53.強敵、ドラゴニック・エンペラ
情報を出しつつも進めていきたい欲張り回です。
【迷いの森】にある魔女の住居では、フィーリが何かを待っていた。
そろそろ来ても良いはずの者が来ないのだという。
パペット三人組もその者が気になっており、クエラセルが聞いてみる。
「誰を待ってるんだ?」
「魔神仲間の、炎羅って子よ」
実は魔神同士で連絡を取る事が出来る。
緊急用以外では使わないルールで、連絡を一方的に送り付ける事しか出来ない。
今回はその連絡を行っていたようで、各魔神が身近に居た。
なお、自身と相性が極端に良いか、極端に悪い魔神については現在位置まで大体分かる。
拠点を作るフィーリと、地形破壊が得意なドラハの二者がその例だ。
普段はある程度離れ、お互いに邪魔をし合わないようにしている。
「全員集まってマナを作るって事か」
「それもあるけど、大魔法そのものに魔神の力を使うの」
大魔法を使うにはマナが足りないという話から、マナを生産するためだと予想する。
しかし最終的にやりたい事では無かったようだ。
話して行くと、どんどんスケールの大きい話になって行く。
「最終的に必要なのは魔神六人と、黒爪のみんな、魔法を使える人物を大人数」
必要な人材を纏めて教えてくれるが、相当な規模だ。
この全てが揃うと、邪神が成長出来ないまま事を進められるようになる。
ただ、施設もまだ足りていないので、これを揃えながら拡張していく計画だ。
フィーリは計画を話し終えると、再び待機モードとなる。
三人組はお出かけの準備を済ませ、とりあえずギルド【黒爪】へ出向く。
…
「ようこそらっしゃーせした!」
「「「!?」」」
パペット三人組は【黒爪】入り口に着いたが…
そこには小さなフェイリアが立っており、お辞儀をしている。
妙な言葉を使うが、挨拶のようだ。
これは以前リコラディアが借りていた、シャドウ・パペットだ。
いつの間にか喋るように改良されている。
声は子供のように高く、よく通る。
「あ、皆さん!」
久しぶりにティスラが現れる。
暫く見なかったのは、このシャドウ・パペットの改良に付き合わされていたのだ。
言動を自動で学習するため、変なものを憶えていた場合は訂正する役目がある。
今回の挨拶も、いつの間にか何かを取り込んでいたので直す。
「でんごん!でんごん!」
色々と機能があり、その一つ、メッセージボード代わりの伝言機能だ。
通り掛かったボルドーの方を指差している。
「ボルドーは、はげ!」
「何だと!」
今回はイタズラに使われてしまったようである。
唐突な暴言に、ロビーに居たものは笑いを堪えている。
「でんごん!でんごん!」
嫌な予感がしてきた三人組とティスラだったが、伝言は止められない。
今度は、ボルドーを笑いに来たデスピオに指を差す。
「デスピオは、…フフッ」
「死にたいらしいな」
的確に人を怒らせていくシャドウ・パペット。
何者かの悪意であるが、残念ながら追跡機能は無い。
全ての伝言を伝え終わったので、急に仕事モードへ戻る。
「きょうは、なにをしますか!」
「「「この状況で言われても…」」」
後ろに殺気を溢れさせている二人が居るのだが…
丁度救世主が通りかかる。
「新人さん達、久しぶりだね」
現れたのは、現サブマスターのトースだ。
三人組は普通に挨拶するが、後ろの二人は彼を見ると大人しくなり、離れていく。
実は定期的に見回り、好き勝手する者には重刑を与えている。
これに関しては特権を持っており…
フェイリアが与えた刑務では足りないと感じた時、刑を追加できる。
急に人が居なくなる理由はこれである。
「やれやれ。一般メンバーで逃げようとしないのは、ここの四人くらいだよ」
刑の追加権と、隠しきれていない邪神の雰囲気が相まって、大半の者は近寄り難い。
ティスラは踏み止まっているが、単純にサブマスターという事で緊張している。
トースは気にする事なく、貼り出された依頼書を眺め、ズレたものを直す。
三人組は依頼の存在を思い出し、一緒に眺める。
「この間のブルー・タイガー討伐依頼があるぞ」
「ガイア・トラウトって言う見た事の無いやつもあるわ」
「採取もありますね。燃える氷…まだ見た事しか無いですが」
シャドウ・パペットの確認を終えたティスラも、時間差でやってきて眺める。
「これなら、案内出来ますよ!」
ドラゴニック・エンペラ討伐と書かれた依頼書を指差す。
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種族:ドラゴニック・エンペラ Lv130
技能:
<ドラゴニック・フレイム> 火属性全体魔法 Lv160
<ドラゴニック・ハート> 火属性の攻撃力大幅上昇
<高速連斬> 攻撃力を三分の一にしてランダムに五回攻撃
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「「「絶対死ぬ!」」」
報酬は四万アグラで、明らかにおかしな相手だと分かる。
「それなら丁度良いと思うよ。行っておいで」
トースが許可を出してしまった事により、一行は行く事になってしまった。
…
そして死地、【バーティカル火山】に着いた。
今回は火山外周の、溶岩が固まっている所を探索していく。
三人組は、今日だけは対象が見つからない事を期待したが、そう甘くはない。
そういう時に限って、あっさりと見つかってしまう。
「あれです!大体寝ているので、先制攻撃できます!」
「「「先制したところで…」」」
そこには、龍の頭蓋骨に長細い物体が付着した物がある。
頭蓋骨の口内が燃えているので、情報通り火を使うのだろう。
パペット三人組はまだ渋るが、ティスラは鑑定アイテムで自分を見せる。
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種族:獣人 Lv40
状態:制約 呪印 呪痕 防御低下(100%)
技能:
<闇の眷属> 保存した影のスキルを使用出来る
<逆境> 不利な状態異常と制約の数分、ステータスとダメージ上昇
<魔法制約> 名前で魔法を発動出来ない
<物理制約> 実体のある武器を装備出来ない
<即席装備> 属性・状態異常・スキルを一つずつ装備出来る
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「この通り、準備はばっちりです!」
三人組は何がばっちりなのか分からなかったが、ティスラは仕掛けていく。
行く途中で溶岩から火を取り出し、火の槍を作って斬りつける。
しかし、これで攻撃したところであまりダメージは無いだろう。
『何者だ!』
謎の生物が睡眠を邪魔されたことで怒るが…普通に喋る。
「皆さん、回復重視で頼みます!」
一応回復魔法の魔法石はあるので、全員回復は出来るが…
グリンは何か起こっている事を願って、鑑定する。
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種族:ドラゴニック・エンペラ Lv130
状態:制約 防御低下(100%)
技能:
<ドラゴニック・フレイム> 火属性全体魔法 Lv160
<ドラゴニック・ハート> 火属性の攻撃力大幅上昇
<高速連斬> 攻撃力を三分の一にしてランダムに五回攻撃
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「や、やはり本物…」
もう勝つ以外は死ぬしかないので、やけくそ気味に構える三人組。
『愚か者共め、死ぬが良い。ドラゴニック・フレイム!』
いきなり本気を出してくるドラゴニック・エンペラ。
しかし魔法が発動する事は無い。
「今のうちです!全力で!」
「「「やるしかない!」」」
訳が分からないが、とにかくダメージを与える。
回復はグリンがメインで、足りない所はクエラセルとリコラディアでサポートする事にした。
『何故炎が…?』
ドラゴニック・エンペラは困惑して何も出来ずにいる。
しかし頭を切り替え、別の攻撃を繰り出す。
『ならば直接切り刻んでやろう!』
シュンシュン! ズバァ!
なんと、頭蓋骨の頭部についていた細長い物体が飛び…
一行の中心部で踊るように暴れる。
これは、高速連斬のスキルで、連続攻撃だ。
「全員大丈夫か!耐えれそうなら攻撃を続ける!」
「いけそう!」
「回復は間に合いそうです!」
…
結構な時間やり合い、ジリ貧に見えたが勝負がつく。
「やりました!勝利!」
「「「超ボロボロ…」」」
最終的に回復の魔法石を使い切り、マナも危なかったが、勝利した。
ドラゴニック・エンペラは横たわり動かない。
実は、本体は頭蓋骨についていた細長い物体である。
頑丈な龍の骨を使って擬態し、それを狙わせることでダメージを減らしている。
見た目は烏賊の耳だ。
「それにしても、何で魔法を使ってこなかったの?」
三人組はずっと疑問に思っていたが、ティスラが答える。
「魔法を普通に使えない制約を、相手に移しました!」
実はティスラのスキルで、魔法制約と防御低下を装備している。
これで攻撃すると、その二つが相手に移るのだ。
今回の相手は言葉で魔法を使うため、魔法制約が効き、魔法が使えなかった。
一行はギルドに戻り、報酬は三人組とティスラで半分ずつ分け合った。