45.人知を超えた稼ぎ場
【迷いの森】の見学が終わり、時間が余ったパペット三人組。
依頼の存在を思い出し、ギルド【黒爪】へ向かっていた。
そこには、今までありそうで無かった組み合わせが出来ていた。
「おっと!今日は誰も居ないよ!」
「困りましたね、今日は依頼カウンターすら機能していません」
クオとフェイリアが居るが、他の人気がない。
実は、他のメンツは全員、邪神対応報酬で休みになっている。
今までの貢献量から計算した特別報酬も出るようだ。
なお、マスターに休みは無く、クオは"刑務"で休みなしだ。
「Lvを上げたかったんだが、しょうがないか」
「為替カウンターも死んでる…」
「今日は帰ってのんびりしますか?」
パペット三人組は暇潰しのアテが外れて途方に暮れる。
「暇を持て余すのはいけませんね。では、これに付いて来てください」
フェイリアは、エターナルクエストと書かれた依頼書を見せてくる。
これは無謀そのものの依頼である。
しかし、数ある無謀な依頼の中でもこれは特に酷い。
・【ブレイズルビー】無傷の当日採取品を十個納品
→三億アグラ
「「「三億!?」」」
三人が呆けると、フェイリアが内容を説明して気を保たせる。
「ブレイズルビーは、火山地帯の溶岩の中にあります」
「…どうやって取るの?」
「傷を付けないため、クオが溶岩に入って採取します」
「ちょっと!嫌なんですけど!」
当たり前のように凄い言葉が出た事によって、クオが文句を付ける。
「部屋の掃除免除で」
「まあ、良いでしょう」
掃除より溶岩に入る事を選んだクオに、一同はコメントすらできない。
「三人には、採取の邪魔をする生物を倒してもらいましょう」
特定属性の魔法石を持って来るように言われた三人は、準備をして向かう。
…
そして一行は新たな地、【バーティカル火山】に着いた。
「「「無理」」」
パペット三人組は、初めから心が折れてしまった。
それもそのはず、この火山は傾斜が異常で、道具なしには登れない。
ほぼ垂直レベルである。
しかも、表面の一部は赤熱しているので、下手に触ると体が消失する。
ここは、その針のような火山が連結し、一つの火山地帯となっている所なのだ。
「登る訳ではないので大丈夫ですよ。後ろから着いて来てください」
フェイリアはそう言うと、針山の間に流れる溶岩の上を歩いて行く。
歩いている所の周辺が冷え固まっていくようだ。
一行は覚悟を決めて歩くが、意外と快適で、さほど熱も感じない。
フェイリアが、遠くの溶岩が噴き出している所を指差し、そこへ向かう。
…
「ここなら、新しいルビーが取れるでしょう」
眩しさすら感じる、溶岩だまりの前に着いた。
近くに冷え固まった部分があるので、そこを凍結させ、一旦拠点にする。
フェイリアのスキルで長時間冷気を発し、地盤を固め続けるのだという。
「さて、こちらは気にせず、外敵を頼みますよ」
クオが謎の膜に包まれて溶岩に飛び込むところまで見た三人は、周囲の生物を見張る。
「まず、周辺の生物を鑑定します」
溶岩の中から何かを探している、片方のハサミが肥大化した蟹のような生物を鑑定する。
########
種族:シヲマネク Lv160
技能:
<はさみ大> 物理単体攻撃 Lv150 【武器・防具破壊】付与
<はさみ小> 物理攻撃のダメージを半減する
<二段ばさみ> 武器・防具を装備していない対象に二回攻撃できる
<耐魔金属殻> 全属性のダメージを半減する
<寒がり> 水・氷属性攻撃を受けると戦闘不能になる
########
「「「…」」」
依頼が超高額報酬なだけあって、相当無茶な事が分かった三人。
まだ安全なので残りも鑑定する。
########
種族:獄炎蝶 Lv150
技能:
<一対> 攻撃スキルと補助スキルを同時に使用できる
<炎舞> 火属性範囲攻撃 Lv160
<鼓舞> 単体補助 次に使用するスキルの性能を大幅に上昇
<寒がり> 水・氷属性攻撃を受けると戦闘不能になる
########
種族:パイロ・リザード Lv110
技能:
<燃焼オイル> 全体補助魔法 Lv90 次に使用する火属性攻撃の性能上昇
<燃えるゴミ> 燃やそうと思えば燃える物を、何でも燃やす
<燃えキャラ> 一撃で倒されない限り体力全回復
<寒がり> 水・氷属性攻撃を受けると戦闘不能になる
########
「一発でも食らったら終わりだな…」
「でもこれ、魔法を当てれば勝てる?」
「だとしても数が多すぎる…」
三人は、水・氷属性に弱いという弱点を発見したのだが、仕掛けられずにいた。
それぞれが大量に発生し、かつ相手の移動速度などが分からないのだ。
先手のチャンスを生かすべく、まずは移動が遅そうな、シヲマネクを狙う。
「最初はやらせて!アイス・ランス!」
まずリコラディアが強めの魔法で狙ってみる。
これで歯が立たないなら、そもそも詰みである。
バキャッ!
驚くほど簡単に外殻が割れ、横たわる蟹。
様子を見ても起き上がる気配はない。
「一方的に攻撃できれば、行けそうだな」
「次は弱いので…アクア・ボール!」
バリッ!
やはりあっさりと殻が破れ、倒れる蟹。
アクア・ボールはかなり低レベルの魔法だ。
"当たれば勝てる"説が証明された瞬間である。
「あれを早く処理したい所ですが…」
グリンは空の獄炎蝶を指差す。
気ままに空中を飛び回っているが、飛んでいる音がしない。
不意打ちの可能性を考え、潰しておきたいという意見だ。
「次はこれを試させてくれ」
クエラセルが氷の魔法石を取り出す。
念のため効果がある事を確認したいようだ。
「空中の敵を狙うのは初めてだが…どうだ!」
ジュッ!
羽根のような炎が消え、胴体だけ地面に落ち、動かなくなる。
こちらも効果があるようだ。
「思ったより簡単に当たるぞ」
実は氷や水の魔力が僅かに触れただけでも死んでしまうため、
的確に当てずとも倒せてしまうのだ。
途中でパイロ・リザードの群れが押し寄せたが、特に問題なく仕留める。
「お疲れ様でした。こちらも終わりましたよ」
振り返ると、フェイリアがブレイズルビーを持っている。
しかしクオが居なくなっている。
「クオさんは…?まさか…」
「心配には及びません、あれです」
なんと、遠くに居る獄炎蝶を手でつかみ、何かをむしり取っている。
「あっつ!この!鱗粉を取らせろ!」
獄炎蝶の鱗粉は、様々な物の素材として使え、需要が高い素材だ。
【きらきら屋さん】にも高額で販売されている品だ。
苦戦しているかと思いきや…
ブチッ!
なんと、羽根ごとむしり取った。
普通はこんな事が出来ないので鱗粉のみだが、これはこれで高級な素材である。
ちなみに獄炎蝶は、炎舞蝶のオスとメスがくっついた個体である。
この状態で卵を産み、協力してそれを守る。
獄炎蝶から炎舞蝶には戻れない、一途な関係だ。
気が済むのを待って合流すると、クオは火傷どころか傷一つない。
目的を達成した一行はギルドに戻り、納品はフェイリアが行うことになった。
クオは素材を売りに行く。
…
「いらっしゃーい!」
こんな依頼を発生させるのは、ここくらいだろう。
納品先は、きらきら屋さんだ。
フェイリアは物品を見せ、確認を取る。
「凄いね、まだ熱が残ってる!これ、約束のお金だよ」
依頼の確認が終わると、クオの買取が始まる。
「これを見なさい!」
「獄炎蝶の羽根…どうやって手に入れたの…?」
念のため誤魔化しておき…
副産物の鉱石等もまとめて売り払う。
「全部込みで…1600万アグラでーす!」
しかし残念ながら、弁償代の返済で、ほぼ残らないのであった。
ゲームでは、多方面の"稼ぎポイント"が存在しますが、火山は経験値のポイントが特に美味しいです。
敵の質が異常に高く、数も多いですが…弱点で即死するので、注意すればただの狩場です。
鉱石類の質も良いのですが、色々と道具が要るので他の方が良い稼ぎとなる調整でした。