49.魔王の側近と銀貨の謎
カットに次ぐカットによって、ある成分が無くなっていたので、登場を早めておきます。
「それでは、手はず通りに。まもなく対象が現れます」
三台の馬車の横で何者かが話し合っている。
荷台には食料などが積まれており、まだ新鮮だ。
しかし御者は見当たらない。
「お前達!動くな!」
現れたのは、勇者パーティだ。
ここはクラーグ領、王都から南の旧街道である。
新街道が出来てからは、あまり使われていない。
勇者パーティは急いで駆け付け、討伐対象の盗賊かを確認しようとする。
しかし、その必要も無かったようだ。
「お、お頭!どうしやすか!」
「私がこいつらを引き受ける。お前たちは積み荷を魔王城に運べ」
「へい!お達者で!」
一人が残り、他に居た三人は馬車に乗り込み、逃げる準備をする。
残ったのは全身真っ黒な装備の騎士だ。
「私は魔王様の側近、暗黒騎士。邪魔立てするならば容赦しない」
「丁度魔王を探していた所だ。居場所を吐いてもらうぞ!」
勇者のライザが構えると、暗黒騎士は黒い剣を抜き、構える。
「ウインド・アーマー!」
ライザはまず風の鎧を作り、攻防どちらにも動けるようにする。
「カースドカリバー」
暗黒騎士は剣に魔力を込め、黒く燃え上がったような状態にする。
それを隙と見て、ウォードとネルが魔法剣で仕掛ける。
「フリーズ・シール!」
「行くぞ…氷結剣!」
このパーティ定番の初撃で、当たるとそこそこのダメージだ。
暗黒騎士は、これに技を合わせる。
「魔氷剣!」
バキイィィン!
「がはっ…」
ウォードの剣と氷が、鎧ごと切断され、一撃で地に伏せる。
氷結している事で出血は少なく、すぐ回復すれば無傷に戻れる状態だ。
サポート役のイーザが急いで回復する。
先程まで鑑定していたので、その後結果を伝える。
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名前:シルヴィア=スカーレット
種族:人間 Lv120
技能:
<闇の眷属> 保存した影のスキルを使用出来る
<呪われ体質> 呪われた装備を扱え、更なる力を引き出す
<魔法剣士> 魔法剣を詠唱無しで使用できる
<呪剣合成> 呪剣に呪剣、魔法剣を合成できる
<呪いの一撃> 攻撃した対象に呪いの効果を与える事ができる
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実はこの暗黒騎士、デスペラード・クエストに参加したシルヴィアである。
最近人気の演劇、天空の箱庭でも敵役の暗黒騎士を演じており…
なかなか評判が良いので"育成プロジェクト"にも呼ばれている。
演劇では、暗黒龍を駆り天空龍を墜落させるという最大の見せ場シーンがある。
それに加えて、もう一つ理由があるのだ。
「まさか、鮮血のスカーレットか!?」
「その通り。私を裏切った国に復讐するため、魔王軍へ志願した」
クラーグの騎士団所属だったシルヴィアだが、戦場で呪い装備を使って大量虐殺してしまった。
悩んだ末、騎士団に居るべきではないと判断し、旅立ったのだ。
その時部下だったボルドーも一緒に抜け出し、魔法剣を習った。
もちろん復讐云々は、"ストーリーの重み付け"に使っている。
「こいつを逃がす訳には行かない!皆、援護頼む!」
「「「了解!」」」
…
数分後、死体間際の物体が三つと、身動きできないイーザが出来上がる。
「あ…あ…」
「そうだな、貴様は生かしてやる。王にこの惨状を伝えろ」
暗黒騎士、もとい"演劇中"のシルヴィアは大声で笑いながら、その場を去る。
イーザは急いで全員を回復する。
…
「クオさん、やけに小者のマネ上手くないか」
「ボルドーも、なかなかの"賊オーラ"出してるじゃないの」
「デスピオさんは浮浪者みたいですね…」
「…言うな」
全てが仕組まれているのだが、勇者一行にそれを知る術はない。
一度派手に負けさせ、次に"頑張れば勝てる"相手を用意するのだ。
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一方こちらは、【迷いの森】、魔女の住居である。
話していた者はみんな外に出てしまい、パペット三人組だけが残った。
邪神と魔神の情報を整理していたがそれも終わり、休憩している。
「さて、今日は何をしようか」
「うーん…」
「急ぎ案件は無いですね」
クエラセルとグリンは魔法石の数を確認しつつ、やる事を考える。
リコラディアは妙な器具で硬貨を煮込んでいる。
「ところで、それは何をやっているんだ?」
「こうすると銀貨が綺麗になるのよ。それだけなんだけどね」
リコラディアが処理を終えた銀貨を並べてみる。
古い物ほど黒ずんで行くのだが、これらはピカピカになっている。
元々は銀製の食器などに使う器具だ。
これはアグラ銀貨であり、他にも銅貨や金貨等もある。
基本的に額が高いほど良い素材が使われている。
銀貨は、ちょっと良い食事をすると必要になるような価値だ。
「へえ、これは見事ですね」
「あ、まだ熱いから…!」
グリンはこういった"知れば得する"話が好きなので、手に取って眺める。
まだ熱かったらしいのだが、グリンが触れた時は冷たかった。
『流石に落ちない汚れもあるようだけどね』
「この器具だと取れない物も…って今聞いたのは誰?」
クエラセルとグリンは首を横に振り、辺りを見回すが誰も居ない。
『ここだよ!』
「「「えっ?」」」
銀貨が一枚、縦に立っている。
『あたしゃ魔神【銀貨】さ。綺麗にしてくれてありがとね』
「ど、どういたしまして…」
何でも、流通している銀貨は、全てこの魔神の一部らしい。
銀貨をわざわざ鑑定する者は殆ど居ないので、安全な隠れ家だ。
ちなみに、魔神の概念を理解して鑑定しないと、銀貨の情報が出るだけだ。
『坊やの持っているそれ、冷たくないかい?』
「この銀貨…確かにそうですね」
『今回は強めにしたけど、氷を司る力で勝手に冷えていくのさ』
硬貨を温め、時間を置いて触れると、金貨が一番冷たいはずなのだが…
銀貨が一番冷たいのは魔神の力だったようだ。
『それはそうと、フィーリに伝言があってね』
今回現れたのは脅かす為ではなく、伝言があるようだ。
忙しいようで、三人組に伝える。
『近々、【えいみん屋さん】を建てると伝えてくれるかい』
「「「不穏な…」」」
伝え終わると、縦になっていた硬貨が、パタン!と音を立てて倒れる。
会話を打ち切ったようだ。