの火力を上げられると考えた。
一方、同じことを考えていたリコラディアはすぐさま行動に移す。
「も、もう一回!わたしと一緒に!」
「「「良いですよ!」」」
先輩後輩が混じり、新たな実験を行う。
「「「「マギリア・ファイア・ストーム!」」」」
先程のようにファイアが集まっていくが…
リコラディアの放った大きい火球が混じり、変化する。
その後は分裂せずに地面に落ち、今度は周辺を焼き払った。
ファイア・ストームは、ファイア・レインの進化版である。
「「「さすが先輩!!」」」
新入り達は、更なる可能性を見せられ、とても喜んでいる。
この結果にはフィーリも満足したようで、嬉しそうに次のメニューを考える。
「あれに魔法剣で混ざると…無理か。シールを付ける役が居ない」
「魔法石は無理ですかね?」
男性陣は他の方法で連携しようと考えるが、あくまで魔法発動前提の技術である。
それらは近いようで、別物になる。
新人達の訓練をしばらく眺めた後、当初の目的だった拠点へ向かう。
…
「先輩達、よく来たな!飲み物を出すから座っててくれ!」
割と気が利くのは、兵器担当のカラニグラだ。
果物ベースらしき飲み物と、砂糖菓子のような物を持って来る。
グリンはマナ濃度を見分け、ただの菓子ではない事を看破する。
口に入れると、甘みと独特の風味が同時に伝わってくる。
割と歯ごたえがあるので楽しみながら食べられる品だ。
「これは何ですか?初めての感覚でした」
「それは、木の根っこを砂糖漬けにしたやつなんだ」
もちろんその辺の根っこではなく、栄養価が高く、薬にもなる木の根っこだ。
ツタの植物で、再生力が凄まじいため頻繁に採取されている。
小鬼族の間ではポピュラーな薬の材料だが、そのままでは酷い味だ。
これを口にしやすいように改良したものだ。
「この飲み物は何だ?果物の香りはするが、何か分からん」
「…全員飲んだら教える!」
少しトロトロしている、酸味がある謎の飲み物だ。
先程の根っこと合わせると丁度良い感じだ。
全員飲んだところで、材料を明かされる。
「それは、果物を発酵させたものに…ヴェノム・スパイダーの体液を加えたのさ」
「「「!?」」」
なんと材料の一つは、一行が戦った、毒を持つ大蜘蛛である。
「だ、大丈夫なの?それ…」
「もちろん。毒を抜けば、栄養源だ!」
ヴェノム・スパイダーは、果物の栄養を毒と共に体に蓄えており…
それを取り出した後に解毒すれば、甘みのある栄養ドリンクが出来上がる。
これは本来、武器に塗るか、戦場でもう助からない状態の小鬼族に飲ませる毒である。
戦場で作れる飲食物開発も行っていたようだ。
なお、これは【どろみず屋さん】でも提供している優良素材である。
「ところでこの間先輩に案を貰った、コレが出来たんだ」
カラニグラは、片手で持てるサイズの、長細い筒のような物を見せて来る。
以前、クエラセルが提案していた物を改造した品のようだ。
これは大砲の小型バージョンで、魔法石を少し離れた一定距離に放てる装置だ。
放つ時の向きを変えることで、原始的に飛距離を調整する。
小鬼族はこの辺の感覚がかなり鋭く、すぐに身に着けるのだという。
「まだテスト回数は少ないが…概ね好評といった感じだな!」
まだまだ作りたい物があるようで、案を見せつつ三人組の意見も取り入れていく。
巨大な手のオブジェや仮面などもあり、また面白い物が増えそうである。