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57.シルトとシールとシーラー

自分で執筆するようになってから、"なぜか読んじゃう作品"のテクニックに気付けるようになりました。

読みやすさや理解しやすさの問題ではなくて奥深いですね。

作品によっては、適合した読者を更に引き込む内容だったり、全体の敷居を下げたり…まあ色々でした。


そして一話はみんな苦戦するんだなと思いました。

【迷いの森】にある小鬼族の拠点では、二人の人物が会話していた。

周囲は謎の家のようなもので囲まれており、"新兵器"のテストが始まっている。

その中心地にある休憩スペースで会話している。


「偽物の財宝が欲しい?」

「そうなのですよー」


今日は珍しい組み合わせが発生する日だ。

まず一組目は、クエラセルとクルタのようだ。


「入手ルートは思い当たるが、そんな物をどうするんだ?」

「侵略者撃退に使うらしいのです」


話を聞くと、隙を作るための道具として使うらしい。

わざわざ小鬼族から金品を巻き上げるような輩は大した者ではなく…

大体は雇われの者なので、これによる目くらまし効果が絶大なのだそうだ。


「そこそこ上位のダンジョンで、金塊に見える無価値のアイテムがあるそうだ」


これは黒爪での情報なのだが、次の娯楽発掘予定アイテムとしてそれがあった。

売却した所で馬用の草束が多少買える程度の価値である。

今回の案件にピッタリと思われるので、冒険者たちから買い取ってみる事にする。





まずは、フォレスト・ダンジョン入り口まで来た。


「誰か、ダンジョンで出る、金塊もどきのアイテムを持っていないか!」

「売ってくださーい!」


ここに挑戦するくらいの冒険者なら、入手したことがあると踏んだ。

しかし、反応はよろしくない。


「あー、無駄に重いから、その場で捨てちまった」

「だよね、価値ないもんね」


娯楽にされていた紙やコインと違い、重くてそこそこ大きいため、邪魔なのだ。

初めて見る者はこれが宝箱から出ると喜ぶが、持ち帰って落胆する遅効性の罠だ。

ちなみに、金色の塊という名前のアイテムで、材料は砂と粘土の中間物質だ。


「まさか、これか…?」

「あんた持ってたのか。それだよそれ」


見覚えのある顔が、重そうな袋から金塊もどきを取り出していく。


「誰かと思えば、勇者パーティの…」

「ライザだ。今日は情報収集の日にしている」


今日、勇者パーティは分かれて情報収集している。

フォレスト・ダンジョン一階はクリアしたのだが、異常な難易度のため慎重だ。

ついでに入場料として金塊が使えないか確認しに来たのだが、ガッカリの結果だ。


「たくさんあるな…これだけで足りるんじゃないか?」

「多分大丈夫なのですよー」

「!?」


買取の話をしようとした時、ライザは少しおどおどしながら、クルタを指差す。

スライムに怯えている訳ではないようだ。


「まさか、クルタ第二王女様…?」

「はい!…あ、今の無しで!」


実はクラーグ領では捜索依頼が出されていて、勇者パーティにも通達されている。

最近は小鬼族の拠点に居たので、たまたまバレていなかったのだ。


「こ、これで何とか…」

「しかし報告の義務が…」

「王女の命令です!これを受け取り、黙認する事!」


何か汚いやり取りが行われる。

クルタは、雷禍が稼いできたお金をねじ込み、ライザの口に手を当てる。

まさかこんな事に使われるとは、雷禍も思っていなかっただろう。


「…分かりました。せめて事情を聞かせてください」


本気の眼差しに折れたライザは、せめて情報を得ようとしていた。

急に失踪したという話しか聞いていないので、誘拐だと思っていたからだ。


「それはその、自作自演は嫌だったというか」

「…?」

「大いなる野望から逃れた、とだけ言っておきます!」


これはクラーグで行われている"育成プロジェクト"の事を言っている。

本来はクルタが誘拐され、面倒な生活を送るはずだったのだ。

当時から遊んでいたスライムに頼んで調べさせた結果から分かった事実だ。


クエラセルは不要となった金塊もどきを貰い、回収する。

ライザもそれ以上は追及しないようで、二人は拠点へ引き上げる。


------------------------------


一方、リコラディアはギルド【黒爪】に来ていた。

日課である、通貨の変換レートチェックである。


「それが、隊長のようにはいかなくてな」

「実力的には出来ておかしくない筈ですが…」


ピークを過ぎた依頼カウンターでは、男女が会話している。

ボルドーとシルヴィアの二名で、どうも戦闘についての話をしているようだ。


「おや、新人さん。依頼ですか?」


カウンターの中に居るシルヴィアが気付き、声を掛けて来る。

ボルドーは何やら必死に考え込んでいる。


「今日は日課のレート確認だけよ。…何やってるの?」

「ああ、ボルドーが魔法剣をシール詠唱無しで使いたいと…」

「そ、そんな事出来るの…?」

「私は出来ます」


魔法剣は本来、攻撃者とシール系魔法を付与する二名が必要だ。

しかしシルヴィアはそれを一人で出来るうえ、全く隙が無い。

ボルドーはその域に達したいので相談していたようだ。


「マスターに認められたお前なら、何か思いつくかもしれん。見てくれ」


ボルドーはそう言い、自身の鑑定結果を見せる。


########

種族:人間 Lv160

技能:

 <闇の眷属> 保存した影のスキルを使用出来る

 <一撃のロマン> 無傷の相手にダメージ二倍

 <負けず嫌い> 自身よりLvが高い敵に、全ステータス大幅上昇

 <超負けず嫌い> 自身よりLvが高い敵の攻撃を高確率で回避する

 <無骨> 攻撃スキルを使わない場合、ダメージ大幅上昇

########


「えっと…攻撃スキルとかは?」

「ない!」

「魔法は…?」

「シール以外ない!」


何と、ただ大剣を叩きつけているだけなのだ。

戦闘センスがありすぎるせいで攻撃スキルが隙になってしまい、捨てている。

闇の眷属スキルで使えるのは、魔法剣に使うシールだけだ。


「シルヴィアさんはどうやってるの?」

「斬りつける瞬間に、魔力を刃に流していく感じで発動しますね」

「つまり、まともに魔法が使えないと同じ事が出来ない?」

「そ、そうなのか!?」


ボルドーは課題が解決しそうな話がでると、早速行動に移る。

飲食スペースに駆け込んで、一人の人物を連れて来る。


「おい、放せ。折角のスープが冷める」


現れたのは、魔法のエキスパート、デスピオである。

今までの話を説明すると何となく察する。


「つまり、魔法をろくに使えない奴に、魔法を教えろと?」

「ああ…この通りだ!」

「「「!?」」」


ボルドーの土下座を見た一行は、この世の終わりを覚悟した。

それだけ本気なのであるが、あまりにも信じられない光景だ。


「ねえ、ここまでやってるんだから、少しくらい…」

「フン…まあ、長い間争った決着がついたと思えば悪くない」

「教えてくれるのか!」

「ああ。ただし、死んだ方がマシな目にあうと思え」


実はデスピオも最近伸び悩んでいる。

あえてライバルを強化する事で、自身も成長出来るのではないかと考えた。

スキル的にもお互いが特攻対象なので丁度良い関係なのだ。


キリの良い所で、依頼カウンターに人が来る。


「どんな依頼があるか見たいんだけど…」

「はい!どの辺りの…」

「「あっ!」」


出会ってはいけない二人が出会ってしまった。


「その声…あんた、暗黒騎士!」

「くっ!」

「まさか、ここは魔王城!?」


実は、勇者パーティの一人であるネルが、情報収集に訪れていた。

ここにきている事を知らなかったシルヴィアは、最終手段に出る。

動揺しているネルに素早く掴みかかり、首筋にナイフを当てる。


「死にたくなければ、私の事は忘れろ!」

「そんな事出来な…」

「忘れろ!!」


凄まじい気迫に、ネルどころか他の者も言葉を発しなくなる。

ギルド内では滅多に見れない、シルヴィアの殺意溢れる様子がそこにあった。


ネルは、耐えきれなくなり…人に見せられない姿になった。





帰って来たローズを付き添い人にし、ネルを帰した後、ギルドは静寂に包まれていた。

経験があったボルドーから静寂を破る。


「俺が軟弱だった頃、逃げようとする度にあんな感じの"気付け"を食らったな」

「精神的に物凄いダメージを負ってない…?」

「少しやりすぎましたか」


デスペラード・クエストで存在を知られてしまっているシルヴィア。

他のギルドが受けたがらないのは、依頼達成後の対応が面倒だからである。

今回もそれで依頼外の対応を迫られてしまった。

今後も魔王城と勘違いされ一波乱ありそうである。


------------------------------


そしてグリンは謎の宗教に付き合わされている。


「あなたは恐ろしく幸運な人物です!」

「ああ、全くだ」


ここは【きらきら屋さん】である。

たまたま素材を見に来ていた、勇者パーティのウォードとイーザに会った。

グリンは輝く物を売りに来ただけだ。


「「天斉・ハーレムソーのシールを持っているとは!」」

「そんなに良い物なんですか?これ」

「コレクター間では、有名な物らしいよっ!」


イーザの洗脳によって、ウォードが解除不可能な毒状態になっていた。

店長のピナは落ち着いているが、品自体に興味はあるようだ。


「これも派手に光ってますね」

「「天上富豪・カネモチート!」」

「これも…」

「「それはゴミ」」

「じゃあ、この地味な光り具合のは無価値ですね」

「「清貧天使・マズシッソ!」」

「だめだ…基準が全く分からない…」


これは、お客様用に出していたお菓子のおまけだ。

お菓子自体も出来が良く、住居ではよく出しているので溜まって行く。

その中に結構な数のアタリが入っていたようだ。


店のスペースを借りて、この際全て見せてみる。


「「うおおお!」」


主に毒が強い二人が目を輝かせるが、全く価値が分からない。

そんな中、ピナは妙な輝きをしている一つを手に取る。


「これ、他と違うね?」

「「それはゴミ…いや、エラーシール!!」」


光ってはいるが、他と違い不均一な光り方をしている。

実は製造ミス品で、普通は回収するレベルの品だが…

コレクターからすれば、逆に価値のあるレア物なのだという。





「そろそろ戻りたいんですが…」

「「あと一時間だけ!」」


一生帰れなさそうな状況になったので、大きな貸しにしてシールを押し付けた。

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