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56.温度差

「動けなくなった怪我人が居たとします。どうしますか?」

「にもつをうばう!」

「治せるとしたら?」

「ちりょうひをせいきゅうする!」

「はあ…」


パペット三人組が、ギルド【黒爪】に向かうと、入り口に人影がある。

シャドウ・パペットと、モデル本人のフェイリアである。

調整中のようだが、フェイリアは落ち込んでいる。


「何かありました?」


この中では一番事情に明るいグリンが、まず聞いてみる事にした。


「このパペットの知能を強化してみたのですが、イマイチで」


フェイリアはまた質問をしてみる。


「たくさんのお金を落として、気付いていない人が居ます。どうしますか?」

「もってかえる!」

「…この通りです」


どうも、自分が得する事を最優先で考えている。

善悪の判断が無い状態で思考力を上げるとこういう事になる。

人の子であれば、通常は親が訂正して行くことで善悪を判断できるようになる。


「ちょっと試しても良い?」

「どうぞ」


意外とこれに食いついたのはリコラディアだ。

通貨の変換レート表を三日分取り出し、シャドウ・パペットに見せる。


「百リーネを三日掛けてアグラに変換した時、一番高い額は?」

「ふつかめ!ひゃくじゅうに!」

「嘘でしょ…」


あっさりと正解を言うシャドウ・パペット。

フェイリアはこの実験に面白みを感じる。


「なるほど、物事全体を見通す実験ですか」


例えば、一日目でアグラ以外の通貨変換をしていった所で…

二日目と三日目に大損する未来しかないのであれば、変換した瞬間に損失である。

逆に、一日目の得が一番大きい場合、そこでアグラに変換しておく事で得になる。


今回は二日目までリーネでキープし、アグラにする事で一番得するパターンであった。


「相変わらず難解だな」

「未だに答えが出ない…」


男性陣は苦手ながらも挑戦しているが、パターンの多さに苦戦している。

ある程度慣れれば、ほぼ損得が決まっている変換が見えて来るのだが…

毎日挑戦し続けない限りは、その能力は付かない。


「それはそうと、今日は依頼探しですか?」

「ああ、その予定だ」

「丁度良いものがありますよ」


フェイリアは依頼カウンターの方へ行き、一枚の依頼を取ってくる。


「そろそろ黒爪に慣れてきた頃でしょう。他のギルドも見て来てください」


デリバリー・クエストと書かれた依頼書を見せられる。

これはその名の通り、運搬の依頼である。

指定の場所や人物に品物を受け渡せば完了だ。

物によっては盗賊等に狙われるので、護衛を付ける者も居る。


依頼書には目的地として、ゼクト領・中央都市マデイラと書かれている。

本来は受取人名等も記載されるが、マデイラは特殊で…

あまりに通行人が多すぎるため、都市の外に荷物受取所がある。

そこに受け渡せば、後は勝手に依頼人へ届くシステムだ。


「荷物はこれです。裏に馬車を用意しているので、利用すると良いでしょう」


片手で持てそうな小さめの箱が三つある。

今回は馬車を使い、これを運搬する事にする。

フェイリアの裏世界の存在はあまり知られたくないため、今回は移動に使えないのだ。





「おー、久しぶりだな!」


馬車が纏めて管理されている、通称"乗り場"に、見知った顔が居る。

以前ブルー・タイガー討伐依頼の時に同行した、中級冒険者三人組のうち一人だ。

今回はギルド内依頼で、御者を行っている。

早速おいしい依頼を食い潰して、安全な依頼で貢献を稼いでいる所だ。


三人組は再開の挨拶と、他愛もない話をしてから目的地を話す。


「あそこなら何度も行ったから完璧だ。乗せてやるぜ!」


知った顔なら色々聞きやすいので、ここは甘えることにした。





「思ったより快適だな」

「お尻痛めるイメージだったのにね」

「酔う事が無くて安心しました」


一行はひとしきり景色を堪能すると、落ち着いて状況を話し合う。


「それはこの馬車が特別だからだぞ。他所のは酷いぜ?」


御者の男性が経験談を語る。

基本的に高い馬車ほど快適だが、それでもダメージが残る。

一見普通に見えるこの馬車は特殊改造されており…

空気の椅子が存在し、それに座る事で衝撃が伝わらないのだ。


説明を受け、三人組は素直に感心するが、ふとした疑問が出る。


「そういえば、黒爪はどこにあるんだ?」

「今までどうやって来たんだ?場所的にはゼクト領南東部だ」


迷いの森から直接歩いて出向いたことが無いので、場所が掴めていない。

一行は頭の中にあった位置情報を修正する。


「お前ら、あれ知ってるか」


指差された先には、黄色の花を付けている草の群生地がある。

知らない事を伝えると、自慢げに語ってくる。


「あれは、黒爪で売っているマナ回復薬の材料なんだぜ」

「薬草的な物か」

「大体そんなもんだな。あと花の部分は、緊急時の栄養源でもある」


実はこの男性は回復薬生成の能力があり、高品質なものを作り上げる。

これに特化すれば、割と良い暮らしができるのだが…

あくまで三人組で生活したいので冒険者をやっている。


移動するだけでも色々な情報を得られ、三人組は楽しい旅を満喫する。





殆ど話しているだけで目的地に着く。


「「「人だらけ…!」」」

「ここが、マデイラ南側入り口だ。横の倉庫の所に荷物を預ける」


移動し、係員に依頼書と箱を渡すと、受付証を貰う。

この証があれば、荷物に何かあった時、確かに渡したと言い張れる。

中身の相違があった場合は、別途連絡が来ることになっている。


今日出来るのはここまでで、最終的に受け取り証と報酬が貰えるシステムだ。


「帰りのアテが無いなら、待っててやるぜ。俺も買い物があるしな!」


三人組は一応待って貰う事にして、いよいよ都市へ入る…





「入ってすぐ店があるんだな」

「え、見えないんですけど!」

「同じく…人しか見えてないです」


身長差によって損得が発生する珍しいケースである。


通行人が多い事を利用し、道の両側に屋台が並んでいる。

数がさばけるので値段もそこそこで、利用しやすくなっている。

しかし、それは後にして、この都市のギルドへ入る。


「いらっしゃいませー!」


ここは、酒場と合体したようなギルドだ。

すぐ横に女性が立っていて、案内しようとしてくれる。

こういう場は、クエラセルに任される。


「別のギルド所属で、見学なんだが…」

「そうでしたか。見学は自由、飲食も出来ますよ!」


そう言うと女性は元の場所に戻る。

一行は歩き回って雰囲気を楽しんだ後、依頼が張られている場所へ行く。

高難度依頼と書いてある所を眺める。


「ん?これは出来そうじゃないか?」

「こっちも楽勝よ!」

「あれも、というか全部?」


それを聞いていたのか、酒を飲んでいた男性にからまれる。


「何だ、オメーらは!よそ者がケチを付けに来たのか!?」


一行は意味が分からなかった。

しかし、一般的には「この程度も出来ない奴しかいない」と聞こえるのだ。

なお、ここは大手ギルドのうち、下の方くらいの位置で、なかなかのギルドだ。


「俺はLv32だぞ?痛い目見ないうちに帰るんだな!」


黒爪に慣れ過ぎたせいで、Lv132の間違いかな?と思う一行。

最初におかしな場所に居た事で、それが標準となり、温度差が生まれる。

このLvであれば、十分プロの冒険者である。


「騒々しい、一体何だ?」

「マスター、聞いてくれよ!こいつらが…」


騒いでいるのは一人だが、問題が発生したことを感知して、ギルドマスターが現れる。

酔った男性は状況を説明する。


「この三人が実力もないのに見下していると思って、気に入らん訳だ」

「ま、まあ。一言で言えばそうだ」

「本当に実力があったら?」

「ありえねえな!もしあったら、メニュー全混ぜした物を食ってやる!」


そこまで聞き出したギルドマスターは、三人組の方を向き…


「これまで討伐したものの素材等はあるか?出来るだけ強い相手のだ」

「今あるのは、これだけだが…」


クエラセルは、お守りにしたレッド・ドラゴンの頭蓋の一部を取り出す。

同時に、ギルドマスターが素材買取窓口の男性を呼ぶと、ギャラリーが集まる。


「何か面白そうだな」

「あれは何だろう?骨っぽい?」


そして暫く待つと鑑定結果が公表され…Lv280という意味不明な数字が表れる。


「「「「…」」」」


もれなく全員固まる。

一番早く復帰したギルドマスターは、頭蓋の一部をまじまじと見つめる。


「二度とお目に掛かれない品かもな…よし、メニュー全混ぜを用意しろ!」


初めて目にする、別のギルドの"刑務"である。

酔った男性は、見るからに汚物のソレを食べながら苦しんでいる。


その横で、この機会を逃すものかと、ギルドマスターが依頼について話していく。


「あれらは、誰でも受けて良い。気が向いた時にやってみてくれんか?」


本来であればギルドの依頼は、他ギルドのメンバーに回らない。

しかし達成できない依頼が溜まるとギルドの評判が落ちてしまう。

そこで、例外的に高難度依頼をやってもらおうという考えだ。


「同じ目的地の物を複数受けても良いのですか?」

「許可は出来るが…高難度で同時は聞いた事が無い」


グリンが、黒爪で普通に行われる行為を質問する。

この了承を得た事で、トレーニング場所が増えることになった。


一行は幾つか存在するギルドを見て回ったが、大体は同じような反応であったという。

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