59.追加される問題児と忙殺店長達
「これより、罪人の申し開きを認める」
クラーグ王城では、捕らえられた罪人の処分を決めている所であった。
本人からも事情を聴取し、理由なども加味して罪の重さを決められる。
全身拘束された状態であったが、ようやく口だけ自由にされる。
「何か言う事は無いか?」
「ギリマは何処に行った!あいつだけは殺す!」
もはや自身の罪を軽くするという発想がない。
計画が裏切りにより崩れてしまったので復讐したいようだ。
「聞くまでも無いようだ。では申し開きを終え、罪状を確認する」
…
「最後の罪状だ。クラーグ魔導学院より計画的に毒を盗み、"趣味"に使おうとした」
山のようにある罪状の束を全て読み上げ、集まっていた一同に聞かせる。
あまりの多さに読み上げていた者は喉を傷め、辛そうにしている。
集まっていた者も、想像すら出来ないレベルの内容で気分を害している。
「呆れ果てた奴だ。これぞクズの極み」
「あぁ…?バラバラにされたいか!」
「お嬢様!そのような言葉遣いはなりません!」
外野と罪人が揉め始める。
この罪人は、見た目だけなら麗しきご令嬢だ。
美しさと賢さのステータスを最大にまで上げた代わりに、
それ以外の全てをマイナスにしたような人物で、とても口が悪い。
もちろん性格と趣味も悪い。
今朝も豪勢なご馳走を床にぶちまけた後、それを靴で混ぜ…
闇ギルドに誘拐させた、他所のご令嬢に食わせていた。
「この者が更生する事は考えられない。例外的に処刑するべきと判断します」
誰もが納得する判断だったが、謎の人物が現れ反論する。
「この者、ひとまず私に任せてくれませんか?」
現れたのは、どういう訳か大賢者と呼ばれているフェイリアである。
いつもの雰囲気とは真逆の、真っ白で装飾が大量についたローブを着ている。
今回は逆パターンで、フェイリアが王都民を欺いて利用している。
王都民は二重に騙されている訳だが、実に平和な状態である。
どのみち死刑であるため、厳重な管理下に置くことを条件で許可を得る。
フェイリアはこの罪人を引き取り、連れ帰る。
…
「私は、何故あのような事を…」
「どうやら正気に戻ったようですね。邪神の力が薄れています」
黒爪に戻ったフェイリアだが、同時に罪人の状態に変化があった。
どうやらこの罪人、邪神に何かされていたようだ。
フェイリアを察知したのか、この者は切り捨てられた。
「毒よりバレにくく、更に残虐で長く楽しめる方法があるというのに!」
どうやら、元々歪んだ性格だったようだ。
邪神がヘマをしたお陰で、クラーグ領の大魔王は人知れず討伐された。
「ところで、どうやって毒を盗んだのですか?」
「実はギルドショップの仕込みから…」
実はギルドショップ店員にも手の者が潜んでいる。
今回は毒を買取した際、特定パターンの魔力を込めて卸している。
一定パターンを感知出来る"書き換え役"と、"窃盗役"を各地に配置しており…
書き換え役は、そのままの意味でパターンを別の物へ書き換える。
一方、窃盗役は特定のパターンを感知した時に盗む役になっている。
窃盗役が持っている物のパターンが変わった時は、わざと盗まれる。
これで時と場合によりすべての条件が変わるため、犯人特定は困難を極める。
今回は学生の動向も利用しており、輪をかけて複雑だが…内通者の情報で取り押さえられた。
この内通者は闇ギルドの者だが、満足する報酬が出ないと依頼人を斬る。
邪神はこの者を使って監視していたようだが、人の欲を看破しきれなかったようだ。
「この思考力を捨てるのは惜しいですね。ギルドで働きませんか?」
「え…?よろしいのですか」
「ええ。"趣味"は封印ですが…処刑なし、最低限の暮らしを保証します」
新たな問題児誕生の瞬間である。
他の者と違い、ショップや各種受付係としての活躍を期待されている。
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一方こちらは、トリナムにある【ズバシュー屋さん】だ。
必死に客を捌き続けた結果、ようやく休憩時間が取れる落ち着きを取り戻した。
「ダンジョン効果を侮ってた俺のミスだな…」
『楽しいから良いけどね』
話しているのは店長のタルナンドと…
浴槽のようなものに入っている、マグマのような生物だ。
実はこの生物が金属を溶かし、丁度良い温度に仕上げている。
阿吽の呼吸であり、分担作業の効率が凄まじい。
「そうなんだけどよ、毎日この数は腰に来る」
『人気者って、時に辛い』
タルナンドは水を豪快に飲み干し、水分を補給すると、更なる客が現れる。
「おじちゃーん!良い物持ってきたよっ!」
『おじちゃん、出番出番』
今回の客人は、きらきら屋さん店長の、ピナである。
店正面に飾られている、四十億アグラの剣の材料を持ち込んだ犯人でもある。
またおかしな物品の素材が増えるようである。
「こりゃまた、えらい物を持ってきたな」
『溶かすだけでも緊張感を味わえる、新しい世界に来たよね』
次は槍でも作るか、と楽しそうなやり取りが発生する。
しかしその素材だけでも、豪邸レベルの価値がある品である。
…
ピナは、【どろみず屋さん】にも物品を持ち込む。
「はいこれ!光輝魔石!」
「さすがですね。助かります」
なんと、ここでは水龍のドラハも働いている。
噂を聞いた女性客が増え、楽になるどころか忙しくなってしまった。
今回は店の内装を改造するので、その素材を買い付けたのだ。
照明を魔力の火から魔石に変え、幻想的な光源を作り出す予定だ。
「今の青い炎も、良い雰囲気だけどね!」
「これは水中宮殿のイメージですね」
「次はどうなるの…?」
「新しい雰囲気、森小屋のイメージです」
今までは青い炎で、室内は少し涼しい環境だったが…
試験的に黄白色の光と、適温で運営してみるようだ。
フィーリの言葉の影響を受け、"お楽しみ"を作り出す作業を考えている。
なお、ドラハは自分でどろみずを作る事で、自分自身を信仰できる事を知った。