50.近くて高くて楽な依頼
どうでもいい話ですが、テストプレイヤーが名前を間違えた事によって変なあだなが定着してしまったキャラが居ます。
リコラディアはルコデ〇オラ、デスピオはデスペナとか。
イジられるネタには良いですが、一般的な名前を使わなかった事で憶えにくかったのかなと。
最近、時間的余裕が生まれて来たパペット三人組は、ギルド【黒爪】に来ていた。
まずは依頼カウンターで新たな依頼のチェックから行う。
「お前達か」
「デスピオさん?」
そこには珍しい人物が居た。
最近、おいしい依頼のみ受けていく者が増えているので、その対策だ。
彼に食いつくと死ぬ可能性があるので、まともな者以外は尻込みする。
「これまでの貢献が大きいな。割の良い依頼を好きなように選べるぞ」
性格は難しいが、相変わらず能力は高いデスピオ。
てきぱきと依頼書を探し出して見せる。
「「「うーん…」」」
しかし、パペット三人組は悩ましい顔をする。
実は内容が簡単すぎるため、レベルアップに向かないのだ。
それを話すと、デスピオは妙なアドバイスをする。
「今時珍しいやつらだ。それなら先に飲食スペースへ行ってこい」
大体の者は先に依頼を受け、その後に食事などの出発準備をしている。
そこに声を掛け、一つのパーティにまとまる事で同行できる。
報酬の山分けなどの問題がある為、その辺りは直接交渉だ。
なお、カウンター前のロビーにも人は居るが、依頼を受けていない者が多い。
とりあえず助言通りに飲食スペースへ移動する…
「トルーパーを二つ進め、コマンダーは後退」
「ならこっちは、ソルジャーを一つ横へ。コマンダーは待機」
「「「あれは罠か!なんて戦いだ!」」」
飲食スペースでは、謎の娯楽が繰り広げられ、人だかりが出来ている。
網目状の線が入った盤に、柄の違うコインが置かれている。
それで勝敗を決めるようだが、凄い熱気だ。
観客の中に見知った顔が居たので、クエラセルが聞きに行く。
「あれは何をやってるんだ?」
「おう、新人か。あれはコマンダーってやつだな」
歓迎会で娯楽を披露していた男性だ。
ダンジョンでよく手に入る、特に用途の無いコインを使った娯楽で…
絵柄毎に以下の役割がある。
・ソルジャー 前後左右と斜め一マスに移動でき、前後左右に攻撃が出来る
・ランサー 前後左右一マスに移動でき、斜め全てに攻撃できる
・トルーパー 前は二マスまで、左右は一マス移動でき、前に攻撃できる
・コマンダー 前後左右一マスに移動でき、攻撃不可
コマンダー以外を任意の割合で盤上にセットし、一枚だけのコマンダーを狙うゲームだ。
自分の手番で、コマンダーとそれ以外の一つを操作できる。
攻撃を受ければ即除外で、兵を全て失うか、コマンダーが攻撃されると負けだ。
向きは相手側の方を向き、変更出来ない。
なお、マイナールールで兵種の相性があったり、別の兵種があったりする。
「コマンダーのコインだけ平和そうな顔だな」
「そこからヒントを得てこの娯楽が出来たらしいぞ」
一行は勝負がつくまで眺めた後、依頼の話を振ってみる。
「「「いいぜ、来な!」」」
息ぴったりな三人組に了承を取り、合流する。
まだ依頼を受けていないようだが、アテはあるようで依頼カウンター方面へ行く。
張られている依頼の一つを剥がし、見せて来る。
・【ブルー・タイガー】五体討伐
→7000アグラ
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種族:ブルー・タイガー Lv55
技能:
<体当たり> 物理単体攻撃 Lv30
<激・体当たり> 物理単体攻撃 Lv40
<真・体当たり> 物理単体攻撃 Lv50
<肉弾> 体当たりの威力を上昇するが、ダメージを受ける
########
例のおいしい依頼を狙うパーティであったが、今日は勝負に出れなかった。
そこでメンツを増やして結果的においしい依頼にするつもりだ。
パペット三人組は2000アグラと、現地の採取を許可する報酬で請け負った。
それを待っていたのか、近くに居たデスピオが依頼書を見せる。
「メテオリット砂漠なら、これも受けると良いだろう」
マルチタスク・クエストと書かれた依頼書には、採取の依頼が詰まっている。
あえて戦闘を外したものを選んでいる。
・【凍る砂】三袋分納品
→8エルマ
・【研磨石】二つ納品
→40ドラタ
・【燃える氷】一つ納品
→10,000ストリア
・【薄氷雪月花】一つ納品
→150,000リーネ
「お、おい…これ…知ってるぞ!」
三人組の一人が、依頼書を覗き込み、震えだす。
一番高額な、【薄氷雪月花】を指差している。
どうやら、緊急会議が始まるようだ。
「ここは手を組もうじゃないか」
三人組はこの依頼を受ける事が出来ない。
しかしパペット三人組は納品対象を知らない。
両者が協力して、報酬を山分けしようという流れだ。
元より金銭にはあまり興味が無かったので、これを受ける。
「「「やったぜ!」」」
三人組は金に困って来ていたので、思わぬ収穫に息を揃えて喜ぶ。
一行は準備を済ませると、現地へ移動する。
…
「まずは、【ブルー・タイガー】を始末、その後採取だ」
【メテオリット砂漠】についた一行は、リーダーの指示を受ける。
ブルー・タイガーを先に倒さないと、採取した納品物が大変な事になる。
この"依頼をこなす順番"というのはかなり重要である。
教えるのは割と好きなようで、その辺をレクチャーしていく。
暫く進むと、白い岩のような物が地面に埋まっている場所についた。
どうやらこの辺りに対象が居るらしい。
「ここからは、俺たちが後ろに回る」
「守りは頼んだ!」
「サポートはしてやるからよ!」
「「「ええ!?」」」
なんと、引率者は後ろに付き、パペット三人組が前になる。
囮を用意して楽をしようという作戦だったようだ。
どちらにしろ最終的に三人で来ることになる為、渋々歩を進める。
暫く歩くと、先頭のクエラセルが止まる。
「あの白い岩、動かなかったか?」
「え?見てなかったけど」
「ここはボクの出番です」
鑑定アイテムを取り出し、岩を鑑定する。
生物鑑定なので、結果が出なければただの岩だ。
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種族:ブルー・タイガー(特異個体) Lv70
技能:
<シザー・ラッシュ> 物理単体攻撃 Lv70
<お目が高い> 価値が高いアイテムを保存する
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「ワンランク高いのが居ますが…」
グリンは思わぬ鑑定結果が出てしまった事に残念がる。
しかし三人組はそうは思わなかったようだ。
「出てくる前から分かるのか!なら…」
「ああ、勝てるぜ」
「やるか、あれを!」
三人組はなぜか肩を組み、集中する。
結構な時間そのままでいたと思うと、急に顔を上げ、一斉に魔法を使う。
「「「ロック・スタンプ!」」」
バキャッ!
白い岩のようなものにヒットすると、割れ…"中身"が見える。
怒ったブルー・タイガーが姿を現すが、
降り続いている岩に数度ぶつかり、動かなくなる。
全身を見ると、海老のような生物である。
「「「これが俺たちの、力だ!」」」
キメ顔になるが、隙がありすぎるので、この三人だけでは出来ない。
これは以前リコラディアとベチュラがやったような、
複数人で一つの魔法を組み上げる物である。
相当に息が合っていないと出来ない。
「「「んぐっ、んぐっ…」」」
そしてマナが空になるので、いちいち補給しなければいけない。
これは黒爪のショップにある、マナを回復できる飲み物だ。
「こいつは腹に大事な物を抱えてるんだが…何があるか」
普通のブルー・タイガーは鉱石ばかりだが、これは違った。
何やら輝く宝石のような物をしまい込んでいる。
全員見た事が無いので一度持ち帰り、山分けはその後考える事にする。
…
同様の手法で、あっさりブルー・タイガーの討伐が終わってしまった。
宝石があるので、持ち帰る事を優先してノーダメージを徹底している。
ブルー・タイガーが研磨石を持っていたので、採取依頼はあと三つである。
「さて、薄氷雪月花だが…あそこにある」
指を差された先には、岩があり、入り口のあるドームのようになっている。
内側に謎のマークがついている。
「これは俺が付けた印で…こうだ!」
男性はジャンプし、足元を思いきり踏み抜くと、床が抜ける。
その先に道があり、水が溜まっている所に続いている。
「「「こんな所が…」」」
一行は、巨大な岩の中に居る。
雨風の浸食によって、脆い部分が崩れ、洞窟のようになっているのだ。
たまたま外敵に襲われて逃げ込んだ時に見つけたのだ。
「んで、ブツはあれだ」
玉のような植物から桃色の花が出ていて、その部分が氷漬けになっている。
岩に空いた穴から光が差し、凍った花がそれを反射していて幻想的だ。
言葉を無くしているパペット三人組を尻目に、あっさりちょん切る男性。
「後はその辺の砂を拾って戻るか」
価値観の違いを思い知らされた一行だったが、これを見られた事に感謝する。
一行は特に被害もなくギルドへ戻る。
…
「想定以上だな。次に良い依頼を受けられるよう手配する」
「「「やったぜ!」」」
戻ると受付に居たデスピオが確認を行う。
価値を分かってくれるようで、薄氷雪月花を丁寧に保護する。
宝石は価値のある物ではあったが、大げさな額ではなかったので売却する。
当初の通り報酬を分配し、この日を終える。